魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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まずはオグマから、ちょい短め。


第5章 地上の怪物(モンスター)たち
第41話 オグマinデルムリン島


 -うおぉぉぉぉーーーーっ!地上おぉぉぉぉぉぉぉーーーー!-

 

「なんだ、ありゃ・・・?」

「見かけない面だな、クマチャに似てるが・・・どうする?」

「そりゃ決まってんだろ!ヒムちゃんも旅に出て、俺らもなまってるし・・・なぁ。」

 ニヤリ、と顔を見合わせて笑う二人の魔族、現在この島で最強クラスの実力を持つ二人は、

格好の稽古相手を見つけたことに、うずうずした様子で歩を進める。

 その脇に控えていたドラキーはやれやれ、と首を振ると、大事になる前にと自分たちの

隊長の元に飛んでいく。

 

 

「よう、見ない顔だな。」

 背後から声をかけられ、ん!?と言う顔で振り向いたオグマの先には、2人の魔族が腕組みして

不敵な笑みを見せている。

「おおすまん、景色が素晴らしすぎてつい見入ってしまった。ここを縄張りとする方か?

自分はオグマ、見ての通り熊人(ウォーベア)だ、あなた方は?」

 会釈してそう返すと同時に、改めて自分は地上に、違う世界に来たのだなと実感する。

目の前にいる魔族は魔界でお目にかかったことのない種族だった、おそらく地上の固有種族か

または混血なのだろう。

 体格はリヴィアスと同じくらい、額には魔族らしい一本の角が伸びているのだが、

その背中の羽はまるで鳥のように繊細で優雅だ、魔と言うより天界の者の羽根を

イメージさせる。

その胸にはそれぞれ”13””14”と書かれたバッジが輝いていた。

 

「俺達はこの島の番人だよ、悪いが腕試しをさせてもらうぜ。」

「ま、殺しゃしねぇから安心しな。」

 敵意をたたえた笑みを浮かべて近づいてくる二人の魔族。それを見たオグマはフン!と

鼻息を鳴らし、ばしっ!と拳と手の平を合わせる。

「まずは一戦やらかすか、よかろう、来い!」

 

 力こそが正義の魔界で生き抜いたオグマにとって、まず肉体言語で話したいなら望むところだ。

相手が素手なのを見て取って竜の牙の手甲を外し、ヘルメットを脱いで、どん!と腰を割る。

「お、おう・・・ヤル気まんまんだな。」

 いきなりケンカを売られてビビるかと思いきや、闘志全開の態度を取られて逆に少し臆する

2人。彼らもまたザッ!と股を広げ、戦いの姿勢を取る。

 

 

「ええー!?またあの二人が・・・見かけないモンスターに喧嘩売ってるって?」

 隊員番号7番、ドラキーのドナドナの報告を受けて獣王遊撃隊隊長の大ねずみ、チウは

頭を抱える。

隊員13.14号のバアラック、ラバーとラクーはこのデルムリン島に来た時から、やたら腕試しと

称して強そうなモンスターにしょっちゅう喧嘩を売っていた。何しろ二人は魔界の怪物(モンスター)

加えて地上の空気が肌に合ったらしく、ほどなくバアラックとは思えない程に体が

大きくなっていた、そんな自分たちの力量を試したい意図もあったのだろうが。

 それ以来、隊員12番の金属生命体、ヒムちゃんが彼らの喧嘩相手となった。さすがに彼相手では

手も足も出ずにたたまれ続け、それ以来打倒12番!が彼らの目標になっていたのだが。

 

 だがそのヒムもこのデルムリン島の生活に飽きたらしく、2年前に旅に出てしまった。

それ以来チウが彼らの喧嘩相手を務めていたのだが、その条件として”私闘は禁止”と戒めて

いたために、しばらくは問題を起こさなかった。

 だが未知のモンスターを見かけた彼らが、それを理由に悪癖を再発する可能性はありすぎる、

チウはオカリナのような”獣王の笛”を拭いて隊員1号のパピィを呼ぶと、その背中に飛び乗った。

「あっちだな!急いでくれ隊員1号!!」

「クワァァァー!」

 

 

闘気張り手(オーラスタンプ)っ!」

 オグマの張り手が、ばっちぃぃぃん!、とラクーの横っ面を張り倒す。上背はあるが

軽いラクーはそのままきりもみ回転しながら吹き飛んで、地面に落ちてもまだゴロゴロ転がる。

「ひっ・・・ヒムちゃんと同じ、光の闘気!?」

ラバーが鼻水を垂らしながら驚愕の声を上げる、2年前まで散々ボテクり回された輝く

闘気の一撃に思わず一歩後ずさりする。

 

「うむ、会心の一撃というヤツだな。」

 腕をぐるぐる回すオグマ。光の闘気を高める相棒(ナタルコン)こそいないが、旅に出てから鍛え込んできた

闘気と、それを支える肉体の成果を大いに出せてほくそ笑む。うん、俺も強くなっている、と。

「な、なめんなよ!ヒムちゃんに比べたらお前なぞ・・・」

 翼を広げ、大きく跳躍するラバー。空中からの攻撃でかき回してやるとオグマの上空に位置し、

螺旋を描きながら急降下して一撃を加えんとする。

 

「このオグマ、戦う相手を決してナメたりはせん!」

 そう言って全闘気を使い、ラバー目掛けてジャンプする。父の教えである”相手をよく知れ”を

実践する彼は、先のラクーへの一撃で彼らの体重の軽さをよく理解していた、それは飛翔呪文(トベルーラ)

使わず、翼のみで飛翔する種族共通の弱点だ。

 オグマがイメージしたのは、初めてナタルコンとコンビを組んだ時の、山にいたドラゴンと

あの沼竜との戦いだった。体重の軽いドラゴンは水気を含んだ重厚な沼竜に足を咥えられ、

体重を生かして地面に叩き伏せた、あれが今の俺の見本だ!

「シャァッ!」

 上からオグマの顔面にケリを食らわすラバー。空中戦で俺に勝てるかよ、と笑みを見せた彼は

蹴った足がオグマに捕まれているのを見て、げっ!という顔をする。

 

 ラクーとラバーの敗因、それは心構えの違いだろう。2人も元々魔界出身の強さに加え、

地上生活での体躯の成長とヒムやチウとの毎日の組手で、実力ならナタルコン無しの

オグマを上回る可能性は充分にあったはずだ。

 だが彼らは最初からオグマを舐めてかかっていた。同じ遊撃隊のグリズリー、クマチャ

よりも小さいその体を侮り、ロクに戦力分析もしようとせずに突っかかった。

 対するオグマは、父から学んだ”戦いの心得”をしっかりと実践し、師匠であるナタルコンと

経験した戦いの記憶をしっかりとこの一戦でも反映させた、そんな差がまともに結果に出た。

 

 ずっどおぉぉぉ・・・ん!

オグマの体重に引きずり降ろされ、地面に体ごと叩きつけられるラバー、勝負あった。

 

 

「こおぉらあぁぁぁ!私闘は禁止だと・・・あ、あれ?」

 現場に到着し、パピィから飛び降りたチウが見たのは、重なって目を回してダウンしている

隊員13.14号の姿だった。

「え、えええ?ラクちゃんにラバちゃん・・・マジ?」

目を見張ってそうこぼすチウ、まさかこの二人がこの短時間でKOされているとは・・・相手は?

 

「今度は大ねずみ・・・鼠人(ワーラット)か、その者たちの仲間か?」

 オグマがチウにそう声をかける、振り向いた大ねずみと目を合わせる、そしてその瞬間に

彼は驚愕した・・・只者では無い!

 

「僕はこの島を統括する獣王遊撃隊、隊長のチウ!ふたりを倒したのはお前かあっ!」

 びしぃっ!とオグマを指差してそう叫ぶ、腰に下げている獲物”ズタズタヌンチャク”を

残りの手で引っ掴み、一振りして脇に挟む。

 

 それに対し、チウから目を離さずに先程降ろした竜牙の手甲と兜を拾い、装備し直して

名乗りを返す。

 

「名乗り見事!俺は魔王きらりんの配下にて、魔界より来たりし者、オグマだ!」

 

 

 

 

 




バアラックのコンビ、ヤンチャ君。

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