-当店は間もなく閉店となります、本日はご来店ありがとうございました、またのお越しを-
(これほど・・・これほどわが剣生で・・・忍耐をした事は無かった・・・ようやく、ようやく・・・)
ベンガーナのデパート4Fの武器屋、在庫処分品の大箱の中で短剣ナタルコンは、
身を焼き尽くさんばかりの屈辱恥辱に朝から晩まで耐え抜いたていた。
(かの魔界の覇者、魔界皇ヒュンケルの懐刀たるこの我が・・・あろうことか2ゴールド・・・っ!
あちらの安っぽい盾は12000G,あのケースの腕輪に至っては85000Gだというのに・・・ッ!!!)
暗黒闘気を撒き散らして暴れ回りたかった。いや、事実暴れ回る寸前だった。だが
ようやく訪れた地上、しかも脆弱な人間がごった返すこの場でそんなことをすれば、
自分は間違いなく人間たちに敵認定され、結果オグマ達が目指す魔界の救済という目的に
大きな影を落とすことになるだろう、長き時を生きてきた我が足を引っ張るなどあってはならぬ!
そしてようやく訪れた閉店時間、すでに人間の気配は無く、周囲には後片づけをする店主が
いるのみだ・・・心せよ店主!これから我のする質問の回答如何では・・・貴様をッ!
ぶわぁっ!!
暗黒闘気を全開にし、箱の底から浮かび上がって外に出、店主の前にその姿を晒す。
「なっ・・・なんじゃぁ?ま、まさか・・・ひとくいサーベル!?いつのまに箱の中に!」
驚く店主に向けてギラリ!と眼光をむけ、重々しい言葉で話しかけるナタルコン。
『我は・・・魔剣ナタルコンなり。店主よ・・・我の価値は、この店で我の鎮座する場所は・・・
本当にあの箱の中で良いのか・・・篤と答えよ、心して答えよ!!』
暗黒闘気を隠そうともせずに店主に質問を叩きつける、己の納得がいく答えが返ってこなければ
その時がこの店主の命日になるだろう!
「おお!凄い、素晴らしい!!こんな凄い力を持つ武器が埋もれていたとは・・・危うく
大損する所じゃったわい!」
小太りの店主は闘気に恐れもせず、嬉々としてナタルコンに寄って来る。その目をまじまじと
見て値踏みすると、いよっしゃ!と手を打ってどたどたと店の奥に駆けこんでいく。
『・・・へ?』
予想とあまりにも違う店主の反応に、存在して恐らく初めての間抜けな声が出る。
間違いなくあの店主に我に対抗する力は無い、そして我の力を認識させるつもりで闘気を
突きつけたのに、まるで意に介さずあの嬉々とした態度・・・一体?
「あったあった、これこれ、アンタの陳列場所はここしかねぇよ!」
そう言って持ってきたのは縦横50cmほどの台座だった、一角に銘が彫られており、中央には
剣を刺す為の亀裂のような穴が開いている。
「あの勇者ダイが行方不明の時、その最強剣を固定していた台座だ!勇者が帰って来たんで
わしがオークションで競り落としたんじゃが、やっと出番が来たわい、がはははは!」
瞳に”
ナタルコンも完全にドン引き状態だ・・・何を考えているのだ、全く読めん!
翌日、デパートが開店してからほどなく、武器屋の前に人だかりができていた。
「さぁさぁ皆の衆、これにあるは伝説の命を宿し剣!見事この台座から引き抜いた者は
この剣の所有者として進呈するよ!チャレンジ料は1000G!我と思わんものは是非に!」
武器屋の最前列、ノリノリで大振りする店主の横で、ナタルコンは昨日の台座に刺さった
状態でその姿を衆目に晒していた。
店主曰く「アンタの価値はアンタに決めて貰うぜ!」との事。早い話が誰にも抜かれずに
挑戦料をふんだくって自分の価値を稼げ、との事だ。
『ふん、お安い御用だ。我の価値が貴様の店一軒を超える時を楽しみにしておれ!』
そう言って台座に5cmほど刺さるナタルコン。なるほど、この台座はかのオリハルコンに
次ぐ強度を持つミスリルで出来ているし、元々別の剣を固定していたせいか差し込んだ部分は
がっちり自分を掴んでいる、並大抵の力では引き抜くことは叶わないだろう。
初日は楽勝だった。1000Gといえば決して安価ではないようで、挑戦するのは恰幅のいい
裕福そうな者か、またはその子供に限定されていた。たまに金持ちが連れていた力の強そうな
ボディガードが挑む事もあったが、そんな時はその手に暗黒闘気を流し込んでやれば良い、
握った瞬間に手から流れ込む悪寒に似た気配に、皆一様に「ひっ!」と驚いて手を放す。
ふん、お主ごときに使いこなせるものか、我こそはあのヒュンケルの懐刀ぞ。
夜、嬉々として売り上げを数える店主の横、ナタルコンもまたドヤァ、という目で鎮座する。
だが、2日目から事情が変わった。なんと挑戦者が次々に現れて長蛇の列を成してきたのだ。
原因は昨日の対ボディガード用、暗黒闘気を使った脅しだった。あれを食らった者共が
ありゃ本物の聖剣だぜ、間違いない、俺は確かに力を感じたんだ!などと吹聴して回ったせいで
腕自慢が我こそは!とナタルコン引き抜きに挑んできてしまった。
つまり、今日以降の挑戦者は暗黒闘気を恐れない覚悟ある者、という事だ・・・
ミスリルの台座に自分から食らいつき、暗黒闘気を相手の魂にまで流し込んで心を折り、
なんとか閉店まで抜かれることなく耐え抜いたナタルコン。精神の疲労から朦朧とするその横で
ご機嫌で売り上げを数える店主を見つめて思う・・・我は判断を誤った、のか?
3日目、もはや整理券が必要なほどに長蛇の列が出来ていた。昼頃に順番が回って来た
魔術師などは、なんとナタルコンの前で魔術の儀式を始め、除霊してから抜くなどと
ぬかしおった。問答無用で
「おお!バキを備えし剣とは!まさに伝説級のアイテムだ!!」
ますますの客寄せになってしまった、完全に逆効果だった、考えてみればあんな魔導士に
自分を除霊など出来るわけ無いのだ、やらせておけば時間が稼げたものを、不覚だ・・・
「いやぁ凄い、4日目でもうこのデパート一番の高級品を超えてるぞ、がはははは!」
金貨の入ったズタ袋を両手に抱えてご機嫌な店主、ひょっとして我はこの店主に乗せられて
体よく金を稼がせられているのではあるまいな・・・いや、まさか。我はあの魔界皇ヒュンケルの・・・
5日目の午後、最大の危機が訪れた。
バロリアというその鎧剣士は、戦士としての確かな”格”を備えていた。立ち姿、
身に纏うオーラ、手に浮かぶ剣ダコ、歴戦の勇者であること疑いない・・・これは、マズい!
「せやあぁぁぁぁぁ・・・っ!」
(ぬうぅぅぅ・・ん!)
30分に及ぶ攻防の末、ついにバロリアは剣を抜く事が叶わなかった。あともう5mmで
台座から離れる所だったが、ナタルコンは辛うじて耐え抜いたのだ。
「や、やっぱ俺は・・・この”ハヤブサの剣”のほうがいいわ。」
そのバロリアの負け惜しみに周囲が笑いに包まれる。いやその通りだろう、今さらお主が
我を手に入れてどうする、今あるその上等の剣が似合っておるでは無いか・・・
6日目、すでに意識朦朧としながらもなんとか耐え抜いた。昨日までで周辺の強者は
すでに挑戦を終えており、冷やかし程度の相手しか来なかったことが彼の運命と店主の
金ヅルを繋いだ・・・だが、さすがにもうナタルコンは限界だった。
目は色を無くし、刀身は輝きを失い、暗黒闘気はすでに出涸らしだ。その横で金貨の詰まった
千両箱を嬉々として重ねる店主のみが、ツヤツヤとした張りのある笑顔を見せていた。
(・・・あの箱にいた方が、マシだった・・・かも・・・しれぬ)
そして7日目、既に開店前から長蛇の列が出来ている。
無駄なことだ、とナタルコンは思う。もう無理だ、例え子供でも苦労なく自分を引き抜くだろう、
最前列に並んでいる目付きのきつい女、ドレスに宝石を光らせまくっているこの強欲そうな女が
今日から我の主となってしまうのか・・・絶望感が彼を支配する。
『我は・・・我はかの・・・魔界皇の・・・』
もう、その先が思い出せない。我の気高き意思は銭に置き換えられて、間もなく失われるだろう。
そしてこの女に持ち去られ、いずれ飽きられ捨てられるか、箱にでも仕舞われて
忘れ去られるのか・・・
-間もなく、当デパートは開店です-
・・・終わり、だ。
-ドオォォ・・・ン-
一匹のモンスターに悲鳴を上げる人々の声だった-
店主最強説。