ダダンッ!
「ナタルコン!やっぱりお前だったか!!」
ベンガーナのデパート4F、行列でごった返すそのフロアに駆け上がって来た
視線の先にある愛刀を目にしてそう叫ぶと、悲鳴を上げて飛び退く人々をかき分けてずんずん
歩みを進める。
「ひ、ひいえぇぇぇぇっ!モンスターだぁっ!?」
「く・・・熊?いや、
「警備の人は何やってんだぁっ!」
『お、おおお・・・オグマか・・・よくぞ・・・』
ナタルコンは弱々しくも、その奇跡のような光景に歓喜の声を出す。そうだ、あの
次に我が使い手となった
よくぞ来てくれた、今少し遅れれば我は終わっていたであろう。神など信じぬ魔剣が
今だけは運命のもたらした奇跡に心から打ち震えて感動する。
人々をモーゼのように分断し、ついにナタルコンの前に立つオグマ。その手を伸ばして
柄を掴むと、ぐんっ!と台座から引き抜いて見せた。
「ええええええっ!?」
「ちょ、抜いちゃったよ・・・どーすんの?」
行列に並んでいた人間たちがその光景に非難のヤジを飛ばす、それも無理なき事ではある。
皆、我こそはと朝から行列に並んだのに、後から来たモンスターにそれを掻っ攫われては
文句の一つも出るのは当然だった。
「すいぶん弱ってるな・・・待ってろ、ふんっ!」
オグマが剣を握る手に光の闘気を灯す、今のナタルコンが耐えられるレベル、そしてそれを
反動として暗黒闘気を高められる強さで。
だがその時、彼の背中に無数の刃が、ちゃきっ!と突きつけられる。
「動くなモンスター!」
「どこから入って来た、こいつめ!!」
「怪物の来るところじゃねぇ、さぁ立て!つまみ出してやる。」
デパートの警備員たちが槍を構えてオグマを囲む。周囲の人間たちも皆いいぞ、やっちまえと
彼らに檄を飛ばす。
が、そんな彼らの後ろからの声に、思わず場の空気が固まる。
「ほっほぉ・・・モンスターがデパートに来ちゃいけないのかな?シティ派の僕には
聞き捨てならない言葉だなぁ。」
通る声でそう呟いたのはフォブスター達3人を従えたチウだった。
「なんだぁ、怪物がまた増え・・・って、武道着の大ねずみ!ま、まさか・・・」
「間違いない、あの大戦十傑の、空手ねずみのチウだ!」
「こ、これはとんだ失礼を・・・」
そう恐縮する警備員たち。周囲の者もぽつぽつとチウを認識し、驚きと興味に包まれる。
実はチウはこの国でも結構な顔だったりするのだ、それというのもあの大魔王との戦いの後、
ベンガーナ国王のクルテマッカⅦ世は最終決戦に挑んだ10人の勇士を”大戦十傑”と称え、
国の中央公園にわざわざ銅像を建てていた。
当のチウはそれを大いに喜び、何度もベンガーナを訪れては銅像職人達にあーでもない
こーでもないと注文を付け、結局完成した銅像群の中でダイの次に目立つポジションにて
堂々のポーズを披露していたのだ・・・実際には即座に宝玉にされていたのだが、それは秘密だ。
「突然乱入したことについては僕が変わってお詫びしよう、しかし彼は有害な
モンスターじゃない、それは保証するよ。」
チウのその説明に警備員たちも周囲の客たちも、ふっ、と冷静さを取り戻す。とりあえず
暴れられる心配はなさそうだ。
「しかしねぇ・・・皆並んでるんだから、ちゃんと順番は守ってもらわないと。」
店主の言葉に、行列を成している面々が、そうだそうだ!と声を荒げる。特に最前列に並ぶ
3人の女性は、オグマが無害と分かった途端にヒステリックに罵声を浴びせる。
「こんな汚いクマが私たちの先を越すなんて、ありえないザマス!」
「さっさと戻しなさいよ、この化け物!それを抜くのはアタシ達ヤテランヌ一家なの!」
「ほっほっほ、アタシ達がこの番を確保するのにどれだけの確保人を用意したと思って?
15人に30000ゴールドも使ったのですわよ、貧乏人、いや熊の出る幕じゃござーませんわ。」
オグマもナタルコンも、そして店主すらも彼女らをジト目で見る。ついさっきまでオグマの
乱入に腰を抜かしていたというのに・・・あと番取り人は禁止と明記していたはずだが。
「誤解は困る、この剣は我が剣だ、それを取り返すのに文句を言われる筋は無い。」
「ウソおっしゃい!だいたい短剣を使う熊の怪物なんてありえないでしょ!斧とか
トンカチならまだわかるけど、体と武器が合ってないわよ!」
オグマに対する女の反論に、周囲も(あっ、一理ある)と思わず関心する。怪力を感じさせる
「だがホントだったらどうするよ、盗品を売るのは犯罪だぜぇ、店長さんよ。」
ゴメスがにやり笑って助け船を出す。が、その言葉に店主は思わず顔を真っ赤にして反論する。
「しっ・・・失礼な!この武器屋ベンベン店主コネ・ルート、天地神明にかけて決して盗品など
扱いはせん!大体そんなもの売りさばくコネもルートも持っとらんわ!」
名前のせいで幾分説得力に欠けるが目は
興味津々で見守っている。
ざわめきと緊張感の中、オグマ、店主、女達が火花を散らして睨み合う。その硬直を
破ったのは店主コネだった、ばしっ、と両ひざを手で叩くと、オグマの方を向いて提案する。
「いよっし!じゃあこうしよう、熊の兄さん、その剣がアンタの物だっていう証拠を見せてくれ!
そしたらアンタのモノと認めて返してやらぁ、この俺に二言は無い!」
そう言って胸をどんっ!と打ち付ける店主、向かい合うオグマは(・・・証拠?)と
若干戸惑い気味な思案顔になる。
「言っておきますけど、本人の証言はナシざますよ、この国にはモンスターに人権は
ござーませんのよ、オホホホホホ・・・」
ババァの発言にむっとするオグマ、ナタルコン、そしてチウ。まぁモンスターなんだし
周囲の空気はいつもまにかオグマに対する非難が減ってきていた。3人の女共の横柄な態度も
癇に障ったし、あの大戦十傑のチウが味方に付いている事、そして肝心の短剣がオグマに
抜かれていることもそれを後押しする。ひょっとしてあの剣は本当に・・・
「言っとくが一発勝負だぜ熊の兄ちゃん、もし証拠を提示できなければ偽証罪と営業妨害で
きっちり訴えてやるからな!」
店主の言葉を聞き流しながらオグマは邂逅する。俺とナタルコンを繋ぐ縁、それをどうすれば
示せるのだろうか・・・彼は初めてナタルコンと出会ったその時に思いを馳せる。
故郷の集落、精霊の襲撃、石化した仲間、父の最後の言葉、ナタルコンとの出会いに至るそのキッカケ・・・
-オグマ!土蔵の奥にある銀のミミックを持って来いっ!!-
これだ!どうして忘れていた、アレの存在を!!
オグマは腰のベルトに吊っていたミミックの鞘を取り出すと、店主に、そして皆にかざして見せる。
「これは、その剣の”鞘”だ。今からこの剣を鞘に納める、それが証拠だ!」
そう、ナタルコンが長きにわたり収められていたシルバーミミック。オグマが初めて
ナタルコンのために
彼専用の収まるべき場所、その存在こそが何よりの証拠では無いか!
ナタルコンを右手で、ミミックの鞘を左手で天にかざして、その刃を鞘に納めていく。
その様を見て、周囲のギャラリーは一様に「ほおおおおおおお・・・」と驚嘆の声を上げる。
-それはまるで一夜限りの舞踏会に出た美しい少女の残したガラスの靴が、過酷な下働きの
下女の娘の足にぴったりとハマるような、そんな美しい
カチィィィ・・・ン!
剣が完全に鞘に収まり、ミミックの鞘の牙がナタルコンの鍔にフックする。文句の
つけようのない剣と鞘の一体化した姿!
-おおおーーーっ!-
-パチパチパチパチパチパチ-
歓声と拍手が沸き起こる。これ以上ない証拠を示したオグマと、その収まりの美しさに
もう誰も不満を述べる者はいなかった。
「きぃーーーっ!悔しいいぃぃぃぃぃ・・・」
「認めないザマス、ワタクシは認めないザマスよーーーっ!!」
訂正、3人だけいた。もっとも彼女らは警備員に「空気読めよ」とずるずる引きずられて
退場させられたのだが。
「負けたよ、熊の兄ちゃん。そいつはアンタのもんだ、持ってきな。」
店主の言葉に頭を下げるオグマ。地上に来て7日目、ようやく巡り合えた
チウもフォブスターもゴメスも、満面の笑みのオグマに「良かったな」と声をかけ、
バロリアは「そりゃ俺じゃ抜けないよなぁ・・・」と苦笑いを見せる。
「何か店主にお礼がしたいが・・・」
そう呟いたオグマに、ナタルコンは低い声で返した。
『ならばよい方法がある、まずは・・・』
ひそひそ話し合った後、改めて店主に向き直ったオグマはこう提案する。
「店主コネさん、その台座がもう不要なら頂きたいのだが、いかが?」
その言葉に、え!?という顔をする店主。この台座はオークションで大金をはたいて
競り落としたミスリル製の逸品、タダでくれてやるなど・・・
そこまで考えて思考を切り替える。この7日で魔剣で稼がせてもらった額は、この台座の
4倍以上の儲けを出した。散々魔剣を酷使して金儲けをした手前、ケチケチして怒りを買ったら
災難が降りかかる可能性もあるだろう、手切れ金としては妥当か、と思い、
オグマに渡す。
「では、やるぞ!」
『うむ!』
オグマが光の闘気を燃やす、ナタルコンが暗黒闘気を揺らめかせる。これまで何度も行った
2人の闘気の交互相乗効果により、最大レベルにまで闘気を高める一匹と一振り。
「な・・・んだと!?」
「ひえぇぇぇぇ、マジか!」
バロリアとゴメスがその闘気の大きさに腰を抜かし、チウはオグマの底力を垣間見て呟く。
「・・・これが君の、本当の実力か!」
武術家の彼らには見える闘気も一般人には見えない、ただ彼らが無意味にキバっているとしか。
それを分かりやすく見せたのはオグマの頭にあるヘルメットだった。一本の光の丸太が形を成し、
誰もが見覚えのある面白武器、その極致をまざまざと見せつける。
「どっ・・・どたま、かなづち!?」
店主の言葉にニヤリと笑うナタルコン、オグマに『行け!』と指示すると、答えてオグマが
手に持っていた台座を高々と放り投げ、落ちてくるところに・・・
「
-コパアァァァァ・・・ン-
頭槌の強烈な一撃が台座に打ち込まれる。ミスリルという金属の性質上、砕けたり割れたりは
しなかったが、頭槌を受けた部分がマトモに凹み、まるで鍋のような形状に瞬時に変化した。
◇ ◇ ◇
翌日。
「先生、ここですよ、噂の魔剣があるっていうデパートは!」
「えらく大きな施設だな、俺が行くには少々難儀だぞ・・・」
デパートに現れた2人の人影、一人は人間だがもう一人は明らかに魔族だ、人間だらけのこの
建物に入るのは少々気合いが要る。
「まぁまぁ、その魔剣を見るだけなら誰も気にしませんって、何か剣作りの参考になるかも
知れませんし・・・。」
そう言って魔族の背中を押す若者。彼らは国の外れのランカークス村で鍛冶屋を営む師弟、
ここの剣の噂を聞きつけてやって来たのだが・・・
4Fの武器屋、そのカウンターには大勢の男たちが声をがなり立てて店主に詰め寄っていた。
「まだか!いつ入荷するんだ、どたかまなづち!!」
「ワシは定価の4倍出すぞ!10本大至急手配してくれ!」
「てめぇゴッポル!転売は禁止だぞ、俺に売れよ!」
「仕入れ先教えてくれ、アンタに任せても埒があかん、買い付けに行くまでだ!」
「我が国の軍に導入したい、100セット大至急、最優先で頼む!」
「・・・なぁノヴァ、魔剣はどこだ?」
「知りませんよロン先生、アレじゃないことは確かでしょうけど・・・」
この後、ベンガーナ周辺に空前の”どたまかなづちブーム”が起こるのを、彼らはまだ知らない。