魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第47話 クロコダインという男

 -バーン第三の眼光を受けると、戦うまでもない相手は玉にされちゃうんだ-

 

「・・・ぬぅ。」

 また、あの時の夢を見た。

 

 大魔宮(バーンパレス)の戦いから一年、鰐人(リザードマン)クロコダインは移り住んだデルムリン島の

洞窟の中、浅い眠りから覚めた。

 ・・・心の芯が淀むような、なんとも言えない不快感と共に。

 

 あの時、大魔王バーンの前に立った自分は、何も出来ぬまま宝玉”瞳”に封じられた。

対峙する前にポップに回復呪文(ホイミ)をかけてもらって、万全の状態で臨んだにも関わらず、だ。

 

 戦力外通告。

 

 己の実力が足りていないのは分かっていた。光の闘気を使うヒム、神速の早業ラーハルト、

そして深い知識と様々な搦め手の情報を持つアバン殿、そしてダイにポップは大魔王と戦う資格

ありとみなされ、玉にはされなかった。

 だが、俺やチウはともかく、他に玉にされた面々は皆、大怪我やダメージが抜けぬ、いわば

半死人といえる状態だったのだ。

 

 その時は仕方ないと納得もしていた。なにしろ俺の最大の技、獣王激烈掌は側近の

ミストバーンにさえ足止めにすらならなかった。”凍れる時間の秘宝”がかかっていたとはいえ、

あの無力さでは真・大魔王バーンにもやはり通じなかっただろう。

 

 しかし、戦い終わって平穏な生活に戻ってみると、その悔しさは真綿のように俺の首を

締め続けていた。図体がでかいだけの無力な存在は、あの最終決戦で何か役に立ったか?

武人が聞いて呆れる有り様では無いか!

 

 もはやバーンはいない、世界の命運を決める戦いも無いだろう。今更あの時に戻って”瞳”に

されない力を身につけた所で何の意味も無い、そんな力がそもそも必要では無いのだ、

仮に力を得たとしても遅すぎるのだ、今更な話だ・・・。

 

「だが・・・俺自身の”けじめ”には成る!」

武人として、戦士として、彼は決意した。

 

-大魔王バーンを倒しうる”技”を会得する-

 

 彼はデルムリン島を離れ、古巣のロモスの”魔の森”にて修行を重ねていった。

今更だろ、もう遅い、何の意味がある、そんな己自身の心の声と戦いながら彼は己を高めていく。

 

 

 

 そして、2年後。

 

「本気でいいんだな、ワニの大将!」

 デルムリン島に戻った彼は、島で最強を誇るオリハルコン戦士、ヒムに決闘を挑んだ、

バーンとの最終決戦に参戦した彼こそが、己の価値を測る唯一の相手だと確信して。

「無理を言ってすまん、殺す気で来てくれ!」

 

 

 チウが、ブラスが、ラバーやラクー達など遊撃隊の面々が、決着の瞬間を愕然と見つめていた。

クロコダインの手の平を中心にした渦の中、オリハルコンのヒムの体が粉々になりながら

四散していくその光景を!

 

「ヒムちゃんっ!!」

「あれじゃ!あそこにコアがあるぞ!見失うなっ!」

 ブラスが絶叫する。粉みじんになったヒムの胸から飛び出した心臓(コア)を指し示し、

それを隊員9番のハンターフライ・バタコが辛うじてキャッチする。

すぐさま新隊員17番のホイミスライム・ホイみんの元に届けられる。他の面々がかき集めて来た

体の破片やパーツと共に一所にまとめて回復呪文をかけると、ヒムはその体を粘土のように

再生させていく。

 

「凄ぇ・・・完敗、だ。」

口がきけるまで回復したヒムはクロコダインの方を見て、開口一番そう述べ、続ける。

「なんてぇ技だい・・・それ。」

 

 今だ腰を割った状態で、両手の平を前に突き出して固まっているクロコダイン。

その両手の中には、ヒムの腰部分の前半分ほどが、しっかりと握られていた。

 

獣王の掌(じゅうおうのてのひら)・・・とでも名付けるか。」

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 対峙するオグマとクロコダイン。両者ともに重傷を負っておりながら、己の必殺の一撃

闘気激砕槌(オーラ・グラヴィトン)”と”獣王激烈掌(じゅうおうげきれつしょう)”を構えた状態で睨み合う。

すでに間合いは呼吸の届く所まで詰まっており、もはやどちらが先に技を”抜く”か、

そんな居合いの決闘のような状態にまできている。

 

「どたまかなづち、のオーラか。ノヴァの闘気剣(オーラブレード)を思い出すわ!」

 切り裂かれた胸を絞めて止血を続けながらクロコダインが話す。もしあのぶっといのを

胸板に食らったら、いくら俺でも即死は免れまい、と。

 

「至近距離・・・いや、ゼロ距離からの先程の技、激烈掌とか言ったか、恐ろしいコトをする!」

 オグマが返す。闘気にしろ呪文にしろ、撃ち出す技は距離が空くほど威力は散して弱くなる、

ならば至近距離は逆に最大限の破壊力を有するということだ。さっき喰らた時は距離が

空いていたが、それでも四肢をもがれそうになるほどの威力があった。両腕がボロボロの今、

この距離で食らったら・・・間違いなく自分は終わる。

 

『違うな、見るがいいオグマ、奴のあの指を!』

 ナタルコンが指摘するその指を見てオグマは絶句する。まるで獲物を捕らえる牙のように

構えられた指は、目に見えるほど血管が浮き上がり、闘気を存分にたたえて太く構えている。

「・・・っ!」

『成程な、あの手で敵の体を鷲掴みにして、そこから相手の体内外(・・)激烈掌(あの技)をぶちかます気か。』

 

 ぞくっ!と身震いするオグマ。あの技を密着されて喰らえば最悪バラバラに、良くても

木の葉のように吹き飛ばされてしまうだろう。だが・・・もしその時、あのぶっとい指で

体を掴まれていたら、どうなる?

 分かり切ったことだ。捕まれていた箇所を千切り取られる、そして体の一部を(えぐ)られたまま

あの乱流に吹き飛ばされる、抉られた箇所を起点にして、体を引き裂かれながら!

 

 後に残るのは、粉みじんになった敵の体の破片と、その掌に握られた体の一部のみ。

 

「さすが長きを生きる魔剣、その通りだ。我が最大奥義”獣王の掌(じゅうおうのてのひら)”と言う。

相手に密着せねば仕えぬ故、そうそう決められる技ではないが、な。」

 

 かの屈辱からクロコダインが出した”答え”がそこにあった。無論この密着技があの

大魔王バーンの奥義”天地魔闘の構え”に通用するとは思わない、そもそも放つ機会さえ

得られないだろう。

 だが、もし一度でもその体を掴めたなら、例えバーンであろうと粉砕できるであろう。

その力をもっていれば、少なくとも戦わずして玉にされるなどありえないはずだ。

 

「理解したようだな・・・そうだ、この技を食らったら、お前は確実に死ぬ!今なら降参も

聞いてやるが、どうするっ!」

 両腕の脇を締め、その掌をオグマに向けたままそう告げるクロコダイン。もし降参せぬなら

相手の頭槌と俺の掌、どちらが先に相手に当てるかの勝負になる。生と死を分かつ、な。

 

 オグマはクロコダインを見上げながら、その覚悟と精神の気高さを感じていた。何より

戦う前からずっと感じている彼の、どこか父、ダルタレクを思わせるその体と心の大きさに、

尊敬にも似た感情を抱いていた。

 

 だからであろう、父の教えがするり、と正解回答を出したのは。

 

「分かった・・俺の負けだ、降参する。」

 すっ、と闘気を収め、頭のハンマーを消すオグマ。両手が死んでいるため、頭を揺すって

ヘルメットを脱ぎ、抵抗の意思がない事を示す。

「そうか・・・助かったよ。俺もそろそろ限界で、な。」

 ふぅ、と息をついて両手の力を緩めると、そのままそこにどっかりと腰を下ろすクロコダイン、

胸の傷を抑え、初めて痛そうな表情を見せる。

 

『ふふふふ・・・ハハハハハ、それで良いのだよオグマ、良く気付いた!』

 鞘の中からナタルコンが大笑いを始める。クロコダインは「ん?」という表情をするが

その疑問をオグマがさらりと解いて見せる。

「最初っから、俺を処断するつもりは無かったのでしょう。」

『処断する相手に降伏を勧めるなどありえんからな、ハハハハハ!』

 

 オグマに続いてのナタルコンの言葉に、目を丸くして大口を開け、ああっ!しまった!と

痛恨の表情を見せるクロコダイン。

 そう、彼はロモス王の依頼で、魔界から来たこの人熊が邪悪なものか否かを見極めるために

戦いを仕掛けたのだ。そのために”処断する”という表現を使って、相手の真剣度を

測っていたのに、自分からそれが芝居であることを明かしてしまった、なんというドジ!

 

「貴方は父に似ている、その父が常々言っていた。『相手を知れ、尊敬するほどに』と。

だから貴方の、戦う相手の考えは常に意識している、やはり父は正しかったよ。」

 そのオグマの解説に、がっはっは、と笑っては痛そうに胸を押さえてうずくまるクロコダイン。

ほどなく城のテラスから駆け下りて来たチウやゴメス達、そして兵士やロモス王もやってくる。

 

 クロコダインは、ほんの先程まで死闘を演じていた相手に、こう太鼓判を押す。

 

「うむ!ロモス王よ、こいつが邪悪な存在でなどあるはずがない、彼こそ真の戦士、武人だ!」

 

 

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