第49話 2人の
朝もやの煙る森林国、テランの外れの林の中で対峙する二人の戦士。
かたやかつての”大戦十傑”の1人、この地上で最強クラスの戦士として名高い、魔族と
人間の混血児、鎧の魔装を纏う陸戦騎ラーハルト。
こなた魔界の一角で名を馳せた人間の戦士。新たな魔王きらりんの配下であり、
その首に復讐を誓う
お互いが只者では無いと感じながら隙を伺う。抜き身の刃が敵を見定め、最初の一合を
先に叩き込むべく力を込める。
と、朝霧を払う風がひゅっ!と吹いた。
その瞬間にラーハルトが弾き出されるように突進する。瞬時に刃先の届くまで間合いを
詰めると、下からの魔鎗の一合でリヴィアスのコーンランスを上に跳ね上げる。
-カキィン!-
(速い、しまったっ!!)
リヴィアスが心で嘆くがもう遅い、ラーハルトはそのままリヴィアスの脇を抜けつつ、
返しの槍を横薙ぎに振るい、リヴィアスの胴を斬り付ける!
-パァンッ-
「何っ!?」
今度はラーハルトが驚愕する番だった。放った槍の一撃はなんと相手の首に巻いた布の
先の部分に打ち払われ、虚空を薙ぐにとどまる。
決まったと思った一撃が止められたことにわずかな動揺を見せるラーハルト。無論、魔界の
戦いをくぐり抜けて来たリヴィアスがそのスキを見逃すはずが無い、すかさず
半円を描くような軌道で地面を滑るように移動して突進!
-ビュオォンッ-
猛スピードで己の際を通過するそのプレッシャーに、さすがのラーハルトも肝を冷やす。
バックステップして距離を取り、再び対峙する両者。
リヴィアスは心の中で唸っていた。相手は魔法を使っていないにもかかわらず、目視が
困難なほどの速度で迫り来て、その槍をまるで竹の穂先を振るうような速さで打ち込んでくる、
その速さに特化した、かつ縦横無尽に迫りくる十字槍の脅威に。
刃物同士の戦いなら、何より重要なのはその刃先のスピードだ。あの軽量で鋭利な穂先に対し、
己のコーンランスは刺突のみに特化した重いものだ、これは分の悪い戦いになる・・・。
ラーハルトもまた、自分とは真逆と言っていいその槍使いに驚きを隠せなかった。
あの重量級の刺突槍を、
打ち込んでくるその姿勢は、明らかに自分より強大な相手に対する戦い方だ、と。
加えて何だ?あの赤い布は。まるで意志を持つように動き、こちらの攻撃を防いで見せた。
自分が鎧を纏っているように奴もまた、あの布で己の身を守っているのか。
止むを得まい、と魔鎗を片手で回し始めるラーハルト。相手が威力重視で来るならこちらも
渾身の一撃”ハーケン・ディストール”を食らわすまでだ、威力でなら勝てると思うなよ!
が、リヴィアスはふん!と鼻息を付くと、そのまま一気に宙に飛ぶ。
「なに・・・逃げる気か?」
ラーハルトの言葉を無視して遥か上空に舞い上がるリヴィアス。やがて雲まで達し、
そのまま雲の中に姿を消してしまった。
と、ラーハルトは見上げる雲の中に、ひとつの黒い点を認める、奴の槍だ!
それは刃先を下に、つまりラーハルトに向けたまま真っすぐに落下してくる。
使ったものでは無く自然落下の速度だ。その先に槍使いは見えない、大きな刺突槍の手元が
その姿を隠しているのか・・・あるいは?
「小細工を!」
ラーハルトが構える。たとえ相手が何をしてこようと即座に対応し、反撃を決める為に。
どう来る?槍の背後に隠れているのか、槍とそれ以外の武器での時間差攻撃か、それとも
上に注意を引いておいてトベルーラで横から来るか、果ては上からと思わせて土中から不意を
突いてくる事にまで警戒を巡らせる、どう来ようが通用させるものか!
-ヒュウゥゥゥゥゥン・・・ドンッ!-
特に何が起こるでもなく、地面に落下して突き刺さる
「・・・何を?」
思わずそう呟き、周囲をきょろきょろと見回す。どこにも奴の姿は無く、先程までの殺気も
消えている、これは一体?
と、ほどなく彼は目的の人物を目にする。今の地点から300mほど先の場所、自分が
近づけまいとしたその”家”の前でこちらを向いて、手をひらひら振りながらドアノブに
手をかける。
「なっ・・・きっ、貴様!」
リヴィアスは飛翔呪文で雲の上に姿を消した後、殺気をすべて消した上でランスを下に落とし、
自分は気付かれないように飛翔呪文で大きく迂回して、懐かしの我が家まで移動していたのだ。
どうもまともに戦ったのでは分が悪い、ならば相手の戦う理由そのものを奪ってやればよい、
奴は自分をこの家に近づけたくなかった、その理由を暴いてやれば無用の戦いを避けられるか、
あるいは逆に明白な戦いの理由を得られるかもしれない。
かき集めた盗品でも蓄えているのか、誰かを監禁でもしているのか、あるいは何か危険物でも
存在しているのか、全てはこのドアの向こうに答えがある。
振り返り、遠くで憤慨する先程の魔族にひらひら手を振って「悪いな」と笑顔を見せる。
ドアノブを掴み、そのドアをぎぃっ、と開く。
「ただいまー・・・」
ドアを開けたままリヴィアスは固まっていた。彼の目の前にいたのは、ベッドに腰かけて
イイ雰囲気で寄り添っている一組の男女だったのだから。
「すまーーんっ!まさか逢瀬の最中だったとは・・・本当にすまんかったっ!」
地面に額をこすりつけて謝るリヴィアスに、カップルの男の方、元戦士ヒュンケルが
いやいや、と手をかざして気にするなのジェスチャーをする。もっとも女の方、賢者エイミは
明後日の方を向いて頬れっ面を見せてはいるが。
「貴方の家だったなら不法侵入したのは俺達の方だ、どうか頭を上げてくれ。」
そう謝罪するヒュンケルの言葉に、後ろでやれやれと大きなため息をつくラーハルト。
「っていうか、そうならそうと言えよお前!俺だってそのくらい気を利かすわ!!」
土下座のポーズのまま首を回してラーハルトに抗議するリヴィアス、あの苛烈な戦闘は一体
なんだったんだ、一言いえば普通に回避できた戦いじゃないか。
その抗議にぐっ、と臍を噛んで硬直するラーハルト、やがて吐き出すように懸命の反論をする。
「う・・・うるさいっ!
その国の女に惚れられて言い寄られてそれでも過去の罪状にうじうじ引きずられて今だに
口づけも出来ない童〇野郎が今日こそはと朝までかかってそれでも結局手も握れずに
寄り添っているだけでいるからそっとしておいてくれなんて言えるかあぁぁぁぁっ!!!」
「「「・・・全部言ったぞ、お前。」」」
「はうあ!!」
人間3人のキレイにハモった声にラーハルトは奇声を上げた。
おちゃめさんラーハルトw