魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

5 / 136
第5話 光と闇、交わる

 父、ダルタレクの石像の前で立ち、短剣ナタルコンの指示通り「あの時」の心情を

思い出すオグマ。

 父の勇壮な最後に感じ入り、自分もまた最後まで勇敢に戦う事を心に決め、体の芯に

力が湧き上がるのを感じる。

 

『そうだ、そしてあの精霊に向かって剣を振った時の気概を発して見ろ!』

 ナタルコンは地面に刺さった状態で、空気を震わせて意思を声にし、そう指示する。

言われた通り、強敵に対して己の全力を開放するつもりで心にムチをくれる・・・その時!

 

キイィィィ・・・ン!

 

「なっ、何!?」

 オグマの体からまばゆい光があふれ出す、それは彼の体を強化し、力と防御力を

倍増させているのが文字通り肌から感じ取れた。

「凄い!これは・・・」

『そう、それが”光の闘気”だ。』

 

「・・・くっ。」

 闘気を開放させたままオグマは下を向き、嘆く。なぜこの力をあの精霊の前で

出せなかったのか、もし使えていれば奴に一矢報えていたかもしれない。少なくとも

戦う価値無しと見られて置き去りにされることは無かっただろう。

 

 と、地面に刺さっていたナタルコンがふっ、と浮き上がり、ふん!と気を入れる。

 

ぶわあぁぁぁっ!

 

 途端に黒い炎に包まれるナタルコン、それはオグマの発する光とはまさに真逆の、

燃え盛っているのに吸い込まれそうな暗黒を纏っているイメージ。

 

『我を手に取ってみよ』

 言われるままナタルコンの柄を握るオグマ。

 

じゅわあぁぁぁぁっ

 

 彼から発する光の闘気が、剣の黒い炎と溶け合うように収束し、お互いを食い合うように

消えて行く。

 数瞬の後、闘気も炎もまるで無かったかのように消失した。

「消え・・・た?」

『我の暗黒闘気と、お前の光の闘気は表裏一体、お互いが融合すればこのようにかき消える。』

 

「じゃ、じゃああの時、剣から真空呪文(バギ)が出なかったのも・・・」

『そうだ、お前の光の闘気を押し止める為に、我の暗黒闘気は全て使われていたからな。』

 

 道理であの時は無力だったわけだ。光の闘気に目覚めたオグマと、暗黒闘気を使う

ナタルコンがこともあろうに『足の引っ張り合い』をしていたのだから。

 

「だったら、あの時だけアンタが力を抑えてたら・・・」

『たっ、タワケぇ!我に消滅しろと言うのか!!』

 珍しく動揺した口調で返すナタルコン。暗黒闘気を核として生命を宿したその剣にとって

光の闘気を無抵抗で受けるなど自殺行為に等しかった。

 

「そうなのか・・・すまない。俺の方が力を抑えるべきだったのか。」

 己の力を自覚も出来ない自分が、明らかにナタルコンの足を引っ張ってしまったことを悔やむ。

「だけど・・・俺にこんな力があったなんて。」

両手をじっと見るオグマに、その魔剣はこう返す。

 

『お前に素質はあった、敵さえも憎しみの目で見ず敬意を払う、その心の持ちようがな。

我を最初に手にした時、お前を暗黒闘気で支配しようとした事がその資質を開花させ、

光の闘気を呼び起こしたのだ。』

「そうか・・・父の教えのおかげだな。ってお前、俺を支配しようとしてたのか!?」

『当然だろう、剣と使い手は常に対等だぞ。使い手に余る力を持つ武器は持ち主を破滅させる、

逆に使い手の力量に追いつかぬ武器は使い切られて果てるのみだ、我が主がそうであったようにな。』

 

 武器は進歩し鍛えられる、使い手は技量を上げ、武器にに相応しい力を備える。

その力を存分に発揮できるようにさらに武器は進化する。そんな言葉を伝える刀鍛冶が

いた事をオグマは父から聞いたことがあった。

 

「そもそも、アンタは何者なんだ?」

 凶悪な銀のミミックに収められていた短剣。意志を持ち、暗黒闘気を使い、真空呪文を備え、

かつて魔界の伝説、おとぎ話の主人公、剣豪ヒュンケルの懐刀とまで呼ばれたその剣。

何故この集落にあったのか、どういう経緯で今俺と向き合っているのか、興味は尽きない。

 

 -敵を知り、尊敬し、理解するのだ-

 

 それは父ダルタレクの言葉。これから自分がこの剣を振るうなら、その存在も良く

知っておかなければその力を十全に使う事は出来ない。

 もし自分がこの魔剣を使うに値しないとしても、新たな使い手に出会うまでは俺が

持っていないといけないだろう、短い付き合いになるにせよ、だ。

 

『我、か。そんな事に興味を持たれるとはな。』

 

 嘆くような声でそう呟くと、ナタルコンは話し始めた。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 我が意識を持った時、我の主は既に魔界で屈指の剣士となっていた。

魔族として生を受けたその若者は、幾多の戦いの中でそのずば抜けた才能を開花させる。

 

-剣豪ヒュンケル-

 

 彼には悩みがあった。自分の技量に武器が、剣が付いてこないのだ。

強大な竜に向かい合う時、無数のモンスターと昼夜を問わずに斬り結ぶ時、彼の長剣は欠け、

ひび割れ、またある時はぽっきりと折れた。

 そんな時に彼の懐にあるナイフ”ナタルコン”は大いに活躍してみせた。無論折れた長剣より

はるかに脆いそのナイフを、ヒュンケルは最後の切り札として繊細に操り、幾多の危機を

乗り越えて来た。

 

 そんな戦いの中で短剣は自我を目覚めさせ、モンスターの一種”ひとくいサーベル”へと

昇華する事になる。

 普通なら”さまようよろい”などと同じで、使い手不在の野良モンスターとなるのだが

主であるヒュンケルが健在だった事が彼の運命を変えた。

 

「ははっ、お前意思を持ったのか。だったら俺の戦いをよく理解しろよ。」

 ヒュンケルはそう言って、意志を持つナタルコンをすんなり受け入れた。そしてそんな彼の

言葉に答えるべく、魔剣はその天才剣豪の戦い方をよく学習していった。

 たとえ自分が使われなくとも、いかに剣を振るうか、闘気を使うか、呪文をどう捌くか、

達人の域に達する主の戦いを、時に懐から、時に振るわれながら、その記憶に刻んでいった。

 

 だが、そんな彼らの関係がある日、一変する。

 

「これが・・・神の涙か!」

 黄金に輝く光を両手で包みながらヒュンケルはそう発した。魔界で伝説となっている道具(アイテム)

手にした者の願いを叶える奇跡の力、そんな物を手にした彼が望むのは無論一つしかない、

「俺に・・・最強の剣と、無敵の防具を与えてくれ!」

 

 彼に与えられたその武器は、神の金属オリハルコンで出来ている事すら

オマケ要素でしかない程の恐るべき力を秘めていた。その力をもってすれば、彼が魔界を

席巻する覇王『魔界皇ヒュンケル』となるのにさほど時間はかからなかった。

 

 そしてその剣と防具の存在は、懐刀ナタルコンが無用の長物になったことを意味していた。

なにしろその剣は壊れない、傷付かない、予備の懐刀などお呼びでない程に強力で

無敵だったから。

 

 やがて魔界を統べる存在になった彼は、その懐刀(ナタルコン)を己の部下に忠誠の褒美として譲り渡す。

雷竜ボリクスと並ぶヒュンケルの片腕、人熊(ウォーベア)の英雄ガルド。6mの巨体に負けぬ

長尺の戦斧を振るう温和な豪傑であり、魔界の覇を目指してヒュンケルと共に戦い続けて来たその忠臣に。

 

 悲劇は、その翌日に起きた。

 

 魔族の少女がヒュンケルに謁見を求めて来たのだ。それを許可したのはヒュンケル自身が

その目的が自分の暗殺である事を見抜いていたからだ。今の自分をどう害するつもりなのか

その方法に大いに興味を惹かれた。

 

 その少女は御前まで進むと、まるでスローモーションのような自然な動作で彼の長剣

”覇者の剣”に手を伸ばし、するりと鞘から抜き取った。

 

 そのまま笑顔を向ける少女、柔らかい笑顔でそれを見下ろす魔界皇ヒュンケル。

お互いが己の勝利を信じて疑わないその光景の中、覇者の剣がヒュンケルの体に

突き立てられた。

 

「ぐほぉ・・・」

 吐血しながらヒュンケルは、自分の防具”覇者の鎧”をいとも呆気なく貫き、己の心臓を

串刺しにした愛刀を見下ろしていた。

「ああ、そうか・・・いつもは・・・ここに・・・」

覇者の剣が貫いたのは、かつて己の懐刀を仕舞っていた場所だった、その魔剣が今はそこには

無いことを忘れていたのだ。余裕で刃を受けた彼の迂闊さは、取り返しのつかない結末を迎える。

 

 覇者の装備から神の涙の力は失われ、後にはオリハルコン製であるだけの武具一式と、

それを身に纏わせた魔界皇の躯だけが玉座に残されていた-

 

      ◇           ◇           ◇    

 

『・・・我が懐にあったとしても、あの覇者の剣を止める事は叶わなかったとは思う。

だがな、我は覇者の武具を信じていた、神の涙の力を信じていたのだ、だからこそ

喜んで下賜品になることを受け入れたというのに・・・』

 

 暗黒闘気の炎を揺らめかせながらナタルコンは話す。そして彼は神の涙を恨み、

強力な暗黒闘気を身に纏うに至った。長年ミミックに封じられていてもその怒りは消えず

そして今日、神の遺産である精霊が、あの神の涙と同じ臭いを持つ者が現れたことにより

彼の時間が再び動き出したのだ。

 

「そうか、ガルド様・・・ご先祖様が頂いて、代々受け継がれてきた剣が、お前なのか。」

『ガルド以降の子孫に我を使うほどの力量は無かった、故にミミックに封じられていたのだが・・・』

 

 ナタルコンはその眼をすぅっ、と細めて、声に出さずに呟いた。

『(精霊の気配で目覚めた時にこの小僧と出会った、これも何かの流れかも知れぬな。)』

 

 

「ナタルコン、俺を鍛えてくれないか?」

『小僧、我が戦い方を仕込んでやろうか?』

 

 両者の声が重なる。そのタイミングの良さに両者が目をぱちくりさせて、呆然と見合う。

 

『ふっふ、はっはっはっはっはっはっは・・・』

「はは、あはははははははははは・・・」

一匹と一振りの笑い声が、魔界のとある集落に響き渡る。

 

 

 -後に魔界の運命を変えるふたつの魂は、こうして出会った-

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。