魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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とうとう50話!ここまで読んで下さった方々に感謝です。


第50話 理由(ワケ)ありの四人

「俺はリヴィアスってんだ、あんたらは?」

家の中、ベッドやイスに腰かけて丸座になり、朝食にと女性が持っていたパンと干し肉を

受け取りつつそう問うリヴィアスに各々が応える。

「わ、わたしエイミ・・・といいます。」

「ラーハルトだ。」

「俺はヒュンケル・・・どうした?」

最後に名乗った男を見てリヴィアスが驚きの顔をする、ヒュンケル・・・だと?

 

「いや、何でもない。」

 そう言って干し肉をパンでつつんで一口かじる。咀嚼して飲み込むと、思わずうう~ん!と

全身を折り曲げて打ち震え、ぐっ!と体をそらせて一言発する。

「美味い!うますぎる・・・いやぁパンなんて何年振りか、もう最高!」

たかがパンに大袈裟に感動する彼に、ヒュンケルとエイミがはぁ?と目を丸くする。

 

「リヴィアスとか言ったな、お前・・・何者だ?」

 不愛想に干し肉をかじりながらラーハルトが問う。リヴィアスはパンを頬張りながら「あん?」

という顔で返す、何者・・・と言われても。

「俺やエイミの名を聞いても微動だにしなかった貴様が、ヒュンケルの名には反応したな、

逆に聞こう、俺やエイミを知らないのは何故だ?」

 

 それはリヴィアスにとっては意図の掴めない質問だが、他の2人には理解できる言葉だった。

あの大魔王バーン率いる魔王軍との大戦、その英傑に数えられるヒュンケルとラーハルト、

そして戦争の後、地上に残った”黒の核結(コア)を見事に無力化することに成功した

パプニカ3賢者のひとりエイミ。その名は今や地上に住む者誰しもが知っているほどだ。

 ましてやラーハルトにとって、先程槍を合わせたこのリヴィアスが相当な腕前である事は

充分に理解できる。にもかかわらずまるであの大戦も、その後のエイミ達の功績も知らないのは

いささか不自然だろう。

 

「あー、知ってる奴にヒュンケルってのがいるんだよ、同じ名前だったんでちょっと、な。」

 そのリヴィアスの返しにますます絶句する3人。つまりこの男はこの場にいる3人全員を

全く知らないわけだ・・・世を捨てて修行でもしていたのか?

 

「俺、ここ数年魔界に行ってたんだよ・・・いやぁパンが美味い!魔界じゃ麦は実らないしなぁ。」

「なっ!!」

「・・・魔界、だと!?」

「うそ・・・」

 3人が弾けるように反応する。彼らにとって魔界とは、あの大魔王バーンを生み出した地。

そして力こそが正義の修羅の、地獄のような場所という認識しか無かったからだ。

「魔界って・・・瘴気が濃くて普通の人間では死んでしまうって・・・」

「超高熱のマグマがたぎり、強い酸を含んだそれが生物を残らず腐食させるといわれる・・・」

「破壊と殺戮を至上の喜びとする者しか生き残れないと言われる・・・魔界から?」

 

「お前ら・・・魔界を何だと思ってる・・・ヒデェ偏見だなあ。」

 3人の反応にジト目で返すリヴィアス、そら確かにマグマはあるけど、その分湧き水もあるし。

力こそ正義だが、別に力なき者が虐待されているわけでも無い。ちゃんと町があり、文化もあり、

そこに住む者たちにもちゃんと情も倫理もある。なのにこいつらはまるで魔界を年中無休の

コロシアムみたいな印象で見ているのか・・・

 

 朝食を取りながらリヴィアスはそんな魔界の話を皆に聞かせる。ちゃんと社会性があり、

様々な種族が共存して生活を送っている事、強き者は崇められ自らを律し、弱き者は己の個性を

生かした才覚を発揮しているものだ、と。

「意外な話ね。」

「魔界を恐怖の世界みたいに吹聴する奴もいた・・・だいたいヤツのせいだな。」

 魔王軍の中に、魔界を修羅の世界のように語っていた男がいた。黒ピエロの装束を纏った

死神(キルバーン)と呼ばれた男の物の言いようは、今にして思えば魔王軍と地上の勇者たちを

対立させるためにそう吹いていたのかもしれない。

 

「さて、と。」

 そう言って立ち上がったのはエイミだ。空になったバスケットを抱えてこう続ける。

「私はそろそろパプニカに戻ります、興味深い話をありがとう、リヴィアスさん。」

 え、今からパプニカに?と驚くリヴィアスにヒュンケルが解説を入れる、彼女はパプニカで

高名な賢者であり、現王女の側近の1人でもある。そんな多忙な合間を縫ってヒュンケルに

度々会いに来ているのだそうだ。

 瞬間移動呪文(ルーラ)で飛んでいく彼女を見送って、リヴィアスはヒュンケルをジト目で睨む。

あんな最高の女性の一体何が不服なんだよ、と。

 

「では、俺も出仕する。ヒュンケルはどうする?」

「俺は残るよ、このリヴィアスと少し話もしたいしな。」

「そうか。」

 ラーハルトはそう言うと、きびすを返して一目散に林の奥へと消えて行った。

「どんな健脚だよ・・・あれで呪文無しの移動なんだから、本当に化け物だよなアイツ。」

 かの魔界の格闘家ガノイザーに勝るとも劣らぬ身体能力を改めて見て感想を述べるリヴィアス。

「そのラーハルトと一合交えて無傷のお前も相当なものだぞ。」

 

「そういや”出仕”と言ってたな、まさか・・・アイツも宮仕えなのか?」

「ああ、少々込み入った事情でな、テランの次期国王の後見を務めている。」

 そのヒュンケルのセリフに、ほぉ~と唸るリヴィアス。魔界にいると忘れがちになるが、

この地上はほぼ人間が支配する地、モンスターや魔族はその輪の中にそうそう入れないのに

よくそんな重職に食い込んだな、と感心する。

 

 午前中、ヒュンケルとリヴィアスは森の中に薪や山菜の確保に出向き、そのついでに

リヴィアスが魔界に降りたという洞窟を見に行ってみた。

「あー・・・やっぱもうないなぁ。本当はここに小さな滝があって、その裏に割れ目があったんだ。

その先が洞窟になっていたんだがなぁ。」

「滝が・・・無くなった?」

 いぶかしがるヒュンケル、対してリヴィアスのほうはその原因も予想がついていた。

天界の”魔界を閉じる”計画、水脈を操作して地上を魔界に落とすその影響は、地上や魔界の

水の流れを変化させる事もあるだろう。なるほど、何年もかけて徐々に変化させれば

それに気付くものは決して多くはあるまい、狡猾なことだ。

 

「それよりもヒュンケル、あんたに聞きたいことがある・・・あんた何者だ?」」

その質問に驚くヒュンケルに、少し真面目な顔になって向き直り問う、一息置いてこう続けた。

「ヒュンケルといえば魔界では知らぬ者が無い程の英雄の名だ。俺の仲間にはその彼の

懐刀すらいる、アンタがその名を名乗っている所以はなんだ?」

 あ・・・と言葉を詰まらせるヒュンケル。かつての育ての父、地獄の騎士バルトスに

付けてもらったその思い出にまず至り、そして父の話が正しかったことにわずかな

嬉しさを覚える。

 

「・・・そうだ、俺の名は確かにその魔界の剣豪の名を父に貰ったんだ。彼のように強くなれ、

とな。」

「お前の父は、魔界の由来の者なのか?」

「・・・そうだ。」

 

 朝の森の静謐な空気と父への思い出が、普段寡黙なヒュンケルを饒舌(おしゃべり)にさせた。

彼は話す、己の物語を。

 物心つく前から魔王軍の騎士に育てられた事、父を勇者に殺されたと勘違いして弟子入りし

その命を狙った事、新生魔王軍の幹部となり、弟弟子を手にかけようとして返り討ちにあった事、

攻め滅ぼしたパプニカの姫に許され、それから償いの道を進むことになった、その数奇な人生を。

 

「重いな・・・お前は。」

 瞳に熱いものを感じながらそう返すリヴィアス。彼も彼のパーティ達も皆、その胸に重いものを

抱えて生きて来た。だがこの地上の戦士もそれに負けぬ運命を背負い、今もまだその荷を

降ろせないでいるのか・・・

 

「なら、幸せにならないとな。」

 目尻をぬぐって言うその言葉に、ヒュンケルは意外そうな表情で顔を上げる。

「俺が・・・幸せに?ふっ・・・バカな。」

「散々不幸な思いをしてきたんだから、その分幸せにならないと吊り合いが取れんじゃないか!」

語気を強めるリヴィアスに反発するように、ヒュンケルも強い口調で返す。

「俺は・・・取り返しのつかない過ちをした!軍を率いてパプニカに攻め入り、何人も殺した!

そんな俺がどの顔で幸せになれるというのだ!!」

 

「・・・あのエイミさん、パプニカの人なんだろ?彼女もお前に人生を壊されたんだろう?」

 ずきり、と胸を痛めるヒュンケル。壊された・・・確かにそうだ、否定の予知など無い。

「だったら、今度は彼女を幸せにしてやれよ・・・彼女が求めるなら、抱いてやれ。」

 その言葉に目を伏せるヒュンケル。そんな、そんな自分勝手なことが許されるのか、と。

「幸せになろうとしない男が、どうして他人を幸せに出来るんだ?」

「・・・くっ」

 

 ヒュンケルの胸に拳をどん、と突きつけて続けるリヴィアス。

「あのエイミさんの望みは何だ?知らないとは言わせん、言ってみろ!」

 

「俺を・・・俺と共に・・・幸せになること・・・」

 今までずっと、己が幸せになる事を否定し続けて来たヒュンケル。その先の見えない

闇の道に今、初めて明かりがさした気がした。いや違う、すっと明かりを照らし続けて来た

エイミさんの光が、今ようやく見えたのだ、この男の言葉によって。

 

「解ってんじゃねぇか。あとついでにバンバン子供も作れよ、そしたらパプニカの人口も

取り戻せるんだからよ。」

 そう言って朗らかに笑うリヴィアス。彼もまたかつて復讐の怨念に囚われていた。

だが、魔界に行って出会った師匠ロズテナーの言葉で彼は変わった。妹を守れなかった

不甲斐なさこそがお前の敵だ、悔しければ過去の己こそ倒してみろ、竜の騎士をも超えて見せろ、

そして妹の分まで幸せに生きろと。

 そして出会った仲間達、彼らの過酷な運命もまたリヴィアスにとっての大きな糧となった。

師匠や仲間に貰った教訓が自分以外の誰かの力になる事に、なんだか自分が偉くなった気がして

思わず笑みがこぼれる。

 

「・・・ありがとう、目が覚めた気がするよ。」

 目に熱いものを溜めながらヒュンケルが返す。そうだ、自分は何を恐れていた?己が幸せに

なる事じゃなくて、そうなった時に誰かに「魔王軍のくせに」「人殺しの分際で」と

言われることこそが怖かったんだ。それがあまりに正論だったから。

 だが、もういい。それが正論ならば真っすぐに受け止めよう、その上で俺はエイミさんを

まず幸せにする、今だに俺の想いを待ち続けてくれた彼女に応える。

 

 俺が幸せになって。

 

「ま、頑張れ。」

 ポンと肩を叩いて薪拾いにもどるリヴィアス。効果覿面の彼の表情に、いやぁちょっと

カッコつけすぎたかな、と照れ隠ししながら。

 

 

 彼らは知らない。ここから彼らを取り巻く関係が一変する事を!

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「エイミ!」

「あ、姉さんただいま・・・どうしたの?青い顔して。まだ出仕の時間じゃ・・・」

 エイミの姉のマリンが青い顔をして、その肩を掴んで言葉を吐き出す。

「大変よ!魔王が復活して、その先兵が魔界から各地に出現したって・・・あなた夕べ夢を、

天からの啓示を受けなかった?」

 後ろから駆け付けた長兄アポロが続きをまくしたてる。

「レオナ王女も天啓を受けたそうだ、今から我々は各国に飛んで、この事実を伝えに行く。

魔界からの来訪者に警鐘を鳴らせ、と!!」

 

 その言葉に愕然とするエイミ、心当たりがある、ありすぎる・・・。

「まさか・・・まさか、あの人が?」

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 騒然とするテラン城内、普段何事にも動じないこの国の連中がこうまでバタバタする

様は珍しい。と、ラーハルトは自分と同じ立場、次期国王の後見人の鬼面導師(モンスター)

見かけて声をかける。

「ブラス殿、一体何事ですか?」

「おおラーハルト!一大事じゃ、国王やこの国の僧侶たちが神の啓示を受けたようじゃ、

なんでも新たな魔王の先兵が地上に来るそうじゃ・・・しかもその目的が・・・」

 言い淀むブラス。ラーハルトに対してそれを告げる事は少しばかりためらわれたから。

「目的・・・それは?」

止むをえまい、とひとつ咳払いをしたブラスが、続きの言葉を絞り出す。

 

(ドラゴン)の騎士の抹殺と、神の涙の消滅を目論んでおる、との事じゃっ!!」

 

 




精霊「嘘は言ってない。」

ダイ「・・・50話まで来たのに、まだ出番無いのー?」

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