魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第52話 亀裂

 正午の少し前、森で充分な薪と山菜や果物を収穫したリヴィアスとヒュンケルは、

長屋に到着する直前で見知った2人に出迎えられる。

「あれ?ラーハルトに、エイミ・・・さん、だったよね。仕事はいいのか?」

 能天気に問うリヴィアスに2人は答えない。エイミは斜に構えて目を伏せ、ラーハルトは

腕組みして瞑目した状態から、ゆっくりと向き直る。

 

 その身に”鎧の魔槍”を纏った状態で。

 

 ヒュンケルは二人の表情からただ事ではないと悟る。付き合いの長い二人だが、ここまで

切迫した空気はあの大戦以来の事だ。

「何だ・・・何があった?」

 その質問に、ラーハルトがヒュッと槍を一回転させる。そして二人は同時にこう発した。

「ヒュンケル、そいつから離れろ!」

「ヒュンケル・・・その人から離れて。」

 

「何だ何だ?変に殺気だって。」

 リヴィアスも場の空気を察し神経を張り巡らせる。今朝の友好的な態度はどこへやら、

身を刺す殺気に、戦闘の体制を・・・

(く・・・刺突槍(コーンランス)は家の中、か。)

 今の自分は獲物を持っていない、もし戦闘になればどうにもならんな、と察する。

だがそもそもこの状況は何なんだ?なぜ彼らが俺を敵視したような目で見る?

 

「リヴィアス、お前に聞くことがある・・・お前は、魔王の手下か!?」

 槍をかざしてそう問うラーハルト。対してリヴィアスは、ああそういう事か、と得心が行く。

どうやらきらりんがもう行動を起こしたのだろう。パプニカかテランのどちらかに何らかの

コンタクトを取って俺との関係を聞いたのか・・・な?

「ああ、そうだ。」

 だったら嘘をつく理由は何もない。とっとと合流出来るに越したことは無いし、彼女が

”魔王”を名乗るのも、魔界を救う為の旗印としての呼称だと説明すればあらぬ誤解も

解けるだろう。

 

 リヴィアスは気付かない。後ろにいるヒュンケルがぞわっ!と全身の毛を逆立てたのも、

横で見ているエイミが残念そうな顔で何かを確信しているのも。

 

「ではもう一つ聞く、お前は、お前たちは・・・”神の涙”と”(ドラゴン)の騎士”を抹殺するのが

目的かっ!!」

 語気を強め、険しい顔で言葉を叩きつけるラーハルト。彼にとって竜の騎士ダイの敵ならば

殺すのにためらう理由はどこにも無いのだ。

 だが、それを聞いたリヴィアスは、見解を別のベクトルに向けてしまう。ああ、どうやら

ナタルコンも一緒なのか、神の涙を仇とするアイツならそう言うだろうし、ついでに俺の事も

代弁してくれたのかな?

 

「よく知ったな。ああ、その通りだ。」

 

 -びりぃっ!!-

 空気が一気に張り詰める。後ろではヒュンケルがぎりっ!と歯ぎしりの音を立てる。

どうやら本当にこいつは魔王軍の残党・・・いや、新たに勢力を巻き返した新生魔王軍の

一員なのか・・・!

 先の大戦、大魔王バーンの野望を砕いた”竜の騎士ダイ”と”神の涙ゴメ”。

もしバーンの意志を注ぐ新たな魔王が現れたら、この両者をまず消そうとするのは間違いない、

その事実が、この男が魔王の先兵である事を証明してしまっていた。

 

 エイミもまた、その返答に落胆の思いだった。今朝に彼が語った魔界の有り様も

こちらの警戒を解くための偽りの情報だったのか、情報操作のための体のいい作り話だった

のか・・・残念でならない、やはり魔界は・・・敵なのね。

 

「ならば・・・生かしておくわけにはいかん!!」

 一歩踏み込み、リヴィアスの喉元に槍を突きつけるラーハルト。刃を当てがわれたことで

リヴィアスも心のスイッチを入れる。

「問答無用・・・か。いいだろう、やってみろ!」

 真正面から見返して言葉を突き返す。仮にも魔界の戦士が刃を突きつけられて引き下がる

訳にはいかない、即座に生死のやり取りの覚悟を決められなくて何が戦士か!

 

「デルパ。」

 エイミが2本の”魔法の筒”を手に乗せてそう呟く。次の瞬間筒の中から二人の人物、

彼女の兄アポロと姉マリンが姿を現す。

「ラーハルト殿、お気持ちは察するが、その男には聞かねばならんことがいくらでもある。」

「魔王の事、あなた方の目的、地上に来たのが何人か、拠点はどこか、全て話してもらいます。」

アポロが、マリンが強い調子でそう返す。あの大戦の悲劇は二度と繰り返さない、との決意で。

 

「断る。」

 にべもなくそう答えるリヴィアス。どうやら事態は自分が思う以上に深刻のようだ、

ならばオグマ達の情報など教えられるはずもない。

「名乗りもあげず、相手に刃を突きつけて恫喝するのがお前たちのやり方か?」

 

ぼしゅっ!

 

 その時。ラーハルトの後ろの広い範囲から煙が上がる。煙はすぐに晴れ、そこには十数人の兵士と、

その先頭に立つ鬼面導師。

 変身呪文(モシャス)幻惑呪文(マヌーサ)の応用で森に紛れ、姿を隠していたようだ。にしてもこの人数を

隠すあたり只者では無いな、この鬼面導師は。

 

「やむを得んな、拘束させてもらうぞ、お若いの。」

 老練な鬼面導師ブラスの言葉に、兵士たちは左右に分かれてリヴィアスを手際よく取り囲む。

兵士たちはその装備から2部隊に分けられた、おそらくパプニカとテランの兵士の混成部隊

なのだろう。

「油断するな、そいつはルーラを使う。魔法を使うスキを与えるなよ!」

喉元に槍を突きつけたままラーハルトがそう忠告する。それに応えてアポロとマリンが

逃がさないようにルーラの追撃態勢を取る。

 リヴィアスは悟らざるを得ない。周囲には大勢の兵士、武器は無い、そして味方もいない、

魔法を使うスキも無いとくればもはや完全に詰みの状態だった。

 

 ラーハルトを睨みすえたまま左右から兵士に腕を取られ、されるがままに後ろにねじられて

背中で後ろ手に縛られるリヴィアス。

「とりあえずテランに連行させてもらうぞお若いの、そこで洗いざらい喋って頂こう。」

 ブラスの言葉に、不満気な顔をして槍を引くラーハルト。できればこいつをダイ様に

近づけたくはないが仕方ない、万一の時は自分が命に代えてもお守りするまでだ、と。

 

 リヴィアスを念入りに縛り上げる兵士たち。魔力を織り込んだその縄で縛ればまず

逃げられることはあるまい、と一同は安堵の表情を見せる。

 だがリヴィアスはその時、己の手のひらに冷たい感触を覚えた。これは・・・小さいナイフか?

リヴィアスを縛りながらソレを渡したその兵士は、誰にも聞こえぬようにこう囁いた。

(今夜・・・デューの一本杉で。)

 

 

 一同がリヴィアスを拘束し、テラン城へ向かって2kmほど歩いた時だった。彼を縛っていた

縄がするりと外れる。

一瞬、呆気に取られた一同をよそに、彼は準備していた魔法を発動させる。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 

「な・・・貴様っ!」

「ま、待てっ!」

 ラーハルト達が叫ぶがもう遅い。リヴィアスは一目散に家まで飛ぶと、中に入って刺突槍(コーンランス)

ひっ掴み、そのまま飛翔呪文(トベルーラ)で屋根を突き破って雲の上まで一気に姿を消した。

 

「な、何故じゃ、何故縄がほどけたんじゃ!?」

「切られています!仕込みの小刀か何かを持っていたかと・・・」

「馬鹿者!身体検査をしてなかったのか?何をやっているッ!」

 

 ざわつく一同をよそに、ラーハルトは不覚!と臍を噛む。やはり問答無用で殺しておけば

良かったのだ!これでもし奴の魔の手がダイ様に伸びたら・・・怒りに任せて槍を

どすぅっ!と地面に突き立てる。

 

「許さん・・・絶対に殺す!!」

 

 

 そんな騒動を、リヴィアスが飛んで行った方向の反対側の空中で、静かに眺めるひとりの女性。

彼女はふふっ、と笑って、眼下の騒動の結末に満足そうに感想を述べる。

「これが魔界と天界の差なのですよ。魔界の者との薄っぺらい信頼など簡単に壊せます。

人間はあくまで天を崇拝し、魔を恐れる者達なのですから。」

 

 精霊、天の8行”流れのシル”。地上における対魔界の情報操作と、人間に対して天啓を下す

能力の持ち主。

 

 -”魔界を閉じる”事業の地上での統括者-

 

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