魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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多分鬱になる話です、苦手な人はスマン。


第53話 小物たちの慟哭

 夜。フクロウの鳴く声が響く深い森。その切れ目にそびえ立つ一本杉の根元にもたれて

来客を待つリヴィアス。

 

 と、ガサガサッ、と雑草をかき分けて現れたのは、彼よりやや年下に見える細身の青年。

「やっぱりお前だったか、フィガロ。」

「・・・お久しぶりですリヴィアスさん、お元気そうで何より。」

 現れたのはリヴィアスと同郷の、そして弟分と言っていい存在のフィガロだった。かつて

アルキードが滅んだ時、国の外れに住んでいた彼は死を免れ、ここテランに疎開してきて

リヴィアス達と共に数年間過ごしてきた。

 

 ふたつ年下のフィガロは祖国と共に両親を失い、周囲の大人に面倒を見てもらってきたが

そんな中、誰にも頼らずにひたすら修行し、あの恐怖の竜の騎士に挑もうとするリヴィアスは

彼にとって憧れの存在であった。

「テランの兵士をやってるのか・・・立派になったじゃないか。」

「そっちこそ・・・いつの間に魔王の配下になったんです?変な方向に出世しましたねぇ。」

そりゃそうだ、と笑うリヴィアス。フィガロもまた懐かしい兄貴分に屈託のない笑みをむける。

 

 彼は語る、リヴィアスが行方不明になってからの自分達の現状を。

「この国にも来たんですよ、あの”竜の騎士”が。」

「な・・・んだと!?」

 リヴィアスがいなくなって一年ほど後、このテランに魔王軍配下となった竜の騎士と

その手下が現れ、勇者の一行との激しい戦いが展開された。

 森を焼き、城を粉砕し、山を欠け飛ばす。その人知を超えた戦いは結局痛み分けに終わった、

だがここテランに疎開していた生き残りたちは皆、再来したその恐怖に恐れおののき、

散り散りにこの国から逃げて行った。

 

 だがフィガロは逃げなかった。リヴィアスの不屈の闘志と、その妹の悲劇を知る彼は

自分もいつか両親の仇を撃てる人物に成ろうとこの国の兵士に志願する。元々人口の少ない

このテランで彼はすんなり兵士になることができた。

「なるほど・・・あの長屋が寂れていたのはそういう事情か。」

「ええ、僕も今は小さいながら城の近くの小屋に住んでます・・・びっくりしましたよ、

今朝登城したらリヴィアスさんはあそこに帰ってきてて、しかも魔王の手下だって

言うんですから。」

 

 そしてフィガロは続ける。この地上で起こった大戦、大魔王バーンと勇者ダイの物語を。

ダイがあの竜の騎士バランの息子である事、ダイと仲間たち、そして神の涙の力でバーンの

野望を粉砕してみせた事・・・そして、竜の騎士バランが戦いの最中に戦死した事を!

 

「な・・・死んだ、だと?あのバランがか!!」

 ぎりりと歯を軋ませ、槍を握りつぶさんばかりに力を込めるリヴィアス。妹の仇が

すでにこの世にいない、己が落とし前を付けるあの外道はもう存在しないことに

血液を沸騰させる。

 激昂するリヴィアスに、フィガロは冷めた目で自虐的にこう語る。

「バランが死んだ、って聞いた時、俺、心底思いましたよ。ざまぁみろ、ざまぁみろ!って。

天罰が下ったんだ、永久に焼かれて苦しみ続ければいい、地獄の底でみんなに踏みつけ

られればいい、ざまぁみろ!ざまぁみろ!ざまぁみろ!って。」

 最後の方は言葉に感情を隠せないでいた、幸せな両親との暮らしを一瞬で失った時、彼はまだ

5歳の子供だったのだ。感情的になるなと言う方が無理だろう。

 

「俺、ダイがバランの息子って聞いて、いっそ大魔王に負けたらいいってまで思いましたよ!

でもテランの連中も、王も、勇者の仲間たちもみんなダイ、ダイ、ダイって!あの人殺しの息子が

なんで英雄扱いされなきゃいけないんだ、そんなのないよって!!」

 

 そう吐いた後、彼は付け足す。俺って小物ですよね、と。

 

「お前は小物なんかじゃないよ。」

 そう言ってうなだれるフィガロの肩を叩くリヴィアス。他のアルキードの生き残りは皆

逃げ出したのに、お前は未だに竜の騎士を”恨めて”いるじゃないか、立派だよ、と。

「そもそもお前が小物なら、今だにバランをブチ殺してやりたいと思ってる俺は何だ?

死んだ相手を今だに殺したい俺に比べたら、お前はまだ我慢できてるじゃないか。」

 ひと息ついて、低い声でこう言葉を紡ぐリヴィアス。

「俺達の恨みは、バランの息子の活躍ぐらいで消えるような軽いものじゃない。」

 

 その言葉にフィガロが己の黒い感情をぶちまける。ずっと思っていた不満、ずっと

溜め込んできた怒り、己の周囲が皆、自分と逆のベクトルをむいている事に対する

憤りを、リヴィアスだけは理解してくれると信じて。

 

「あのダイが・・・このテランの王にっ、パプニカ王家に婿入り!?ふざけるなよ!お前の親父が

一体何人殺したと思っているんだッ!兵士じゃない、非戦闘員を・・・だぞ!」

 

「何なんだよあのラーハルトとか言う魔族野郎!事あるごとにあの糞バランを絶賛するわ、

ダイにだけ妙に腰が低い癖に他には横柄で偉そうだわ・・・大体アイツは元バランの部下だぞ!

アイツだって何人殺してきたか分かったもんじゃない!そんなヤツがなんで!!」

 

「ダイの本名を知ってますか?”ディーノ”ですよ!よりによって!!なんでアルキードの

伝説の竜の名を、アルキードを滅ぼした奴の息子が名乗ってるんですかっ!!

アイツにその名を名乗る資格なんてどこにも無い!認めない!認めるもんかぁっ!!」

 

 アルキードの強き竜ディーノ。それはアルキードの男子なら必ず親から語られる御伽話。

話そのものは陳腐な、よくある”正義の味方の竜”の話。沈みゆく船から人々を救い、

暗黒竜の群れから民衆を守り、時には少女が手放した風船をそっと掴み、その手に

戻してあげる優しさを持った、憧れの存在を形にしたような竜の物語。

 

「ディーノ、か。」

 リヴィアスはしばし瞑目し、そして思い出す。かつて母が言っていた言葉を。

(ソアラさんねぇ、子供が生まれたらしいわよ。なんでもあのディーノっていう

名前なんですって。今は何かモメてて国にはいないけど、戻ってきたらルミナと同い年だし、

友達になれたらいいわね。)

そう言ってベビーベッドですやすや眠る愛娘ルミナを見て微笑んだ母の顔をよく覚えている。

 

 だが、同い年のその二人は邂逅する事は無かった。一方が英雄として祭り上げられるのに

もう一方、彼の妹はハイハイすることすら叶わぬまま兄の背中で絶命した、その英雄の父の

怒りに狂った行為で。

 

 そしてその時に、何の力も無かった己のせいで。

 

「安心しろフィガロ、俺は必ず竜の騎士に落とし前を付ける!絶対に思い知らせてやる!

だからお前は下手に動くな、皆の仇は俺が取る、だからお前はアルキードの血を絶やすな、

くれぐれも早まった行動に出るんじゃないぞ!」

「ひどいな・・・僕にばっかり我慢しろ、って言うん、ですか・・・」

「そうだ。怒りに任せて死ぬのは簡単だ、生きて耐え凌ぐほうがずっと困難だ。だから

それはお前より小物の俺にはできん、お前がアルキードの民の怒りを紡いでいくんだ。」

 

 泣き崩れるフィガロにヒザを付いてそう発破をかける。正直今のフィガロがあの

ラーハルトやパプニカの賢者に逆らっても何もできないだろう、ならばそれは俺の役目だ。

 

「お前に遠からぬ未来、きっと胸のすくような光景を見せてやる、だからそれまで待つんだ。」

 

 

 

 暗い森の一角、誰もいなくなった一本杉の傍らで、頭をかきむしりながら座り込んで

慟哭を漏らす一人の戦士がいた、かつての大戦十傑、魔剣戦士ヒュンケルである。

「どうする・・・どうすればいい!何をどうすれば俺はダイとリヴィアスの確執を・・・」

 

 彼はリヴィアスが脱走した後、明らかに他の兵と様子が違う人物を認めていた。

テランの兵士フィガロ、思えばリヴィアスに縄をかけたのは彼ではなかったか?そして

その後も周囲が混乱する中、彼だけはどこか冷めていて、そして時折ラーハルトに

厳しい目をむける、気付かれないように。

 

 夜、家を出て森に入る彼の後をつけて行く。果たして彼はリヴィアスと密会していた。

そしてその話を木の陰で聞いて・・・彼はそのあまりに重い事実に驚愕を隠せなかった。

 

 自分はなにを勘違いしていた?どうしてリヴィアスを疑った、神の天啓があったからか?

竜の騎士を殺そうとする理由をどうして聞いてやれなかった?彼が魔王軍だから?

彼が竜の騎士を狙うのは魔王の意向じゃない、あくまで私怨、そして当然の事じゃないか!

 

 なぜ彼を単純な”悪”として扱ってしまった?

 

 事態はもう最悪になってしまった。リヴィアスの顔は割れ、彼はほどなく世界中に

お尋ね者としてその名と風体を知られるだろう。

 

 事情がどうあれ、ダイを殺さんとする彼をラーハルトは決して許さないだろう。

 

 そして、リヴィアスやフィガロの存在を、その心の闇をダイがもし知ったら・・・

かつて、俺の事情を知っただけで戦えなくなったほどの優しさを持つダイが、もし彼らの

物語を知ったらどれだけ傷付くか・・・父への尊敬は壊れ、罪の意識に苛まれるのは間違いない、

最悪彼らに自らの命を捧げる事すらありえなくはない。

 

 

「あと半年、ほんのあと半年で、ダイは幸せの絶頂を迎えるはず・・・だったのに!!」

 

 




登場人物解説

・フィガロ

【挿絵表示】


 人間、25歳男。168cm69kg、アルキード王国出身。
5歳の時にアルキードがバランによって滅ぼされた時は、村はずれに住んでいたために
難を逃れた。だが城勤めの両親を失って、わずかな近所の老人たちに連れられてテランへ疎開。
そこで竜の騎士への復讐を燃やす兄貴分リヴィアスと出会う。
 リヴィアスに習って自分を鍛えつつ同郷の老人たちの面倒を見て来たが、ある日
リヴィアスが失踪し、その翌年に魔王軍が復活したのを契機にテランの兵士となる。
 超竜軍団の襲撃に際しても地元出身の皆の長屋を守っていたため、バランとダイの
戦いを直接は見ていない、それが彼の運命をまた変える事になる。
 大戦終了の5年後、あのダイがこの国の王位継承者として訪れ、また部下の
ラーハルトが後見人として国の重職に就いたことを極めて不快に思っている。が、
それをおくびにも出さずに”良い人”を演じ続けたのは彼の並々ならぬ忍耐力の証だ。

酒豪が多いアルキード人の遺伝子か、とてつもない大酒飲みという側面を持つ。
親を失った時に5歳の年齢だったため、アルキードの御伽話”強き竜ディーノ”が大好き。
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