第55話 紫龍の杖と銀の体
「
破邪の洞窟の深部にて。唱えた少女の魔法力を受け、手にしていた杖の先端の竜の両腕が
少女の腕全体を覆うように巨大化し纏わりつく。
華奢な体に似合わぬ竜の剛腕を備えた少女に、前方から迫りくるファイアゴーレムの群れ。
「ドラグ・クロウ!」
少女が敵を引き付けて放ったそのもろ手突きに先頭のゴーレムがまず吹き飛ばされる。
すさまじい勢いで後ろの群れにぶち当たると、そのままドミノを薙ぎ倒すように倒れていく
ゴーレム達。
「うん、いい調子♪」
杖を元に戻してご満悦のきらりん。この紫龍の杖、発する魔法を
その先端の竜の腕爪、翼、そして頭を術者の身に纏うことが出来る力を秘めている。
腕爪を纏えばその力が腕に宿り、このように敵を薙ぎ倒す事も可能となる。いわば”理力の杖”の
強化版ともいえる役目を果たすのだ。
ちなみに翼を纏えばもちろん飛行が可能になるのだが、この洞窟ではそれを試す機会は無い、
まぁそれは地上に出てからのお楽しみに取っておこう。
「
そう唱えるとともに、杖の先端の竜の頭が大きくなり、彼女の頭部を後ろから咥え込むように
装着される。ヘルメットとなった竜の瞳が、ビュオォォン!という音と共に怪しく光輝く。
見た目はどこかの蛮族のようなこの装備こそが、実はこの紫龍の杖の真骨頂だ。この状態の
術者は竜の眼と耳と鼻の能力を得、ありとあらゆる気配や罠の在処、敵の能力やステータスなどを
知ることが出来る、いわば万能の状況把握を得ることが可能になるのだ。
ちなみに火炎と氷のブレスを吐くことも出来る、実際には竜の兜が吐いているのだが、同時に
口を開けて息を吐き出すと、なんだか自分が吐いているような気分に浸れるオマケ付きである。
「あー思い出した・・・この階かー、めんどくさいのよねーココ。」
また一階上に上がったきらりんが、その竜の眼でその階を見回してそう嘆いた。
地下89階、ここは入り口のすぐそばに出口があるにもかかわらず、その間には強力な結界が
張られており、直に移動することは出来ない。結局部屋中をぐるぐる巡りまくってようやく出口に
辿り着けるのだが・・・なにせ罠が多い、多すぎる。三歩歩く度に別の罠が即作動する有様で、
トータルで20以上の罠をクリアしないと抜けられないという、まさに罠の部屋だ。
「まぁここは普通に突破したら完全攻略だから、今の私にはいいかな?」
魔界からこの破邪の洞窟に戻って以来、彼女は各階を隅から隅まで徹底的に調べ上げ、
あらゆる罠を打ち破り、全てのお宝を確認(気に入ったものはゲット)しながら上に進んでいた。
かつて人間の神が、邪悪に対抗するための力を与える試練のために築いた破邪の洞窟は今、
わずか8歳の少女によって完膚なきまでに攻略されつつあったのだ、しかも次期魔王にである。
と、きらりんは入り口の方に人影を見る。それはきらりんには気付かず、それどころか
すぐそばの出口にも気付かないまま奥へと歩を進める。
「こんな深部に・・・人間?誰かしら。」
竜の眼で透視しつつその人影を追う。透視と言っても鮮明に見えるわけでは無いが、それでも
壁の向こうにいる人物の影と、そのリアクションくらいは確認できる。
「あ・・・落とし穴にはまった。」
えー、という表情できらりんが嘆く。この階まで颯爽とやって来た人にしては、わりと
見え見えの罠にいともあっさりかかるとは・・・あれ毒気の穴だから落ちたら助からな・・・
-ドカン!-
「へ?」
落ちたと思った人影は、毒気をものともせずに落とし穴のフタを突き破り、首を
コキコキしながら這い上がって来た・・・どんな人よ!と思った次の瞬間、横から現れた
振り子の
数秒もせずに戻ってきたその人影は怒り心頭な態度で鉄球をまるでスイカのように叩き割る。
「・・・なんか化け物がこっちに来る~、ひょっとしてこれがこの階の真の試練?」
マグマ煮えたぎる壺に落っこちて、左右から迫る壁に潰されて、石像の持つ剣に打ち据えられ、
天井から降って来たタライの直撃を受けても全く動じず、それら全てを粉砕して平然と
先に進む・・・きらりんのいる出口に向かって。
「ムチャクチャだぁ・・・」
力技のみでこの階、罠の階を突き進むその人影が何者かは知らないが、間もなく相対する
事になりそうだ。もしかすると人ではなく、この破邪の洞窟を完全攻略せんとする自分を
止めるための
兜化を解き、魔法力を溜めて出口から距離を取り、階段の下で身構えるきらりん。
最後の罠は確か爆発系のものだったハズ・・・そう思った瞬間、出口で轟音が響いた。
やっぱり引っかかったのね、と思うと同時に彼女はもう一度「やっぱり」を心の中で
繰り返すのであった。
「あーったく!なんなんだよこの階は!めんどくせぇ罠ばっかで・・・敵用意しとけよ!」
物騒なセリフを吐きながら煙の中から現れたのは全身に銀色の輝きを纏った男。
鎧の類ではない、金属でできた生命体。オリハルコンの体を持ち、禁呪法で生を受け、
生みの親の魂と銀髪を受け継いだ戦士、そんな人物ををきらりんは当然・・・知らなかった。
◇ ◇ ◇
「小娘の捜索ぅ?なんで俺が。」
旅の途中、立ち寄ったカール王国で顔見知りの男アバンにそう頼まれて思わず顔をしかめる
金属生命体にして獣王遊撃隊員12番のヒム。迷子捜索なら俺より向いてる奴いるだろうに、と。
「お願いしますよ、どうやら彼女”破邪の洞窟”に入っちゃったらしくて。今捜索隊を編成
してる所なんですが、何せ一刻を争いますので、先に斥候をやってくれると有難いんですよ。」
「破邪の洞窟ぅ?なんか強い敵でもいんのかい、そこ。」
「ええ、貴方の腕試しにもぴったりの場所ですよ、そりゃもう凶暴な怪物がうじゃうじゃと。」
怪しい目をして笑うアバンに、ヒムは「だったらしゃーねぇな。」と両拳を合わせる。
なにせデルムリン島を出たはいいが、どうにも腕がなまっていかん。出立の前にワニの大将に
してやられて以来、満足できる戦いに巡り合えていないので、いささか悶々としていたのだ。
「って、考えてみたらこんな洞窟で小娘が生きてるワケねぇじゃねぇか!」
地下55階でブルードラゴンを仕留めた後、ようやくその事実に気付くヒム。聞いた話じゃ
娘の両親のパーティも洞窟に入ったらしいが、それでも並大抵のチームで突破できる
レベルはとっくに超えていた。
「だったら・・・どっかで追い越した可能性はあるが、どーすっかねぇ。」
ヒムにしたらこのやり甲斐のある洞窟の奥にもっと進んでみたい。しかしこの先に目的の
小娘がいるはずも無し、引き返して見落としたところをチェックするのも面倒だ。
う~ん、としばし悩んだ(フリをした)後、よし!と手を打って立ち上がる。
「まぁ、捜索隊が出るって言ってたしな、追い越したなら彼らに任せればいいか!」
かくしてさらなる奥に進むヒム。その判断は実は間違ってなかった。ただそれが
彼にとって幸か不幸かはまた別の話なのだが。
◇ ◇ ◇
「銀ピカ人間?趣味わっるぅ・・・メタルスライムの仲間かしら。」
「ん?なんだお前、こんな所に似合わねぇなぁ・・・あ!もしかして、お前がきらりん、か?」
かつての魔王ハドラーの生まれ変わりと、新たな魔王の使命を受けた少女。
実は年齢にしてわずか1歳違いのふたりの、初顔合わせがこの時であった。
登場人物紹介
・きらりん
【挿絵表示】
人間で8歳の女の子、黒髪で整った顔立ちをした次期魔王。
かつての偽勇者一行、でろりんとずるぼんの一人娘。オーザムでかまくら生活をしていた
時に、へろへろとまぞっほの留守の間に仕込んでいたのだが、実は二人にはバレバレで、
わざわざ気を使って漁の時間を長く取ったりされていた。
父や母を英雄だと思っていたが、実は小物である事を知り家出。崇められるのが真の勇者なら
自分はその対極の魔王になってやる!との志を魔界の冥竜王ヴェルザー(の残留思念)に
見込まれてその声に導かれ、破邪の洞窟から魔界まで到達する。
が、そこで出会ったオグマやナタルコン、リヴィアス、ミール、そしてケプラスや
ガノイザーの歩んでいる人生を聞き、己の小ささを思い知った。彼らの為にも魔界を
滅亡から救うという目的にスイッチし、改めて魔王を目指す。
ちなみに彼女はどの魔法系統でも最上級のものは使えない。メラはできてもメラゾーマは
撃てず、ギラは使えても
ただ、魔法力のキャパはケタ違いの才能で、メラやギラなら全然余裕で一日中連発できる。
複数の魔法を同時に使うのも彼女の才能の一つ、ただ攻撃魔法を合成するのは苦手。
破邪の洞窟を踏破した経験が生きており、罠や呪術の回避能力にも長け、魔法を応用した
発想も目を見張るものがある。
装備:紫龍の杖、サルトバーンの礼服(ミールのお下がり)