魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第56話 きらりんとヒムの珍道中

「おお!キングスライムの群れじゃねぇか!これこれ、こういうのを待ってたんだ!」

 ガツン!と拳を合わせるや否や、キングスライムの群れに突っ込んでいくヒム。

が、その敵を紫龍の杖の兜化した目でサーチしたきらりんが絶叫する。

「ダメーっ!それはキングスライムじゃなくて、変身呪文(モシャス)で化けたばくだんいわ

だからーーーーっ!!」

 

-ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォォン-

 連鎖爆発が鳴り響く地下42階、全ての遮蔽物が吹き飛ばされた後、ここはただの

広い部屋となった。

 

「ケホ、ケホッ・・・もう!何度言えばわかるのよーーーっ!」

 煙とホコリを被ったきらりんが、爆風でピンボールのように部屋中を跳ねまわったヒムに

何度目か分からない抗議の声を上げる。

「ンなこと言ったってよぉ・・・俺には罠とか見抜けねーしよぉ。」

「だったらあんちょくに攻撃かますなーーっ!」

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「きらりん、ってのはお前か、おら帰るぞ。」

 そう言って問答無用で、まるで猫のようにきらりんの首根っこを掴んで持ち上げるヒム。

「ふぇ?ちょ、ちょっと・・・誰ですかー!?」

「オメーを探しに来たんだよ。ったく、よくこんな奥まで来たもんだな、運がいいにも

程があるぜ。」

 その言葉にはぁ?と顔をしかめるきらりん。自分はちゃんとこの破邪の洞窟をひとつひとつ

攻略してきたのに、何か知らないけどやたら頑丈そうな体に頼って強行突破してきた人に

言われたくは・・・

「って!ちょ、ちょっと待ってそっち行ったら・・・」

 

 ヒムは聞く耳持たずに階段を上がり、今出て来たばかりの89階のドアを開けて中に入る。

防御光膜呪文(フバーハ)っ!!」

 

-どおぉぉぉん-

 

 入った瞬間、ついさっき起こったのと同じ爆発が響き渡る。間一髪フバーハが間に合った

きらりんだが、吹き飛ばされるヒムに付き合わされてすっ転がっていく。

「なんだ・・・?さっきの罠がまだ残ってたのか?」

 

「あなた一体ここまで何を見て来たのーーーっ!!」

 首を振って立ち上がるヒムにきらりんが座り込んだまま絶叫する、この破邪の洞窟の罠は

一度作動した後すみやかに元通りになる性質を持っている、罠の規模によって復元の

タイムラグはあるが、そのくらいここまで降りて来たなら知っていて然るべきなんだが。

 

「あー悪い悪い、”荷物”あるの忘れてたわ。」

 むかっ!と顔を膨らますきらりんだが、ヒムは気にするそぶりも見せずにおどけて笑う。

「なら、少し離れて付いて来な、おチビちゃん。」

ぴくぴく、とこめかみを痙攣させるきらりんをよそに、早速先に歩いて行って、案の定また

別の罠にかかるヒム。

 左右の壁から噴き出された氷のブレスに氷漬けになり、それをふん!と気合一閃で

砕け飛ばす、罠が罠になっていないとはいえ、なんでわざわざまた引っかかるかなぁ。

 

 降って来たタライを、くわん!と頭に受け、ぐるぐる回る通路を完全破壊して瓦礫の上を進み、

わき道から転がってくる鉄球を粉砕した時点でついにきらりんがキレた。

「なんでわざわざいちいち罠にかかるんですかぁ!少し気をつけて見ればわかるでしょお!」

「・・・さっぱりわからん。」

 ヒムの返事に絶句するきらりん。いや、今明らかに色の違うタイル踏んだよね、ヒザの高さに

張っているピアノ線引っ掛けたよね、「押すな」って書いてあるボタン躊躇わずに押したわよね!

 

「いい?この像はみんな左手に水晶持ってるでしょ?」

 石像群の罠の前で、罠を解除する手順を説明にかかるきらりん。このままこの人のペースで

進んだら巻き添えを食うのは必至だ、なんとか安全に進まないと身が持たない。

「で、最後にこの緑の石を左端の像に持たせると、ほら。」

壁に書いてある暗号文の解読手順の通りに石を移動させると、5体の石像が跪いて二人に道を譲る。

 

「ふーん、この石が、ねぇ。」

「だから何で石を取るのよーーーーっ!!籠手化(アームド)っ!」

 一斉に襲いかかる石像群から辛うじて紫龍の爪で身を守る。当のヒムは石像の剣を頭に

打ち付けられるも平然としており、逆に剣の方が折れる始末。まぁ石の剣ではオリハルコンの

ヒムの体に通用するはずも無いのだが。

 

「めんどくせぇから、やっぱ全部壊していこうぜ。」

「却下、却下、きゃっかーーーっ!!」

 

 とまぁこんな調子で地上を目指して進む二人組。ちなみにこの破邪の洞窟、各階の入り口から

出口までのルートは必ずしも一つではない。ヒムはどうせならと来た時に通らなかった

道を選ぶものだから余計に厄介だ。

 

 先走るヒムが盛大に罠にかかり、マジで危険な場所はきらりんが必死で先手を打って解除し、

目の前の大量のザコ敵に夢中になっているヒムの隙を付いてきらりんの背後に現れた

エリミネーターをメラ100連発で黒コゲにしては「俺に残しとけよ!」と無茶振りをする。

そんなこんなを繰り返してたった今、地下42階をパンチ一撃で壊滅に追い込んだところなのだ。

 

 もうきらりんは半ば諦めていた、とにかくフバーハや反射呪文(マホカンタ)で自分の身を守る事に

専念していた。この破邪の洞窟は冒険者の知と呪を鍛える場所なのに、単純な腕力だけで

攻略するなんて勿体ないと思わないのだろうか、などと思いながら。

 

 地下41階。そこでも左右に分かれた道の、通っていない方をずんずん進むヒム。後に続く

きらりんはふと思い出す。

「あれ・・・確かここ・・・」

 と、いきなり白い部屋に入る、というか転移される感じの二人。ヒムは何だ?と辺りを

見回すが、どこにも出口らしきものが無い。

「あ、やっぱりここかー。」

 そう呟いたきらりんが、部屋の端にある絵筆と絵の具セットを取り出す。

「ここ、芸術(アート)の部屋。一緒に入ったモンスターをこの”魔法の筆”できれいに装飾したら

出られる仕掛けなの。

「ンだそりゃぁ・・・付き合ってられねぇよ、先行くぜ!」

 

 すたすたと歩き壁に向かうヒム、ぶん殴れば壊せるだろうと思っていたが、その前に突如

かき消えて、部屋の反対側から出てくる。

「ありゃ?何がどうなって・・・?」

「この部屋”閉じてる”空間だから力づくじゃ出られないよー、残念でしたー。」

にひひ、と笑うきらりん。筆を手にして「観念しなさい」とヒムに迫る。

 

「じょ、冗談じゃねぇ!もう体に落書きされるのはゴメンだっての!」

 かつてチウに隊員番号”12”番を、やはり魔法の筆で書かれた彼にとって、自慢の

オリハルコンの体にそれ以上何も書かれたくはない。

「じゃあ、貴方が私に描く?言っておくけど一発勝負よ、この部屋が出来映えを認めなければ

私たち一生この部屋の中なんだから。」

 ぐ・・・と呻くヒム。さすがにそれは困る、しばし変顔で悩んだ後、観念してどっかり

腰を下ろす。

戦闘の駒として生み出された自分に芸術性など備わっているわけがない、観念するしか

なさそうだ。

 

「ちなみにオメーが来た時は何描いたんだ?」

「スライムいたから、レインボースライムにしたげたよ、あれは傑作だった、うん♪」

上機嫌でヒムの顔にメイクを施していくきらりん、これはここまでの借りを返すチャンス!

「ほら、目を閉じて!貴方の事だから眼球に入っても気にならないでしょうけど、

そうなったら魔法の薬でも落とすの大変よ。」

 

 しばしヒムの顔にメイクを施した後、よし完成、とご満悦の笑顔を見せるきらりん。

と、白い部屋の景色がすぅっ、と解け、元のダンジョンに戻る。

「ほう・・・大したもんだ。」

「へっへーん!でしょ。」

鼻息を付きながら小さな胸を張る。ヒムの顔を見て、うん、これも傑作、と上機嫌になる。

 

 

 その後は一気だった、元々上に行く程難易度の下がる洞窟だけに、ほぼ駆け足で脱出に

成功する両者。

 

 と、きらりんは紫龍の杖を掲げ、楽しみにしていた呪文を唱える。

翼化(ウィングス)!」

 杖の竜の翼がきらりんの背中に付き、その羽ばたきと魔法力で一気に空高く舞い上がる。

飛翔呪文(トベルーラ)と翼の羽ばたきを併用したその飛行力は抜群で、まさに思うがままに

空中散歩が出来る。

「お、おい!待てよ、城に行ってお前を・・・そういやお前の親のパーティがまだ・・・」

「もうとっくに脱出してるわよー、おつかれさまー。」

叫ぶヒムにきらりんはアッカンベーをしながら返すと、そのまま雲の上まで飛んで

行ってしまった。

 

「ったく・・・これだからガキは。ま、いいか。脱出したのなら俺の役目も終わりだし、

報告が済んだらまた洞窟に挑戦させてもらうか。」

 そう言って踵を返し、カールの城に向かうヒム。どうやら編成している捜索隊は解散で

良さそうだな、と。

 

 

 城の門の前、今まさにフローラ王女とアバン宰相に激励され、捜索隊が出立をする時だった。

「おう、帰ったぜアバン。もう捜索の必要は無ねよ。」

「え?それは・・・どういう・・・」

 そこまで返したアバンが目を丸くしてヒムを見つめた後、思わず「ぷっ!」と吹き出す。

 

「ぎゃははははははっ!なんですかその顔はあぁぁ。」

 アバンと同時に、捜索隊の面々も腹を抱えて笑い出す。フローラ王女に至っては腹を抱えて

苦しそうにうずくまる、どうやらツボに入ったらしい。

 

 な、何だ?と顔をぺしぺし叩くヒム。アバンが大笑いしながらヒムに手鏡を渡す。

それで己の顔を映したヒムが最大に噴き出した!

 

「ぶうぅぅぅぅっ!!!」

 

 鏡に映っていたのは、目元に紫のアイシャドーを施し、長くまつ毛を書かれた色気ある

目元と、頬に巻いているピンクのうずまき。そして何より口元に真っ赤な色で、必要以上に

大きく描かれたクチビルのインパクト!

 いわゆる”おかめ顔”。演劇などでいかにも「男性が不美人に扮していまーす」なメイクに

ヒムはアゴを外さんばかりに大きく開けて、鼻水を垂らしながら己の狂態に固まる。

ハドラー様から受け継いだ華麗な銀髪がまるで泣いているようにしわだれる。

 

 爆笑をバックサウンドに、ヒムの咆哮がカール城に響き渡る。

 

「あンの小娘――――っ!覚えてやがれえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 




・・・争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない。
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