「何だって?きらりんもでろりん達も、もう洞窟から出た?」
カール城、牢屋の格子を挟んでアバンに報告を受けたリヴィアスが驚きの声を出す。
「いやぁ申し訳ない、斥候がきらりんちゃんと出会ってはいたのですが、事情を
話してなくて・・・飛んでっちゃいました。」
話を聞いてはぁ、と溜め息をつく。地上に来てもう7日、今だ他の誰とも合流できていない
状況とは、さすがに予想外だ。
が、それでも下手に出歩くわけにはいかない。カール内ならまだ何とかなるかもしれんが、
他国では既にお尋ね者のリヴィアスでは探しに行く事すら困難だ。牢とはいえ匿って
もらっている手前、他国にアバン達から話を通してもらうのも難しいだろう。
と、リヴィアスは先日気付いた方法を思い出し、アバンにこう打診した。
「そういえば先日アンタと会った時、占い師に俺の居場所を聞いたと言ったな。その方に
御助力をお願いできないか?」
その提案に、おお!と手を打つアバン。
「それは名案ですねぇ、幸い彼女はカールに住んでいますから。どうです?さっそく今からでも。」
願っても無い、と腰を上げるリヴィアス。アバンは傍らにいたエルキンスに指示し、牢番に
カギを空けさせると、壁際の机においてあった
手渡した。
「いいのか?帯刀しても。」
「今更あなたを疑ったりしませんよ、ねぇ隊長?」
にかっとした笑顔で聞くアバンに、同じく笑顔で頷くエルキンス。
「もしこれで君が裏切ったら、もう誰も魔界の連中を信じなくなるまでさ。君がそんな愚行を
するとも思えないしね。」
その言葉に、そりゃそうだ、と笑みをこぼす。しかしこのカール王国、いや、アバンの周りの
人間は揃いも揃って気持ちのいい人間ばかりだな、大した人徳だ。
城を出て、門の前で地団駄踏んでいる金属人間の変な顔に爆笑した後、彼らは飛ぶ。
かつての大戦十傑の中でも勇者ダイと並び立つ存在、大魔導士ポップの住む家に。
「
「さて、と。まずはお母さんたちと合流しなきゃ。」
カール上空、紫龍の杖の翼による飛行を堪能したきらりんが、ようやく目的のために動くべく
呪文を唱える。
「
母の居場所を察知し、そこに飛ぶきらりんは、その覚えのない方角に進む自分に違和感を覚える。
考える間もなく周囲は白い景色に包まれ、身を切る寒さが肌を襲う。
-ドオォ・・・ン-
ほどなくきらりんが着地したのは北国オーザムの一角、滅亡して復興の気配のない国の隅に
ひとつの
「あ!いたいた、みんなーお待たせ。」
中を覗き込んだきらりんが、父と母、それに顔馴染みの2人を見つける。彼らは火を囲んで
鍋物をつついている最中だった。
「きらりん!待ってたぞ。いやぁ助かった~」
「ほら、寒いでしょ?こっち来てお鍋食べなさい。」
「たいしたモン入ってないけどな~。」
うん、ありがと。と父と母の間に入り、汁をすくって口に入れる。薄味のタラ鍋だが、それが
尚更身に染みる。
「おいし~、今まで洞窟の
はふぅ、と一息ついて緩んだ顔を見せるきらりん。こういう時には彼女は年齢相応の少女になる。
いま彼女を見た人物に、魔王だと言っても信じる者はまずいないだろう。
「で、みんななんでこんな所にいるの?」
鍋を平らげた後きらりんが問う。てっきり家にいるものと思っていたのに、なんでこんな
辺鄙な所にいるんだか。
「あー、アレじゃよ。」
そう言って外を指差すまぞっほ。指先に視線を送ると、そこにあったのは天高くそびえる塔。
滅んだ国の外れのハズなのに、その整然とした建物はどこか違和感を感じさせる。
「アレが
「あ・・・アレがそうなの?みんなが頑張って凍らせたっていう、黒の
思えば彼らの物語はこの場所から動き出したと言っていいだろう。それまでは勇者の一行の
フリをして世界各所を転々としていた面々は、この地に非難してきてから運命の上昇気流に
乗ることが出来た。
寒さと孤立感に耐える毎日の中、やがてでろりんとずるぼんは二人きりの時に肌を合わせる
ようになる。残りの二人も気を効かせ、なるべくカップル二人が一緒にいられるように自らは
外の雑用、漁や燃料集めに精を出した。もっとも出先でまぞっほの水晶玉で二人の逢瀬を
覗いていたりもしたのだが・・・
そんなある日、空から
ここも安全ではないことを思い知った彼らだが、それでもこの地を離れることはしなかった。
主にパーティの方針を決定していたずるぼんのその主張が、彼女のお腹の中にすでに小さな命が
宿っていた事から来ることを、パーティの皆も、ずるぼん本人も知らなかった。
そして数日後、運命の日が来た。
”神の涙”ゴメちゃんの世界規模のテレパシーにより、彼らは世界を救う鍵を握るパーティと
なった事を知った。自分たちが出来る、自分たちにしか出来ない、一世一代の舞台に上がった
彼らは、先輩魔導士マトリフのケツ叩きもあって見事大願を成就してみせたのだ。
皮肉にも、その活躍のせいで彼らは一時英雄扱いされ、生まれて来たきらりんはそれを
疑いなく信じてしまった。そのせいでやがて両親の真実に気づき、イジけて家出をした挙句
魔界に辿り着き、魔王となってしまった。
数奇な運命といえばそれまでだろう。だが、その流れはそこで止まらないのだ。
「ねぇ、塔に行ってみていい?」
興味をひかれたか、きらりんはかつての大魔王の使った兵器を見に行く事にする。残り4人も
同意して同行する。きらりんが来たならもうここを離れる事になるだろう、自分たちの思い出の
地を、もう一度見ておくのも悪くないだろう。
ルーラで塔の上のスペースに到着し、その柱や手すりを手で触って調べるきらりん。
「うわ・・・何この材質。魔力をすっごい吸い込んでいく。」
かつての
司令一つで落下させることが出来る、まさに魔力で
「これ・・・私でも動かせそう。ちょっと大変だけど。」
「え・・・マジで?」
「スゴイのう・・・まぁ持って帰ってもカネにゃならんだろうけどな。」
驚くへろへろに、まぞっほが欲なことを言って皆に小突かれる。
「大きな、高い高い柱・・・動かせるのなら、あるいは、転移も・・・」
柱を撫でながら、きらりんは思考を加速させる。かつて破邪の洞窟で得た知と呪文、そして
あの金属男のような力づくの強引な手法を見たことが、彼女の持つ使命とこの柱を結びつていく。
「ねぇ、この柱って世界に6本あるんだよね。」
「ああ、なんでも六星魔法陣を作るために世界に落としたらしいが・・・どした?難しい顔して。」
その返事には答えす、俯いて考え込むきらりん。やがて顔を上げ、皆に向き直って
言葉を発する。
「ねぇ・・・」
運命に導かれるように生まれ、魔界に降り、魔王になって、両親を追いかけてこの地に来た
きらりん。そんな彼女の次の一言が、その運命の歯車をさらに紡いでいく。
-この柱を魔界に
一級建築士きらりん。