「そらぁ、また・・・ぶっ飛んだ話じゃねぇか。」
パプニカの海沿いにある洞窟の隠れ家にて、弟弟子のまぞっほが連れて来た顔馴染の連中と、
その娘に相談を受けた大魔導士マトリフは、仏頂面でそう返した。
まぁそれも無理なき事。幼い時から魔法の手解きをしてやった幼子が魔界に行って魔王になり、
天界が地上を落っことして魔界を潰そうとしてるんで、バーンの落とした柱で支えて
止められませんか?って聞かれてもなぁ、どう答えたもんだか。
「マトリフおじいさんでも分かりませんか?」
「出来る出来ねぇの問題じゃねぇんだよ、きらちゃん。」
マトリフは恐らく地上で1,2を争う知恵者だ、その彼ならきらりんが考えたアイデアが
実現可能かどうかを判断してもらえると思ってやって来たのだが・・・返ってきたのは
歯切れの悪い答えだった。
「・・・まぁ、不可能とは言わねぇがな。」
そう言って部屋の隅にある
「こいつが地上とするだろ、これで下の漬物・・・いわば魔界を圧し潰すわけだが、そこに
一点でもクサビを打ち込めば・・・ほれ、もう閉まらねぇだろ。」
フタの際につまようじを差し込んでフタを閉じようとするも、元々
作られているフタはそれだけで閉まらなくなる。
「もちろん、魔界がこんな単純な構造とは思わねぇ。魔界の地図でもありゃ少しは参考になるが
それでも落ちてくる地上の重心のポイントに打ち込まなきゃ、天井の方が崩落するだけだろう。」
理論的な問題だけでも山積みだと説明を続ける。魔界の天の大地までは平均で1000m程だが、
バーンの柱は200mほどしかない、まともに平地で支えるならそうとう落ちるまで引き付ける
必要がある。
「そもそもどうやってあんなデカいもんを魔界に持っていくよ、魔界から地上に来るまですら
一苦労だったっていうじゃねぇか。」
しかもただ持っていくだけでは駄目だ、魔界での移動を考えたら、より効果的な位置に転送
させなければいけない、しかもそれを6本である、想像しただけで困難なのは明白だ。
「問題はまだまだあるぜ、魔界の為に柱貰いますっつって、地上の人間が納得すると思うか?」
その言葉にうっ、とうめく一同。そう、柱を転送するとなると、当然人間の協力も必要だ、
少なくとも柱を持っていくまで彼らに黙認して貰うのは最低限の条件になる。
バーンの脅威冷めやらぬ地上の人間達が、アレをまた魔界に持って帰られて、再び黒の核晶を
のっけて送り返される可能性を危惧するのは当然の事だろう。
「まぁ、現実的に考えて不可能だ、諦めな。」
そう言ってベッドに腰を下ろすマトリフ。すでに108歳の彼が溜め込んだ知識をもってしても
むべなくそう結論づけられる、一同う~ん、と沈黙する。
「でも、可能性があるなら私はやります!」
だがきらりんは引き下がらない。かりそめにも彼女は魔王、魔界が滅びるのを指をくわえて
見ているわけにはいかないのだ。
その瞬間だった。腰かけたと思ったマトリフが跳ね上がるように立ち、きらりんの襟首を
ぐいっ!と掴み上げたのは。
「いい加減にしねぇか!お前さんみたいな小娘が魔王だぁ?そんな事はもう少しケツがデカく
なってからほざきやがれ!!」
突然の剣幕にきらりん含む全員が目を丸くする。でろりんとずるぼんは娘の危機に思わず
前に出ようとするが、その肩をまぞっほが掴んで止める、今少し待て、と。
「大体なぁ、俺にとっちゃ魔界の連中なんざ知ったこっちゃねぇ!大事なのは地上の
気のいい俺の
この爺ぃの望みなんだ!それを・・・天界を敵に回せだと?冗談じゃねぇぞ!!」
きらりんの首根っこを絞り上げて怒鳴りつけるマトリフ。それも無理なき事、自分ももう
老い先短いが、あの大戦で生き残ったかけがえのない仲間たちはまだまだ若い、彼らの人生は
これからが華なのだ。
「そんな平和を、お前みたいな小娘が壊していいと思ってるのか?ええ、言ってみろ
魔王さんよ!!」
108歳が8歳の胸倉をつかんで怒鳴りつける。かつて弟弟子のパーティにいたカップルの
一粒種は、奇跡ともいえる魔法の才能を持っていた。その才能を開花させたマトリフにとって
魔力を間違った事に使わせるのは断固阻止する義務がある、語気を荒げるのも当然のことだ。
が、きらりんは掴まれているマトリフの手を取って、毅然としてこう返す。
「おじいさん、今言ったよ。私が諦めるわけにはいかない理由を。」
何ィ?という表情で手の力を緩め、すとっ、ときらりんを地上に降ろすマトリフ。
「私、魔界に知り合いがいっぱいいるの。私を認めてくれた人、手を貸してくれる人、
お父さんに義手をくれた人、お母さんの顔を直してくれた人。みんな大事な、私の”友達”。」
ひと呼吸置いてさらに続ける、自分の目的の根っこの部分を。
「だから彼らを助けたい、死なせたくない、諦めたくないの!」
きらりんの後ろででろりん達が顔を見合わせ、ふふっ、と笑い合う。鬼より怖い大魔導士に
毅然と正論を返す愛娘の、その逞しさに。
「・・・く、くくくっ、ダチを助ける、か。こんな小娘に言い負かされるたぁな。」
顔を伏せ、そう嘆いたかと思えば、次の瞬間にはにかっ!とした笑顔できらりんに向ける。
「面白ぇ、こうなりゃ俺にも一枚噛ませろや!ちょうどヒマしてたしな!」
その豹変ぶりにきらりんは呆れ汗を流し、でろりん、ずるぼん、へろへろの3人ががくっ!と
体を傾ける。
「兄者、最初っからそのつもりだったんじゃろ?」
ヒゲをいじりながらニヤニヤした顔で問うまぞっほに、マトリフもおうよ!と返す。
「そもそも天啓が来たつってたけどよ、この俺様に寄こさねぇなんて胡散臭いにも程があらぁ、
お行儀のいい天界なんぞより、魔界につく方が楽しめそうだしな。」
馬鹿笑いするマトリフに、でろりん達は揃って呆れ顔で「このヒトは・・・」と感想を述べる。
問題はまだまだ山積み。でも、この地上で有数の頭脳を味方に引き入れる事に成功した。
わずかだが、確実に一歩前進、さぁ、どんどん行こう!
「ふーん、そいつが例の魔王の手下、ねぇ。」
カール王国の都市の外れ、アバン達と共にやって来たリヴィアスを斜に眺めて感想を
述べたのは、かつての大戦十傑の1人、大魔導士ポップだ。後ろには妻のメルルが初めまして、と
涼し気に挨拶をする。反応してお辞儀を返すリヴィアス。
「アンタ、竜の騎士や神の涙を狙ってるんだってな!言っておくがダイやゴメに手を出すなら
一切協力は出来ないぜ。」
魔法の杖をリヴィアスに突きつけてそう吠えるポップ。彼もまた天啓を聞いており、その
容認しかねる目的を持つ相手なら認識はひとつ、”敵”だ。
リヴィアスはアバンに”宿題”を与えられていた。メルルに占ってほしいなら、まず夫の
ポップを説得しなければいけません。私は助力しませんからそれは御自分で、と。
敵意剥き出しのポップに、リヴィアスは話を切り出す。
「なぁ、アンタは自分の大事な人が、目の前で殺された経験はあるか?」
その問いに、いきなり物騒だなと述べた後、こう続けるポップ。
「その寸前まで行った事はあったよ。親父も母さんも、世界中の人がみんな殺される、な。」
かつてのバーンとの最終決戦。バーンパレスにいる自分たち以外の全人類が死に瀕した時、
その絶望から救ってくれたのが愛妻のメルルであり、神の涙ゴメであり、竜の騎士ダイなのだ。
そのダイやゴメを滅するためにメルルの占いを使わせるなど、到底承知できるわけが無い。
「俺は、俺達はあるんだよ。竜の騎士と神の涙に、大事な人をな。」
リヴィアスは語る、己とナタルコンに起こった悲劇を。主の命運を託した剣にその主を
目の前で殺された懐刀の無念を。短絡的な怒りを爆発させ、国の仲間をほぼ全て殺され、
年端も行かぬ妹が背中で絶命した己の地獄を。
「親の罪を子に問おうとは思わぬ。だが、俺もナタルコンもどこかでけじめを付けたいとは
思っている。勇者ダイを殺す気も憎む気もないが、それでも戦って勝ちたいとは思っているよ。」
「ダイは・・・強ぇぞ。」
横目で見ながらそう返すポップ。思いもしなかった魔王の手下のその重い運命に、先程までの
敵意を持続することは出来なかった。
「望むところだ・・・だが今、優先すべきはそこではない。俺の大事な仲間がどこにいるか、彼らと
合流して魔界を救う方法を探るのが第一だ。どうか力を貸してほしい。」
年下のポップとメルルに深々と頭を下げるリヴィアス。ポップはメルルにアイコンタクト
して頷き合うと、息の合った返事を返す。
「ひとつ貸しな、」
「ひとつ貸しですね。」
仲睦まじい夫婦に思わず笑顔がこぼれる一同。そう、これがひとつの幸せの形。この光景が
いつか魔界でも見られることを願って、自分は戦っているのだ、とリヴィアスは思う。
メルルが占術でリヴィアスの仲間の位置と、その現状を探りにかかる。傍らのアバンは
余裕の表情で、際のポップは自慢の妻に得意気に鼻息を鳴らす。
だが、やがて眼を見開いたメルルは、青い顔でこう告げる。
「大変です、貴方の仲間の方・・・ひとり、重大な命の危機に瀕しています!」
さぁ誰だ?(鼻ホジ