魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第6話 竜退治(ドラゴンクエスト)

 -ホーイ、ホホーイ、ウッホッホーッ-

 

 魔界の森の中、無数の”あばれザル”の咆哮が周囲にこだまする。獲物を囲み、襲い掛かる

前段階の彼らの習性。

『来るぞ、ぬかるなよ小僧!』

「オグマだ!」

 猿のモンスターたちが今まさに襲おうとしている獲物、人熊(ウォーベア)オグマは手にした短剣に

そう毒づきながらも呼吸を整え、心を腹の下に落として自然体で身構える。

 

 ホウォアアーーーッ!

 

 斜め後方にいたあばれザルが跳躍してオグマに襲いかかる。が、オグマは慌てることなく、

静かに、そして正確に短剣ナタルコンを一振りする。

 剣から飛び出した真空呪文(バギ)は衝撃波となって猿に直撃、暗黒闘気を纏ったカマイタチに

袈裟斬りに両断され、果てる。

 

 -ウホッ、ホヒャアァァァーーー!-

 

 仲間を切り捨てられたあばれザル達が警戒と敵意の声を上げる、今の一合で相手の手強さを

知った猿どもが一度包囲の輪を広げ、再度詰め寄って・・・

 

 -ウッホアァァッ-

 

 正面に居た4匹が襲い来る。1匹が正面から、2匹が左右から、もう一匹が上からオグマ目指して

その剛腕を打ち付けようとする。

 が、オグマはすかさず一歩下がると、真後ろに向けて静かに短剣をひと薙ぎさせる。そこから

発した衝撃波は、すぐ目の前の藪を切り裂き、潜んでいた猿を両断する。

 

 猿どもの目論見、正面から圧をかけて相手を後退させ、後ろに潜む仲間がこれを仕留める

その作戦はあえなく見破られ、潜んでいた上位種”キラーエイプ”を失う。

『そうだ小僧、猿どもはこういった連携をよく使う、教えたことを忘れるなよ。』

 

 ナタルコンに言われるまでも無い。父の教えである「相手をよく知れ」を実践する

オグマにとって、今、命のやり取りをしている猿たちが何をしてくるか、それには常に

神経を尖らせている。

例え知能の無いモンスターとはいえ油断する必要などどこにも無い。常に己の全神経を集中させ

丁寧に、そして静かに剣を振るう。

 

 今、戦っている相手に己の全てを注ぐ、それが戦いと言うものなのだから。

 

 数刻の後、あばれザルの群れはほぼ壊滅状態にあった。静かに剣を振るうその小さな

人熊を侮り、その小さい剣を甘く見た代償は大きかった。

 全ての猿が逃げ腰になっていたその時、その背後から一際体の大きいモンスターが

ずいっ、と現れる。

 白い体毛に青紫の顔と耳、そして翼を持った大猿、こいつが群のリーダーか!

 

「シルバーデビル!」

 オグマはこいつを知っていた、父から聞いていた銀毛のモンスター。

強力な呪文とパワーを併せ持つ危険な相手だ。

 

『よし、コイツはお前が戦ってみろ、小僧!』

「おう!あとオグマだ!」

 

 そう言って猿の前に出たオグマは、短剣を腰の鞘に納める。剣から発せられていた暗黒闘気が

その鞘の中にしゅるっ、と収まる。

 その瞬間、シルバーデビルはその顔をにやぁっ!と歪める。剣を収め、暗黒闘気が

消え去ったなら、あとはただの人熊の小僧が残るのみだ、と言わんばかりに。

 が、そんな猿の目論見は、次の瞬間に消え去ることになる。

 

「グルゥアアァァァァッ!!」

 

 オグマが雄叫びと共に気合を入れると、その全身からまばゆい光が吹き上がる。

その光の闘気に気圧されるかのように、シルバーデビルは飛び掛かるのを中断し、代わりに呪文を

唱え始める。

 

 光を纏ったオグマが突進したのと、銀の猿が口から閃熱呪文(ベギラマ)を放ったのはまさに同時だった。

呪文が直撃し、炎の華を咲かせる光景に、勝利を確信したシルバーデビルは顔を綻ばせ・・・

 その炎を突き抜けて来た光る人熊を見て、表情を絶望に変える。

 

「オォォーーーラスタンプうぅぅっ!!」

 光の闘気を纏った強烈な張り手がシルバーデビルを吹き飛ばし、頭から、背中から、尻から、

何度もバウンドしながら転がっていき、やがて岩に激突して止まる。

 

 リーダーの敗北を知ったあばれザル達は、一目散に逃げ去って行った。

 

『ふ、まぁそれだけやれるなら小僧は取ってやっても良かろう。』

ナタルコンの鞘の中からの声に、ぐっ!と親指を立てて返すオグマ。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 精霊の襲撃から一週間、オグマは連日ナタルコンに戦いの指導をしてもらっていた。

体捌き、精神集中、短剣の使い方、気配の読み方、敵の知識。

 

 中でも特殊だったのがその闘気の使い方だ。何しろオグマは光の闘気を使い、短剣ナタルコンは

暗黒闘気を核とする刃、お互いが力を全開にして戦えばその闘気は相殺されてしまう。

 

『我を使う時は極力闘気を押さえろ。さすれば我が暗黒闘気は十全に力を発揮し、なおかつ

抑え込んでいる小僧の光の闘気をより増大させる効果もある。』

 

 暗黒闘気と光の闘気は表裏一体、同時に使えば相殺するのみだが、一方を抑え、もう一方を

全開にすれば、抑えられている方はその逆境を糧にしてさらに強く増幅される。そこで抑えていた方を

全開にし、開放していた力を抑え込めば、一方の強くなった力で抑え込まれた力がまた強くなる。

 

 このようにオグマとナタルコン、お互いが1ターンごとに攻撃を入れ替えることでどんどん

一撃の力を上げる事が可能になるのだ。

 

 ただリスクももちろんある。ナタルコンの力を使う時、オグマは闘気を封印した無防備な状態で

戦わなければならない。防御力はもちろん運動能力や膂力も大幅に抑えなければならないからだ。

 逆にオグマが光の闘気を使う時、ナタルコンはその暗黒闘気を小さく封じねばならず、その時は

まるで紙のナイフのように脆くなる。

 

 そのためオグマは力を使わず、まるで舞うように静かに短剣をを振るい、真空呪文を飛ばす

技術を習得させられる。ナタルコンもまた収められていた銀のミミックの宝玉を利用した鞘を

作ってもらい、自分のターンでない時はその中に避難するようにした。

 

 それらの修行が形になった時、ナタルコンは実戦を積ませようと、こう提案する。

『小僧、このあたりで強力な力を持つモンスターを知らぬか?』

 オグマはうーん、と頭をひねって考える。集落を一歩出たら野生のモンスターはいくらでも

居るのだが、特別に強力な個体となると・・・

 

「そういえば前に父が、東の山でドラゴンを見た、とか言ってたな。」

『よし、そいつを倒しに行くぞ。』

 

 竜退治(ドラゴンクエスト)。それは極めて危険な行為ではあった。野良のドラゴンは

成体に成ると山や森の中心にナワバリを構える。本来そこにいた強力なモンスターはその周囲に

追いやられ、それがドラゴン周辺の危険度を一層高めるのだ。

 

 だがドラゴンにはその危険に見合うだけの価値があった。その血肉は食した者の生命力を高め、

そのウロコは強力な盾やヨロイの原料となり、骨や角は強力な武器や道具の材料として重宝する。

まさに極上の獲物と言える価値があるのだ。無論こちらが獲物になる時も往々にしてあるのだが。

 

 以前一度だけ父が仲間と共にドラゴンを狩ってきた時があった、集落に余りある獲物の凱旋に

父に対する尊敬を一層深めた思い出がある。

 そんな父の姿を思い出し、オグマは返事を返す。たとえ分不相応な挑戦であっても。

 

「おう、行こう!」

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 数々のモンスターを薙ぎ倒し、山の中腹近くまで登ってきた時に出会ったあばれザルの

群れを今蹴散らして、山頂まであと少しの所まで来ていた。いよいよだ!

 

 と、登山を続ける彼らの目に、耳に、その巨大な姿が、咆哮が、その存在を刻みつける。

 

 -ギュルワアァァァァァッ-

 

 見事に成長した、全長15mほどのドラゴン。緑色に輝くウロコを煌めかせ、山頂から羽ばたいて

飛び上がり、下にいる者を威嚇する。

 

 オグマ達とは違う”真下”にいる”何か”を。

 

 

「何だ・・・アイツは!」

 

 ドラゴンの下にいたのは、その竜に負けぬほどの巨体を持った、黒いイモリのような

生物だった。

 全身をヌメヌメした粘膜に包み、丸く大きい頭と四つん這いのその姿は、オオサンショウウオが

最も近いだろうか。

 

 -ギュギャアァァァァッ-

 

 ドラゴンは威嚇を止めない。が、その黒いイモリはお構いなしに体を立てて、その短い手で

ドラゴンに取り付こうとする、二つにわれた舌をチロチロと伸ばしながら。

 

『伏せろ!』

 ナタルコンがそう言い放ったのと同時、ドラゴンは真下に強烈な炎のブレスを吹く、瞬時に

火だるまになる黒イモリ。

 

「これが・・・ドラゴンのブレス!」

 オグマは伏せながら、その威力の高さに驚いていた。火炎呪文なら集落にも使い手はいたが

最大のメラゾーマでもここまでの威力は無かった。

 

ジュウゥゥゥゥ・・・

 

『なんだと!?』

 火だるまになったかと思ったイモリだが、その火炎はあっというまに鎮火していた。

表面のあのヌメヌメした体に、炎を消す水の効果があるのかもしれない。

 

 ドラゴンもまたそのブレスで勝利を確信していたのだろう、ふっ、と羽ばたきを止め

山頂に降りようとしたその油断が仇となった。

 飛び上がったイモリが、今だ宙にいるドラゴンの片足をばくっ、と咥えたのだ。

そのまま体重を利してドラゴンを地面に叩きつけ、ねじ伏せる巨大イモリ。

 

 地上での取っ組み合いでドラゴンは成す術が無かった。爪や牙はその粘膜の体に刺さらず、

ぬるりと弾かれる。ブレスを何度吐いてもその体を焼く事は叶わず、イモリの指先に付いた

吸盤で四肢を抑え込まれ、暴れる事すらままならない。

 イモリはその平べったい口で竜の体をはみ、ウロコをブチブチッ!と引き抜く。ドラゴンを

抑え込みながら体のあちこちに噛みつき、ヨロイともいえるウロコを引きはがしていく。

 

「ドラゴンが・・・負ける?」

『何だアイツは・・・我の長い歴史でもお目にかかったことは無いぞ!』

 

 ドラゴンの咆哮が悲鳴に代わる時、その体を抑え込んだイモリは大きな口を開け、ドラゴンの

尻尾を咥え、じゅるっ!と飲み込み始めた。そのまま尻尾の付け根から尻と後ろ脚までその大きな

口の中に収めていく巨大な黒イモリ。

 

「丸飲み・・・する気か!」

 

 ドラゴンにもはやモンスターの王たる威厳は無い。悲鳴を上げながらひらすら暴れるが、

もはや翼までその口に収まっており、ここから脱出する術はもう見えなかった。

 肩、両前足と飲み込み、ついには首をせり上がっていくイモリの口。

イモリの体自体もドラゴンを丸飲みしたことでほぼ倍に膨れ上がっている、その胃袋の大きさにも

驚くばかりだ。

 

 -キュウゥゥゥ・・・-

 

 最後の悲鳴を上げたドラゴンの首が、ぱっくりとイモリに飲み込まれる。

 

 

 オグマもナタルコンも、その光景を呆然と立ち尽くして見ていた。見たことも無いモンスターが

最強を誇るドラゴンをあっさりと餌食にしてしまったのだから。

 

 そのイモリが、ぐるん!と首を回して、オグマ達を見る。その感情の無い冷たい目で。

 

 

「なっ!」

『バカな!!』

 オグマとナタルコンが驚いたのは、その化け物に見つかったからでは無かった。

たった今飲み込んだドラゴンにより膨れ上がった腹が、瞬時に小さく絞り込まれ、まさに

身軽になったのが見て取れたからだ。

 

 彼らが無防備にその化け物の前に立っていたのは、度が過ぎる食事量にしばらくは

マトモに動けないだろうという算段があったからだ。だが目の前の怪物は腹の中を瞬時に消化し

そして文字通り”吸収”してしまったのだ!

 

 -ギュルワアァァァァァッ-

 

 イモリがドラゴンの咆哮を上げ、ドラゴンの翼を生やし、手の吸盤の上からドラゴンの爪を生やす。

そのイモリはわずかな時間にその身をドラゴンに変える。否、正確にはドラゴンとイモリの

中間ような”合成魔獣(キメラ)”へと変態を遂げた。

 

『相手の強さを取り込んで吸収する魔獣!自然に発生した輩では無いな!』

「どういう・・・ことだ!?」

ナタルコンの言葉にオグマが返す。もしこの化け物と戦うなら、こいつがどういう生き物なのか

知る事が重要だから、それが父の”戦いの心得”なのだから。

 

 

『神か悪魔か、何者かが作り上げた存在だということだ!覚悟を決めろッ!!』

 

 

 

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