魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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ミールの地上編、開始!


第60話 生きる意味

「ここは、一体・・・?」

 廊下をコツコツと歩きながらミールは思わず呟いた。魔界から地上に転送された彼女が

送られたのは何故か湖の中、そしてその底にあった神殿の門らしき魔法玉に触れた途端、

彼女はこの廊下に引きずり込まれるように入らされた。

 

 整然と並ぶ柱、奇麗に整った敷石、意匠を凝らせた天井。それらはこの建物が神殿と呼んで

問題いなさそうな格調高さを物語っていた。

「きらりんちゃんが言っていた・・・ここは私に”縁”のある場所のはず。だとしたら

この先に一体何が・・・?」

 ”転移の円”の欠片を掌に乗せてミールは思う。本来なら早々に上に上がって仲間との

合流を果たすべきなのだろうが、どうしてもこの神殿を無視できなかった。

 

 やがて突き当りの大きなドアの前に立つ。無論すぐには開けず丹念に構造を調べる、

罠の類は無いようで、それならと取っ手を掴んで扉を押し開ける。

 

「・・・っ!?」

 その光景に絶句するミール。そこはドーム状に広がる大きな部屋、それはいい。

中央にイバラをイメージさせる台座があり、その上に1m以上もある球水晶が乗っている、

それもいい。

 問題はその部屋の中に所狭しとうごめく無数の物体だ。無機質な表情に加え、腕も足も無粋な

金属棒で出来ており、その立ち姿は生物とはかけ離れた存在の”機械”だった。

 

殺人兵器(キラーマシーン)!」

 ミールはそれらを知っていた。自宅の秘蔵の書物に記されていた、かつての魔王が地上の

勇者を倒す為に作られた、操縦者が乗り込んで動かす兵器、それが数十体も動いている。

 だがここにいるその機械はどれも無人だった。まるで意思があるように動き、連携し合って

ひとつの”作業”に勤しんでいた。

 

 そんな彼らが群がっている物に目をやり、ミールはさらに驚きの声を上げる。

「ドラゴンの・・・機械!?」

 機械たちがまるでアリのように群がっていたのは、やはり金属でできた巨大な竜だった。

彼らは機械竜をまるで建物を建てる職人のように組み上げて行く。溶接を施し、可動部に

油を差し、部品らしきものを運んでは竜の体内外に組み込んでいく。

 そして向かいのドアの向こうには、やはり大量のキラーマシーンが居並んでいた。

彼らは部品を外され、ある者は半身に、ある者はバラバラにされており、そこから部屋の

キラーマシンが部品取りをし、持ってきて竜の機械に組み込んでいる。

 

『汝は・・・何者だ!?』

 突然、部屋に響く声。威圧感こそ感じないが、どこか絶対的な支配感を思わせる響きの声。

『汝は(ドラゴン)の騎士ダイでは無い。如何にしてこの神殿に入った?』

その声でようやくミールはその出所を知る。部屋の中央に供えられている水晶が空気を震わせて

言葉を発していたのだ。

 

「私は、魔界より来たミールと申します。ここは(ドラゴン)の騎士ゆかりの場所なのですか?」

竜の騎士と言えばミールの仲間であるリヴィアスの仇である存在だ。唐突に突きつけられた

縁のある話題に思わず聞き返す。

『この場所は竜の騎士以外立ち入ることが出来ないハズ・・・竜の力と魔族の魔力を持つもので

なければ・・・』

 その水晶の言葉に、ミールはなるほど、と頷いて答えを返す。

「私は魔族と水竜の合成獣(キメラ)です、入ることが出来たのはそのせいなのでしょう。」

 ミールは自分がここに来た理由が少しづつ分かって来た。ここが自分しか入れない

場所である事、仲間の仇の情報があるこの場所こそが自分の”縁”なのだと。

 

『我は・・・竜の騎士を守護し導く”竜水晶”、この神殿を司る存在。』

「突然侵入したことをお詫びいたします。改めまして、私は魔王きらりんの配下、魔界の町

サルトバーン領主の娘、ミールです。」

 お互いが素性を隠さずに自己紹介する。元々ミールという人物は腹芸の類が嫌いな性格

だった。かつて領主の娘として町の統治に助力していた時も、正直を持って信頼と羨望を

勝ち取っていた経験がそう返事させていた。

 

『そうですか・・・汝があの”天啓”の。』

 その水晶の言葉にミールは首を傾げる。天啓、つまり神のお告げに自分の話題が出ていたと

いう事なのか・・・な?

『少し、我の話をしましょう。』

ミールが問いただす前に竜水晶がそう切り出した、その意思を尊重し水晶の物語に耳を傾ける。

 

『我は、竜の騎士の母、聖母竜(マザードラゴン)の意識の一部。』

 水晶は話す。聖母竜とは竜の騎士を産み落とし、その死の時に竜の紋章の力を受け継ぎ、

また次代の騎士を生む為の母体。世の悪を撃つ神の使徒の母なのだ、と。

 この竜水晶はその聖母竜の残留思念ともいえる存在で、竜の騎士が己の使命に目覚める為に

成人間近の騎士を呼び、その使命を伝える為に存在していた。

 

『なれど・・・もう聖母竜は消失してしまった。先代の騎士バランの死と同時に、現在の騎士

ダイに力を与え、消失した。』

「バランは・・・死んだのですか。」

 息をのむミール。リヴィアスの仇の名がバランだった筈、その仇がもういない事を知ったら

彼はさぞ落胆するだろう、との思いを胸に抱く。

 

『我は・・・ずっと思っていました。我は何者なのかと。』

 今までよりやや感情の入った声で続ける水晶。長き時の中で竜の騎士を導くわずかな時間のみ

存在意義を見出せる存在。それ以外の時はこの神殿で何も行わず、ただ騎士が来るのを待つだけ。

『それこそが我が使命だった。だが・・・その使命が終わった時に思った。我は何者なのだ?と。』

 母体である聖母竜はもう存在しない、導くべき竜の騎士も生まれない。ならば自分は何を

すべきか、何のために消え去りもせず、この神殿に居るのか、と。

 

『ほどなく竜の騎士・ダイが生死に関わる重傷を負ったことを知り、この神殿に転送させた。

復活まで5年の歳月を有したが、無事にダイは復活を果たした。』

 だが、それこそが竜水晶にとっての不幸だった。ダイが去ったその時から、水晶は完全に

無用の存在になってしまったのだ。

 

 -ならば、我が聖母竜(マザードラゴン)になれば良い-

 

 竜水晶はそう思い立ち、自らの依り代を求めた。

 

 この神殿には先々代の騎士が持ち込んだ一台の殺人兵器(キラーマシーン)があった。いつか子孫の

騎士が戦うための練習台に使うために持ち込んだ機械、それを竜水晶は思念波で操れた、

将来の竜の騎士の練習相手として。

 だが悠久の時を待ち続ける間、竜水晶はその機械構造を知り、やがて己でも作ってみようと

キラーマシンの増産を始めた。最初のマシンを操り、奥の隠し部屋に製鉄所や加工所を作り、

鉱石を回収して部品を生成する。2台目を作り出すことに成功すると、あとは芋づる式だった。

 2台目が出来るという事は作業の手も倍に増えるという事、作業は加速を続け、3台が5台になり

10台が100台になるのに時間はかからなかった

 が、それもやがて無駄となる。竜の騎士がもう生まれないとなれば練習台であるこの

機械兵たちは無用の長物でしかなかった。

 

 だが、竜水晶が自らの体を持ちたいと思った時、彼らはそれを作り出す労力と部品取りに

もってこいだった。聖母竜の姿を参考に形を決め、キラーマシンの性能を組み込み、

機械の竜を徐々に作り上げていった。

 

『だが、我は知った。機械の身では竜の騎士を生むことは出来ない。』

自らが聖母竜に成り代われないと知った竜水晶は一度は絶望した。だがその直後に水晶は

思わぬ代替案に辿り着く。

 

 -竜の騎士など生まずとも、我自らが悪を制裁すればよい-

 

 最初のキラーマシンには、誰も知り得ぬ力を持つ武器が搭載されていた。その力を

持ってすれば、なにも竜の騎士に頼らなくとも悪を倒せるはずだ・・・

 

『この”シ”の力を使えば!』

 

 ミールは竜水晶の話をしみじみと聞いていた。そうだ、意志ある者がこんな湖の底で

悠久の時をただ過ごすのはどれほど辛い事か、若き騎士を導くわずかな時間の為に

存在させられたその悲惨な生涯に、悲哀と同情の思いを禁じえなかった。

 

 残り人生をカウントダウンしながら生きる自分と、真逆の孤独を背負った存在。

 

 

『我は・・・何のために生まれて来たかを、その理由を得た、この依り代と共に。』

 その言葉と共に竜水晶は台座からふわりと浮き上がり、そのまま機械竜の方に向かって飛ぶ。

「・・・理由?」

 竜の胸に収まりながら、竜水晶は高揚した口調でこう続けた。

 

『先日、天啓を受けた。魔界から現れる新たな”悪”を討て、と。』

 

 -カカカカカッシャアァァァ・・・ン!-

 機械竜の心臓部に収まった水晶を、無数のあばら骨のような金属が守るように覆い隠す。

同時に竜の眼が赤い光をギュゥゥゥンと放つ。

 

『魔界から来た悪、つまり魔界は悪を生む。ならば我の使命は、生きる意味は・・・』

 ミールは悪寒を感じて思わず後ずさりする。今まで淡々と語っていた竜水晶が、

竜の体を得た瞬間に、ありありと敵意と殺意を向けて来たのだから!

 

『魔界の生きとし生ける者、それらを殲滅する事!!』

 

 ミールは全力で走り出した。この竜は危険だ!私にとっても、仲間にとっても、そして

故郷の魔界全ての人達にとっても!!

 

『まずは貴様だ!!』

 

 来たドアをくぐって廊下に出るミール、なんとかこの神殿を脱出しなければ!幸い外は

湖だ。そこまで行けば私の能力が使える!この竜に対抗することも・・・

 

 ミールが廊下を半分ほど駆け抜けた時、機械竜がドアから顔を出し、ミールに向けて

大きく口を開けて狙いを定める、己の目標の第一歩となる一撃の為に!

 

 

『シ』

 

 

 竜の口から”何か”が吐き出される。神殿の柱も壁も竜の口も何一つ破壊しないその航跡を

背中に感じたミールは、恐怖と絶望に泣いていた。これは・・・ダメだ私は・・・終わる。

 

 一瞬早くミールの手が入り口の魔法玉に触れる。湖の中に転送されるまさにその時、

機械竜の放った『シ』が、『死』が、ミールを飲み込む。

 

 

 そして、ミールは『絶命』した。

 

 




ミールの地上編・・・いきなり終了?
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