勿論普段から読んで下さる方、新規で目を通して頂ける方、いつも感想を頂ける常連さん方、
誤字報告をたびたびして頂ける方々に心から感謝です。
さぁ武術会開催、多くの伏線の回収と新たな展開にご期待ください。
「あぁぁちゅうぅぅっ!窮鼠綱引き撃っ!」
-どむぅっ!-
ヌンチャクを引っかけて体ごと引き付けたチウの膝蹴りがゴメスのどてっ腹にめり込む。
チウはそのままゴメスの肩を駆け上がり、後頭部にトドメの一撃を加えんとする・・・が!
「ふんぬ!」
ゴメスはズタズタヌンチャクが刺さった左手の筋肉を締め、そのままヌンチャクごとチウの
体を正面に引っ張り込むと、その体を両手でガッチリとホールドする。
「どうりゃあっ!!」
そのまま
ゴメス。
-ドガァッ!-
-ばばっ!!-
強烈な激突音もなんのその、弾けるように跳ね起きる両者。
第九回ロモス武術大会決勝戦。幾多の強豪を打ち破って決勝戦までコマを進めたのは、
第一回大会からの常連であり、今大会で初の決勝進出を果たした空手ねずみのチウと
武器、魔法、飛び道具まで使用可能なこの武術会において、完全に素手のゴメスと
体の小ささをカバーするためのヌンチャク1本で戦うチウは、当然のように毎年苦戦を強いられ
続けていた。
だが、彼らは諦めなかった。己を鍛え、相手の心理を読み、いつしか闘気まで身につけた。
チウは準決勝で、天敵ともいえる狩人ヒルトを下し、ゴメスは第二回大会覇者のラーバを
激闘の末破って見せた。悲願であるこの大会の優勝まであとひとつ!
その激闘に満員の観客は大いに沸いた。今大会の為に増築されたコロッセオを埋める観客の
本当のお目当ては、このトーナメント終了後に行われるエキシビションマッチなのだが
その前座とは思えない熱いプライドの激突に、否応なしに魅せられる。
「どうだナタルコン、あの
『お主が言うだけある、見事な武器の扱いよな。』
オグマの問いにナタルコンが驚嘆の声を上げる、あの扱いづらそうなヌンチャクが
大ねずみの技量を格段に引き上げたのは間違いないだろう。武器と使い手の相互上達は
どこか今のオグマとナタルコンの関係を思わせるものがあった。
「バダックの奴も本望だろうな、あれだけ使いこなしてくれれば、な。」
観客席で酒を煽りながら眺めているのはロン・ベルクだ。かつて彼らに頼まれてダイ達
パーティ全員の武器を作ってやっていた時、バダックは隅の方で妙に小さく、そして
扱いに困りそうなヌンチャクをせっせとこしらえていた。
「まぁアンタの武器じゃ荷が勝ち過ぎじゃが、なんかのう、背中を押してやりたくなるんじゃ
アイツは。」
そう言って嬉しそうにズタズタヌンチャクを仕上げたバダックの笑顔をよく覚えている。
あの時はこんなトゲだらけの武器をどうやって使うんだと呆れたものだが、今目の前に
その答えがあるじゃないか、武器と使い手の見事な姿が・・・全く痛快な事だ!
チウが高々とヌンチャクを放り投げ、バックステップしてから
ヌンチャクに突っ込む。回転しながらシッポでヌンチャクの鎖を掴み、縦回転に巻き込んで
切れ味鋭い円盤となってゴメスに突進する。
「
「ふんがあぁぁぁぁっ!!」
肩をいからせて拳を合わせ、全身の筋肉を締めるゴメス。残りの闘気を全開にし、そこから
両手を大きく左右に広げ、まるで竹トンボのように全身を回転させてチウに突っ込む。
「旋風ラリアットぉっ!!」
-じゃりいぃぃん-
空中で交錯する両者。だが激突音は強烈なものでは無く、まるでお互いか絡み付いたような
響きを奏でる。それもそのはず、ゴメスの腕にヌンチャクの鎖が絡みついていたのだ。
「しゃあっ!」
これこそがゴメスの狙いだった。あの斬撃拳は下がっては駄目だ、恐ろしくとも正面から
向かっていく方が刃の隙間を突破できる可能性は高い、腕を斬られることもいとわぬ勇気が
彼に決定的勝機を与えた。
「ぬんっ!」
チウを背後から
チウといえどもKOできるだろう、何度も対戦した好敵手にここで引導を渡す!
もがくチウ、締め上げるゴメス。体を重ねたまま頭から地面に落下する両者。
-ごおぉぉぉ・・・ん!-
地面に頭から刺さっていたのは・・・ゴメスの巨体の方だった。
チウはゴメスの腕にヌンチャクが挟まっていたのを見逃さなかった、それをテコのようにこじ入れ
激突寸前で自らの体を引き抜き、脱出に成功していた。
逆さまに刺さっていたゴメスの体が、ゆっくりと・・・倒れる。
-ずずうぅぅぅん-
『勝者、空手ねずみのチウーーっ!見事初優勝ーー!!』
審判が高らかに優勝者の名を歌い上げる。ゲスト席に陣取っていた獣王遊撃隊のモンスター達が
歓喜を爆発させる。どうだ、見たか、隊長の強さを!
会場からも惜しみない拍手が巻き起こる。怪物とはいえその小さな体で懸命に戦うチウの姿は
多くの者に感動と希望を与えた、さすがかの大戦十傑のひとりだ、やりやがった、おめでとう!
チウはゴメスに手を貸して起こす。チウはこれが決勝戦だったことも、自分が優勝したことも
全く頭の中になかった。あったのは長年の好敵手であるゴメスに勝った歓喜と、相棒のヌンチャクに
対する感謝の念だけだった。
「ほう、チウが勝ったか。あやつも成長したものだ。」
「ええ・・・本当に。」
ブロキーナ老師の言葉にマァムが目頭を押さえて答える、かつての目立ちたがり屋が、今や
大観衆も栄光も見栄も全て無視して、ただ戦う相手に一心を注いでもぎ取った勝利に
熱いものを感じて。
チウ同様、ふたりも”大戦十傑”。この後のエキシビションの対象なのだが、ブロキーナは
持病の”わきのしたかゆかゆ病”が再発したとかで出場を断っていた・・・セキをしながら。
表彰式、ロモス王直々に優勝杯と副賞の”達人の帯”を受け取ったチウは、ようやく優勝した
実感が湧いて来たのか、ぼろぼろと大粒の涙をこぼす。長かった、優勝を夢見て参加し続け
時には予選で負け、場違いだと嘲笑を受ける時さえあった。ヒムやコロコダインに頭を下げ、
何度もボコボコにされながらも諦めずに歩き続けた道の、ひとつの通過点にようやく立つ事が
出来たのだ。
大泣きするチウの隣でゴメスが腕を組んで笑顔で眺める、優勝したんだからシャキッとしろよ、と。
-午後よりいよいよエキシビションマッチ、大戦十傑vs魔界からの使者を行います、
皆様どうぞご期待ください-
表彰式を終えたチウと合流するマァム達。この後は魔界勢との試合があるが、さすがに
満身創痍のチウに試合は無理がある、顔見せの為に出席すれば面目は立つだろう。
観客席に戻る老師に手を振って、コロッセオの外から選手控室に向かう。
が、マァムはチウに目配せすると、会場の外の隅にある小さな石碑に向かう。チウも頷いて
その後に続くと、二人そろって石碑に並び立ち、手を合わせて瞑目する。
「どなたの、お墓なのですか?」
そんなマァム達の後ろから声がかかる。振り向いてみるとそこには、人間にして12~3歳ほどの
少女の姿をした魔族がいた、全身に水竜の鱗を持った、可憐で儚い命の持ち主。
「父を想い、研究に殉じ、最後まで自分の道を貫き通した・・・悲しい人のお墓です。」
柔らかい顔で、声で、そう返すマァム。そう、確かに彼は人間の敵だった。己のエゴの為に
他を犠牲にすることを厭わない外道、だが同時に己の信念の為に、自らをも研究の具にすることを
躊躇わず、その成果を信じて灰となって散っていった、悲しき研究者を悼んだ石碑。
そんな断片的な説明を受け、魔族の彼女、ミールは
自分もまた父の研究のためその身を捧げた、近しい人が研究材料になるのを見届けて来た、
そして魔界の地からは解き放たれたが、その呪いからは逃げられない運命をその身に宿す。
-彼は灰に、私は胎児に-
ミールはマァムと入れ替わりに墓の前に立ち、手を合わせて瞑目する。だが、改めて目を開け、
その碑に書かれている文字、魔族の文字で書かれているその名を見て、全身に衝撃が走る。
それはかつて父が出会い、心の底から才能の差を思い知らされ、挫折と屈辱を刻まれた名前。
-妖魔学士ザムザ、ここに眠る-
おまけ:ロモス武術大会歴代優勝者
第一回:該当なし、G・A・M・E・O・V・E・R
第二回:ラーバ
第三回:ヒルド(弓矢が強すぎたため、翌年から矢の本数制限導入)
第四回:ベルモンド(ベンガーナ軍随一の豪傑、アキーム推薦)
第五回:スタングル(かなり組み合わせに恵まれた、3回戦以降の対戦相手はほぼ負傷状態)
第六回:マァム(この年の初め、勇者ダイ発見。捜索から帰ってきて早速優勝)
第七回:ノヴァ(前回王者マァムとの決勝戦を制する)
第八回:フォブスター(毎年、勝ち上がるたびに魔力切れで悩まされていたが、ようやく悲願達成)
第九回:チウ
ヒムやラーハルト、クロコダインは未出場。ポップは七回大会に参加するも魔力が切れて
ベスト4敗退、ダイは帝王教育真っ最中で出場どころではない。アバン、パプニカ3賢者は
立場上参加見合わせ、ブロキーナ老師やマトリフは興味なし。