魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第7話 沼竜との死闘

 ドラゴンを取り込んで変態をしたその巨大なイモリ、四肢や肌は元々のイモリのままだが

翼や背中から尾まで生えたトゲ、伸びた牙や爪、そしてその咆哮はドラゴンのそれに酷似する、

泥の沼に住む竜がもしいたらこんな感じだろうか。

 

『沼竜、とでも呼ぼうか。』

「・・・そんな感じだな。」

 ナタルコンの提案に、沼竜から目を離さず答えるオグマ。敵を敵と認識するのに、その呼び名を

決めておくのは悪くない。お互いが意思疎通をしながら戦っているならば尚更だ。

 

 沼竜はその頭を、両眼をオグマ達に向けながらチロリと舌なめずりをすると、その大きな

鼻を膨らませて息を吸い込む。

『来るぞ!』

 そのナタルコンの言葉に答えて彼を鞘に仕舞い、闘気を漲らせて攻撃に備えるオグマ。

次の瞬間に沼竜は彼らに向けてブレスを放つ、予想していた攻撃を横っ飛びでかわす。

 

どごおぉぉっ!

 

 地面に着弾したブレスは、まるで油に火を点けたようにその場で燃え盛る、下は土と石で

火種などないにもかかわらず、である。

 だがその威力に驚いている暇など無かった、火炎を躱したオグマを今度はその短い前足で

踏み潰そうとする。

 

ドン!ズン!ズゥンッ!

 

 前足でタップダンスを踊る沼竜、激しいフットワークを駆使してそれから辛うじて逃れるオグマ。

光の闘気を運動能力に変えて逃げ回るが、このままでは攻撃に転じるヒマが無い。

 

『あの火炎の中に飛び込め!』

 ナタルコンが鞘の中からそう指示する。確かに今だ燃え盛るあの火の中なら沼竜も踏みつけを

躊躇するかもしれない、後はオグマの耐久力であの火の中にどれだけ居られるかだが・・・

「ふん!」

躊躇なく火に向かってダイブするオグマ。彼にとってナタルコンは戦いの師といえる存在、

この絶体絶命の状況でその指示に逆らうヒマなど無かった。

 が、宙にいる間に追加で出された指示には、さすがのオグマも驚かずにはいられなかった。

 

『我を抜け、闘気を抑え込めっ!』

 なんと火炎に闘気なしで飛び込めと言うのだ。あの中に生身で身を躍らせたら焼け死ぬのは

確実だ、思わず抗議の声を上げるオグマ。

「無茶言うなっ!」

 そのまま炎の只中に着地するオグマ、光の闘気の力で辛うじて体を守れてはいるが、それも

長くはもたないだろう。

 

『さっさとしろ!我の備えし呪文を忘れたか!』

 その叱責に、あっ!と気づくオグマ。そう、この剣は真空呪文を備えている、炎を蹴散らすことも

不可能ではないだろう。ナタルコンを抜き、息を止めて闘気を抑え込む・・・南無三!

 

 ぶぉわあっ!

 

 次の瞬間、あれだけ燃え盛っていた炎が瞬時にかき消える、別にナタルコンを振ったわけでも

無いのに、だ。

『いいぞ小僧!そのまま息を止めていろ!』

 

 だから俺はオグマだ!という抗議を飲み込んで耐えるオグマ。火は消えたとはいえ熱波は今だ

その身に纏わりついている。

 

 沼竜は瞬時にかき消えた炎に目を丸くするが、次の瞬間にはならばと踏み潰しに来る。

『よけろ!』

「言われなくても!!」

横っ飛びで辛うじて踏みつけから逃れるオグマ。炎がかき消えて熱波だけが残るその場所に

沼竜の太い前脚がずしりめり込む。

 

 ごおぉぉぉっ!!

 

 -ギュアァァァァッ!?-

 

 次の瞬間だった。踏みつけた沼竜の足が、爆発的に燃え盛った火炎に包まれる。

踏みつけの為に重心をかけた足はとっさに引き抜くことが出来ずに、沼竜の足を焼き続ける。

驚きに悲鳴を上げてその身を反らし、ようやく足を炎の畑から引っこ抜く。

 

「・・・何だ、どうやった、今の?」

『我の周りを真空にしたのだ。覚えておけ小僧、炎は真空では燃える事は叶わぬ、故に一度は消えた。

そして我らがあそこから飛び退いた故、空気が一気に流れ込んで炎を再点火させたのだ!』

 

 いわゆるバックドラフトと呼ばれる現象。ナタルコンはかつて剣豪ヒュンケルに仕えている時

彼の部下である若者が火炎呪文を制御するのに苦心しているのを見ていた。

 天才的な火炎呪文の才能を持つがゆえに、発動した瞬間己の全身すら火に巻かれてしまう、

その解決策として彼は火炎呪文(メラ)真空呪文(バギ)で包み、火種状態にして相手に飛ばし

着弾の瞬間に真空呪文を解いて、強力な火柱を上げさせる技を完成させていた。

 

 ナタルコンはそれを応用したのだ。炎の中に飛び込んで自分の真空呪文を周囲に展開させて火を消し、

沼竜の攻撃を誘い込んで炎に巻いてやったのだ。

 

『さぁ小僧、ここからどう・・・す・・?』

 沼竜は一度怯んだ。今なら逃げ隠れする選択肢もある。元々はドラゴンを狩りに来たのではあるが

予想外に強力な敵にどうするかをオグマに問おうとしたのだが・・・

 

「はあぁぁぁっ!」

 剣を鞘に納めて一目散に沼竜に突進するオグマ。光の闘気を開放して竜の腹に取り付くと、

そこに右手の平をあてがって闘気を集中する。

『ヤル気だな、結構、行けい小僧!』

「オグマだっ!」

 当てた手を引くオグマ、だが光の闘気はオグマの手の平の軌跡に残り、沼竜と手の平の間に

1mほどの一本の光の柱が引かれる。

 

『闘気が使えるなら、それを圧縮して叩きつければ強烈な打撃技となる。』

 ナタルコンに教えられた戦法だが、オグマはどうも自分の体内で闘気を圧縮するのが苦手だった。

だが体外に出した闘気なら、それを空中に”置いておく”ように配置すれば圧縮するのは難しくない。

試行錯誤の結果編み出した、今のオグマの最強の打撃技が沼竜のどてっ腹に炸裂する。

 

「メガ・オーラスタンプうぅぅっ!!」

 引いた軌跡の光の闘気をまとめて潰すように張り手を打ち出し、そのまま沼竜の腹にぶち当てる、

 

 ドッボォォォンッ!

 

 沼竜の腹に大きなクレーターが出来る。穴こそ開いていないがその一撃に腹を大きくくぼませて

その勢いで横倒しになる巨大な沼竜。

 

 ドッシャアァァァァ・・・ン

 

「どうだ・・・?」

倒れた相手を見て油断なくそう言うオグマ。ナタルコンは状況を見て一言、こう返した。

『効いておらぬな、奴は悲鳴を上げなかった。小僧、一度隠れろ!』

「分かった、あとオグマ!」

 

 岩の影に隠れ、死角から沼竜を見ながら、彼らは次の策を練る。自分たちが得た時間を

有効に使うために。

「あれで駄目なら打撃は無理、か。」

 殴った瞬間、柔らかく打撃を包む込むその感触。その手ごたえは今だイモリに近い。

打撃には特に防御力が高いだろう。

『だが収穫もあるぞ小僧。奴は相手を生きたまま喰うことでその力を取り込む魔獣だ、

覚えているな?』

とりあえず小僧呼ばわりは置いておいて、こく、と頷くオグマ。

『だが我らには火炎で焼き尽くそうとし、足で踏み潰そうとしてきた。これがどういう

意味か・・・わかるな?』

 

「・・・俺達には食う価値が無い、って事か。」

 ぎりっ、と歯ぎしりして沼竜を睨むオグマ。かつて精霊に倒す価値無しと見逃された屈辱が

蘇ってくる。

『憤るな小僧、むしろ今はわからぬぞ。そしてこれから更に強烈に戦えば、あ奴も・・・』

そう言って宝玉の眼をにやりと歪める。それはまるでナタルコンがオグマに何かを

アイコンタクトしたかのような眼だった。

 

「・・・そういう事か!」

 オグマが力強くナタルコンを握り直した時、沼竜が今まさに彼らを視認した。

さぁ、第二ラウンドだ、ここからは出し惜しみは無し!

 

 

『シュウワアァァァッ!』

 X字に振るわれたナタルコンから、バギ系最大呪文バギクロスがすっ飛んでいく。

真空の刃が交差する一点の切断力はそこいらの名刀を遥かに凌駕する。

 

 どぉんっ!

 

 沼竜の首元に直撃したバギクロスですらその体に傷はつかない。無理もない、ドラゴンの牙も爪も

通さなかったその粘液の肌に最初っから通用するとは思っていない。

 ナタルコンを鞘に納め、光の闘気を開放する。さぁ、今度はオグマのターンだ!

「うおおおおおおおっ!」

闘気が生み出す力をダッシュ力に変換し、光の尾を引きながら沼竜に突進するオグマ。

どむっ、と腹にぶつかったと同時、オグマは両手を敵に添え、そこから交互に張り手を繰り出す。

引く際に闘気を置いておき、打つ際にそれを圧縮して放つ。

 

 ドドドドドドドッ

 

 オグマの強烈な突っ張りが沼竜の腹を揺らす。この沼竜、前足と後ろ足のド真ん中あたりは

足が届かない死角になっているようで、翼も生やしただけで飛行する能力も無さそうだ。

だからこそ、そこに取り付いて連続攻撃するのは非常に有効だった。

 

 だが唯一届く攻撃があった。尾を振り回してオグマを振り払いにかかる沼竜。

バチィン!と尾の攻撃を受けて吹き飛ぶオグマ。

「ぐぅっ!」

 光の闘気でガードしているとはいえ、この巨体の尾の一撃が堪えないわけがない。

吹き飛んだオグマはそれでも起き上がり、相手を睨みつけ、ナタルコンを抜く。

 

『ぬうぅぅぅん!』

 

 沼竜に向けられた剣が、真空呪文で相手の周りに強烈な気流を起こす。動きを封じるための

この技が効いたのは、その役に立たない翼を生やしていることが大きかった。

風を受け、右に左にバランスを崩す。そのスキにオグマが沼竜に密着し、そこから10mほど

光の闘気を置いてきて助走をつけ、闘気を圧縮しつつ突進!

 

 どぉうぼおぉぉぉん!

 

 この体当たりに、ついに沼竜の巨体が宙に浮き、吹き飛ばされる。

 

 攻撃を入れ替えるたびに強力になっていくオグマとナタルコンの攻撃。それは光の闘気と

闇の闘気を交互に使うことでお互いを強制的に高めていく、このコンビの真骨頂といえる

コンビネーションである。

 ただそれにも限界はある、己の身を超える闘気で戦えば当然反動は肉体に、刀身に帰ってくる。

今までの訓練でも経験から、お互いが高め合えるのはあと一回が限度だ。それを使い切れば

もう立ち上がる事も出来なくなるだろう。

 

 だが沼竜には打撃は通じない、いかに派手に吹き飛ばすことが出来ても。

そして斬撃も通じない、その粘液の肌は刃が通る可能性を否定する。

 

 それでも二人はここまで全力で攻撃を仕掛けて来た。それは全てひとつの目的のために!

 

 

 倒れた沼竜がゆっくりと体を起こす。そしてオグマ達を正面に睨めすえる。

そして、ちろっ、と舌を出すと・・・

 

その大きな口をがぱぁっ!と開いて、口から躍りかかってくる。

 

「『来たあああっっ!!』」

 

 コイツはついに認めた、自分たちが”食うに値する強敵”であることを。

 

 食い付きを躱したオグマは、そのままダッシュして手近な木に駆け上がる。もう光の闘気は

限界まで使っている、筋肉が傷み骨が軋む、それでも得たこのラストチャンス、必ずモノにする!

 

『行け!”オグマ”あぁぁっ!』

 

 ナタルコンの叱責に応えて木の頂上から高々とジャンプする。そのまま真下にいる沼竜の”口”に

向かって落下、そして腰からナタルコンを抜き、闘気を抑えてターンを愛刀に渡す!

 

「貫け!ナタルコンっっ!!」

 

 暗黒闘気が生み出した真空呪文が、そのままナタルコンの刃先に”真空の刃”となって

刀身を伸ばす。

 通常30cmほどのその短剣が今、5mを超える超ロングソードとなって、沼竜の口の中に

吸い込まれる!

 

『闘魔真空斬っ!』

 

 ズドォンッ!!

 

 

 喉の中から背中まで、その刃に串差しになった沼竜。

 

 -ギュ・・・-

 

 -ギュルワアァァァァァァッ-

 

 断末魔の絶叫と共に暴れ回るが、それは真空の剣に貫かれたその傷口を広げるだけだった。

それでも四つん這いで着地した沼竜は、まるで焼き魚のように体を貫かれながらも、今だ死なない。

 

『オグマ!もうひと踏ん張りしろ!』

「うおぉぉぉ・・・っ!」

 もう体は限界、それでもオグマはそこから飛ぶと、光の闘気を体に纏わせる。

両手を噛み合わせ、上からまるでハンマーのように沼竜の背中を叩きつける、全身全霊を込めて!

 

 ぶっしゃあぁっ!

 

 沼竜の体内に刺さっていたナタルコンの刃が、その一撃で身に刃を喰い込ませ、内から切断して

その真空の刃を体外に晒した。。

 

 -ガ・・・-

 

 最後の嘆きを発したその巨大な生き物は、そのまま目を閉じてそこに横たわる。

己の生きる意味も知らぬその魔獣は、生み出された者の思惑を果たせないまま、ここで絶命した。

 

 

 その巨体の傍らでは、精も根も尽き果てたひとりの人熊が、もたれかかるように倒れ、眠っていた。

竜の巨大な口元には、短い短剣が、宝玉の部分にある目をしんどそうに細めて転がっていた。

 

 

 

 

「あら・・・?」

 天界にて、そう疑問の声を上げた精霊、彼女は天の8行のひとり”昇りのクト”だ。

傍らにいた”輝きのシア”が「どうしました?」と声をかける。

 

「私の使いが一人、死んだみたいです・・・やはり魔界、どんな強者が現れるかも知れない、

なるほど、神が”閉じる”判断をするわけですね・・・」

 

 

 

 

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