魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第71話 竜鳳月の旗のもとに

 -天界-

 

「お疲れ様、懺悔大変でしたでしょう。」

「はい・・・」

 精霊、天の8行”昇りのクト”が、憔悴しきった”満欠のネル”に声をかける。

ネルはつい先程まで、己の使命である魔界の混乱を招く為の”あらそいのたね”の消失に際し

神の元で今まで懺悔を続けていたのだ。

 

「私の方の”融合の顎”も、4体目の鼓動が途絶えました。そろそろ手を打たないと

いけませんねぇ。」

 あっけらかんという言葉に、ネルは「えっ?」という表情で顔を上げる。あまり失敗が続くと

彼女も懺悔の対象になりかねないのだが・・・

 

「その、クト。大丈夫・・・でしょうか。」

 不安げに問うネル。もはや魔界において彼女らに任じられた事業”魔界を閉じる”行いは

魔界全体に知り渡っており、それを阻止せんとする魔王の使徒はすでに地上まで到達して

しまっている。

 現に”輝きのシア”は何か思いつめた表情で自ら神の元に向かっていたし、”流れのシル”は

地上から持ち帰った聖母竜(マザードラゴン)の残留思念を宿す水晶と機械を持ち込んで自分の住処に

籠ってしまった。

 

「ふふ、ネルは心配性ですね。大丈夫ですよ、そもそも魔界の者がどう動こうと、この天界に

来ることは叶わないのですから、生あるうちにはね。」

「まぁ・・・そうなんですが。」

 

 天界、そこは魂の世界。故に肉体を持つ者は決して踏み込めない場所。

精霊たちはその体そのものが魂であり、魂が女性の形を取っているがゆえにこの天界の

住人でいられるのだ。

 地上魔界の全ての生き物は、死して魂になった時のみこの天界に訪れられる、無論その魂に

力はなく、ただ彷徨う光の玉としてしか有り様は無い。かのバーンもヴェルザーもこの天界では

精霊に何一つ抵抗できない無力な存在でしかない。

 

「この天界に、力と肉体を宿して昇臨出来る者、それは神々と、その神々によって来訪を許された

現在の(ドラゴン)の騎士、ダイのみです。」

 そう語るクト。かの勇者ダイは大魔王バーンを退けた功績から、神々によってこの天界を

訪れる権利を得ていた。と言ってもダイ自身にそのことを伝えたわけでは無いのだが。

 

 通常の者なら地上から空高く舞い上がっても、天界の存在にすら気付かずに通過して

遥か宇宙に舞い上がるのみだが、(ダイ)の持つ”魂の性質”を天の結界が見極めたら、

その者を結界内に通すように成されていたのだ。

 

「己の親と、己自身の二つの魂を有する者、それが勇者ダイのみが持つ魂の性質。いつか彼が

天界の存在に気付いたら、是非訪れて欲しいものです。」

 

 そう言って踵を返すクト、彼女もまた己の使命の為に打つべき手を思案し、実行に

移すのだろう。

残されたネルはその背を見送りながら、そうね、魔界の者がこの天界に攻めてくる事は

ありえないんだ、と思い、ほっと息をつく。

 

 彼女らは知らない。かつて禁呪法によって生を受け、その生みの親である人物(ハドラー)の魂をも宿した

オリハルコンの戦士の存在を。

この天界に入るためのパスポートを持った人物が、すでにこの世界の外れに訪れている事を-

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「うぉーい、ヒムぅーー!返事しろーいっ!」

「マネキンさーん!どこですかーーーー!?」

 

 ポップときらりんが、飛翔呪文(トベルーラ)と紫龍の翼で飛び、ヒムがかき消えた辺りの

空中で捜索に当たっていた。メルルの水晶玉も周囲を捜索するが、どこにも姿が見えない、

まるで神隠しに合ったかのようにその気配も存在も消失したかのようだ。

 

 やがて二人は地上に戻り、やむなく捜索は打ち切られた。後の試合もあるし、いつまでも

捜索にかかりきりな訳にもいかないのだ。主催のロモス王もやむをえんな、と審判員に

指示を出す。

 

 -第一試合は、ヒム選手の消失により、魔界側きらりんの勝利ー!-

 

 アナウンスがそう宣言すると、会場はああー、というため息に包まれる。十傑側が負けた

事もあるが、なにより消化不良気味の結末にやや気が抜けがちだ。

 それは当のきらりんも同じだった。会場の皆さんに納得のいく勝利を得ることで魔界の現状を

聞いてもらって、6本の柱を遠慮なく貰える手はずだったのだが。

ふぅ、とため息をついて、とぼとぼリングを降りる。

 

「ま、勝ったんだからいいじゃないか、約束通り柱はくれるだろうしな。」

 そう言ってばさっ!と黒装束を脱ぎ捨てるリヴィアス、今度は俺の番だ!と意気を上げ、

リングとその向こうにいる大戦十傑を見据える。

 

「来たか!」

 それに応えて一歩踏み出したのはラーハルトだ、同じ槍戦士(ランサー)にしてテランでの

因縁の相手、奴だけは俺の手で叩きのめす!との意思を込め、眼光を返す。

 

 

 

「王様、突然の無礼をお許しください。」

 王族が居並ぶ国王席で、テラン王フォルケンの横に構えていた兵士が突然ひざまずき、

自らの主にうやうやしく短剣を差し出す。

 

「今日までお世話になりました、この剣をお返しする事をお許しください。」

 それは王に仕える者の、職を辞する際の儀式。つまり彼はたった今よりフォルケンの衛士を

辞めるということだ。

 思わずざわつく各国の王や側近たち。それも無理はない、一体何故このタイミングで?

辞職なら平時にすればいいだろうに、このイベントの最中に、各国の王の前で去るなどとは、

テラン王の面目を潰す行為ですらあるではないか、と。

 

 だが当のテラン王フォルケンは、うむ、と頷いただけで、特に動揺を見せない、

その反応に一番驚いたのは、その剣を差し出した兵士、フィガロ自身だった。

「今日までご苦労だったの。これからは己の意思の赴くまま生きるがよかろう。」

そう言って反対側にいる兵士長カナルに目配せする。答えてカナルが長さ1mほどの棒を

フィガロに手渡し、こう言った。

「これは退職金代わりだ、王はお前の事をきちんと見ていたよ。」

 

 その棒を、布を巻いたそれを手にしてフィガロは悟った。この王は全てを知っていて

その上で自分の歩く道を示してくれたのだ、今日の自分の決意も知ったうえで、最後にこんな

素晴らしい贈り物を用意してくれた事を。

 

「王様・・・ありがとう、ございましたっ!!」

 涙を流し、深々と頭を下げるフィガロ。自分はこの人にお仕えして本当に良かった!

しばしの平服の後、顔を上げて涙を切り、国王室を駆け出していく、行くべき、居るべき所に!

 

 

 ばっ、すたっ!

 

 突然、観客席から一人の男が試合場に降り立つ、彼はまっすぐ魔界側の陣営に駆けてくる。

その人物を見て驚愕したのは、今からまさにリングに上がろうとしていた二人の人物だ。

 

「フィガロ!なんで・・・お前!」

 リヴィアスが思わず叫ぶ。彼には祖国アルキードの血を絶やさぬ為に、今の生活を続けて

欲しいと告げておいた。だがこの公衆の面前で魔界側に縁あるような態度を取れば、その願いも

叶わないだろう・・・それなのに、何故?

 

「あいつ・・・衛士のフィガロ!何をやって・・・っ!?」

 ラーハルトはそこで気付く、かつてリヴィアスの奴を捕縛した時、縄を打ったのは奴では

なかったか?その奴が今リヴィアス達の所に向かっている・・・まさか、奴が裏切ったのか?

テランの兵士の中でも実直で目立たなかったアイツが!

 

 やがてリヴィアスの前に立つフィガロ。リヴィアスは「この馬鹿が」という顔で彼を見るが、

フィガロの方は凛としてこう返す。

「僕がリヴィアスさんの側に立たずに、誰が立つって言うんですか!」

 

 そう言った後、彼は手にした棒を掲げると、その端にあるスイッチを押す。

その瞬間、その仕込み棒が一気に弾け、カカカカカッ!と音を立てて目一杯の長さまで

伸びる、その長さ8m程の仕込み棒を天高くかざすフィガロ。

 

 その先にある布が、ふわりとほどけ、そしてはためく。その”旗”が。

 

 

「あ・・・あはは!マジ・・・か。」

 リヴィアスの目に熱いものが込み上げる、止まらない。それは熱と感動と、そして力となって

彼の全身を駆け巡る。それはフィガロと、リヴィアスと、そして彼の首に巻かれる赤い首巻(レッドネック)

血が知っている、懐かしい故郷のしるし。

 

 -中央に三日月、左に竜の翼、右に鳳凰の羽根が記された、今は無き故郷の旗-

 

【挿絵表示】

 

 

「竜鳳月!あれは・・・アルキード王国の国旗!」

 国王席でそう叫んだのはベンガーナ王、クルテマッカⅦ世だった。かつての隣国であり、

一夜にして火山の噴火らしき爆発で滅亡したとされる亡国の旗!まさかあの者は、かの国の

生き残りなのか!

「なん・・・ですって?」

 呆然としながらそれだけを発したのはパプニカ王女レオナだ。アルキード、それはダイの父

バランが怒りのままに滅ぼした国。その真実は父をしのぶダイにとって遠い過去の黒い汚点。

その生き残りがまさかこの大舞台で、ダイ君たちの敵として相対しているなんて!

 

 

「旗?なんだろう、フィガロさんが掲げてるのって・・・」

 困惑するダイ。顔馴染みのテラン兵士が向こう側にいるだけでなく、なにか知らない旗を

掲げていかにも”向こう側です”みたいな顔をしている。

 

「あれは、アルキード王国の国旗です。」

 アバンがメガネを抑えながらそう大き目の声で告げる。それを聞いたラーハルトはリング上で

ざわぁっ!と全身を逆立てる。

 

「ア、アルキード?アルキードって・・・確か・・・」

 記憶を掘り起こし、それが鮮明になるたびに愕然とした表情になっていくダイ。

そうだ、確かヒュンケルから聞いた母さんの祖国、父さんが母さんを殺されて、怒りのままに

吹き飛ばした国の名前。

 でも彼が聞いたのは、あくまで国王やその腰巾着の大臣の人間の醜い一面でしか無かった。

ある意味、母さんを殺した彼らに天罰が下ったという印象すらあったのだ。

 

 だけど、今目の前にいる二人を見て・・・ダイは心底思い知っていた。父さんが殺したのは

腹黒い醜い人間だけじゃなかったんだ、その国の女性も、子供も、老人も、赤子さえも

犠牲になったことを今更ながらに思い知った・・・思い知らずには、いられなかった。

 

 だって、フィガロさん、普通にいい人だったじゃないか。

 

 その彼が今、その国の旗を持ってあちら側にいる。それが意味するものがダイの胸に、体内に

まるで鉛を流し込んだようにのめり込んでいく。

 気分が悪い。自分が今まで信じていたものが、その身をもって黒の核晶(コア)から守ってくれた

父の死に様が、悲しくも美しかった思い出が、あの最終決戦で手に取った真魔剛竜剣が、

窮地に聞こえた父バランの激が、すべてがドス黒く染まっていく・・・

 

 

「ふ、ふはははははははっ!これは傑作だ、あのアルキードのゲス共がまだいたとはなあっ!」

 突然、狂ったように笑い出すラーハルト。嘲りと見下げた侮蔑を込めてまくしたてる。

「貴様ら、あのゲス共の生き残りか!とっとと地獄に落ちていればよいものを、あの国で

価値あるものはソアラ様くらいのものだ、他の者が今ここで同じ空気を吸っていると

言うだけで汚らわしいわ!!」

 

 手にした”鎧の魔槍”をくるりと一回転させ、リヴィアス達に突きつける。

「亡霊共が、魔界の軍勢はお似合いだ、今ここで消し去ってやるから感謝するんだな!」

 

 その汚い言葉にも、リヴィアスもフィガロも、そして後ろのオグマ達も特に激昂はしなかった。

ただ冷めた目でラーハルトを眺め、逆に憐れんでいる。

 

「ヒザが笑ってるぜ、ラーハルト。」

「その真っ青な顔でよくそんだけ悪口雑言が出ますねぇ、次期国王の後見人さん。」

 

 それもそのはずだ、相対するラーハルトの足は震え、吐きそうなまでに顔を歪め、手にした

槍は辛うじて落とさずに済んでいる状態で、叫ぶ言葉も恫喝ではなく最早悲鳴でしかない。

義父バランの残した罪を突如突きつけられて、かの冷静な槍戦士は完全にパニックに陥っていた。

 

「さて、と。まずは望むモノを言う、だったな審判さん。」

 状況が掴めずにおろおろする審判に話しかけるリヴィアス。ど、どうぞ、と手をかざす審判に

応えて、彼は刺突槍(コーンランス)を上に、はためく旗の左の翼に指し示す。

 

「聞け、勇者ダイ!」

 突然声を叩きつけられ、ギクッ!と反応してリヴィアスを、その槍の先を見るダイ。

「我が国の旗の左翼の翼、これはアルキードの強さの象徴、強き竜ディーノの翼だ!」

 ダイはぐちゃぐちゃな心理状況の中、己の本当の名を耳にする。かつて父と母が残した

自分のたった一つの宝物。

 

 -だが、私とソアラがつけた名前も心の片隅で覚えておいてくれ、ディーノ-

 

 

「アルキードを滅ぼした男の息子がその名を継承するのは許さん!俺の望みは、俺が勝ったら

貴様は二度とその名を、”ディーノ”の名を名乗る事はまかりならんっ!!」

 




悲しい話ですが、作者が書きたかった話のひとつです。多くの人に感想を頂ければ幸いです。
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