魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第72話 憎むべきもの

「おいおい・・・何モメてんだあいつら?」

「って、また魔界側は人間かよ、ホントに魔王の使者なのかぁ?」

「なんか勇者ダイに要求突きつけてるみたい、何なのあの人・・・」

 

 リヴィアスの宣言にざわつきはじめる観客たち。その中にあって中年以上の歳の者は

その後ろに掲げられている国旗を見て思わず唸る、あれは今は無きアルキードの旗、ということは

アルキードは魔界に堕ちたのか、などと見当違いな事を囁く。

 

 そんな囁きに、誰よりも動揺を隠せないのがリング上のラーハルトだ。”あの”アルキード

王国の事が周囲で囁かれる、それは敬愛してやまない義父バランの、人間との決定的な確執の象徴。

 以前の彼なら人間の噂など一笑に付しただろう、彼自身が母親の件で人間を憎んでいたし

自分とは絶対に相いれない存在だと思っていた、つまり・・・憎むべき敵だと思っていたから。

 

 だがあの大戦の最中、自分の悲劇に涙してくれる人間と出会ってから、彼の道は

全く逆方向に進み出していた。義父バランの死と遺言によりダイに仕え、その際にあの人間たちと

共闘し、その精神と闘志に共感や尊敬すら感じた、人間も悪い奴ばかりでもない、と。

 

 そして数年前からテラン王国に宮仕えを始めて、人間と言う存在に親近感すら持つようになった。

テランの人々はやや無気力ではあったが、野心や野望を待たずに誠実に生きる人ばかりであった。

それはどこか亡き母を思い出させ、彼にとって人間との日常は次第に心地よい物になってきていた。

 

 

 だが、今自分の目の前には、あのアルキードの旗のもとに佇む二人がいる。

リヴィアスとフィガロ、彼らがもし本当にアルキードの生き残りだとしたら、国が滅んだ時は

まだ幼子だったはず、そう、自分が母親を失った時と同じ年頃の・・・母と自分が人間に

受けた仕打ちを、彼らはバラン様に受けて来たということ・・・なのか!

 

(俺はバラン様とダイ様に仕えてきたことを、誇りに思っている。)

 そんな事をテランの兵士の詰め所で話した事がある、それも一度や二度ではない。その時

あのフィガロはどんな顔をしていた?そんな事を覚えているはずもない、だが今ならわかる、

その俺の言葉に、どれだけ彼がハラワタが煮えくり返る思いをしていたのかを。

 

(俺、ここ数年魔界に行ってたんだよ。いやぁパンが美味い!)

 朗らかな顔でそう言っていたリヴィアス。その言葉の裏にどれほどの思いがあったのか、

故郷を滅ぼされて魔界に行き、生き抜いて復讐者として帰って来たアイツを俺はどう見ていた?

 とぼけた態度で俺たちを欺く者、魔界の魔王の先兵であり、良からぬ野望の為にダイ様と

神の涙を付け狙う悪党・・・どうして、俺はそう信じ込んだ?あの天啓とやらを鵜呑みにして

リヴィアスから弁明を聞こうとしなかった?

(相手に刃を突きつけて恫喝するのがお前たちのやり方か!?)

ただの悪党がそんな事を言う訳があるか!それすらも塗り固めた嘘と思った、馬鹿か俺は・・・

 

 だがコイツはダイ様の敵には違いない、なによりコイツらの存在がダイ様を傷つける。

忘れかけていた人間への嫌悪、思い出したくなかった義父の過ち、今、守るべき(ダイ)にほどなく

訪れるであろう嘆きと自己否定、贖罪の未来。そんな思いが彼の胸の中でドロドロと渦巻く。

 

 狂おしい程の、自己嫌悪と共に。

 

 

「それでは!第二試合、始めっ!」

 

 -ごわあぁぁぁ・・・ん-

 

 

 そうだ、試合だ。

こいつが試合で死ねば、ダイ様を傷つけることは無い。

こいつを殺せば、ダイ様が命を狙われることは無い。

 

 殺せば、いい。

 

 そうすれば、俺が悪者になるだけで、全てが終わる-

 

 

「うおぉぉぉわあぁぁぁっ!!」

 突然雄叫びを上げ、その槍で切りかかって来るラーハルトを、リヴィアスは冷静に刺突槍(コーンランス)

さばいて身を躱す。だが相手は止まらず必死の形相で次々と攻撃を繰り出して来る。

 

 ガイン!カキィン、ガッ!キュイィィン・・・

 

 その全てをいなし、捌き、跳ね返すリヴィアス。だがそれも当然のことだ、今の奴は

激情に駆られて手も足もバラバラで、とてもかつての達人の域の槍捌きとは程遠かった。

 しかもだ、あの鎧の魔装を開放すらせずに使っているのだから。穂先には身に纏うべき鎧が

そのまま刃を覆っており、いわば重すぎる鞘に納めたまま槍を振り回しているのだ。

これで捌けない方がおかしいだろう。

 

「いい加減に・・・しろっ!!」

 突きに来る魔鎗をコーンランスで巻き付け、上に跳ね上げて吹き飛ばす。と同時に相手の胸に

ケリを入れて跳ね返す、その勢いで尻もちをついたラーハルトの際に、魔鎗が落ちてきて突き刺さる。

 

「ったく、せめて鎧化くらいしろ。」

 どうやら薬が効きすぎたようだ、と思いそう忠告する。こいつはフィガロによるとあのバランの

部下だったらしい。我らアルキードの生き残りがいると知って動揺しているのだろう。

 

「今のお前に私怨は無いし、勝っても何の自慢にもならん。全力で来い!」

 ビッ!と槍を突きつけてそう檄を飛ばす。そう、俺の相手にあのダイではなくコイツが

出てくるのは予想していたし、なにより同じ槍戦士(ランサー)同士、全力で戦ってみたいという

気持ちが強かったのだが、これではさすがに興覚めだ。

 

 だがそれはラーハルトを逆上させただけだった。まさかの槍捌きで後れを取り、そして

舐めた口まできかれる・・・このままでは、コイツは、殺せない!

 ならどうなる?バラン様が人間たちに”悪”として広められる、ダイ様が命を狙われ、

その名を、大切な名前を奪われる・・・自分の人生が、生きて仕えて来た人たちが・・・否定される!

 

「うわあぁぁぁっ!!!」

 

 跳ね上がるように立ったラーハルトは、そのまま槍も取らずにリヴィアスに突進すると

両手を左右に広げてリヴィアスのこめかみに指を突き立てに来る、指先にわずかな魔法力を

込めて!

 

 -ばしぃっ!!-

 

 指が刺さる直前、リヴィアスは相手の両手首を掴んで止める。魔法力でスパークした指先が

リヴィアスの横髪を焦がし、離されたコーンランスがごとん、と音を立てて倒れる。

 

 

自己犠牲呪文(メガンテ)!」

 アバンが、そしてポップが身に覚えのある呪文に思わず叫ぶ。相手の体に指先を打ち込み、

そこから生命エネルギーを流し込んで相手もろとも自爆する呪文!

 

「ラーハルト!何を考えている、止めろっ!」

「馬鹿な、狂ったか・・・一体何が?」

「ちょっと!何やってるのよ、馬鹿な真似は・・・」

 ヒュンケルが、クロコダインが、マァムが思わず声を荒げる、だがラーハルトには届かない。

「メガンテ・・・どうして・・・ラー、ハルト・・・?」

 呆然とその光景を眺めるダイが、弱々しい声でそうこぼす。立て続けにやって来る鬱現象に

ダイは感情の整理がつかなくなっていた。

 

「死ね、死ね、死ね、死ね・・・死んでくれ!死んでくれ、よぉっ!」

 指先をこめかみに食い込ませようと力を込めながら、まるで懇願するようにそう嘆く

ラーハルト。そのあまりの醜態にリヴィアスはぐっ!とアゴを引き、相手の目を見据えて

言葉を叩きつける。

 

()()()()()()()()()()()()()()・・・軟弱者っ!!」

 

 びくっ!と顔を上げるラーハルト。手から力が抜け、指先の魔法力がすっ、と消失する。

「な・・・んだ、と・・・?」

 憑き物が落ちたような顔でそれだけを発する。そうだ、俺は今、何をしていた?

コイツを殺そうと?ダイ様を守るため?バランの名誉を汚さないため?

 

 違う、違う。俺はすべてを投げ出して、体のいい理由を付けて、死に逃げようとしていた

だけじゃないか・・・俺は、いつから、そんなに弱くなった?

 

「お前の物語は、ヒュンケルを通してアバンさんから聞いている。魔族との混血であるがゆえに

人間に迫害され、母親を失ったそうだな。」

 ずきり、と心に刺さる言葉を投げかけられる。そうだ、だから俺は人間を憎んだ。だから

その痛みを分かち合えるバラン様にお仕えした。

 

 だけど。だけど人間は・・・本当は・・・

 

「お前の強者たるを見て納得していたが、それは見当違いだったのか?」

 ラーハルトの両手首をつかんだまま、視線を切らずに続けるリヴィアス。こいつは自分や

あのケプラス、ガノイザー、そしてエルキンスと同じ心の強さを持っていると思っていた。

だが、メガンテなどという最低の死に方を選ぶようなら、とても彼らと比肩する存在ではない。

 

「ひとつだけ答えろ。お前の母の命を奪ったのは、誰だ?」

「きっ!貴様に・・・何がわかる!」

 語られたくない母の事を物知り顔で語られて抜けた気に芯が入る。そうだ、母はお前ら

人間に殺されたんだ、母が死んだのは人間のせいだ、そうじゃないか・・・!

 

 と、すっ!と赤い布が浮かび、それがラーハルトの頬をまるで慰めるように撫でる。

リヴィアスの首に巻かれた赤い首巻(レッドネック)、こいつを自動で守る魔法の布。

 だけどそれは、目の前で見ればすぐに武具じゃないと分かる。これは赤子を背負う為の

おんぶ紐じゃないか・・・その先には刺繍がある。書かれているのは・・・名前。

 

 -Rumina-

 

「あの日・・・俺の背中で無残に死んだ妹の名だ。・・・俺に力が無かったばかりに、な。」

小声で刺繍の名を読んだラーハルトにそう告げ、一息置いて再び同じことを聞く。

 

「お前の母を殺したのは・・・守れなかったのは、誰だ!」

 

 コイツは!、とため息とも嗚咽ともとれない意気を吐き出すラーハルト。こいつは

自分の妹を守れなかったのを己の責任として受け止めているのか・・・その時は

コイツも幼子でしか無かっただろうに。

 

 そう、それは俺も同じだ。母が死んだ時、俺は誰を恨んだ?

薬をくれなかった町の医者か?母に石を投げた心無い人間か?そんな母をおいてさっさと

死んだ父親か・・・違うだろ。

 

「あの時、何もできなかった俺自身だ!分かり切ったことを・・・言わせるなっ!!」

 

 毅然として顔を上げ、リヴィアスを睨み返してそう叩きつける、そうだ、あの時の悔しさは

本当は母を救えなかった自分にこそ向けられていたんじゃないか。

 何度も後悔した、力を付けるたびに、強くなるごとに、竜騎将などという称号を得るたび

あの時の戻れたら、あの時からやり直せたら!そう思った、何度も、何度でも。

 

 ばっ!とリヴィアスの手を振りほどくと、そのまま両手でバチィン!と自分自身を

殴りつけるラーハルト。そして憑き物が落ちたような目で、顔で相手を見据える。

「お人好しな奴だ・・・この俺にどうしろと言う気だ?」

 

「戦えよ、しっかりと、な。」

 コーンランスを拾いながら、あっけらかんとそう返すリヴィアス。そう、彼もまた

”力こそが正義”の魔界で戦い抜いてきた戦士、心が濁ったなら戦いで禊ぐ信条を

貫いてきたのだ。戦いこそが偽りのない己を出す表現の方法なのだから。

 

「後悔するなよ・・・鎧化(アムド)!」

 槍を手にし、そう唱えて全身に鎧を纏う。その不気味かつ美しい変化の鎧に会場が

おおおっ!と沸く。

 

 対するリヴィアスも、体に飛翔呪文(トベルーラ)の魔法力を纏い、刺突槍(コーンランス)を正眼に構える。

相対する槍戦士(ランサー)同士の殺気が、コロッセオの空気をびりっ!と引き締める。

 

 

 -さぁ、ここからが本番だ!-

 




ラーハルトのキャラに関してはかなり作者の偏見入ってます。それが追加タグの理由。
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