魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第73話 新生、刺突槍(コーンランス)

「はあぁぁぁぁっ!!」

 -ビュオォォッ-

 ラーハルトの無数の刺突が迫りくる、リヴィアスは飛翔呪文(トベルーラ)を使って相手を引き込みながら

その刃先をコーンランスで捌き、いなし、躱していく。

「かぁっ!」

 リヴィアスは返す刀でランスを突き込み、そのまま体ごと突破して反対側に抜ける。が、

それを先読みしていたラーハルトはすばやく追撃し、槍を横薙ぎに振るってランスに

叩きつけると、そこから小さく突きと薙ぎを繰り返して攻勢に出る。

 

「ちぃっ!」

 致命の一撃を赤い首巻(レッドネック)が防いでくれたスキに、素早く上空に舞い上がって凌ごうとする

リヴィアス。しかしラーハルトは即座にジャンプし、槍を回転させて上段から打ち下ろしに来る。

「ハーケン・ディストールっ!!」

 

 -ガッツウゥゥ・・・ン!-

 かろうじてランスで受けたものの、その威力でまるでハエたたきのように地面に叩きつけられる

リヴィアス。間を置かずに落下して追撃してきたラーハルトの槍をトベルーラで躱し、ようやく

一連の攻撃が止まる。

 

 -おおおおっ!-

 

「す、すげぇな・・・あいつら、」

「手数が数えきれねぇ・・・特にあのラーハルト、何だよあの速さ!」

 目の肥えた観客がその攻防に思わず唸る。本来槍使いの戦いと言えば、足を止めての

突き合い捌き合いになるのが普通のはずだ。だがこの二人はリングを縦横無尽に駆け回り、

目視すら困難な速度で攻防を繰り広げる、刮目すべきハイレベルなバトルがそこにあった。

 

「防戦一方か・・・まずいな。」

『武器の相性がモロに出ておる、このままではリヴィアスはやられるな。』

 オグマとナタルコンの呟きに「そんな・・・」とこぼす女性陣、そして旗を掲げるフィガロ。

本格的に戦い出してからは終始ラーハルトが攻めまくり、その猛攻をリヴィアスが

辛うじて凌ぐという展開が続いていた。

 

 だがそれも当然の事。リヴィアスの刺突槍(コーンランス)は本来、絶対的な防御力を持つ(ドラゴン)の騎士の

竜闘気(ドラゴニックオーラ)をぶち抜くために叩き上げられた重量級の槍、大きく重鈍な

モンスターや防御力に全振りした敵には有効だが、逆にこのラーハルトのような神速と小回りを

信条とする戦士にはあまりにも分が悪い、こちらの攻撃が刺突に偏る中、相手はその槍を

あらゆる角度から自在に、速く、そして鋭く打ち込んでくるのだから。

 例えるなら包丁とアイスピックでの戦いを連想すれば分かりやすいだろう、突くだけのピックに

比べて刺す、斬る、叩くから、単純に振り回すだけでも包丁の方が圧倒的に有利というものだ。

 ましてやスリバチ状に観客席が囲むコロッセオでは、リヴィアスの必殺技、音速衝撃波(ソニックバリアブレイク)

客席が邪魔で使えない。元々トベルーラで広範囲をダイナミックに駆け回るリヴィアスの戦いは

この狭く丸いリングでは全く生かせていなかった。

 

「シイィィィィッ!」

 ラーハルトが追う、リヴィアスが凌ぐ。目にも止まらぬ速さの突きや斬激をしのぎながら

乾坤一擲の刺突を狙うリヴィアス。

 だがそれは相手も十二分に承知だろう。なにしろ二人の戦いは初見ではない、あのテランの

森で交えた一合は、リヴィアスにとって致命的な情報を与えてしまっていた。現に時々、

槍の手を緩めてこちらの渾身の一撃を誘ってくる瞬間すらある、誰が乗るものか!

 

 ふっ、と何度目かのスキを見せるラーハルト。油断なく対峙するリヴィアス。

と、ラーハルトは左手に槍を持ち帰ると、右手で手甲についた何かをもぎ取り、投げ飛ばす。

「なっ!ブーメランかっ!?」

 まさかの飛び道具に意表を突かれつつも、なんとかそれを叩き落とす。

だが、それが決定的なスキになってしまった。ブーメランを払う動作を見越していたラーハルトは

瞬時に間合いを詰め・・・その槍先をリヴィアスの喉元に突きつける!

 

 そして、しばしの硬直の後、ラーハルトはすっ、と槍先を離して一歩後退する。

「これでさっきの借りは、確かに返したぞ。」

 不敵に笑うラーハルトを見て、リヴィアスはぎりっ!と臍を噛んだ後、鼻息を鳴らして

言葉を返す。

「ふん、律義な奴だ・・・後悔するなよ。」

 

 その態度に会場から、そして両陣営から拍手が沸く。確かに試合開始直後、無様に槍を

飛ばされて尻もちをついたラーハルトに、リヴィアスは追撃しなかった。その借りをここで

返したとなれば、これで両者1対1のポイント、次こそが勝負だ!

 

「だが・・・分かっていると思うが、今の貴様に勝ち目は無いぞ。」

 ラーハルトの言葉通り、もはやお互いの優劣は明らかだ。お互いの実力はともかく、

持っている武器の相性があまりにも明暗を分けている、このまま3本目に突入しても

結果は見えているだろう。

 

「だな・・・やむをえん、使うか!」

 リヴィアスはそう言ってランスを両手で握りしめ、はあぁぁぁ・・・と精神集中をする。

魔法力を手に集め、呪文を唱えて、かっ!と目を見開いて発動する!

閃熱呪文(ギラ)!」

 

 -ブォォン-

 その瞬間、コーンランスの先端10cmほどが赤い光を灯す。まるで蛍火のようなその赤は

閃熱の力を明らかに備えている・・・魔法槍か!

 

 観客席の一角、酒瓶を手にその光景を眺める魔族が、隣の弟子に思わず問う。

「あれかノヴァ、お前のイジった槍のとっておきは。」

「ええ、まぁ見ててください、ここからが本領発揮ですよ。」

 ロン・ベルク制作の鎧の魔槍と、ノヴァが改良を加えた刺突槍(コーンランス)。いわば槍の師弟対決

ともいえるこの一戦、ここから弟子の槍の反撃が始まる。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「リヴィアスさん、閃熱呪文(ギラ)の呪文を契約しませんか?」

 大会前、自分の槍をメンテしていたノヴァにそう問われる。なんでも自分の槍にギラの魔法を

上乗せして”魔法槍”として仕上げたいそうだ。

「だが・・・熱を帯びると脆くならないか?俺のランスはあくまで刺突が命題だからな・・・」

 それはノヴァも理解している。というよりその作りを見れば使用目的は明らかだろう、

ノヴァもその意図を理解して、長所を損なうことなく改良を施してきたのだが・・・

 

「大丈夫ですよ、この槍先は熱には異常に耐性があります。やってみませんか!」

ノヴァが言うには、リヴィアスが音速を超えるほどの速度で槍を飛ばすと聞いて、その耐熱性を

改めて実感したものだ。そんな速度を出したら並の武器なら空気との摩擦熱で焼き付き、

折れるかひん曲がるのが関の山だろう、と。

 それにあたり前のように耐えるほど耐熱席の高い槍ならば、閃熱呪文を乗せない手はないだろう。

かくしてリヴィアスはギラの呪文を契約し、魔法石によって穂先に術者のギラを宿す”閃熱の槍(ヒートランス)

彼のさらなる力となったのだ。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 ブォン!と弧を描いて、その穂先でリングの石板をこすり付けるリヴィアス。こすられた場所は

まるで溶岩のようにドロリと溶け、嫌な臭いと煙を立ち上らせる。

「これでこの槍は突く”だけ”の武器じゃなくなった、槍先に触ると火傷じゃすまないぞ。」

 赤く光る槍先をラーハルトに向けてそう言い放つ。この槍はもはや斬り付ける事も、いや

あてがう事すら必殺の威力を持つのだから。

 

「ふん、甘いな。わざわざ俺にそれを告げるとはな!」

「甘い物は嫌いか?俺は好きだぞ、滋養もあるしな。」

 ラーハルトの軽口に軽口で返すリヴィアス、お互いが相手を睨みながらも、ふっ!と口元を

緩める。そこにはもう憎悪は無かった、ただ相手の力量を認め、それを上回りたいという

ふたりの槍戦士(ランサー)の闘志だけがあった。

 

「はぁっ!」

「せいっ!!」

 両者同時に気を吐いて突進!ガキィンと音を立てて激突した槍が鍔迫りあいを始める。

そうなると質量で上回るコーンランスを持つリヴィアスのほうが有利だ。じわじわ押された

ラーハルトは、閃熱の穂先を体を沈めて躱し、そのままリヴィアスを蹴り上げ、そのスキに

リングの際から脱出する。

 

 リヴィアスの攻勢は止まらない。今まで突くだけだった槍に、斬り付ける攻撃が加わった

だけで、そのバリエーションは大幅に増えていた。弧を描き、槍全体を回転させる”円の動き”で

次々とラーハルトに攻撃を加えていく。赤い槍先がまるで流星のように舞い、光の尾を引いて

着弾し火花を散らす。

 

 

「あの石突き、実はサナイェンで出来ているんですよ。」

 ノヴァがそう言うと、ロンはなるほどな、とアゴを撫でる。サナイェンと言うのはおよそ武器に

使うにはあまりにも質量が重い金属、それをあえて採用した弟子の意図に感心する。

 元々石突き(槍の柄の後ろにある打撃用の小さな棍棒)が無かったあのランスにわざわざ

付けたのは、単に打撃用としてだけではなく、槍の重量バランスを前後で50:50にする

目的があったのだ。

 

 かくして槍の中心の柄を持てば、そこから労せずにくるくる回して刃と石突きを交互に

繰り出せる仕様になっていた、今までのリヴィアスの刺突槍の性能を損なわず、新たに

横斬りの能力を備えた武器に進化していたのだ。

 

 -カッ、ガキィン!キン、キンッ、ビュオンッ-

 

 金属音と風切り音を響かせながらふたりの戦いは続く。速度と手数は相変わらずラーハルトが

一枚上手だが、一発の重さと必殺性はリヴィアスに分がある。それに加えてリヴィアスの方は

槍を振るうたびにその性能に感激し、新たな使い方を学習しながら戦っていく。

 逆にラーハルトは最初から飛ばし続けたツケが出始めていた。体力が徐々に失われており

呼吸が徐々に荒くなってきている。飛翔呪文で体力を温存してきたリヴィアスとはやはり

持久力に差が出てくる。

 

 やがてリヴィアスが攻勢に転じ、防戦一方に追い込まれるラーハルト。刺突が、

横薙ぎの刃先が、打ち下ろしの斬撃が、蛍の光のような帯を伴って次々と襲い来る。

(今度は俺の方が、一発勝負を強いられるとはな・・・)

心ではそう毒づきながらも、逆転の一撃を虎視眈々と狙うラーハルト。と、リヴィアスの攻勢が

一瞬ふっ、と止む。

 

(ここだ!)

 罠でも何でもいい、乾坤一擲の攻勢に出るのはここだ!と反撃の槍を振るうラーハルト。

 

 -ばっきいぃぃぃっ!-

 

 次の瞬間、ラーハルトはリヴィアスの右ストレートパンチをモロに食らい、豪快に

吹っ飛んでダウンする・・・まさかの素手攻撃とは。

 

「ノヴァの言った通りだったな、お前光しか見えてなかっただろ?」

 殴られた頬を抑えながら、あ!確かに、と納得するラーハルト。奴の槍先が光っていたせいで

それを目で追う内に、その赤い光しか”攻撃”として認識できなくなっていた。

まさかあの閃熱槍が目くらましになっていたのか・・・

 

 よろめきながら立ち上がるラーハルト。と、リヴィアスは槍を突き立て、赤い首巻(レッドネック)

外して槍に引っ掛ける。

「何の・・・マネだ!」

 追撃しない相手に語気を荒げて問う。それにおどけた態度でリヴィアスが返す。

「魔法力切れだよ・・・槍にはクールダウンが必要だし、もうトベルーラも使えないんでな。」

 

 そこで言葉を区切り、ひとつ深呼吸した後に、ばちん!と拳と掌を合わせて言う。

「どうだい、最後は(コイツ)でケリを付けようぜ!」

 

「面白いっ!」

 鎧化を解き、魔鎗をリングに突き立てたラーハルトが、拳をゴキゴキ鳴らしながら歩いてくる。

手の届く距離で対峙するふたりの漢。

 

-いっくぞぉぉっ!!-

-おらあぁぁぁぁぁっ!!-

 

 

 なお、この試合が会場にいた全員が予想した通り、ボコボコの殴り合いの果てに顔を

ブドウのように腫れさせた二人が、ダブルノックアウトで引き分けで終わったのは言うまでも

無いだろう。

 

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