魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第75話 艶やかなりし竜虎対決

「マァムさん、でしたね。お相手して頂けますか?」

 水の竜と同化し、その頭から上半身を出したミールが、彼女を指差して指名する。

本来ならこの対戦は、地上の十傑側が誰が出るかを選ぶのだが、あえて逆指名をするミール。

「ええ、勿論そのつもりよ!」

 お立ち台から一歩踏み出し、頭髪をまとめたお団子のヒモをきゅっ!と締め直して

リングに上がるマァム。

 

「珍しいな・・・マァムならあの娘と戦いたがらないと思ったけど。」

 ポップのその呟きに皆もうんうんと頷く。呪われた体と魔界を救う使命を持ったミールに

指名されたとはいえ、ためらいなくそれを受けるマァムに一同が違和感を覚える。

 

 ただ一人、事情を知るチウを除いて。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「あなた・・・ザムザを知っているの?」

 試合前、小さな石碑に刻まれたその名に驚愕するミールにマァムが問う。彼女はおそらく

その風貌からしてこの後に対戦する魔界勢の1人なのだろう、その彼女があのザムザを

知っていたとしても不思議ではない。

 

「ええ・・・面識はありませんが、それでも私の人生に大きく関わった方です。」

 ミールは自分の物語をかいつまんで話す、父がバーンの為に研究者となり、そこで出会った

天才ザムザに敗北感を味わい、その屈辱を晴らすべく研究に没頭した結果、自分はこのような

姿になったのだと。

「ザムザ氏の最後、お聞かせくださいますか?」

 

 答えてマァムが彼の事を語る。自らまで怪物に成り果ててまで最強の生物を目指した事、

勇者ダイの一刀によって最終的には敗れたが、その研究を父に託して笑って死んでいったこと。

そして、戦い始めてからは逃げも隠れもせず、堂々と戦い散って言った事を。

 

「それを聞いて安心しました。戦士として死んだというなら彼も本望でしょう、まして勇者に

敗れたのなら。」

 そう言いつつ天を仰ぎ、父ケートスに良い土産話が出来たと思いを馳せる。たとえ自分が

それまでに寿命尽き果てたとしても、きっとオグマ達が届けてくれるだろう。

 

 と、チウが口を挟む。というより挟まずにはいられなかった、マァムが謙遜するあまり

あの時の自分の活躍を全く語らなかったから。

「最終的にトドメを刺したのは勇者ダイだけど、それまで堂々と渡り合ったのはこのマァムさん

ですよ!」

 えっへん!と胸を張るチウにマァムは「余計なこと言わないの!」とたしなめるが、ミールは

その言に目を丸くして返す。

「あなたが・・・超魔生物と成ったザムザ氏と・・・?」

 彼女が武道家である事は理解できる。単に武道着を纏っているだけではなく、その姿勢から

感じられる体幹の強さや隠そうとしても滲み出る筋肉の付き方など、人間の女性の中では

突出した強さの空気を身にまとっている。

 だが、相手が超魔生物となれば話は別だ。父が遠く及ばぬと認める研究者が行きついたその

戦闘形態を、ただの人の身で凌駕してみせたと言うの?

 

「ならそのお力、是非拝見したいものです。」

 そう言って踵を返すミール。自分には縁が無かったはずの地上、人間界で思いがけず出会った

運命の糸を手繰った先にいた女性武道家、彼女との戦いもまた己の人生に刻むべき価値があると

信じて。

 

 見送るマァムもまた彼女との戦いを覚悟していた。今日この時までは、まさか今日自分が

戦うとは思っていなかった、相手の魔界勢とはオグマの腕の治療をしたくらいで、あまりにも

戦いの縁が無かったから。

 

 だけど、出会ってしまった。過去に自分が戦い、敗北に追いやった強敵と繋がっている存在に。

 

 

 そして大会、彼女の演説を聞いたマァムはますます自分が戦うべき運命にいる事を知る。

しかも彼女は水を水竜に変えて武器として見せた。ならば出るのは私しかいない、

彼女をケガさせずに取り押さえられるのは自分しかいないだろう。その上指名までされて

引く理由はどこにも無かった。

 

 

 「それでは!第三試合、始めてくださいっ!」

 

 -ごわあぁぁぁ・・・ん-

 

 武道家らしく一礼した後、大きくスタンスを広げて構えるマァムに、ミールは水竜を操作して

その口から水のつぶてを撃ち出し、攻撃を開始する。

水弾(アクア・ブレッド)!」

「はっ!」

 横っ飛びでその飛沫を躱すマァム。着弾した水弾はなんとリングの石板を吹き飛ばす!

見た目以上の威力に思わず会場がどよめく。かさにかかってつぶてを次々吐き出して攻撃を

続けるミール。

 

 と、マァムは足を止め、腰を落として手刀の構えを取る。あの水弾の威力は理解した、

あとは己の身につけた強さで粉砕すればいいだけだ!

「武神流、猛虎海断手(かいだんしゅ)っ!!」

 -ッパアァァァン!パンパンパァンッ!-

 マァムの手刀が水弾を次々に両断していく。その様にミールは驚愕し、チウはさすが

マァムさん、と笑みをこぼす。

 

 あの大戦後もマァムは自らを鍛える事を忘れなかった。中でも心血を注いだのは、アバン流で

言う”海の技”、つまり火炎や水など形の無い攻撃を粉砕する神速の技だった。

 もし自分に大魔王バーンのカイザーフェニックスを粉砕するほどの対魔法攻撃があれば、

返す刀で閃華裂光拳を直撃させることも出来たかもしれない、そんな反省からマァムは

最大の打撃技の猛虎破砕拳をベースに、威力を落とし速度に割り振った様々な対魔法攻撃を

習得していたのだ。

 

 だからこそマァムはこの戦いに乗った。水を使うミールに対してそれらの技は最適だろう、

そしてアバン流”海の技”を使えるダイやヒュンケルでは彼女ももろともに斬ってしまう

恐れがある。ならば自分が出てあの水竜を粉砕し、なるべく無傷で彼女を取り押さえて戦いを

終わらせられればいい、それが私のやるべき事だ、と。

 

 水弾が効かないと悟ったミールは、その身を任せる水竜をダイナミックに動かし、風を巻いて

マァムに襲いかかる、水竜の爪を氷系呪文(ヒャド)で固体化して斬りつける。

氷の爪(ロック・クロウ)!」

 

「猛虎咆哮牙っ!」

 マァムもさるもの、ヒャドを使って固体攻撃に切り替えたことを瞬時に見抜き、すかさず

威力と体の芯を乗せた飛び蹴りで氷の爪を粉砕する、交錯して着地するマァムに対し、

ミールは水竜の動きを止めずに弧を描いて身をひるがえし、今度は尻尾についたウチワの

ような水かきを撃ちふるう。

 

 それを十字受けで止め、水の尾を体ごと突破するとすかさず後ろに飛んで追撃し、

ジャンプからのサマーソルトキックを竜の尾に叩きつける。

「猛虎瀑布断!」

-バッシュウゥゥゥ-

 マァムの蹴りにより叩き落とされた水竜の尾が地に落ち、ただの水たまりに還る。ミールの

操る水は、彼女と水を通して繋がっていなければ力を得られない。それをここまでの戦いで

マァムはよく理解していた。

 

 ミールの水竜が飛び、うねり、そして攻撃する。対するマァムはどっしりと地に足を付け、

時に駆け、時に力強く飛び上がってその体を少しづつ粉砕していく。

 

 

「艶やかなりし、竜虎の戦い、とでも言うべきですかね。」

 

 アバンの言葉に周囲の皆がほぉ~、と感心する。確かにミールはまんま竜だし、対するマァムの

力強く躍動感あふれる戦いは虎に例えるにふさわしい。その技名が”猛虎”を冠している

ものが多いとなれば猶更だ。見目麗しい竜と虎がリングの上、まるで絵画のような華麗で

艶やかな戦いを展開している。

 

 だが大勢は明らかだ、水竜は猛虎の攻撃によって次々とその身を削られ、次第にその体は

短くなっていく。

『いかぬな・・・勝ち目が見えぬのもだが、何より・・・』

 ナタルコンの言葉に息を飲むオグマ達。彼らは相手や観客と比して、勝負よりミールの

力使用による若返りに心を痛めている。現にミールは既に10歳以下の風貌まで遡り、

きらりんと変わらぬ幼さになってしまっている、このままでは・・・。

 

 だが観客はその事実に気付いていない。それはミールが動きを止めずに戦い続けているのが

主な原因だが、彼女にしてみればそれこそが狙いなのだ。己が時間と共に、力を使うたびに

若返るという先程の演説に説得力を持たせるためには、気が付いたら誰が見ても分かるほどに

幼くなっていた、と認識させる必要があったのだ!

 

(もう少し・・・もう少し持って下さい、水竜!)

 マァムの攻撃に体を削られ、それに対抗して力を使うたびに寿命を削られながらもミールは戦う。

だが攻撃は苛烈を極め、ついには竜の顔を残して全ての体が消し飛ばされてしまった。

ここまでね、と動きを止め、改めてマァムと対峙する。

 

「え、えええええっ!!!」

「ま、マジ・・・だったのか!?」

「なにアレ!本当に若返ってる!うっそでしょ?」

 

 試合が止まったことで、ようやくミールの姿を目視した観客から驚きの声が上がる。

与太話だと思っていた彼女の呪いが今、目の前で証明されていたのだから。

 そしてそれは彼女が語った他の話にも説得力を持たせていた。もしかすると彼女の言うように

本当に魔界はピンチなのかと思わざるを得ない。

 

「ミールさん、もう降参して。貴方の願いは私が保証するから。」

 マァムがそう告げる。ここまで真実を見せつけられた以上、誰も彼女の話を疑わないだろう。

ならば彼女の願い『魔界と天界の争いに地上は中立であって下さい』を拒む理由はない、

戦いには負けても、寿命を縮めてしまっていても、それに見合う見返りはもう手に出来たの

だから。

 

「それは・・・出来ません。」

 ミールはそう返すと、懐から小さな果物を取り出し、かじる。

「リヴィアスもオグマも、魔界の戦士は皆、我が身を顧みずに戦いに身を投じます。私だけが

あぶら子になるわけにはいきません!」

 

 そう言って全身を竜の頭に沈め、今食べた果物の糖分を瞬時に発酵させ、その力を水竜に与えて

残りの水を全てアルコールに転化する。

「これが・・・最後の技です、行きますよマァムさん!」

 竜の頭から手だけを出すと、その指先に仕込んだ火打石をかちっ!と打ち鳴らす。

 

 -ごおぉぉぉっ!-

 

 途端に火だるまとなる竜の頭、可燃性のアルコールが激しく燃え盛り、水竜は炎の竜と化す。

酒呑火炎竜(しゅてんかえんりゅう)。」

 

 それを見た十傑勢が一様に驚愕の声を出し、かつての悪夢を思い出して叫ぶ!

「まんまカイザーフェニックスじゃねぇか!」

「鳥じゃなく龍だが・・・まさに!」

「いかぬ!あれを食らったら、いかにマァムといえど・・・」

 

「GO!」

 ミールの合図とともに、斜め上からマァムに突っ込んでいく炎の竜の頭!

 

「はあぁぁぁぁぁ~~~」

 息を吐き、気を吐いて全身に力を漲らせるマァム。まさにあの大魔王の必殺技に匹敵する

火炎が私に迫っている、今こそ修行の成果を見せる時!

 

 半身に構え、両手を大きく前後に突き出して、迫りくる炎の竜を真っ向から見据えるマァム。

そしてその竜の鼻先が、マァムの左の掌に触れた瞬間!

 

「猛虎・双撃掌(そうげきしょう)おぉぉぉっ!!」

後ろに構えていた右掌を左手の甲に打ち付ける、その衝撃で炎を真っ向から蹴散らして

そのまま竜の頭の中に、その中にいるミールに向けて突っ込む!

 

 -ぶぉわっ、ばっしゃあぁぁぁあぁ・・・ん-

 

 炎が霧散し、水が全て地に落ちる。リング中央にいたのはヒザをついたマァムと、その彼女に

両肩をやさしく掴まれた小さな少女だけだった。

 

「参りました、降参です。」

 そう告げるミール。最後の瞬間マァムはミールに掌底を打たず、その肩を優しく掴んで

自分を水竜から引きはがした。やろうと思えば私を叩き殺すことも出来ただろうに。

ここまでされてはさすがに負けを認めないわけにもいかなかった。

 

 が、言葉を受けたマァムは下をむいたままミールを見ない。そのままふるふると震え出し、

やがてがばっ!と顔を上げる、涙をだばーっ!と流しながら、顔をくしゃくしゃに歪めて。

「うっく・・・ひぐっ!こんなにちっちゃくなっちゃって・・・もう貴方って人は!」

「私が望んだ戦いです、どうか勝ち誇って下さい、それが私の報酬です。」

 

 魔界勢はさすがに愕然としていた。ミールはついに5~6歳まで若返ってしまっていたからだ。

幾ら試合で自分の言を証明するためとはいえ、ここまで若返ってしまうとは・・・やはり試合を

させたのは間違いだったのか、と歯を軋ませる。

 

 十傑側も全員がいたたまれない気持ちだった。あの優しいマァムに残酷な役目を負わせて

しまったと胸を痛める。ならばその分、彼女の願いをしっかり受け止めなければなるまい、と。

 

 -パチパチパチパチ・・・-

 

 拍手を始めたのはアバンだ。それに応えて周囲の面々が、そして魔界勢が、さらに観客が、

それに追随して盛大な拍手を送る。

 

 我が身を削る美しい竜と、それに応えた華麗な虎に惜しみない喝采を。

 

 

 リングではマァムがミールを抱きしめていた。

 

「あ―もう!健気にも限度ってものがあるでしょう・・・なにこの可愛い娘は!」

「あの・・・一応私は貴方より年上なんですけど。」

 

 と、マァムががばっ!と顔を上げ、ミールを至近距離でじーっ!と見る。

「え、えと・・・マァム、さん?」

「口答えしなくていーの!あなたは私より年下で可愛いの!いい?」

「え、あ、は、はい・・・」

 目の座ったマァムにガンを飛ばされて思わず気圧されるミール、っていうかなんかこの人

顔赤いんですけど・・・

 

「それでもって健気なの、魔界のために尽くし過ぎなの、そんなにちっちゃいのに

無理するもんじゃないの!」

 なんかいきなりスイッチが入ったようにお説教を始めるマァム。かと思えばまた涙を流し、

そうかと思えばケラケラと笑いだす、これは一体・・・

 

「あ”、確か・・・アルコール、って・・・」

 チウがはっ!と顔を上げ、次の瞬間に真っ青になる。そう、確かマァムさん・・・

 

 観客席では母レイラとブロキーナ老師が揃って頭を抱えていた。マァムにいい(ヒト)

出来ないもうひとつの理由が、よりによってこの公衆の面前で顔を出すとは・・・

 

「あーもう熱っついわね、アンタのせいよー!もう脱ご脱ご!」

 そう言うなり武道着を脱いで下着姿になるマァム!会場が一斉にどおぉぉぉぉぉっ!と沸き立つ。

挙句の果てには「アンタも熱いでしょ、ほら脱ぎなさい!」とミールの服に手をかけ、

ひん剥こうとする始末だ。半裸でリングを駆け回る女性二人

「や、止め・・・いやぁお父さーんっ!」

 

「取り押さえろぉっ!!」

 ロモス王の指示でマァムに群がった大会役員がまとめて吹き飛ばされる。完全に酒乱状態で

無敵状態のマァムに素人がどうこう出来るわけは無いのだ。やむなく十傑が総出で出動し、

クロコダインがマァムを羽交い絞めにしてなんとか取り押さえ、事無きを得る。

 

 その様をアバンの横で見ていたポップが一言、こう漏らした。

「竜虎・・・マァムの虎って酒乱(そっち)のトラかよ。」

 

 アバンは口笛を吹きつつ、やや赤みがかった空を眺めてその言葉をスルーした。

 




お色気担当のマァムさん。無論シラフに戻った後、ミールに平謝りに謝りましたw
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