「あの・・・もうそろそろ、いいのでは?」
魔界勢のお立ち台の中央で正座したミールは、呆れ汗を流しながらそう懇願するが・・・
「ダーメ!あと10枚は貼っとかないとね。」
にべもなく却下したきらりんが、魔法の筆で短冊に文字を書いてはミールの体にぺたぺた
貼り付けていく。
”戦い禁止”、”能力封印”、”若返り阻止”、”頭脳労働担当”などなど書かれた
御札が頭から足まで貼り足されていく、すでに全身お札だらけでまるでご神木である。
「なんかさー、借金した家財に差し押さえの張り紙されてるみてーだな。」
リヴィアスのその感想にケラケラ笑うフィガロや偽勇者一行。魔界では考えられない常識に
オグマは思わず首を傾げる。
とうとう5歳児ほどの見た目まで若返ってしまったミール、まだ地上に来て1ヶ月余り
だというのに、18歳から5歳まで寿命を使ってしまったとなれば、ここからはもう大事に
行ってもらわないと、ときらりんの魔力を込めたお札で行動制限を施しているのだ。
・・・まぁ、かなり今更ではあるが。
一方、王族の居並ぶ観客席では、主催のロモス王に大会役員の偉いさんとおぼしき男が
耳打ちして意見を述べる。王もううむ、と唸ると、止むを得まいと頷いて立ち上がり、
王族席の最前列まで歩くと、魔法の拡声器で会場中に告げる。
-皆々の者よ、夕刻が迫っておる故に、次の戦いを最終戦とする-
その宣言に思わず、ええー!と嘆きの声が上がる。だが確かにもう陽も西に傾いており
日没まであと一試合が限界だろう。元々本大会の後のエキシビションマッチで、
午後に入ってからの進行だっただけに時間が押してきていたのだ。
しばらくざわついていた会場。その空気が一変したのは、誰かが発したコールだった。
「ダーイ!ダーイ!ダーイッ!!」
わずか数秒の後には、それは会場を揺るがす大合唱と化していた。この十傑VS魔界の試合で
世界を救った勇者ダイの戦いを目にせずに帰れるものか!否、帰れるわけがない!!
-ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!-
-ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!-
「うわぁ・・・なんかプレッシャーだよ、これじゃあ・・・」
ダイが思わず頬を掻きながら冷や汗を流す。出るのはいいけど、これだけ期待されたら
どんな凄い戦いをしなくちゃいけないのやら・・・
「よっ、人気者!」
そう言って肩を叩くポップに、他人事だと思って・・・とジト目を返す。だがポップは
「アレ、アレ」と王族席の方を指し示す、目をやればロモス王、ベンガーナ王にレオナまで
ノリノリでダイコールに乗っかっている。さすがにこれで出ないわけにはいかないだろう。
しょうがないなぁ、とため息を吐くと、心のスイッチを入れてリングに向かうダイ。
とっ!とリングインし、右手を天に突き上げて声援に応えると、会場の
最高潮にまで高まる。
だがそれも無理なき事、あの大魔王バーンとの死闘を制したその力は、ある意味万民の
憧れでもあるのだ。誰もが望み誰も手に入らない最強無敵の力、ならばせめてそれを
目撃したいと思うのは人の業というものだろう。
-ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!ダーイッ!-
「じゃあ、頼むぞオグマ・・・おい?」
リヴィアスの言葉にも、オグマは頭巾をかぶったまま俯いて動かない。それどころか
その体が小刻みに震えている。その様を見てフィガロが、そして偽勇者一同が思わず
はぁ、と鬱気を吐き出す。
(怖いのか・・・まぁ無理ないよ。相手はあの勇者ダイだし、ましてこの空気じゃ・・・)
フィガロがそう思った時だった。オグマはくるっ!と振り向き、皆に正対してこう告げた。
その目はらんらんと輝き、口元は笑みを抑えるかのように膨らんでいる。
「皆、ありがとう!皆と出会って俺は、こんな大舞台に立つことが出来た!!」
獣人でありながら体が小さく、小集落の中でも一番弱かったかつてのオグマ。その彼が
今この大舞台で、地上最強の英雄と雌雄を決する時を迎えている、なんという栄光であろうか!
力こそが正義の魔界を代表して、戦士としてその場に上がる事に対する感動に打ち震える。
「なんじゃい、武者震いかいな。」
まぞっほの指摘に、付き合いの長いリヴィアスとナタルコンがこう続ける。
「ま、こーいう奴なんだよ、コイツは。」
『なればこそ、我を振るう資格があるのだ、良きかな!』
「ご健闘を!」
「勇者退治、任せるよ。」
ミールときらりんがオグマにウインクを送る。リヴィアスは「行ってこい!」とオグマの
肩を叩く。でろりん、ずるぼん、へろへろ、まぞっほが手で拳を作り、ぐっ!とオグマに
突き出し、一呼吸おいてフィガロもそれに続く。
今一度、皆に深々と頭を下げるオグマ。ばっ!とリングに向き直ると、その黒衣をばさぁっ!と
脱ぎ捨ててリングに向かう、未だ鳴りやまぬダイコールの中、胸を張ってリングインする。
「来たかオグマ、そして魔剣ナタルコン!」
「知っているのか?クロコダイン。」
ヒュンケルの問いにクロコダインが語る、元々この大会を開催するきっかけがあのオグマ達と
自分の戦いなのだ、その堂々とした戦いぶりをして魔界の
彼の有り様をより多くの人に見て貰いたいが為に、今日のこの場があるのだと。
リング中央、対峙するダイとオグマ、そしてナタルコン。
「テランの湖以来だな、勇者よ!」
オグマの言葉にうん!と頷いたダイは、その手にある魔剣に向けてこう話す。
「あんたが、さっきミールさんが言ってた魔剣だね。」
『いかにも、魔界皇ヒュンケルの懐刀、ナタルコンなり。』
確認を取ったダイは、その目を見据えて言葉を返す。
「ゴメちゃんを・・・神の涙を恨むのは筋違いだろ、悪いのはあんたの主人を刺した
刺客じゃないか、それに、力こそが正義っていうなら、防げなかったあんたの主人だって!」
『貴様は知らぬのだ!あの時の覇者の装備は明らかに主を害しようとしていた、剣は殺意に満ち
鎧はまるで豆腐のように刃先を呼び込んだ!』
え?という顔をするダイ、そしてオグマ。
『何が最強の剣、無敵の防具だ!主の望みに反し、刺客と共謀して我の主を害するなど!
覇者の装備?神の涙が与えたもうた神具?笑わせるな!』
『我は必ずあの”神の涙”に落とし前をつけさせる!それが我の勝利の暁の望みだ!
止めたいなら見事我らを倒して見せよ!!』
「ゴメちゃんを・・・お前たちに、好きにはさせない!!」
-ガッシャアァァァァン!-
「あ・・・!」
ダイが高揚した瞬間、彼が背負う”ダイの剣”が鞘の封印を解き、主の手で抜かれるのを
待ち構える。
(また・・・戦う時を選ぶ俺の剣が、あの泉の時も、そして今も・・・この
そのあまりの威力に、必要のない時には決して抜けないダイの剣が、この敵を前にして
まるで望むかのように封印を解いてくる、その様に違和感を感じずにはいられない。
『フ・・・フハハハハ。こやつも戦いたがっておるわ!ダイの剣!否・・・”覇者の冠”よ!!』
-ガッチャアアァァァン!-
ナタルコンを納めているシルバーミミックの鞘が縦に割れる!それはパーツに分かれて
後方にスライドし、前半分はナタルコンの刃先に並んで三又の刃となり、後ろ半分はオグマが握る
グリップを包むナックルガードとなる。
「その鞘、その分かれ方・・・まさか、ロン・ベルクさんの?」
「そうだ!ロンさんに改造して頂いた。お前のダイの剣に挑むにふさわしい武器に、とな。」
ダイの質問にオグマが応え、ナタルコンはその刃から暗黒闘気をぶわっ!と燃え上がらせて
ダイの剣、かつて覇者の冠だったその最強剣に相対する。
ロン・ベルクはオグマとナタルコンの戦法、光と暗黒の闘気をお互いに高め合うその関係に
いたく感じ入っていた。こんな剣と使い手の関係が存在するとは!
ならばその関係をより生かす為の改良に重きを置くべきと考え、その刀身を包むミミックの
鞘の改良に心血を注いだ。
オグマの持つ竜牙の手甲を材料に加え、鞘が刀身を包んでいる時にはその鞘がオグマの
光の闘気を発揮できるよう、鞘の表面に光の闘気を伝道させるコーティングを施した。
そして鞘が解放されれば、中で増幅されたナタルコン暗黒闘気が刀身を包みつつ、分かれた鞘の
部分でオグマの光の闘気を同時に使えるようにしてみせたのだ。
納めるべき鞘と剣か一体化し、光と暗黒の両方の力を使える”光魔剣”へと進化を遂げた。
紅に染まる武術会場にて今、誰もが目にしたことのない武器と力が激突しようとしていた!
『さぁ抜くがよい、勇者ダイよ!今こそ我らの力、見せてくれようぞ!』
絵入りなので短めです、スマン。