その新年一発目にこの話を持ってこれたのは良かった、かなり渾身の1話です。
-キラッ-
-ドグアァアァアァァァアァァァアァァァアァァ!!!!-
轟音!衝撃!!振動!!!そして閃光!!!!
その淵に展開されている結界目一杯に充満し、轟音を響かせて荒れ狂う。
竜、光、闇の闘気、そして雷と真空の渦がシェイクされたその空間は、何者の生存をも
許さない勢いで吹き荒れ、踊り狂う!
地獄と化したリングを中心にして、そこから双方に50mほど離れた地点で煙が上がっている。
見れば観客席の1階と2階の間の壁にオグマが背中から激突していた、レンガの壁に
体をめり込ませ、ひび割れた破片がボロボロとこぼれ落ちる。
一方反対側では、国王席のすぐ隣の階段にダイが尻もちをついて座っている、彼のすぐ前の
階段は飛ばされてきた勢いで粉砕されて、ガタガタのスロープと化している。
あの激突の勢いで両者はリングから叩き出され、50mも離れた客席部まで吹き飛ばされて
いたのだ。
-ズズズズズズ・・・-
未だリングではエネルギーが荒れ狂っている、思えばリングと結界で覆われたあの場から
吹き飛ばされたのは二人にとって幸運だっただろう、もしあの場に止まれていれば、
あの荒れ狂う空間に取り残されることになったのだから・・・結界が呪文や闘気は通さないが
肉体は通すことが彼らの命を繋いだのだ。
「ね、ねぇちょっと・・・ヤバくない?」
観客席の最前列にいた女性が連れの男にそう声をかける。激突の衝撃波による空気の振動は
客席まで届き、肌をピリピリと叩くほどに響いた。もしあの結界が壊れたら、私たちは・・・
彼女のみならず、観客の誰もがその威力にある種の脅威を感じていた。本当にここは
安全なのか?自分たちが見たいと願った勇者ダイの実力、それは呑気に観戦できるような
類のものではなかったんじゃ・・・認識が甘くなかったか?
と、客席の壁にめり込んでいたオグマが、ぐらっ!と体を傾けて地面に落下していく。
-ドシャアァッ!-
うつぶせに地面に倒れるオグマ、続けざまにそのそばに、彼の短剣がどすっ!と突き刺さる。
さすがにこれは決まったか?と誰もが思う。
-ざわっ!-
「く・・・」
だがオグマは終わらない!ヒザを立て、手をついて体を起こすと、よろよろとよろけながら
傍らにいるナタルコンに歩を進める。
『なんという・・・威力だ!あれが竜の騎士か。』
ナタルコンもそれに応え、宝玉の眼で相棒を見据える。その目は雄弁に語る、まだやるか?と。
オグマは返事の代わりに、ナタルコンの柄をがっしりと掴む。まだだ、まだ諦めるわけには
いかないんだ!
「ま・・・まだ、やる気かよ。」
「無茶苦茶だ、あいつらのパワー、怖ぇよ!」
ふらふらとリングに進むオグマを見て観客は思わず引く。その心意気にもだが、なにより
自分たちが今いるこの場に危険を感じて文字通り一歩引く。最前列から2段目、3段目へと、
潮が引くようにリングから距離を取る。
「ダイ君!大丈夫?」
王族席からレオナが声をかける。ダイは未だ尻もちをついた状態で座り込んでうつむいている。
その表情は伺えないが、その雰囲気はどこか普通ではない空気を纏っていた。
ダイにはレオナの声は聞こえない。ただ頭に響くのは、左右の手の甲にある竜の紋章、双竜紋からの
敵を倒せと言う強烈な訴え。否、命令だった。
-奴を倒せ、敵を殺せ、我の力で悪を滅せよー
(そうだ・・・戦わなきゃ、アイツを・・・倒さないと・・・ゴメちゃんが・・・)
ゆらり、と腰を上げるダイ。観客からはおおっ!という声が上がる。とりあえず無事なら
ここからはもう楽勝だろう。相手の熊人はフラフラだ、もうあんな凄まじい技を使うまでも無く
勇者の勝利に終わる・・・
-ドンッ!!!-
顔を上げ、前を見据えるダイを見て、観客は己の認識の甘さを自覚し、忘れようとした恐怖が
全身を駆け巡るのを感じ取る。
ダイの額には、顔の大きさほどもある竜の紋章が光を放ち、そこから発せられる闘気が
周囲の観客を、すぐ際の王族席の王たちを、ビリビリビリィッ!と圧倒する。
「ダ・・・ダイ君、それって・・・」
レオナは今のダイを知っている。あの額にある大きな紋章は、かつて竜魔人と化した
バランが携えていたものと同じだし、今の彼の座った目と表情は、かつて大魔宮で見た
己の全てを賭けて魔獣と化す、その時の直前の表情を連想させる。
「竜、魔人・・・化。」
ダイはレオナに一瞥もくれずに、ふわっ!と飛翔呪文で浮かぶと、そのままリングまで飛ぶ。
下には降りずリング端の上空に浮かんで、倒すべき敵を睨み下ろす。
オグマはナタルコンを杖にしながら、ようやっとリング端まで辿り着くと、石板の上に
よじ登って勇者を見上げる。
あれだげの爆発を演じ、これだけのダメージを負って、両者の心は未だに折れない。
ダイはすっと手を前に出すと、その両手の指を絡み合わせる。それを横倒しにして、
まるで竜の顎のように、ゆっくりと開いていく。
その手の中に、青い闘気がヴン!と灯された時、観客の全員が死と恐怖を予感する。
「
思わず叫ぶクロコダイン、かつてテランで経験したあの超呪文を、この場で放つつもりか!
もし結界が持たなければ、我らも観客も全員消し飛ぶぞっ!
「止めろーっ!ダイ、正気に戻れーーっ!!」
「バッカ野郎っ!目ぇ覚ませよぉっ!!」
ヒュンケルとポップの叫びもまたダイには聞こえていない。聞こえるのは眼下の敵を殺せと
囁く竜の紋章の、戦いの遺伝子の記憶。
代々の彼らは天の騎士であり悪を滅する存在である。格闘競技者でもなければ武術家でもない、
彼らの戦いとは、あくまで敵を殺す事なのだ。
手を開き、その中にある竜闘気が猛り狂い始めた時、ダイの頭に声が響く-
-よせ、ディーノ-
(あ・・・!)
はた、と気を戻すダイ。強烈な殺意や破壊衝動はそのままだが、それをわずかな理性の
灯が辛うじて制御する。ダイは下に向けていた両手を天にかざし、上を向いてその力を開放する。
「
-ズドオォォォォッシュウゥゥン-
天に放たれた竜の咆哮は、ます青白く野太い光のレーザーとなり、次いで虚空で大爆発を
引き起こした。
-ドッグワアァァァァアアァァァァ・・・ン-
その爆発は空気を引き裂き、まず音の衝撃が一斉に降り注ぐ。次いで熱波と粉塵が十傑に、
魔界勢に、王族に、そして観客に平等に降り注ぐ。
誰もが言葉を失う、そのあまりに馬鹿馬鹿しい威力に。いかに魔法だろうと、勇者だろうと、
そして竜の騎士だろうと、たったひとりの人物が生み出していい威力ではないだろう、これは!
皆が冷や汗を流す中、ただ二人脂汗を流している者がいた、リヴィアスとフィガロだ。
アレだ!あの日、俺達の故郷を、仲間を、家族を、そして国を消し去ったのは間違いなく
あの爆発、あの技だ!!
身震いしながらも、ぎりりっ!と歯を軋ませてダイを睨み上げる二人。
ダイは手を下ろすと、下にいるオグマに向き直り、やや落ち着いた理性で声をかける。
「ゴメちゃん・・・神の涙の事は、諦めろ。」
そう言って静かに手をかざし、再び両手の指を噛み合わせる、その意図は明らかだ。
降参しろ、さもなくば今度は当てる、例え周囲がどうなろうともだ!と。
ダイは己の中に沸き上がる殺意を懸命に抑えていた。額の大紋章からの声に懸命に抗い、
なんとか自分の荒ぶる心を収めたかった・・・頼む、降参してくれ!
「ふざけるなあぁぁぁぁっ!何故外した、俺は逃げも隠れもせんぞおぉぉっ!!」
会場に響くオグマの絶叫が、この場の人間全ての運命を決めた。
ダイの頭の中で何かがぶちっ!と切れた。理性は殺意で塗りこめられ、行動の意志に
迷いは消えてなくなった。
「やめろオグマ!それは・・・それだけは受けるなあぁぁぁぁっ!!」
「オグマさん!降参してください、それを喰らってはダメですーー!」
リヴィアスとフィガロが絶叫する。その威力を誰よりも知っている二人が、再びそれで
仲間を失う恐怖に背筋を凍らせる。
「ひ、ヒイィィィっ!」
「ヤバいっ!逃げろおぉぉぉっ!!」
「もう嫌ぁーーーっ!」
観客がパニックを起こして逃げ始め、我先にと出口に詰め掛ける。もし結界が持たなければ
その行為はあまりにも遅すぎるというのに。
「王様!ご避難を!」
「うろたえるなアキーム!わしは勇者殿を信じておる、我らを巻き込むような事があるものか!」
ベンガーナ王が側近の兵を叱りつけるその横では、レオナが3賢者に目配せして言葉を待つ。
「大丈夫です、あの結界なら例え黒の核晶の爆発さえも受け流します!」
アポロがそう断言し、マリンとエイミも首を縦に振る。さっきの剣技の衝突の時もあの結界は
その威力を奇麗に受け流して、最後にはそれを空に逃がしていた。いかに強烈な呪文や闘気であっても
それがエネルギーである以上あの結界は敗れない、筒状に展開しているので威力は地面と空に
逃がすことが出来るはずだ。
「ダイ・・・オグマ!」
ロモス王は二人を拳を握りしめて刮目する。この大会を主催したのはワシ自身じゃ、ならば
ワシには最後まで見届ける義務がある、たとえ最悪の結果となったにせよ、じゃ!
十傑側のリングサイドではアバンとポップが、魔界側ではきらりんが
その後ろに皆を避難させる。もし万が一結界が吹き飛べば、この魔法が最後のか細い命綱だ。
そしてリングの中央では、オグマとナタルコンが、その竜の顎を真っ正面から見上げていた。
「ナタルコン・・・何か手は無いか・・・!」
『無策か!それでアレを真っ向から受けようとは!この馬鹿正直者め。』
オグマの問いに呆れて返すナタルコン。確かに自分に向けて撃つべき技を故意に逸らされたのは
戦士としては屈辱だろう。だが、あの超威力を前にして、策も無いのに真っ向から向かって
行きたいなどとは・・・つくづくオグマよ!
『我の見立てが誤っておれば死ぬ、その覚悟はあるか!』
「おう!見立てがあるならそれを信じる、何でもやってくれ!」
力強く答えるオグマに、ナタルコンは目を細めて決意を固める。
『数秒、ほんの数秒で良い、あの闘気に耐えてみよ!』
-ガッチャアァァァァァン-
これが最後だろう。なけなしの闘気をかき集め、最後の真空呪文を生み出していく!
「・・・消えろ。」
ダイがぼそりと呟き、その掌の中に竜闘気を集める。あとはこのまま直下に放てば、
直撃の威力に加え、結界によって閉じられている空間で煮られて、溶鉱炉の中の虫のように
消えてなくなるだろう、あの熊人も、そして魔剣も。
『こああああああああっ!』
ナタルコンが
「バギ・クルス・クロス!だがそれでもドルオーラに対抗できるのか?」
でろりんの嘆きにきらりんが答える。無理だよ、真空呪文じゃとても・・・と。
『まだだ、もう、ひとおぉぉぉつ!!』
なんとナタルコン、ここに来てバギクロスをもうひとつ重ねる!6振12斬の真空の刃が
真っすぐに勇者の正中線に狙いを定める!
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
超呪文に大地が鳴動する、空気が怯えるように震える。砂塵が舞い上がり、肌を頬を
殺気が叩き続ける。この世の終わりを予感させるプレッシャーが会場全体を包み込む!
ただ一人、その状況を冷めた目で見ているのはダイ本人だ。あの魔剣の呪文でも
自分のドルオーラには対抗し得ない、せいぜいが竜闘気の一部をかき分けて、自分にそよ風を
届かせるのが関の山だ、と紋章の”戦いの遺伝子”が教えている。
さぁ、終わらせよう。
「
『
あれ?引きが前回と同じ気が…