魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第79話 譲れない願い

竜闘気呪文(ドルオーラ)あぁぁぁ!!!」

 (ドラゴン)の咆哮が解き放たれる。それは極太の青いレーザーとなって、直下にいる

オグマとナタルコンに向かって真一文字に落下していく、絶望的な破壊の未来を内包して。

 

真空極限斬撃(バギ・エグゼド・クロス)うぅぅっ!!!』

 狙いを一点に定めたナタルコンが、己の力を超える呪文を撃ち上げる、真空呪文(バギクロス)をなんと

3つ重ねた超真空呪文!

 だが狙いはドルオーラとの正面衝突ではない、攻撃の芯をわずかにズラして、お互いの呪文の

真芯が交錯してすれ違うように放つ。狙うはダイの両手の下、どてっ腹の部分!

 

 -ビッシュアァァァァァ・・・-

 

 バギ・エグゼド・クロスがドルオーラと交錯し、その竜の咆哮の軌道をわずかに跳ね曲げる。

こと直進性に限ってなら真空呪文であるエグゼド・クロスの方が上だ、その風圧でドルオーラに

わずかな角度変化を強いてオグマ達に直撃する軌道を反らせる!

 

 だが、エネルギーの差は歴然だった。エグゼド・クロスはダイに向かうごとにその威力を

竜闘気の濁流に消し飛ばされ霧散していく。その先端がやっとダイの腹に届いたころには

もはやそよ風の威力しか届かなかった。

 対するドルオーラはその恐るべき破壊力を失わないままに、オグマの背中側わずか1mの地点に

着弾し、そのままリングごと地面を貫通して穴を穿つ、それが3mほどの深さに達した時に

追いついてきたエネルギーが圧縮され、圧倒的な威力で爆発を引き起こした!

 

 -ガガアァァァァァァァァァァァァァァ!!!-

 

 炸裂音を超連発させるような凄まじい爆音を響かせ、空気が肌を引き裂かんばかりに割れ狂う。

1点で圧縮され、そして飽和から炸裂した竜闘気(ドラゴニックオーラ)は高熱と衝撃に置き換わって

瞬時に放射状に拡散した!

 だが、それもリング外周の結界までだ。結界は爆発を受け止めるとそのまま筒状にその威力を

拡散してリングの外に破壊を届かせない、観客や王族たちの身に届くのはあくまで轟音と

空気を震わす余波だけですんでいる。

 

 しかし、それは結界(リング)内にいる者にとっての絶望を意味していた。いかに直撃を

外したとはいえ、あの爆発を至近距離で受け、なおかつ結界に囲まれて威力を逃がせず

溶鉱炉のような高エネルギー嵐の空間にいて存在を保てるはずもなかった、いかに光の闘気で

ガードしたとしても・・・

 

 

 その瞬間だった。爆発の中から一筋の光が天に向かって立ち昇ったのは!

 

 

 

 ダイはドルオーラを放った瞬間、我に返った。ほぼ全ての竜闘気を撃ち出した事により、

竜魔人の破壊衝動がスッ、と消失したのだ。

(ポップ!アバン先生っ!みんな・・・じいちゃんっ!!)

 真っ先に思い立ったのはドルオーラの向かう先に居る仲間達。そうだ、もしあの結界が

持たなければみんなが・・・観客席にはじいちゃんもいるのに!何をやってるんだ俺は!!

 ドルオーラが地面に突き刺さり、相手の真空呪文が自分の腹を優しく撫でた時、ダイは

祈っていた。どうか結界よ耐えてくれ、周囲にいる皆を守ってくれ、と。

 

 彼の願いは叶えられた。結界はドルオーラをなんとか閉じ込め、周囲に被害を及ぼすに

至らなかった、その情景を見下ろしてダイは安堵し、だが大きな自己嫌悪と後悔をその胸に

抱いていた。何もここまで・・・

 

 刹那の後ダイは目にする。眼下の爆熱嵐の中からひとつの光が瞬いたと同時、瞬時に

大きくなったその光が、光の闘気を纏った熊人(ウォーベア)が、その頭に形を成す頭槌が、

自分のどてっ腹に強烈にめり込むのを!

 

 

 -ドボオォォォッ!!!-

 

 

 光線は瞬時にダイに激突し、そのまま(オグマ)とダイは凄まじい速さで折り重なったまま

天に舞い上がっていく!そしてそれを追いかけるように、爆発のエネルギーが尾を引くように

ひとすじの線となって立ち昇っていく・・・何だ、一体何が起きた?

 

「ポップっ!」

「は、はいっ!!」

 アバンがポップに指示を飛ばす。結界が爆発に耐えた以上防御光膜呪文(フバーハ)を張る必要はない。

それよりもあの凄まじい勢いで体当たりを受けたダイの救出が最優先だ、すでに彼らは空高く

舞い上がって点になっており、その安否と共に先だって空中でかき消えたヒムの件の不安も

相まって、何よりも救出を優先させるべきだと判断する。

 

「リヴィアスさんっ!」

「おう!任せろっ!!」

 魔界側でもきらりんが同じ指示をリヴィアスに出す、あの超エネルギー空間に例え一時でも

身を漬け込んだオグマが無事でいるはずもないのだ、もはや勝ち負けを度外視してでも、

あのバカ達を助けなければっ!

 

「「飛翔呪文(トベルーラ)っ!!」」

 

 ポップとリヴィアスが同時に同じ呪文を詠唱し、光の矢になって上空にかっ飛んでいく

 

 

「そうか!あの魔剣・・・エネルギーの『逃げ道』を、作りやがったのかあっ!」

 観客席で大魔導士マトリフが絶叫する、その叫びを受けてアバンが、ミールやきらりんが、

ロン・ベルクやパプニカ3賢者などの博識な面々が理解する。あの時に何が起きたか、

あの魔剣(ナタルコン)がドルオーラと結界、そして自らの真空呪文を使って何をしたか、

間違いなくぶっつけ本番で、自らの身を質草にしてどれだけの無茶をやったのかを!

 

 閉じられた空間でエネルギーが飽和すると、当然そのエネルギーは逃げ道を求める。

わずかに脆い所でもできれば、行き場を求めるエネルギーはそこを突き破って噴出する。

 ちょうど笛吹ヤカン(ケトル)で湯を沸かした時、その蒸気が細い噴出口からピーッ!と

音を立てて吹き上がるように。

 

 だからこそナタルコンは真空呪文(バギ・エグゼド・クロス)を交錯して放ったのだ。ドルオーラと結界が自分たちの

いる場所にエネルギーの飽和を起こさせる事を読み取り、真空呪文でその逃げ道、否、砲身を

作り上げ、爆発のエネルギーを火薬とし、その根元にいるオグマと自分を弾丸として天の勇者(ダイ)

目掛けてぶち込んで見せたのだ!

 

 誰もが呆然と口を開け、天を見上げていた。その馬鹿げた決死の特攻と、それが成した結果に。

 

 

「ダイっ!しっかりしろ!」

 空中でポップがダイをキャッチする、すでにオグマとは空中分解する形で離れており、

向こうでも今まさにリヴィアスがオグマを捕まえた所だ。そしてオグマのその手にはあの魔剣が

しっかりと握られている。

 

「あ・・・ポップ?」

 ダイは辛うじて意識を保っていた。あの瞬間彼の竜闘気は反射的にダイの腹に集まり、

ギリギリでオグマの突進(スーパー頭突き)を受け止めていた。もしわずかでも遅れていれば

彼の内臓は間違いなくズタズタであっただろう。

 最もそのせいで竜闘気を使い果たしたダイの竜魔人化は解除されていた。竜の紋章は両手の甲に

戻り、彼自身も平静を取り戻していた。

「手を貸しちゃ・・・ダメだ、よ。」

「心配すんなって、ほれ、あっち見てみ。」

 ポップの指さす先では、やはりリヴィアスはオグマに肩を貸して地面に降りつつあった。

どちらが先だったかなどど細かい事を言わなければ、未だ条件は互角だろう。

 

 両者ほぼ同時に、すたっ!と地上に降りる。両者を挟むリングは既になく、代わりに大穴が

空いている。クレーターを挟んで向かい合う両陣営。

 

『見事な威力よな・・・勇者よ。』

 ナタルコンが辛うじて暗黒闘気の刃を細々と伸ばす。先程からオグマの光の闘気と同時使用

していたので、お互いを高めることが出来ずに消耗するのみだったため、もはや出涸らし程度しか

残っていない。

「ま、まだ・・・やる気か!」

 ダイはぐぐっ!と拳を握り、収めたままのダイの剣に手をかける。しかしすでに引き抜く力すら

あるかどうか分からない程にダメージと消耗は激しかった。

 

「そんなに・・・ゴメちゃん、神の涙が、憎いのかっ!」

『言ったはずだ、我は必ず神の涙に落とし前を取る!それを譲ることは断じて出来ぬっ!!』

 ダイが問い、ナタルコンが返す。両者の譲れない願いが激しく火花を散らす!

 

 と、ダイに肩を貸しているポップが口を挟む。

「おいおい、ちょい待てよ。そもそもお前さんの主とやらの願いを叶えた神の涙と、ダイの

友達のゴメとは別の存在だぜ?もちろん今度の神の涙もゴメだった頃の記憶なんて無い、

それを滅ぼしてもオトシマエでもなんでもねーぜ、だろ?」

 

 確かに神の涙はこの世に具現化する度に、その存在を1からリセットする、あくまでその時々で

別のアイテムとして存在するのだ。

 

 その言葉を聞いたナタルコンが、オグマに肩を貸しているリヴィアスと目を合わせて「うん?」

という顔をする・・・この魔法使いは何を言っているんだ?

『滅ぼす?滅してどうする!我は落とし前を取ると言ったはずだ。』

 

「・・・え?」

 今度はダイとポップが目を丸くする番だった。こいつらの目的は神の涙を消し去る事じゃなく

何か罰でも与えようとしているのか?

『神の涙は、主の願いを叶えるアイテムのはずだ!なれど覇者の装備はその願いに背き、

主の命を奪った・・・ならば!』

 

 ひとつ呼吸を挟んで、続きを吐き出すナタルコン。

『次こそは・・・次こそは十全に!完全に!文句のつけようもなく願いを叶えさせる!それを

成させる事こそ、真の落とし前をつけさせるという事だ、そうではないか!!』

 その主張にリヴィアスも、うむ!と頷く。要するにナタルコンの望みは、次に具現化した

神の涙を自分に使わせろ、そしてその願いを完璧に叶えて見せろ、という事らしい。

 

「目的は何だ・・・そうか、魔界を、滅ぼさせないようにすることか!」

 ダイの問いにナタルコンは目を細めて、意外な返事を返す。

『それは我らが魔王きらりんが目途を立てておる、その腰を折るようなマネはせんよ!』

 

「じゃ、じゃあ・・・あ!その熊人の仲間が石にされたって言ってたな、それか?」

今度はポップが推察する。考えてみればこの魔剣の使い手にも願いはある、そっちが本命か?と。

『それも先だっての精霊”輝きのシア”との邂逅で光明は見えている、そもそも”魔界を閉じる”も

オグマの集落も神の使徒である精霊の仕業だ、それを同じ神の力である”神の涙”が覆せるとも

思えぬしな。』

 

 ダイもポップも目を丸くしたまま相手を見つめる。否、彼らだけではない。十傑の他の面々も

王族や観客の有象無象も、仲間である聡明なミールさえもが彼らの真意を掴めずに

次の言葉を待つ。

 

 

『我らの仲間に一人、不治の呪いを受けている者がおる。時と共に若返るなどという、

ふざけた呪いだ。』

 

 その言葉にえっ?と口を開ける者がいた。魔族と水竜の体を持つ、時遡の呪いを持つ少女が。

 

『その者を完全に、十全に、完璧に、僅かな誤差も許さずに完璧に呪いを解く、そして真っ当な

人生を歩ませる!それこそが我とオグマの偽らざる総意だ!!』

 

 固まる会場の中、リヴィアスが「総意に俺も入れとけよ」と軽口を叩くと、きらりんが

手を上げて「はーい、私も私も!」と続く。その隣ではでろりん、ずるぼん、まぞっほに

へろへろが親指をぐっ!と立てて笑顔を見せる、俺達も入れとけ!と。

 

 彼ら以外の全員が、その言葉の意味を噛みしめていた。”その”願いの為に、彼らはあの

ドルオーラを真っ向から受けて立ったと言うのか?たった”それだけの願い”の為に。

 

 ミールは自らの胸の前で手を組み合わせて、そんなオグマ達を真っすぐに見つめていた。

目からは熱い涙がぼろぼろ零れ落ち、やがてその表情をしゃくり歪めながら言う。

 

「なんて・・・なんて無茶をするんですか、私の・・・私のために?どうしてそんな献身を!

わたしのどこにそんな値打ちがあるというのですか・・・」

『お主はもう少し自分の価値を知るべきだな。』

「お前さんはもうちょい自分の値打ちを自覚しろよ。」

 ナタルコンとリヴィアスが同時に、同じ意味の言葉で、ミールの意見をバッサリと

斬って捨てた。

 そう、ミールのその知識と献身、そして行動力は彼らにとって何よりの宝物だ。なればこそ

彼女を縛る残酷な呪いを打ち破る事は、勇者に対してすら引かぬ価値があるのだ。

 

 

 静寂に包まれる会場。彼らは”あの”魔界の住人、魔王の配下、そして魔剣だ。

その魔剣が命を賭して願う願い、それがただひとりの仲間を、少女を救う事だと言うのか。

あの大爆発に己を放り込み、身を任せることを厭わぬほどの・・・

 

「ふふっ、あはははははは、あっはっはっはっはっは!」

 途端に笑い出したのはなんと勇者ダイだ。彼は笑いながらそのまま後ろにばったりと

倒れ込む。ダイが(ダイ)の字に寝たままで笑いながら続ける。

 

「あっはっは、負け負け。こんな相手に勝てるわけ無いよ、”想い”が違いすぎるもん。」

 ダイは笑う。そう、自分が大魔王を倒した勇者だから、竜の騎士だからなんだというのだ。

戦いに際し抱えている決意が全然別次元なんだから、俺が勝てる方がおかしいんだよ、と

心から納得して負けを認め、朗らかに笑う。隣りではポップがやれやれ、という顔で座り込み、

まぁしゃーねぇな、と後ろ手をついて天を見上げる。

 

『聞いたかリヴィアス。』

「うむ!言質もらったな。」

 ナタルコンとリヴィアスが謎のアイコンタクト。何だ?と顔を向けたポップは、ここにきて

ようやく相手のある事実に気付いた。

「って!その熊人気絶してんじゃねーか!だったら勝負はダイの勝ちじゃねーか!」

 

「さて、何の事やら?オグマはたった今気絶したんだぜ。」

『うむ、勝利を確信したがゆえに落ちたのだ、間違いなかろう・・・多分な。』

 リヴィアスとナタルコンがポップから目を反らしてそう呟く。ポップは思わず「ウソつけ!」と

指差して指摘するが、もちろん取り合う義務はない。

 

「いーよポップ、俺の負けで。」

上半身を起こし、晴れやかな笑顔でそう返すダイ。

 

 少しの間の後、会場の一角から拍手が起こる。王族でも戦士でも無い、単なるいち観客から

始まったその拍手は、ほどなく会場全体に蔓延し、場内を揺るがす大喝采に変わった。

 

 

 鳴りやまぬその大拍手は、まるで音のシャワーのように、地上の者たちの汚れを流していく、

”魔界は悪である”という思い込み。そんな汚れをさわやかに、そして清々しく洗い落としていった。

 

 魔界の戦士たちの、そして未だ気絶している、小さく大きな熊人(ウォーベア)の懸命な戦いによって。

 

 

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