「はあぁ、神、だって!?てめぇが・・・?」
自らを神と名乗るまほうじじいに怪訝そうな顔で吐き出すヒム。確かにどこか不思議な
雰囲気を纏ってはいるが、逆に威厳や威圧は皆無で、とても絶対者としての存在には見えない。
ちょっと小突けば一発KOできそうだ、いや、間違いなくそうなるだろう。
『まぁ便宜上そう呼ばれておるだけじゃよ、そう喧嘩腰な目で睨むでない。』
そう言われて、うっ、と息をのむヒム。今自分が考えていたことを言い当てられて少し
考えを改める。ひょっとして・・・本当に?
『この天界に、肉体を得たまま昇ってこれた者、そしてここに居着いた者が神と
呼ばれるのじゃ。お前さんもここに住めば神になれるぞ、ひゃっひゃっひゃ。』
「ンだよそのワケのわかんねぇ基準は!っていうかこんな気色悪い所にいつまでも居られるか!」
思いのほか基準の低い神認定に悪態をつくヒム、っていうかそんなんでいいのかよ神って。
『ここに肉体を伴って到達できれば、地上や魔界とは比較にならんほどの力を得られるで、な。』
自称神のじじいは話す。この天界は想像を超えるほどの魔法の契約が可能で、それで得た力を
持ってすれば、地上の災害を自在に操ったり、魔界のマグマの活動を増減させてコントロール
する事すら可能だという。つまり地上と魔界の生殺与奪すら握ることが可能なのだ。
「だったら・・・おかしいじゃねぇか。何故それで大魔王バーンを殺らなかったんだ?
そもそもあの
アンタが制裁すりゃよかったんじゃねぇか。」
呆れたように語るヒムに対して、じじいはあまりにも刺さる正論で返して見せた。
『つまらんじゃろう、それ。』
ヒゲを撫でながらそう語るじじいの言葉に絶句するヒム。
『なんでもできる者が好き勝手にやれば、なーんも残らんよ。そうさの・・・アリを観察
するのは楽しいが、アリを踏み潰しても空しいだけじゃろうて。』
「・・・まぁ、確かにそうだわな。」
彼の言うには、天地魔界は自分達よりはるか昔から存在していたとの事だ。生命が生まれ、
知能を持つに至り、やがて様々な種族へと枝分かれした時、何人かの者がこの天界に生きたまま
上り、そこから神の歴史が始まったとの事だ。
『昔は神々も好き放題やっておった。その結果、地上の生物は何度も滅びかけた。魔界に至っては
完全に滅亡させたことすらあったのじゃ・・・』
だから神々は自らの過干渉を止め、どうしても天地魔界のバランスを保てないと判断した時のみ
自ら生み出した第三勢力を介して地上や魔界に干渉してきたのだ。竜の騎士しかり、精霊もまた
しかり。
かつて魔界に魔族と竜を押し込めたのも、脆弱で滅びに瀕していた人間を守るだけではなく、
神の愚行で無人となった魔界を強者たちの手によって再生させてほしい、という意図もあったのだ。
「ふーん、じゃあアンタは傍観者、ってワケだ。」
『さよう、先だっての大魔王にはさすがにひやりとしたがのう。』
「呑気なじーさんだな・・・あのバーンは天界に攻め入るとか言ってたぜ。もしアレが生きたまま
天界に来てたら完全にアウトじゃねーか。」
ハァ、と息をついてそう言った後、ヒムは本命の質問に入る。
「で?ここに俺の仲間が魂でいるのはどういう事だ?アンタここで何をしてる、どうして俺を
ここに引き入れた?」
ヒムは察していた。自分が眠っている間に花畑からこの建物に自分を連れ込んだのは間違いなく
この神のじいさんだ。そしてここに親衛騎団の魂があるのも偶然ではあるまい。
『ここは魂の監獄じゃよ。』
「監獄?」
『そうじゃ。本来死んだ者は魂がこの天界に昇天し、やがて降りて別の命に宿ることになる、
いわゆる輪廻転生というヤツじゃ。』
一息置いて、神はヒムに向き直って、少し悲しい目でこう告げる。
『じゃが、正しい転生を成せぬ魂は、再び生命に宿すわけにはいかぬ。そういう魂を閉じ込めて
おくのがこの場所じゃ、わしゃここの管理人じゃよ。』
その言葉が終わると同時に、ヒムはじいさんの胸倉をつかみあげ、睨みつける。戦友の魂を
侮辱されたと感じて!
『じゃからこそ、”禁呪法”と言うのじゃ、身に覚えがあろう。』
その言葉に愕然として手を離し、よろめくヒム。そう、彼らはオリハルコンのチェス駒を
触媒として、ハドラーの禁呪法で生み出された存在だ。普通の魂のように下で生き、死んで
この天界に昇天した後に、また新たな命に宿る魂では無い、輪廻の輪の外にいる存在なのだから。
と、そんなヒムを周囲の魂がまるで労わる様に舞い包む。彼らは声も無く語る、気に病むな、
お前がその分生きればよい、と。
「・・・お前ら。」
『最後の質問、なんでお主をここに連れて来たか、じゃったな。ついて来るがよい。』
そう言って通路の奥に歩いていく老神。ヒムと親衛騎団の魂もそれに続く、やがて彼らは
荘厳な扉の前に立つと、老神が聞き取れない詠唱を唱え、それに応えるように扉が開いていく。
-ゴウ・・・ン-
「なっ!!」
中に一歩踏み出して絶句するヒム。広大なドーム状の部屋の中は、数えきれない程の魂で
埋め尽くされていた。
「こいつら・・・全員、禁呪法で生み出されたのか?」
『それだけではないよ、ほれ、アレを見てみぃ。』
老人が指さした先、そこには明らかに他の魂とは違う”扱い”を受けているいくつかの
魂があった。光の茨でがんじがらめに拘束され、正面の壁に縫い留められているその様は
封印されているという表現がぴったりくる。
『あの紫色の魂、それが大魔王バーンの魂じゃ。』
「なっ!・・・い、いや、確かに、あの気配は・・・」
自身も何度か拝謁し、またハドラーの魂を内包しているヒムにとって、その紫の魂が持つ
気配は確かにあの大魔王を彷彿とさせるものであった。
『その隣にいる赤いのが冥竜王ヴェルザー、右上の黄金色が雷竜ボリクス、下の真っ黒いのは
ミストとか言ったかの・・・いずれも転生させたらまた脅威となる存在ゆえ、ここにこうして
封印しておるのじゃ。』
「脅威?魂で既に脅威なのかよ・・・」
『その才能や性質も勿論じゃが、なにより奴らは前世の力や記憶を失わぬままに転生する
可能性すらあるからのう、それは決して成してはいけない転生なのじゃよ。』
言われてみれば思い当たることがある。あのバーンとの最終決戦で玉にされた後、バーンが
ヴェルザーと交わしていた会話。不滅の魂を封印されたヴェルザーの魂を開放してやるぞと
言っていたバーン。もしそれが成されればヴェルザーは一度死んだにもかかわらず、その記憶と
力を持ったまま再び魔界に降臨していただろう。
『どうじゃ、お主もいずれは死してここの住人となる。その覚悟はあるか?』
今までとは違う、威厳ある言葉をヒムに突きつける神。そう、自分もまた禁呪法で生み出された
存在だ。同化しているハドラー様の魂は転生も可能かもしれないが、自分はそうはいかないだろう。
「ゾッとしねぇな・・・まぁ親衛騎団の連中も一緒なら、それも仕方ねぇかも、な。」
『そんなお主にチャーンスターイムッ!』
突然ファンキーな声で叫ぶ老神。いきなり叫ばれたヒムは何だ何だ?と目を丸くして
一歩引く。
『今ならお主の仲間の魂を、一度だけ地上に戻してやることも出来るぞ。お主次第、だがな。』
「なっ、何だってえぇぇっ!!」
吐き出した後、猛然とじいさんにかぶりついて両肩を掴むヒム。
「どうすりゃいい!何でもやるぜ、言ってくれじいさんっ!!」
あのアルビナスが、シグマが、フェンブレンが、ブロックが!再び地上に還ることが出来るって
言うのか!?だったら迷いは無ぇ、なんだってやってやらぁ!
『この天界では、特殊な魔法を習得できると教えたじゃろう。』
「出来るのか・・・それを使えば、あいつらを蘇らせることが!」
まさかの展開にいきり立つヒム。小娘に飛ばされて来たのがまさか天界で、そこでこんな
サプライズに出会えるとは!
『うむ、じゃが条件が3つある。まずひとつ、お主の友人はあくまで道具としてしか蘇られぬ。
元々がそうであったがゆえに、な。』
「道具・・・だって?」
『魂を持つ道具、じゃ。例えばそうさの・・・あのキング、マキシマムとか言っておった駒とか。』
「ふざけんなこらあぁぁぁ!」
かつての仲間があの”正真正銘の大バカ者”になる様を想像して思わずじじいに食ってかかる。
が、すぐに彼の周囲の魂がそれを諫める。それで上等、ここは暇すぎる、是非やってくれ、と。
『げほげほ・・・全く直情な奴じゃわい。まぁいい二つ目じゃ、お主が契約の試練に打ち勝てれば、
の話じゃ。もし打ち勝てなければお主もまた・・・』
「問題ねぇな!」
老神の言葉をガツンと拳を合わせて中断させるヒム。試練上等!と意気を上げる。
『やれやれ・・・神の話は最後まで聞かんかい。三つ目いくぞい、契約出来たらひとつ仕事を
頼みたい、それが条件じゃ。』
「応!なんでもやってやらぁ、任せとけ。」
『少しは考えんか!迷いと言う言葉を知らんのかいお主は!』
部屋の中央にある魔法陣の上に立ち、契約の時を待つヒム。親衛騎団の、そして無数の魂が
見守る中、正面に立つ老神が両手を掲げて儀式の
『魂の故郷、天界の偉大なる
魔法陣が輝き出す。それはヒムの周囲を光の筒に閉じ込め、やがてその光量を強めて完全に
ヒムを光の世界に閉じ込める。
(さぁ、何だってやってやるぜ・・・何が来る?)
ヒムは動じない。
試練とやらの続きを待つ。
だが、そのヒムに訪れたのは、彼にとってあまりにも困難な・・・たったひとつの”問い”だった。
-力を望む者よ、お主は”何”になりたい、”何”を目指すのか-
舞台設定を1から構築するのは本当に難しいです、
オリジナル小説を書ける人は本当に凄いなと思う今日この頃。