魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第84話 ヒムの旅③

 -俺は・・・何に成りたい?-

 

 

(ああ、ここは・・・バーンパレスか、俺の生まれた場所。)

 

 ヒムは己の原点にいた。大魔王バーンの所有物であるオリハルコンの駒、それにハドラー様が

魂を与えて下さった。仲間を、戦う相手を与えてくれたんだ。

 だがそんな充実の日々は長く続かなかった。ハドラー様の体内に埋め込まれていた”黒の核晶”

の爆発により大魔王と袂を分かち、残り僅かな寿命で改めて勇者達との決戦を挑んだ。

 

 そして・・・結果は惨敗。シグマは魔法使いの手にかかり、アルビナスは安全パイだと思っていた

女武道家にまさかの敗北を喫する。フェンブレンとブロックはすでに命運尽きており、

ハドラー様も勇者ダイとの死闘で討ち取られて果てた。

 

 そして俺は・・・宿敵と睨んだヒュンケルに成す術なく叩きのめされた、あっさりと、軽々と!

以前戦った時にはそこまで力の差があるとは思わなかった、だが再会した奴は遥かに

レベルアップしており、まるで子供のようにあしらわれた。

 

 だが、俺は死ななかった。創造主であるハドラー様が絶命したにもかかわらず、だ。

執念でバーンパレスに這い上がり、再びヒュンケルと対峙した時に周囲にいた無礼者どもを

ぶちのめして俺は気付いた。ハドラー様が俺に最後の力をくれた、その魂と銀の髪を

俺なんかに託してくれたんだ、と。

 

 新たな力を得た俺だが、それでもヒュンケルには勝てなかった。己の不甲斐なさに

身が引き裂かれる思いだった。せっかくハドラー様が最後のチャンスをくれたのに、それすら

生かすことが出来ないなんて!

 だが、それは俺の認識が甘かっただけだった。お互い力尽きた状態で現れた卑劣な掃除屋、

マキシマムの率いる軍勢に対し、ヒュンケルはまさに己の命を力に変えてそれを粉砕してみせた。

 

(ああ、これが俺とこいつの埋まらない差、なんだな。)

 

 目的意識。

 俺は戦いに勝つ事しか考えていなかった。だがこいつは自らの罪を清算するため、果ての無い

贖罪の道を歩き続けて、そして戦い続けているんだ。戦っても戦っても終わらない果てしなき道を

歩き続けている。なのに俺はどうだ?目の前の戦いしか、足を運ぶ一歩先しか見てないじゃないか。

 

 その時から俺はヒュンケルの戦いをトレースすると決めた。とりあえずこれから奴が戦う相手を

全て俺が引き受ける。そうすれば少しは奴に近づけるだろう、少なくともあいつが見ている世界を

俺も見ることが出来るはずだ、と。

 

 ミストバーンに、そして大魔王バーンに挑んだ。結果は力及ばずであったが、それでも

その戦いは充実したものだった。勇者ダイが最終的に勝ったからこそだが、それでもあの戦いで

俺が得た者は大きかった。

 光の闘気、死闘を共にした戦友、思いがけず入隊する事になった獣王遊撃隊、忘れ得ぬ強敵たち

とのバトル、その先にある平和な世界-

 

 だが同時に、じわじわと胸を締め付ける、忘れ得ぬ『あの言葉』。

 

 

「よーし!今日からしばらくリンガイアに行くぞ!」

「まーた復興の手伝いかよ。いいけど、俺のルーラ当てにしすぎだろ隊長さん・・・」

 デルムリン島に移住した後、獣王遊撃隊はたびたび他国の復興の手助けに出向いていた。

モンスターである自分たちと人間との摩擦を少しでも和らげるだろう、とブラス老の

勧めもあり、また隊長(チウ)も「これも修行!」と張り切って力仕事に勤しんだ。

 ・・・正直俺はこんなことしても鍛えられないんだが、まぁ新参のバアラックのコンビの

監視もかねて付き合ってはいた、人間に感謝されるのは気分が良かったし、新たな仲間たちと

過ごす日々も悪くはなかった。

 

「よーし!次は正拳50発!はい、わん・つー!わん・つー!わん・つー・・・」

 デルムリン島でも隊長は毎日、隊員たちと稽古を欠かさなかった。だが正直元々が弱い

モンスター達だけにいくら鍛えても、俺のレベルまではとても来れたもんじゃなかった。

 

「12番、今日こそ俺達が勝つ!」

 バアラックのコンビ、ラバーとラクーは連日俺に挑んできた。魔界出身のコイツらは

少々骨があったが所詮俺の相手にはならなかった。最初は片腕でかるーく捻れたし、

多少強くなっても俺が闘気を使えば問題にならなかった。

 

 だけど。

 

 心にあの「言葉」が響く、俺の奥底にある黒いもやのような、あの言葉。

それは俺の尊敬するハドラー様を、魔王軍で唯一評価してくれた男の、戦いの最中に

投げかけられた、あいつ(ミストバーン)の心の闇。

 

『そうだ、他人の体を奪えば簡単に強くなる私にはできない事。』

 

 

 -自らを鍛え、強くなる事-

 

 

 遊撃隊の仲間たちは、確かに少しづつではあるが強くなっていった。パピィ(パピラス)はついに

くまちゃ(グリズリー)を吊り上げて飛べるようになり、アリババ(大アリクイ)は目標であった島の岩山の登頂に成功、

ラミた(アルミラージ)は島一番の俊足(俺を除く)になってみせた。

 そう、彼らはチウの元、毎日体を鍛えて強くなってきていた。俺に突っかかるラバーとラクーも

俺がくれてやったタンコブの数だけ強くなってきている、体も格段に成長し、今や闘気を

使わないと不覚を取りかねないレベルになってきている・・・オリハルコン戦士の俺が、だ。

 

 俺はどうだ?元々強戦士として生み出され、そしてハドラー様の魂を受け継いでさらに

強くなった。純粋な強さなら地上屈指だろう。

 だが、それは”与えられた”強さでしかなかった。俺の体はいくら鍛えても今以上

強くならない。それも当然だ、生まれた時から地上最強の金属オリハルコンの体なのだから。

 

 俺の強さ、それは何だ?俺自身は何もせずに、ただ最強の体を授かって生まれ、主の魂を

受け継いで闘気を得た、体に無理も強いず、汗もかかず、志も成長も無く、努力すらせずに

ただ強い”だけ”の存在・・・俺ってひょっとして、遊撃隊の連中以下じゃないのか?

 

 

獣王の掌(じゅうおうのてのひら)・・・とでも名付けるか。」

 ワニの大将(クロコダイン)にバラバラにされた時、その疑問は確信に変わった。

 

 あの最終決戦で俺と違い、戦力外として玉にされたワニの大将は、2年の修行を経て

俺の体を粉々に打ち砕くほどの力を身につけていた。

想いをこめて、目標を持って、自らを鍛え、昨日の己を超え、明日には今日の自分より強くなる!

 

 それは俺には出来ない事。ハハハ、そうか、俺はあのミストバーンと同じだったんだ。

 

 だから俺は旅に出た。俺でも環境が変われば自ら強くなれるかもしれないと思って。

いや、本当はワニの大将や遊撃隊の面々と、日々成長していく彼らと一緒にいられなかったんだ。

あまりにも彼らが眩しすぎたから、俺は”逃げた”んだ。

 

 破邪の洞窟であえて罠を受け続けて自らを痛めつけた、そこで出会った自称魔王の小娘に

武術会で対峙した時も、なんでもやってきな!と座り込んだ。何も変わらない自分を、

それでもなんとか変えたくて。

 

 

(そうだ、俺が本当に欲しいもの・・・俺は、強く”成りたい”んだ。)

最初からある強さなんてくだらねぇ、汗をかいて息を切らせて頑張って、そして食って寝て

回復して、それで手に入れられる強さって・・・どんどん強くなれるって・・・最高じゃねぇか!

 

 

(最初は弱くてもいい、俺は強く”成れる”存在になりたいんだ!)

 

 

 光の中でヒムがそう答える、契約の魔法陣の問いかけに応えて。

 

 -愚かなことよ、誰よりも強さを求めるあまり、あえて弱者となるか-

 

 -ならば受け取るがよい、これがお主に与える魔法-

 

 -有機宿魂化呪文(オーガ・ニール)

 

 

 ヒムの眼前に光る宝石が現れる、ひし形をしたその石を手に取った瞬間、それは彼の体の中に

すぃっ、と入っていく。

 

 ぴしっ!

 

 ヒムの体に亀裂が走る。胴を縦に横に、手足にもヒビがうねり、それが全身に回った時、

彼の体は八方に弾け飛ぶ。

 

 パリイィィィ・・・ン

 

 破裂音と共に、魔法陣の光が静かに消えて行く。光の世界は終わり、後には元の

ドーム形の部屋と、無数の魂と、管理人の老神。そして・・・

 

 

 銀色の髪を持つ、一人の魔族の少年が立っていた。

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

『ほれ、鏡じゃ。』

「んぐ・・・んがあぁっ」

 老神に鏡を見せられて絶句するヒム。まさか本当に生物、魔族に生まれ変われるとは!

自分で願っておいて何だが、そのあんまりな変わりように思わず大きくアゴを空けて愕然とする。

 

「っていうか子供にするこたぁ無ぇじゃねーか、これじゃまるでハドラー様のガキ時代だぜ!」

と嘆いて、ああそれなら悪くないかと勝手に自己完結するヒムに、おいおいと呆れる老神。

『お主は今9歳じゃから、本来なら魔族で9歳の年齢・・・つまり赤ん坊になるはずじゃったが

サービスで人間の年齢に換算してやったのじゃ、感謝せんかい全く。』

 

「っていうかおいっ!俺の仲間を戻すんじゃなかったのか?まだいるじゃねぇかっ!」

親衛騎団の魂は今だヒムの周囲を漂っている。そしてヒムには理解できた、彼らが揃いも揃って

今の俺の姿に大爆笑しているのが・・・そんなに可笑しいかよお前ら!

 

『まぁ待て。お主の元の体、このオリハルコンの破片で今、依り代を作るでな。』

そう言って飛び散ったヒムの破片を手も触れずに自分の目前に引き寄せると、再び

聞き取れない言葉で詠唱を唱える。

 

 その瞬間、宙に浮いていたオリハルコンの破片は姿を変え、5つのアイテムに変化して

ヒムの目の前にカカカッ!と着地する。

『さ、お主に与えた有機宿魂化呪文(オーガ・ニール)を使ってみるがよい。その呪文は魂を

依り代に宿す効果もあるでな。』

 

有機宿魂化呪文(オーガ・ニール)!」

 魔法力を込めてそう唱えるヒム。と、彼の周りにいた魂がその手に収まり、そこから老神が

生成したアイテムに吸い込まれるように入っていく。

「これで・・・いいのか?」

どうも実感が沸かずにそう返す。目の前にあるのはどう見てもただの装備一式だ。

 

『身に着けてみるがよい。』

 言われるままに装備に手を伸ばす。まずは(ブーツ)に足を通してみる。

「こ、こいつぁ・・・シグマか!」

足を通して盟友の意思が伝わって来る、驚異の跳躍と速度を誇る騎士(ナイト)の声が。

 -時に神速の脚となり、鍛錬の時には枷になってお前を鍛えよう-

 

 次は鎧、胸と腹筋と背中をカバーするだけのコンパクトな物だが、そこから感じられるのは

誰よりも大きな力感を持つ仲間の意志。

 -ハドラーサマノウマレカワリノソウビニナレテ、コウエイダ-

「・・・ブロック。」

 

 肩当て。これは形状からして一目瞭然だ。時には司令塔として親衛騎団を指揮し、

実戦に際しては神速を誇った女王(アルビナス)三角翼(スクェアウイング)

 -今のあなたはルーラも使えないでしょう、非常時には手を貸しますよー

「ああ、頼むぜ。」

 

「んでお前はまんまかよ!」

 剣を握りしめてそう感想を述べるヒム。親衛騎団で刃物と言えばもうフェンブレンしかいない。

 -ハドラー様の覇者の剣同様、小手部分に収容できる優れモノじゃ。しっかり使いこなせよ-

 

 靴、鎧、肩当て、そして剣。

今ハドラー親衛騎団は姿を変え、ひとりの非力な少年を中心としてひとつとなった。

その志が目指すのは己を鍛え上げて、いつかその頂に到達する事。たとえそれが成せずとも

自身の努力で己を高め続ける、その果てない道を堂々と歩き続ける事!

 

「ハドラー様が魔王だったから、俺もそこ目指してみるか・・・って、それはもう小娘がいたな。

だったら目指すは大魔王、か!」

 そう宣言するヒムに、アイテムとなった親衛騎団の面々が笑って答える。よく言った、

相変わらずの大口叩きだな、だがそれでこそお前だ、と。

 

「って・・・全員いるよな?冠が余っているけど、なんだこりゃ?」

『そりゃワシからのサービスじゃ、被ってみるがよい。』

 老神に言われるままに冠を手に取り、頭にかぶる。その瞬間脳に響いたのは実に暑苦しそうな

おっさんの笑い声!

 -ガーハッハッハッハ!このマキシマム様がついておれば百人力、いや千人力よ。

  兵士(ポーン)ごときがワシの力を得られるのだ、感謝するがよい・・・っておい待て!

  なんで外して、振りかぶってこらあぁぁぁぁ!-

 

「なんでお前が仲間面してるんだよおぉぉぉっ!!」

 被っていた冠を豪快に放り投げるヒム。部屋の壁に激突して、カッコーン!と軽そうな

音を響かせる。

『まぁまぁ、あれで性能はいい冠だから使ってやれ、対峙する相手の性能を分析する

能力があるでな。』

 そう言って念力?で再び冠を持って来る老神。嫌そうな顔をするヒムだが、他の親衛騎団も

まぁいいじゃないか、と言うのでしぶしぶ頭に装着する。

 -そうそう、ワシの戦術眼や王の検索(キングスキャン)は役に立つぞ~-

「うっとおしくなったら捨ててやるからな!」

 思わぬ笑い成分を加味して、新生ヒムはここから新たな一歩を踏み出す。

 

『さて、願いを叶えたら一仕事してもらう約束じゃったな。』

 そう言ってヒムに握りこぶしほどのカプセルを手渡し、こう続ける。

『”魔法の玉”じゃ。中には幾人かの魂が入っておる、これを届けて欲しいのじゃ。』

 地上であのザボエラが使った、幾体もの怪物を詰め込める”魔法の筒”の改良品。

そのミニチュアサイズともいえるものだ。

 

「どこに届けりゃいいんだ?」

『お主の好きな所へ、じゃ。』

思わぬ返しにずるっ!と体を傾ける少年ヒム。なんだそりゃ、と抗議するが、老神はすまして

こう答えた。

『ワシは傍観者と言ったはずじゃ、お主がその魂をどこに届けるか、それを眺めて楽しむのも

また一興じゃて。』

「ったく、いいのか?人の魂で遊んで・・・知らねぇぞ俺は。」

 愚痴るヒムに老神はよいよい、と笑顔を向ける。まぁ約束だからしょうがない、この球は

俺が持っててやるとするか。

 

『では、そろそろ別れの時かの。お主らの道に光あれ。』

 その言葉と共にヒムの足元の床が、建物自身が消え去り、ヒムはまるで下に引っ張られるように

落下していく。目に見えるのは青い空ではなく、まるで宇宙空間のような漆黒の闇だった。

 

「いきなりかあぁぁぁぁぁ!じーさん、ありがとよおぉぉぉ・・・」

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

『すいぶん酔興が過ぎませんか?魔族の神アグレシル。』

 音もなく老神の背後に現れたのは、彼と同じ雰囲気を纏った、年老いた顔にも美しさを備えた

背筋の伸びた老女。

人間の神(イヴノウン)か。ここに来るとは珍しいな。』

『偶然を装ってあのような事を・・・全てご存じなのでしょうに。』

静かに、たしなめるようにそう語る人間の神(イヴノウン)。それに応えて魔族の神(アグレシル)は悪びれもせずに

こう返した。

 

『お主の作品”輝きのシア”が成そうとしたことに対する・・・ま、埋め合わせじゃな。』

 




オリジナル魔法解説

有機宿魂化呪文(オーガ・ニール)
 神々が魂を新たな命に宿らせる際に使用する呪文。必要なのは魂と依り代。無論依り代に
既に魂が宿っている場合は無効化される、輪廻転生の核を成すともいえる魔法。
 また魂と依り代が元々と違う性質になっている場合、本来の正常な状態に戻す効果もある。
具体的には他人に取り付いた霊や精神汚染をシャットダウンして本来の状態に戻したり、
鋼鉄化呪文(アストロン)竜変化呪文(ドラゴラム)など、肉体を変化させた者も元に戻す事が出来る。
アストロンかまして余裕こいてる相手に効果抜群な呪文であろう。

ヒムの場合、金属生命体から魔族になったのは肉体をハドラーの魂に対応させたため。
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