魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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新章突入!


第9章 食い止めろ、魔界消失!
第85話 さぁ大作戦の始まりだ!


 カール王城、その最深部の地下牢。普段は無人の牢獄の中で、幾人もの怪しげな人物達により

今まさに恐るべき(一部の者にとっては)作戦が立案、検討されていた。

 

「いやぁ、ミールちゃんが魔界の地図を丸暗記してくれててホント助かるぜ。」

「縮尺、精度ともに地上の地図とは別物ですから、どこまで役に立つかは分かりませんが。」

謙遜するミールに、大魔導士マトリフは上等上等、と言って笑顔を見せる。

 

 大魔王の破壊柱(ピラァ・オブ・バーン)を魔界に転送して、落下する地上のつっかい棒にすることで、

”魔界を閉じる”計画を阻止するその作戦。マトリフが地上の地盤や大陸の厚さ、水脈などを

想定、計算して、地上のどの辺を下から支えたら有効か、その候補地はすでに200に及んでいる。

 だが肝心の魔界の地形が分からなけりゃそれも意味がない、落ちてくる地上のベストポイントに

柱を突き刺しても、柱の根元が底なしのマグマの海だったりしたら沈んでいくしかないのだから。

 その問題を一気に解決するのがこのミール作の魔界地図だ。もともと候補地は偏りがあり、

柱はたった6本、ならば魔界の陸地さえわかれば、ぶっつけ本番でも多少は融通が利くと

いうものだ。

 

「しかしまぁ、よくそんな馬鹿げた計画を思い立ったものだ・・・まさに天才と紙一重だな。」

 ロン・ベルクのその言葉にノヴァが(今のは最大級の賛辞ですよ)と解説(フォロー)を入れる。

現にロンがあの柱の材質を調べた時、確かに魔力を吸収して術者の魔法で自由に使うことが

出来る事が分かっていた。柱に魔力を込めてルーラをかければ狙った地点に転送することすら

可能だろう。まさかあの柱にそんな役目があるとはな、と運命の流れに感心する。

 

「とはいえ、いくら私でも一度に1本が限度です、つまり最低6日、下手をすればその数倍は

かかります。」

「そのタイムラグも考えにゃならんかのう、2本目を持っていく前に1本目が力尽きて

折れてしもうたらあかんしな。」

きらりんの言葉にまぞっほがそう注釈を入れた、ごもっともな話である。

 

 きらりんの持つアイテム”転移の円”は呪文境界転移呪文(オットールーラ)を介して天地魔の堺を

超えることのできるものだ。だがその際に飛ぶのは術者ではなく”転移の円”の切れ端を

持っている方だ、つまり召喚魔法に近い性質がある。その上召喚される所は召喚される者の

縁の深い場所である、言い方を変えれば持っていきたい所に柱を転送することは出来ないのだ。

 

 具体的に言えば、きらりんが柱に魔力を込めた場合、誰かが魔界に行って”転移の円”を

使う必要がある。だが今現在魔界に行くにはあの破邪の洞窟ルートしかない、地下最深部の

あの凶悪な封印の扉をきらりん以外が突破することが最低条件になる。

 かといってきらりんが魔界に行ったら、誰があのでっかい柱に魔力を通すというのだろう。

大魔導士の師弟、マトリフとポップがありったけの力を突っ込んでもそれは不可能だ。

そう考えると、あの6本の柱を操った大魔王バーンがいかに底なしの魔力を持って

いたかが分かる。

 加えるなら、魔界の思い通りの所に転送するのも困難だろう、術者の縁の深い魔界の

場所となれば、ポップもマトリフも、そして柱もどこに飛ぶか分かったものでは無い。

 

 そんな問題を解決したのが、きらりんが習得したもうひとつの特殊魔法”反転性魔法(マホリグル)だ。

魔法の効果を真逆にするこの魔法陣を使えば、”転移の円”を使った方が、切れ端を

持っている者のもとに飛ぶことが出来るのを確認済みだ。念には念を入れて転送したい場所に

両親のでろりん、ずるぼんを配置させておけば、親子の縁によってきらりんを柱ごと

そこに飛ばせるだろう。

 手順としてはまずきらりんが破邪の洞窟から魔界に行き、そこで”転移の円”を使って

でろりん達やボディガードのオグマ達を魔界に召喚、日時を決めておいてきらりんは地上に戻り

柱の転送準備を整え、でろりん達は魔界の指定の場所に行き、反転性魔法(マホリグル)+転移の円で

狙ったポイントに柱を送り込む、という寸法だ。

 

 ほぼ草案がまとまり、一同は最終確認に入っている。今この場にいるのはきらりん、ミール、

ナタルコンに偽勇者一行の4人、マトリフ、アバン宰相、ポップ、メルル、エルキンスに

ゲストとしてロン・ベルク、ノヴァにブラス老も姿を見せている。

 オグマとリヴィアスは武術会での疲労もあり、半ば無理矢理に休暇を取らせているので

不参加である。まぁもともとあの2人は頭脳労働担当ではないから、計画までにコンディションを

万全にしてもらう方がいいだろう。

 

 ちなみになんで地下牢で会議しているのかと言うと、国としての体面上、天界の意志に反して

魔界に味方するというのを表立って避ける意味があった。地上の国家は仮にも天を崇拝する

歴史があり、その建前上あからさまに反天界の会議を公の場で行うのは(はばか)られたからだ。

 まぁもっともこの地下室には立派なカーペットやらイスやら座布団など持ち込まれ、

仮眠用ベッドや喉を潤すフルーツ盛り合わせまで用意され、快適空間と化してはいるが。

 

 国別でみると、ここカールやリンガイアはかなり協力的だ。以前神の使いである

(ドラゴン)の騎士バラン率いる超竜軍団に滅ぼされた国としては、神々に対する義理よりも

かの武術会で見せた魔界勢の正統なるを推したいのもむべなるかな。

 その武術会を主催したロモスと、あまり宗教色が強くないベンガーナも支援を約束して

くれている、特にベンガーナにはオグマを名誉会長として迎え入れた”どたまかなづち愛好会”の

支援もあり、表立って動いてくれる者も多く居た。

 

 反面、国の事情から協力しにくいのがパプニカとテランだ。パプニカは王族そのものが

代々神に使える賢者なので反天界の姿勢を取れない。テランも竜の神を崇拝する国なので

やはり魔界に協力となると二の足を踏まざるを得ない。

 この両国、特にパプニカは魔界勢の行動を黙認するので精一杯の状況だ。王政国家とはいえ

いわゆるご意見番(野党)的な存在の大臣連中に、つけ込む隙を与えるわけにはいかないのである。

レオナ王女の手腕があるからこそ、このギリギリの状態で内政をまとめていられるのだ。

テランのほうはまぁ、成り行きに任せる国なので問題なさそうだが。

 

『地上もだが、魔界の状況も見て判断せねばな。あれからひと月以上経つ、今の魔界が

どうなっているのか油断は出来ぬぞ。』

 ナタルコンがそう語る。元々力が支配する魔界、自分たちが去った後に新たな支配者や

暴漢が現れんとも限らない、一概に協力を得られるとは限らないのだ。

「ですね・・・それともちろん天界勢、つまり精霊の動きにも注意が必要です。」

 ミールが続く。こちらが”魔界を閉じる”計画を阻止せんと動くならむこうも黙って見ては

いないだろう。轟のニカのように戦う術を持つ精霊や、件の”融合の顎”や”機械竜”も要注意だ。

 

「最終的な柱を据える位置はミールさんに判断してもらうしかないですね。」

 アバンのその言葉に全員がうむむ、と唸る。精霊が地上を魔界に落とす手段として水脈を

利用している以上、こちらも水の流れを熟知する水竜の力を持ったミールがより効果的な

力点を見極めるしかない。

「ホントに大丈夫だよね・・・それ以上幼くなっちゃったらホントにダメだよ。」

きらりんが心配げにそう問いかける。あの武術会最終戦でオグマによって”神の涙”を

使用して呪いを解く権利を得ているだけに、その前に力を使い切って消滅してしまう事は

避けなければならない。

 

 ミールいわく、水脈を読み取る程度なら寿命は使わないとの事だ。だが彼女が計画の要で

ある以上、どんな緊急事態に出会うかは知れず、その時に力と寿命を使わざるを得なくなる

可能性はある、天界側の妨害も考慮に入れるならますます危険は高くなるだろう。

「大丈夫です、私が力を使わずに作戦を遂行するのに、ひとついいアイデアがありますから。」

ミールはそう言ってウインクすると、手を口に当てて全員にひそひそと考えを伝える。

 

「そりゃいいや。」

「まさに名案!」

「うんうん、それ採用。」

『見事な案、流石よなミール。』

 

 一同が笑顔でその案を絶賛する、なるほどこれならミールは確実に安全を確保しながら

魔界を回ることが出来るだろう。その方法とは・・・

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

「ガルアァァッ!」

「はあぁぁぁぁっ!!」

 デルムリン島にて素手での格闘戦を演じるオグマと勇者ダイ。先日以来オグマは休養のため

仲間(モンスター)の多く住むこの島に来ていたのだが、ちょうど勇者ダイも休暇をとって里帰りしていたので

これ幸いと稽古相手を務めてもらっていたのだ。休養とは一体・・・

 

 -すっどおぉぉん!-

オグマの懐に飛び込んでの腰投げで投げ飛ばし、ねじ伏せるダイ。

 

「それまで!勇者ダイ君の勝ち!」

 チウの声が響く、もう何度目になるかのダイへの勝ち名乗り。

「いやぁ参った・・・やはり強い。あの大会は100回に1回の勝ちを得たのかもしれんな。」

「そんな事無いよ、オグマもナタルコンを使ってないし、それじゃ十分に実力発揮できないだろ?」

「いやいや、ダイも剣を抜いておらんではないか、言い訳にはならんよ。」

 戦いの中で友好を深める二人。元々この島出身のダイはモンスターに対する偏見が無く、

オグマに対して、ひいては魔界に対しても以前ほど警戒する気は無くなっていた。

 

「出来れば俺も協力したいけど・・・レオナに止められててさ。」

 戦いの後、食事を共にしながらダイはそう語る。テランの次期国王であり、パプニカに

婿入り予定のダイなれば、さすがに今回の計画に加担する事は難しかった。

「無理のない事だ、誰にでもしがらみはあるからな。ましてやダイは竜の騎士、天界の戦士

でもあるのだから、傍観してもらうだけでも有難い。」

 もし君が敵に回ったらこっちは弩級の災難だ、と言って笑うオグマに、チウや他の面々も

そりゃそうだ、と笑顔を見せる。

 

「全てが片付いたら、一度魔界に来ると良い。あの大魔王バーンを倒した勇者となればさぞ

尊敬されるぞ・・・まぁ喧嘩も売られまくるだろうけどな。」

「うん!一度行ってみたいとは思っていたよ。俺、”力こそ正義”って考えに賛成できなかった

けど、本当にそうなのか確かめてみたかったし。」

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

 テラン王国の南、今は無人の荒野と化した地に立つリヴィアス。広く空いたクレーターに

海水が入り込んで、浅い入り江状になったかつての故郷、アルキード王国の城跡、そこに

フィガロと共に佇んでいた。

 昨日まで彼らは簡単な墓を立てるだけ立てて自分の妹や家族、友人、そして無き国民を

悼んでいた。今日も近くの山で花を摘み、無数の墓に少しづつそれを添えていく。

 

 手を合わせて瞑目する2人。と、後ろに気配を感じてふり返る、そこに居たのは彼らの

顔見知りの3人だった。

「ラーハルト・・・ヒュンケルにエイミさんも。」

 リヴィアスの言葉に神妙な顔をするラーハルトとヒュンケル。彼らにとってこの場に

居合わせるのは辛いものがある。ラーハルトにとっては敬愛する義父の過ちの場であり、

ヒュンケルにとってもまたこの場所は、自分が壊滅させたパプニカの写し鏡ともいえる

国の跡なのだ。

 

「リヴィアスさん・・・あの時はごめんなさい。貴方を一方的に疑ってしまって。」

エイミがそう詫びる。いかにパプニカの賢者とはいえ、神の天啓とリヴィアスを天秤にかけ、

あまりに簡単に彼を悪と決めつけてしまった、そんな自分を恥じて。

「それは俺も同じだ、心から詫びを入れたい、すまなかった。」

並んで頭を下げるヒュンケル。それを見たリヴィアスはフィガロと顔を見合わせ、ふっと

笑って軽くこう返した。

「もう息ピッタリじゃねぇか、お二人さん。」

「いやぁお似合いですねぇ・・・」

 

 もう!と赤面して返すエイミ、ヒュンケルもまた目を泳がせて照れ隠しする。どうやら

もうこの二人は心配無さそうだ。

「女性のエイミさんがここまでヒュンケルを許してるんだ、男の俺らがいつまでもウジウジ

恨んでられねーって。」

「そりゃそうですよねぇ。」

 

「そう言ってもらえて感謝する。俺は詫びるべき立場ではないが、もし力になれる事が

あるなら何でも言ってもらおう。」

 そのラーハルトの言葉に、相変わらず高飛車だなお前は、と呆れて返すリヴィアス。

確かにラーハルトがバランの養子となったのはアルキードを滅ぼした後であり、その事に

対して彼に責任は無いのだ。

 

「ま、全て片付いたらまた飲み会に付き合ってもらいましょうよ。」

「そ・・・それはもう勘弁してもらおう。」

 フィガロの意地悪な提案にラーハルトが冷や汗を書いて一歩引く。嫌な弱みを握られた

もんだ、と。

 

 果たして何年振りかに、この地に笑い声が響く。墓の傍らに立てられた竜鳳月の旗も

どこか嬉しそうに、そして誇らしげに風に舞っていた。

 

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

 カール王国、破邪の洞窟の前。

いよいよ彼らの一大プロジェクト、魔界破滅を阻止するための決起の日!

 

 オグマとナタルコンが、リヴィアスとミールときらりんが、でろりん、ずるぼん、へろへろ、

まぞっほが、その手に転移の円の一片を持って向かい合う。周囲にはカール王国の面々が

その行く末を見守るべく居並んでいる。激励はすでに済ませた、ここから彼らが勝利を

勝ち取るか、また敗れて魔界と共に破滅するかは彼ら次第だ。

 

「じゃあ、始めますか!」

きらりんが言葉と同時に、紫龍の杖を皆の前にかざす。オグマがナタルコンをそれに重ね、

リヴィアスが刺突槍(コーンランス)でそれに続く。その上にミールが手を重ね、でろりん達も

それに続く。

「行きましょう!」

「「「おおおおっ!!」」」

 

 -ドォンッ!-

 

 その時、彼らの傍らに何かが飛んできて着弾した・・・これは、ルーラの着地音?

土煙が晴れた時、そこには5人の人物が立っていた。

 

「勇者ダイ・・・マァム嬢も。」

「ヒュンケル、ポップ・・・あと確かパプニカのレオナ王女。」

「ありゃりゃ、アバンの使徒勢揃いかいな!」

オグマとリヴィアスの言葉にまぞっほが続く。確かに彼らはかつての大戦時に勇者アバンの

使徒として活躍した若者たちだ。

 

『レオナ王女が来るとは思ってもみなかった・・・何用だ?』

 ナタルコンがそうレオナに問う。いかに我らに味方できぬ立場の王女とはいえ、こと

ここに至って何か邪魔をしようと言うのなら・・・

「わたし?観光よ観光。決まってるでしょ?あんた達の事なんかキョーミないから。」

 両手を広げてふるふる白を切るレオナに、ダイはやれやれ、と苦笑いする。

 

「んじゃ、早速始めっか。」

 ポップの言葉に、アバンの使徒一同が頷く。仏頂面のレオナを中心に、破邪の洞窟を取り囲む

大きな輪になって位置する5人。

 

「聖なる光よ、その御力において邪悪なる魔力を退けさせたまえ・・・」

 レオナが呪文を詠唱し、彼女を起点にリングを、魔法陣を描いていく。その五芒星の

頂点に5人の使徒が位置し、その首に透明な宝石がついたネックレスをかける。

 

 -ドドドドドォンっ!!!-

 

 次の瞬間だった。5人の使徒が首にかけている宝玉から5色の光が、足元の破邪の洞窟の

地下目掛けて貫いていった。

「こ、これは・・・破邪の光か?」

「まさか・・・集団破邪呪文?」

 

 驚く一同に、傍らにいたアバンが解説を入れる。

「イェ~スッ!大正解ですよきらりんちゃん、これぞ大破邪呪文ミナカトールです!これなら

この破邪の洞窟の最深部まで楽に行けますし、帰って来る時も迷宮脱出(リレミト)で一発ですよ。」

 

 なんと!と目を丸くする一同。この計画では我々が、特にきらりんが何度もこの破邪の

洞窟を昇り降りする必要があったのだが、それが一切フリーパスになると言うのならこれほど

有難い事は無い!

 

「レオナ王女・・・よろしいのですか?」

 ミールの質問に、レオナはドヤァ、という顔でニヤケ笑いした後、言葉を続ける。

「何のことかしらぁ?私はただ久々にみんなとこの呪文の練習をしてるだけだけどぉ~?」

「レオナ・・・相変わらず目つきとセリフと行動が全然一致してないんだけど・・・」

 ジト目で突っ込むダイに周囲からも笑いが起こる。魔界に一番非協力的な国の王女の

この行動が、今まさに地上の総意を示してみせた。

 

 ありがとう、地上のみんな!来て本当に良かった。

 

 

 -大破邪呪文(ミナカトール)!-

 




「説明文うぜえぇぇぇぇ」(おい作者w

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