「・・・これが、魔界を閉じる計画を阻止する方法です。」
-ふむ・・・ふふふふふ、面白いな魔王きらりんよ-
魔界、破邪の洞窟の出口のすぐそば、ヴェルザーの天蓋の台座が鎮座する空間にて、
地上から帰還したきらりん一行が、自分たちの計画をヴェルザーの残留思念に報告する。
-あのバーンめが残した遺産を使って魔界を守るか、なんとも皮肉な話よ-
感慨深く語るヴェルザー。だがそれも無理なき事、元々あの
地上を消滅させるために作られたものだ。それを今度は支えるために使い、この魔界を
滅亡から救う為に使われるというのだから。
「地上の人間たちの協力も些少は得られました、少なくとも黙認してもらう事は
確約しております。」
ミールのその報告に一同が、そしてヴェルザー自身もうむ、と頷く。なにしろ地上と
魔界を繋ぐ破邪の洞窟に、かのアバンの使徒の5人が
罠も敵もほぼほぼ停止しており、魔界への道中にかかった時間はわずか5時間足らずに
短縮できていたのだ。
加えて地上での彼らの行動に人間が敵対しないのは何より有難く、それを取り付けた
ミールの功績は計り知れないだろう。それを要求した試合で負けたにもかかわらず、である。
-ここまでお膳立てを整えたなら、実のあるものにせねばな。見事成し遂げて見せよ-
「はっ!」
「はいっ。」
「応!」
『無論だ。』
「ははーっ!」
「はいはい。」
ヴェルザーの激励に各人がバラバラに答える。その統一性の無さにあーあ、と頭を抱える
きらりん。
「では、私たちはこれからサルトバーンに飛びます。魔界の皆にも計画を話して
力を貸していただくつもりです。」
そう言って洞窟の出口に向かおうとするきらりんと一行をヴェルザーの言葉が止める。
-待て、ひとつ確認しておく。貴様らの知る所で、何者かが天界に赴かなかったか?-
『天界・・・だと?我らは縁が無かったが、どういう事だ?』
-我の本体・・・真の魂に最近、何者かが近づいた。恐らくは地上の者-
疑問に思うナタルコンにそう返すヴェルザー。目の前のヴェルザーは残留思念でしかないが、
その魂の本体は今、天界にあるそうだ。その彼の魂に最近何者かが近づいたらしい。
-知らぬなら良い、行け-
払拭できなかった。魔界の己の魂の近くにいた魂のいくつかが今は失われている、何者かが
天界に封じている魂を開放したのは間違いなかろう。だが・・・何のために?
◇ ◇ ◇
「おお、おお、ミール、ミールか!よくぞ無事で帰って来た。」
サルトバーン領主の館で、娘ミールに抱擁をして涙を流すケートス。彼女を送り出した時は
今生の別れと覚悟したが、またこうして再会できた事、そして見た目5歳くらいまで
若返っていたことが、彼女がいかに地上で苦労を重ねて来たのかを察し、その労に涙を流す。
「お父様、まだ終わりではありません、これからが本番です。全てが終わったら
共にお祝いしましょう。」
「すまん・・・ミール殿がここまで若返ってしまったのは、俺達の不甲斐なさゆえだ。」
「だが、彼女の呪いを解く方法も、その可能性を見いだせた。必ず彼女は救ってみせる。」
オグマとリヴィアスが自警団の連中やサルトバーンの民に頭を下げて回る。地上に到達
してからというもの、思えば彼女には随分負担をかけた、戦士たる我々がもっとしっかり
していればこの事態は防げたかもしれないのだ。
「ま、ミールさんはあれで無茶するからなぁ。」
武器屋のドガさんがしみじみ話すと、民衆たちもうんうんと頷く。領主の娘として
この町を治める手伝いをしていた頃から、彼女はまさに八面六臂の活躍をしていたそうだ。
「でろりんさん、新しい義手いっとく?」
かつて片腕を失ったでろりんに義手を付けた魔族の医者が声をかける。
「いいのか?前回もロクに礼が出来ないまま、ダメにしちゃっからなぁ。」
かの
消滅した義手。その事を語ると魔族は嬉しそうに拳を握って話す。
「ありゃ俺の弟の腕なんよ、志半ばで死んでしもたんだが、そうかい、アンタを守って
くれたのかい、嬉しいねぇ。」
「・・・そうだったのか、ますますすまない。」
「いいってことよ!俺等ら魔族の医者の家系は、身内の遺体を
使うのが習わしでな、弟も喜んでるだろうよ。
そう言って新しい義手を見せてくれる医者魔族、なんでも今度は彼のじいさんの腕が
取ってあるとかで、大丈夫なのかと心配して霊安室に行ったら今度は前回以上に
たくましい腕を見せられた・・・さすが魔族、寿命ハンパ無いな。
「あのケプラスとガノイザーが・・・行方不明?んなバカな!」
『まさか、あれほどの強者を倒したと言うのか?天界の刺客ごときが。』
館の会議室にて、町の有識者たちを集めての作戦会議で、きらりん達一行は仲間であり、
この魔界に居残って天界の放った怪物の退治を請け負った強戦士の消息不明を知る。
現在魔界の屈指の実力者であり、当然この計画にも大いに助力を乞いたかった頼もしい
戦力の不在に、落胆と心配を隠せない一同。
「ケプラスさん、ガノイザーさん・・・どうか、ご無事で。」
「何者かは知らぬが、あの二人を倒したかも知れぬ者がいるとなれば・・・脅威だな。」
彼らは知らない。その強い仲間を倒したのが、かつてもう一人いた”仲間”であることを。
だが会議室の暗い雰囲気は、きらりんが持ち帰った計画の草案を皆に話した瞬間
きれいさっぱり拭い去られた。
「おお!落ちてくるなら支えればよい!素晴らしい発想だ!」
「あのバーン様が残した遺産が世界を救うか、これは生き証人になれるな!」
「天界の連中の度肝を抜いてやれるぜ、さすが魔王様だ。」
意気上がる魔界の住民たち。たとえどんな困難でも向かうべき方針があればそこに
光明を見出せるものだ。
「このことを魔界に広く伝えて下さい、協力を仰ぎたいのもありますが、まずは希望を
持って下さいと!」
きらりんがそう締めると、全員がおうっ!と立ち上がって、どたどたと動き出す。
計画を広め、協力者を募り、野良モンスターの干渉を防ぎ、天界の敵に備える。魔界の破滅を
阻止する為にやることは幾らでもあるのだ。
翌日の朝に設定された時間、義手を付け終わったでろりん達と合流する。いよいよ
これから行動開始だ!
「じゃあ、この時計を各自持って下さい。ゼンマイ式だからこまめにネジを巻いて下さいね。」
ミールが皆に時計を配る。ここから彼らは二手に分かれて行動することになる。
地上に戻るのが柱を転送するきらりんと、護衛のへろへろ&まぞっほの計3人。魔界に残って
転送地点を特定するミールと、転送の為の”きらりんの縁”であるでろりんとずるぼん、そして
彼らを警護するリヴィアス、オグマ、そしてナタルコン。
お互い連絡が取れない地上と魔界なれば、作戦決行のタイミング合わせに時計は必須アイテム
なのだ。
「最初の一本、3日後の正午にこっちに送ります。それまでに転送位置の特定と、周囲の
驚異の排除をお願いします!」
ミールのお任せください、の言葉に続いて、オグマ達もうむ、案ずるな、と笑顔で頷く。
「さて、みなさん。私から一つ提案があります。」
そう切り出したのはミールだ。オグマもリヴィアスも何事?という顔をする。
「この作戦、はばかりながら要となるのは私です。水脈のポイントを見極め、柱の配置を
決めるのですから。」
そりゃそうだ、と頷き合うオグマとリヴィアス。というかそれは周知の事実で、
そんな彼女を危険から守るために戦士である二人を二人とも魔界に配置しているのだ。
「ですがあのケプラスさん達を倒した可能性のある天界勢の攻勢、また野生のモンスターにも
注意が必要です。それらの手に私がかかるとこの計画は終わります。」
やはり頷くオグマとリヴィアスの二人。そう、二人
彼らは気付いていない、他の面々が、オグマの腰に収まるナタルコンすらが、この後の展開を
楽しみにして笑いを噛み殺している事を。
「ですから私はこの計画中、”世界一安全な場所”から指揮を取りたいと思っています。」
そのミールの言葉に、へ?という顔をする二人の戦士。そりゃ安全な場所から指揮して
もらうのが一番なんだろうけど、そもそもそんな場所があるのか?と顔を見合わせる。
「リヴィアスさん、しゃがんでいただけますか?」
ミールのその言葉に、リヴィアスは頭にハテナマークを浮かべながらも、片ヒザをついて
ミールと同じ眼の高さで見合う。ああ、ミールが子供になっちゃったから同じ目線で
話したかったのかな?などと思いながら。
が、ミールはそのままとことこ歩いてリヴィアスの後ろに回ると・・・
-とすっ-
リヴィアスの背中に、抱き着いた。
「・・・な・・・」
肩越しに前に回され、リヴィアスの体をきゅっ、と包むミールの腕。幼く、柔らかく、
温かく、そして何よりか弱い彼女の体を背中で感じる。
「あなたは同じ失敗を、二度とはしない人です。だったら・・・」
周囲の者が皆、笑顔で見守る中、彼女はついにその決定的な言葉を放つ。
-貴方の背中は、世界でいちばん安全な場所、です。-
風が吹き抜けた、リヴィアスの心の奥で。
記憶に刻まれた、忘れ得ぬあの記憶。はじめて空を飛んだ日、はじめて妹をその背に
おんぶしたあの日、幼い妹の体温を背中に感じた、暖かなあの日-
妹の血肉を背中に感じたあの日、お母さんに託された妹、ルミナを守れなかったあの日、
全てを失い、後悔と自責と絶望に埋め尽くさ荒れた、忌まわしきあの日-
もう2度と、誰かをおんぶする事など無いと思っていた。2度とやり直せない事だと。
自分に妹を託す母も、おんぶする妹ももういない。何より一度妹を潰した自分なんかに
背負われたいと思う者などいるものか、誰が俺などの背中に命を託すものかと。
その命が、彼の背中にあった。取り返しのつかない後悔を、やり直せない過去を、
もう一度と、今度こそと、彼が心のどこかで望み、決して届かない願いだと思っていた、
その”復讐”の
「リヴィアスさん、お願いできますか?」
耳元で囁くミール。その手はしっかりとホールドされている、その手にかかる力は
言葉以上に雄弁に彼女の意図を語っていた。
-信じていますよ-
「いいん・・・だな。」
目から熱いものをぼろぼろとこぼしながら、やっとそれだけを絞り出すリヴィアス。
まさかこんな瞬間があるなんて、自分にとって戻らない過去が、その失敗を取り戻す
時が来るなんて・・・今度こそ、今度こそ!今度こそ!!
「今度こそ!・・・俺は、間違わないッ!!!」
そう言って彼の首に巻き付いた
まるで意志あるかのように首からしゅるりと離れ、ふわり舞ってリヴィアスとミールを
しっかりと結び付ける。
魔界の戦士リヴィアスの象徴、
おんぶ紐としてのアイテムに立ち還る。
ミールをおんぶしたまま立ち上がるリヴィアス。20年前にその背中に刻まれた悲しみを
今こそ希望に変える、彼女を守り切り、そして魔界の皆を救う。その決意を持って
彼は叫ぶ。
「行くぞ、みんなーーーーーっ!!」
「「「おおーーーーっ!!!」」」
構想時からあった、すっごく書きたかった話です。
是非感想お願いします。