「ただいま帰りましたー。」
破邪の洞窟の入り口、未だに
きらりんと地上組の付き添い、へろへろとまぞっほの3人が
そこにいたカール王国の面々にそう挨拶する。
「おうお帰り、早かったじゃねぇか。」
笑顔で返したのは大魔導士マトリフだ。彼は魔界勢の作戦に大いに乗っかる気で草案を練り、
実行の段階に移った今も力を貸す気マンマンである。
「ったく、悪だくみが好きなんだからな、師匠は・・・まぁ元気でいいんだけどさ。」
そのポップの嘆きに周囲の面々から笑いが起こる。マトリフはすでに108歳という高齢で、
しかも8年前の大戦時には病を患って余命いくばくも無いかと思われていたのだが。
「おうよ、こうなんつーか、血沸き肉躍る展開じゃねぇか、元気もりもりって感じだよ。」
あの大戦の後、アバンの調合した薬がドンピシャはまって回復した彼は、しばらくの間、
弟弟子のまぞっほ達の悪さの後始末に追われていた。そんな縁できらりんとは生まれた時から
長い付き合いであり、その才能の輝きには目を細めてきたものだ、ポップに続いて自分に縁の深い
孫のような存在が出来たことに、大いに人生の張りを感じていたのだ。
「さて、これからどうしますか?城で休憩を取るなら歓迎しますが。」
アバンのその申し出にふるふる首を振るきらりん。もう作戦発動しているし、魔界組の皆との
同調もあればゆっくりとくつろぐ時間など無い。なにしろこれは6本の柱の1本目、この転送は
今後の指針ともなるテストケースをも兼ねているのだから。
「私たちはすぐに一本目の柱、オーザムの柱に飛んで転送準備を始めます。3日後の正午に
送らないといけませんから。」
この計画の一番の肝、それはきらりんの魔法力の使用量と回復量だ。膨大な魔法力のキャパを
持つ彼女だが、さすがに
ものになる。
しかも魔界から帰る時には、あの封印の門を4つの破邪呪文を兼用して開く必要があり、
そこから
この1本目は、計画がどの程度の魔法力を要するかの実験でもあるのだ。
「なのでオーザムに行ったら私はすぐに
回復できるだけ回復しておかないと・・・」
「ならせめてルーラで連れてってやるよ、少しでも魔法力を節約したいだろ?」
ポップのその提案にも首を縦に振らないきらりん。最初に楽をしてしまうと後々楽を追いかけて
しまう事をミールに示唆されていて、この一本目はとにかく自分たちでとの方針を固めている。
最初がオーザムの柱なのも、まず一番環境の厳しい場所を意図して選んだのだ。
薪や食料を集めて寒さ対策を備えた彼らは、そのままルーラでオーザムに飛ぶ。
ちなみにマトリフ、ポップとメルルも別に自前のルーラで現地まで飛んでいく。
柱の前にある
他の面々は周囲で火をおこし、焚火を焚いて少しでも彼女が集中できるように環境を整える。
それを終えてようやく一息つく一行。
「にしても・・・きらりんちゃん可哀想。本当ならまだまだ親に甘えたい歳でしょうに。」
メルルが悲しい目をしてそう呟く。自分が8歳の時はどうだっただろう、少なくとも一人で
魔界の命運を背負うなどという事は考えもしなかったし、もしそうなってたら確実に
自分じゃ耐えられなかっただろう。
だな、と同意するポップ。彼もまたアバンに弟子入りする前は比較的母親に甘えて
暮らしてきた。まぁ親父が怖かったから必然的にそうなったのだが。
「それも利用するつもりなのさ、きらちゃんは。」
「
するというわけじゃ。」
へろへろとまぞっほの言葉に一同「っ!!」と息をのむ。彼女の両親恋しの感情を、
地上から魔界への道しるべとして使おうというその発想に、胸中穏やかではいられない。
「ひでぇ話じゃねぇか・・・それ、きらちゃんが思いついたのか?」
もし他の誰かが思いついて強いているのなら容赦なくぶん殴ってやる、と息巻くマトリフ。
だがまぞっほはその視線に頷いて見せる。まぎれもなくその思考は本人の発案なのだ。
「周囲の面々がみなアレだからなぁ・・・きらちゃんも感化されてると思うぜ。」
確かにそのへろへろの言葉通りだ。きらりんが魔界で出会った仲間、オグマもリヴィアスも
ミールもナタルコンも皆、過酷な己の立場から逃げずに真っ向から立ち向かっている。
そんな彼らと一緒にいる彼女が影響を受け、その結果使えるものは何でも使うという
決断をさせた。まだわずか8歳の少女が、だ。
「全部終わったら、国を挙げて甘やかしてあげにゃあいけねぇな、こりゃ。」
◇ ◇ ◇
魔界、サルトバーンにほど近い山岳地帯。幾人もの魔界の住人が地形を調べ、天の大地との
距離や沈下速度を計算して回る。
「おーい、こっちに岩盤の固い平地あるぞ、ここどうだー?」
「そこは真上の天の大地がヘコんでるから却下だ!天井割れちまうぞ!」
「2km先のポイント、どうだー?」
「あーダメダメ、あっちは地脈に溶岩走ってる、支えられねぇよ。」
その中心にいるのがリヴィアスにおぶさったミールだ。各所から出る湧き水を調べ、水脈が
どこを流れて地面を下げているのかを感じ取り、最終的に柱を配置するポイントを決める。
「あの山の尾根から中腹に駆けて水の流れを感じます・・・自然に出来た流れではありません、
おそらくは精霊”落ちのイタ”の仕事でしょう。だとすれば・・・」
かつて彼女たちが相対したふたりの精霊”轟のニカ”と”落ちのイタ”。水脈を操作して
魔界を埋め立てるその計画の実質の実行者が、水を操る能力を持つイタだ。一本目の転送地点を
サルトバーンに近いこの周辺にしたのは、かつて相対した彼女たちとの経験を生かして、
水脈の把握や転送を受け入れる下準備をより完璧にするためのテストケースだ。
地上のそれとは逆に、魔界側ではまず万全を期して柱を建て、そこから得られる知識と
経験をもとに残りの柱をしっかりと建てていく計画だ。魔界全土の知性を持つ者たちの多くが
この計画に協力したいと申し出ているという側面もあり、多くの人出を得られていたのもある。
オグマ、ナタルコンとでろりん、ずるぼんは周囲の警戒に当たっている。天界がこちらの
動きをどの程度把握しているかは分からないが、それでも妨害の可能性は十分にあるし、
また飢えた野良モンスターや、あの怪物”融合の顎”の襲撃も無いとは限らない。
一度集合してミーティングに入る一同。地上でマトリフに貰った地図と魔界地図、そして
ミールが感じ取った水脈と、みんなで調べた地形を照らし合わせて決定的なポイントを
絞っていく。タイムミリットはあと2日だ。
◇ ◇ ◇
「はあぁぁぁぁぁ・・・ッ!」
柱に手をついて、その魔力を吸わせていくきらりん。それに応えて建造物の柱がまるで
生きているかのように鳴動を始める。
-ヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・ン-
「はぁ、はぁ・・・ふぅっ。」
息をつくきらりんを皆が心配する。無理もない、直径15m、高さ250mほどもある
馬鹿でかい柱に魔法力を行き渡らせたのだ、これで平静を保てる者などあの大魔王バーン
ぐらいのものであろう。
「大丈夫かい?」
へろへろがハンカチできらりんの顔をぬぐってやりながらそう気遣う。きらりんはそれに
答えて皆に笑顔を作り、答える。
「うん!まだまだここからだから。ここでへこたれるわけにはいかないよ!」
そう言って精神集中し直し、次の呪文の詠唱を始める。
「
呪文の効果を逆にする魔法陣が、柱を中心に地面に描かれる。転送呪文を逆に使って
きらりん自身が柱と共に魔界に転移するための下準備ともいえる魔法。
ふらっ!
思わずよろめくきらりん。自分の魔力のキャパには自信があったし、まだ魔法力を
使い果たした気はしない。だがここまで魔法力を一気に使った経験自体が無く、その負担が
彼女の意識を寸断しようと身を蝕む。
「しっかりしねぇか!魔界を救うんだろう、魔王さんよ!!」
檄を飛ばしたのはマトリフだ。ことここに至っては彼のスパルタ根性は逆にきらりんに
心地よいムチとなって気を張り、活力を振り絞る応援になる。
「うん・・・あとひとつ・・・頑張る!」
「でろりんさん、ずるぼんさん、時間です。配置について下さい!」
ミールの指示で二人は所定の位置につく、二人の真ん中の場所が柱を転送させるポイントだ。
絞りに絞った、狙いすました一点。ここに柱をすえる事で確実に天の大地の沈下を
押さえられると決めた場所。
そこからずるぼんとでろりんは、その手に”転移の円”の破片を掲げて、愛しい娘の名を
心で呼ぶ。
(きらりんちゃん、ここよ)
(さぁ来い、優秀過ぎる娘よ!落とす場所はここだ!!)
そんな二人をリヴィアスとミールが、オグマとナタルコンが、そしてこの瞬間の為に
動いた大勢の者たちが取り囲んでその時を待つ。さぁ、歴史的な一瞬までもう少し!
この3日の頑張りの先に成功が、未来があってくれ、頼む・・・。
「カウントダウン行きまーす!」
転移の円の中心部を持って魔法力を発動寸前の状態のきらりんに、時計を見ながら
へろへろが大きな声でそう叫び、”その瞬間”へのカウントダウンを始める。
「「10、9、8、7、6・・・」」
へろへろに合わせてまぞっほが、マトリフが、ポップが、メルルが、そして集まった大勢の
野次馬、ダイにヒュンケルにクロコダイン、ロモスやベンガーナの王様、ロン・ベルクやノヴァ、
チウにブラスに遊撃隊の面々、ついにはパプニカ3賢者を従えたレオナまでがカウントに
参加していく。
極寒の北の大地に、大勢の者たちの声が響く!
「「5、4、3、2、1・・・」」
魔界の一角の山岳地帯、この3日に全霊を注いだ工事人たちが、その成果の瞬間を祈って
一斉にカウントダウンを唱える。
-地上と魔界で唱えられた
「「「ゼロおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」
「
◇ ◇ ◇
天界。
魔界で、そして地上でお祭り騒ぎになっているビジョンを眺めながら、彼女たちは様々に
今後の事を考えて気を重くする。
「みなさん、魔界の者たちの抵抗の全容はこれで明らかになりました。」
精霊”輝きのシア”の言葉に皆が頷く。神より命じられた”魔界を閉じる”事業に対して
ここまで万全を尽くしてきたにもかかわらず、その計画は魔界全体に知れ渡り、地上の人間の
協力すら得られなくなって、今まさに阻止されんとしている。
精霊”天の8行”。
神々によって生み出された時以来、全員が集合するのは2度目の事だ。彼女らは今、改めて
魔界勢との全面対決を決意せねばならなかった。
輝き(太陽)のシア、瞬き(星)のサナ、満欠(月)のネル、昇り(雲)のクト、
流れ(風)のシル、落ち(雨)のイタ、轟き(雷)のニカ、そして降り(雪)のレム。
天が地上に授ける8つの恵みを名に持つ彼女たちとオグマ達の戦いは、ここから
ついに最終ラウンドの鐘を打ち鳴らす-
メルル「80話のアンケートクイズですけど、私の信頼度低すぎて泣きそうです・・・」
きらりん(無言でメルルの肩をポンポンと叩く)