魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第88話 失われた森

「行けども行けども枯れ木の山か・・・噂以上だな。」

『土も木も岩すらも痩せ果てておる、伝説もあながち嘘とは思えぬな。』

 森、というにはあまりにも荒涼とした山岳地帯を進むオグマ達。周囲に生物はおろか

生きた植物の気配すらなく、あらゆる”生”を感じさせない荒涼かつ清浄な世界に思わず

ため息が漏れる。

 

 1本目の柱を転送、設置したと同時にきらりんはふらっ、と倒れてしまった。あまりに

集中して魔力を使いすぎたがために、魔法を発する媒介としての肉体が半ば無理矢理

休みを求めたのだ・・・早い話が過労である。幸い大事には至らないようで、彼女には

サルトバーンにてずるぼんの付き添いのもと、ゆっくり休養を取って貰っていた。

 で、その空いた時間に次に柱の候補地の下見にと、オグマとナタルコン、リヴィアスとミール、

そしてでろりんは。このカジャン大陸の”失われた森”とよばれる場所に出張って来たのだ。

 

 かつてこの地には巨木の伝説があった。まだ魔界が”地下世界”と呼ばれていた頃、

あまりにも巨大な大樹の根が大陸全土を覆いつくし、その上部は天の大地を貫いて

地上まで届き、そこに生る恵みの果実は食したものに様々な奇跡を起こした。

地上の者たちはその大樹に敬意を込めて”世界樹”の名を付け、豊穣の実りに感謝をささげた。

 

 だがそれは代償として、地下世界の大地の養分を文字通り根こそぎ必要としていたのだ。

カジャン大陸の大地は生気を失い、やがてそれは地下世界全体に及んでいく。永い時を経て、

地下全土はついに不毛の大地と化してしまったのだ。

 植物は実を付けず、生物はやせ細り、知性ある者たちは地下を見限り地上へ進出して行った。

移住する力の無い者、体が弱った者は次々と倒れ、ついにこの地下世界は完全に命を失った。

 

 生あるもの全てが地上に集結する中、そこでは当然のように争いが多発してしまった。

種族間同士、時には同族で、また時には混合部族同士が血で血を洗う戦いを

繰り広げるようになる。

 それを憂いた神々は、争いで絶滅寸前まで数を減らしていた人間や弱小生物のみ

地上に残し、強力な力を持った魔族や竜族、モンスターなどを地下世界に落としたと

言われている。

 

 落とされた者たちは神々への報復として、その世界樹の根を総掛かりで根絶にかかった。

火を放ち、表皮を引きむしり、根を少しづつ叩き切って、ついには世界樹を枯らすことに

成功したのだ。

 それ以来この世界は”魔界”と称されるようになる。魔族の者たちにとっては自分たちで

憎き巨木を滅した象徴として、地上の者には恵みの世界樹を枯らした畏怖の念を持って。

 

 そんな魔界誕生の御伽話を内包するのが、このカジャン大陸の”失われた森”なのだ。

 

「んじゃこの枯れ木、全部世界樹の枝葉なのかよ?」

「そう言われています。だからこそ枯れても朽ちて土にならず、立ち続けているとか。」

 でろりんの質問にミールが答える。最も彼女はおろか、永きを生きる魔剣ナタルコンすら

伝承でしか知らぬほど遥か昔の話なれば、証明のしようも無いのだが。

「で、地上の地図を重ねてみたら、上は”死の大地”だもんな、なんか妙に説得力あるよ。」

 地上と魔界の地図を重ね合わせてリヴィアスがそう呟いた。そう、この大陸の上はあの

大魔王バーンがかつて拠点とした死の大地と呼ばれる不毛の大陸、そう考えるとこの伝説が

あながち間違いではないと思えてくる。

 

「死の大地から、あの大魔宮(バーンパレス)が出現したと聞いたが・・・ならばバーン様は

ここから地上に赴いたのか?」

「その可能性はあるな。だとしたらここにも地上に続く道があるかもしれん。」

「だからこそここに柱を建てる必要があるのでしょう、魔界と地上の境が薄い箇所は

その分落盤もスムーズにいくでしょうから。」

 様々に推理しながら森を進む一行。この地に柱を建てる以上一度は来ておかないと、

肝心な時にルーラで来ることが出来ないし、かといってこの地に住む者などおらず、誰かに

道案内を頼む事も出来ないのだ。となればまずは自分たちで分け入っていくしかない。

 

 やがてひとつの山の頂上、というには不自然に真っ平になった大地に到達する一行。

その地面には、まるで縞模様のように線が走り、大地に沿って円を描いている。

「ひょっとして・・・これ、年輪か!?」

「ってことは、ここ山じゃなくて・・・伝説の、世界樹の切り株かよ!」

「・・・伝説が証明出来ましたね。」

 驚く一同にミールが感慨深く答える。伝説を目の当たりにした一行はおもわず息をのむ。

かつてここから地上に向かって、大樹が幹を伸ばしてそびえ立っていたというのだから。

 足元から宙に視線を移し、やがて全員が天を仰ぐ。そしてその視線の先に彼らは

宙に浮かぶ黒い円と、そこに不自然に発生するプラズマを目にしていた。

 

「お。おい・・・あれ、どっかで見た気がしないか?」

『うむ!きらりんが洞窟の扉を突破する時の結界、そのエネルギーと同じだ!』

 でろりんの質問にナタルコンが返す。そう、あのプラズマは魔界と地上の境界に張られた

異界への結界!やはりここと地上は繋がっており、かの大魔王もここから己の軍勢や

大魔宮を地上に送ったに違いない、と確信する。

 

 その時だった。その黒い円の中にひとつの光が瞬いたかと思うと、次の瞬間にはまるで

流れ星のように光の尾を引いて落ちて来た。

「な・・・なんだ!?」

 弧を描いて彼らの周囲を一周したその光は、やがて彼らの目の前まで飛んできて空中で

静止する。思わず声を発したでろりん以外はその存在にあたりを付ける、宙を舞い、

光を発する女性の姿、どこか儚げで、それでいて強大な力を感じさせるその気配に。

 

「精霊、か。」

 オグマがナタルコンを腰からカチンと抜き、リヴィアスはミールを素早く背負って

赤い布で固定する。来るとは思っていたが、ここで来たか!

 

「私は精霊、天の8行”瞬き(星)のサナ”。サルトバーンでお見掛けして以来ですね。」

 見た目12~3歳の幼い容姿に、キラキラと輝く羽衣を身に纏った神秘的な少女は

すました顔でそう言った。

「こいつが・・・精霊!?」

 でろりんが思わず発する。彼もかつて精霊”降りのレム”には会っていたが、彼女とは

全く異質の存在感を伺わせる目の前の人物に思わず冷や汗を流す。その神秘的な雰囲気は

まさに神の使徒の名が相応しく、魔界の敵としてピッタリだったから。

 

「あなたが・・・サナ!父にわざわざ絶望を与えに来たという・・・」

「サルトバーンの領主さんね。ええ、簡単でしたよ、地上に落ちている大魔王の亡骸の

欠片を見せるだけでしたから。」

 ミールの問いにさらっと返すサナ。かつてミールの父ケートスの研究が行き詰っていた時、

大魔王(バーン)の石化した”鬼眼”を見せる事で彼を絶望に追いやったのがこの精霊

だったのだ。

 

「俺達はアンタに会った覚えはねぇんだがな?」

 リヴィアスがオグマと目を合わせつつそう返す。話にこそ聞いていたが、この精霊を

実際に目にするのは初めてのはずだ。

「ニカとイタがお世話になったでしょ?二人を開放したのは私ですよ。」

「「あ!!」」

 オグマとリヴィアスが同時に叫ぶ。そうだ、サルトバーンに”融合の顎”が乱入した時、

魔法で拘束していたはずの二人の精霊がいつのまにか解放されていた・・・こいつの仕業か!

 

「そう、私は結界を生み出し、操るのが一番得意なの。例えばこんな風に。」

 指をパチン!と鳴らすサナ。その掌に小さな魔法陣が描かれ、それがひと瞬きした瞬間!

 

 -バリィッ!!-

 

「なっ!」

「がぁっ!?」

『ぬうぅぅぅ・・・』

「あううぅっ!」

 

 リヴィアス、オグマ、ミール、そしてなんとナタルコンにまで、その体を拘束するように

魔法陣が巻き付いていた。あまりに一瞬の出来事に成す術なく動きを封じられる戦士たち。

 オグマが光の闘気を、ナタルコンは暗黒闘気を用いて外そうとするが、微動だに出来ない。

どうやらこれは魔法力でないと解除できない結界の類のようだ、今この場にはきらりんも

他の魔法使いも居ない・・・これは、マズいっ!

 

「だっ、大丈夫かよお前ら!」

 そう発したでろりんに全員が「えっ?」と目を丸くする。そう、彼だけが魔法陣を

かけられておらず、行動の自由が許されていた。どうして彼だけが?

 

 羽衣の掛かった手を口に添えてふふっ、と笑うサナ。薄い笑顔ででろりんを見つめると

その理由をこう解説した。

「私の力は、私の力を知る者にのみ作用します。」

その言葉に固まる一同、その意味を想像して困惑する・・・どういう意味だ?

 

「あなたは私の力を知りませんでしたからね、彼らは私がかつて仲間の精霊を私が助けたことを

知りましたから、私の力を認識しているのですよ。」

 魔法陣が描かれた掌をひらひら振りながら、笑顔で続けるサナ。

 

「私の力を意識すればするほど、私の術中にハマります、それが私の能力。」

 

「じゃ、じゃあ俺はあんたと初対面だったから、効かなかったってコトか?」

「そういう事です。でも今あなたはそれを知りました、つまり・・・次はこうはいきませんよ。」

 でろりんにそう返して、笑顔で掌を閉じるサナ。その瞬間残り全員の結界がかき消え、

不意の開放に思わずよろめく。

 

 彼らが臨戦態勢を取った時、すでにサナは天高く舞い上がっていた。彼女は通る声で

オグマ達に警告した。

「知っての通りこの上は地上まで繋がっています。貴方達だけならここから地上に脱出すれば

死ぬことはありません。ですがもし私たちの計画をこれ以上邪魔するなら・・・」

 

 -私が必ず、あなた方を滅ぼします、魔界と共に-




まさかのでろりんのターン来る?
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