・・・う、ん?俺は・・・ここは・・・?
「お!起きた起きた。大丈夫かー?」
「こんな魔性の森のど真ん中で昼寝するか?変わってるなお前。」
ヒムが目覚めた時、彼の目の前にいたのは二人の少年だった。ひとりは獣人系、
おそらく人狼の類だろう。もうひとりは魔族のようだ、頭の両脇から角が生えている
ところを見るにサタン系のようだ。
「何だ・・・ガキ共。ここは一体・・・?」
「お前だってガキじゃねーか!」
「ははっ、ふてぶてしい奴だなー。その元気があれば大丈夫か。」
魔族のガキが悪態を返し、人狼の少年が笑う。そういえば確かに俺もまたガキの体に
なったんだった・・・。
「違いねぇな、ところでここはどこだ?」
きょろきょろと周りを見回すヒム。景色は薄暗く、痩せた木がうっそうと茂るその森は
ヒムが今まで見たことのない景色だった。
ましてやモンスターの子供などそうそう見かけるものでは無い、デルムリン島なら在り得るが、
そもそも自分がいた島なんでそれなら彼らを知ってるはずだ。
「どこか知らないで昼寝してたのかよ!」
魔族のガキがツッコミを入れるのに続いて、人狼のガキがやれやれと手を広げて答える。
「ここはギレネスの森、別名”魔性の森”と呼ばれるトコだよ、厄介な魔獣や怨霊が
たむろしてる危険な所だよ。」
「あーいや、そういうレベルの話じゃなくてだな・・・」
ヒムは頭を振って記憶を探る。そうだ、俺は天界に行き、その体を魔族の子供に作り替えて
それから神を名乗るじじいに落っことされてそのまま気絶したんだ。
ヒムは改めて目の前の森を、生えている木を見る。それは彼が天界で見た花とは全く
逆のイメージを感じさせた。絵に描いたように奇麗でかつ生気のない天界の花々に比べて、
この木々はしわがれながらも懸命に幹を伸ばし、生き永らえようとする逞しさ、いや、
執念を感じさせた。待てよ・・・ってことは、ひょっとして・・・
「ここ、魔界か?ひょっとして。」
ヒムのその言葉に2人は顔を見合わせ、ぽかんと呆けた表情を見せた後に、腹を抱えて
大笑いを始めた。
「あははははは、あったりまえじゃんか!何言ってんのお前?」
「どう見ても魔族だろアンタ・・・天界に行った夢でも見たの?あっはっはっはっは!」
そんな二人にうぐ!とうめいて顔を歪めるヒム。ああ、やっぱり魔界かよ。というか
こいつらに今まで天界に居ましたって言っても絶対信じないだろうなぁ。
(ま、しかし好都合かもな。俺は自分を鍛えたかったんだから、魔界ならうってつけだぜ!)
そう気合を入れ直して立ち上がるヒム。と、そこでようやくその身にまとうオリハルコンの
「なぁアンタ、それ随分いい装備だよな。」
「そうそう、上等の金属と細工じゃないか、そんなの初めて見たよ。」
彼らも気になるようで興味津々で食いついてくる。立ってみれば彼らはちょうど今のヒムと
同じくらいの背格好だ、感覚的には同い年と言った所か。
「ああ、俺の大事な相棒たちだよ。」
ポンと肩当てを叩いて自慢するヒム。こいつらにこれがオリハルコンだと言ってやれば
さぞかし仰天するだろうな、と笑みをこぼす。
だが、次に魔族のガキから出た言葉がヒムを驚かせる。
「なぁ、俺と勝負しないか?俺が勝ったらその装備を貰う!アンタが勝ったら家来にでも
なんでもなってやるよ!」
「・・・何ィ?」
小生意気なガキだ!とまず思う。だが次の瞬間に彼は明らかな違和感に気付いた。
「って、だったら何で俺が気絶してる間に持ってかなかった?」
まぁ意思の有る装備なんで、そうそう思い通りに持ち逃げできる物でもないのだが。
「見損なうなよ、俺はコソ泥じゃねぇ!」
「装備も興味あるけど、本音はアンタとやり合ってみたいんだよ、僕たちは。」
二人にそう返されて、ヒムは心地よい闘志を掻き立てられる。まだガキの癖に一端の
口を利くじゃねぇか!・・・って俺もガキだったか。
「いい度胸だ、面白い!」
魔族の小僧が素手なのを見て取って、自分の装備を体から外して脇の草むらに置く。
ゴッ!と拳を合わせて相手を睨む、これがこの体でのデビュー戦だ!
「名前を聞いてやるよ、俺の名はヒムだ!お前は?」
「俺様はザン!サタンジェネラルのザン様だ!」
対峙するヒムとザン。両者気合十分なのを見て取った人狼の少年が、1歩2歩引いて
その手を振り下ろす。
「始めっ!!」
「
ザンが先手とばかりに呪文を放つ!真っすぐ向かって来るそれを、ヒムはなんとパンチで
迎撃に行く!
「オーラナックルーっ!!」
-ドグワァッ!-
「な・・・イオをパンチで潰した?」
「バ、バッカじゃねぇのか!?」
驚く二人。普通あんなことをしたら拳がただじゃすまないだろう、よほど鍛えているか、
種族的に耐性でもない限りは・・・まさかコイツは!
「痛だだだだだだっ!うわっ
赤く腫れた拳を抱えてのたうつヒムに、二人はがくっ!と体を傾ける、何なんだコイツ・・・
(阿呆が、まだオリハルコンの時の癖が抜けておらんな。)
(まぁ身をもって知ったのだ、これも経験だな。)
傍らに置かれたオリハルコンの装備、それに宿るフェンブレンが悪態を吐き、シグマが
フォローを入れる。相変わらず目先の事しか見えぬ奴だ、と。
(どうですかキング、あの二人を見て。)
アルビナスがマキシマムに問う。本来ならヒムの相手になるはずもない少年だが、今はヒムも
大幅にレベルダウンしており、戦いの行方は見えてこない。
(ふむ・・・膂力や魔力はあのサタンの小僧が上だな。しかし戦闘の経験値ではさすがに
遥かに上回っておる、展開次第というヤツだな。)
「イオ!イオ!イオっ!!」
ドン!ドン!と炸裂するザンの
攻撃に接近するスキを見いだせないヒム。
「ならこっちも呪文で行くぜ!
お返しとばかりにメラをぶっ放すヒム。撃ち合いになったことでザンも左右に動き的を散らす。
(さぁ、突っ込んで来い!お前の得意は格闘なんだろ?)
(へぇ、誘ってやがるのか、接近戦を。俺が突破してくるのを狙うつもりのようだな。)
魔法の応酬の中、両者が相手の狙いを読み合う。お互い魔族の中では魔法と格闘の両方を
得意とする屈強な種族、勝機をつかむのはどっちだ?
「ここだッ!」
ヒムが呪文の切れ目を察して一直線に突っ込む!自分の魔法力もこれが最後!ラスト一発の
メラを右手に宿して拳ごとお見舞いする!
「ヒートナックルーっ!!」
「待ってたぜえぇぇぇっ!」
頬の皮一枚で拳を躱したザンが、そのままヒムの腕を抱え込む。このまま肘関節を極めて
その腕をへし折りにかかる、貰ったっ!
「悪いな、本命はこっちだ!」
ヒムは相手の狙いを読んでいた。相手が格闘戦を誘っていたことを経験の差で見抜き、
得意のヒートナックルを捨てパンチにして、返す刀で左ボディブローを打ち込む。
かつてミストバーンと殴り合った時に使った、得意の左右連撃拳!
-どむぅっ!!-
「ぐはっ!」
うめいてよろめくザン、その彼をそのまま蹴っ飛ばして後退させるヒム。だが己の左手に
残った感触から、今のパンチも致命傷にはなっていない事を察する。
(コイツ・・・凄ぇ腹筋してやがる!)
打ち込む角度や力の集中はベストだった。だがそれでも相手をKO出来ない状況に、
改めて自分が弱くなった事、そして相手が子供ながら相当の研鑽をしてきた事を実感する。
(いいねぇ、これこそ俺が望んでいた戦い、その第一歩だ!)
ぐっ!と拳を構えるヒム、腹を抑えながらも顔を上げ、闘志を返すザン。
「はい、それまで!」
と、その間に人狼の少年が割って入る。やれやれ、といった表情で。
「な・・・マルタ!邪魔するな!!」
「まだ勝ったつもりは無いんだがな・・・」
戦いの腰を折られて抗議する両者。だがマルタと呼ばれた人狼は周囲を指し示し、
ふたりの戦いを強制終了させる。
「お前ら山火事起こす気かぁっ!さっさと消火しろーーーっ!!」
「・・・あ”」
気が付けば周囲に火種が散らばっている、まぁ火炎呪文と爆裂呪文をこの枯れた森の中で
撃ち合えばこうなるのは分かり切っていた事だ。
フェンブレンの剣も使って木や草を刈り延焼を食い止めるヒム達。マルタもまた
忙しく走り回って火を踏み潰し、なんとか鎮火に成功する3人。
その後、ヒムはマルタとも勝負するが、いかんせん魔法力が尽きている上に体力も相当
消耗しているのに加え、マルタの人狼らしいすばしっこく鋭い攻撃とスタミナに成す術なく
惨敗したのだった。最もマルタはヒムの装備を欲しなかったので賭けは無しで済んだのだが。
「武者修行の旅ぃ、お前らがか?」
戦いの後、彼らの話を聞いて驚くヒム。なにせ彼らはまだまだ子供で、とても一人で
旅をする年には見えない、ここが過酷な魔界なら尚更である。
「俺等、強くなりたいんでな!」
「目標とする人がいる、僕たちの恩人だ。いつかその人たちに恩を返せる強さを身につけたい。」
力強くそう返すザンとマルタ。その目には若者らしい輝きの奥に、決意を秘めた色が宿っている。
ああこれが”力こそが正義”の魔界、そこで生きる者の決意と言う奴か。
いいな、それ!
「俺も付き合っていいか?行く当てが無かったんで、お前らとケンカしながら旅をするのも
面白そうだしな!」
強大な敵に挑むのもいい。だがそれ以上に互角のレベルで高め合う
それはお互いを叩き上げる格好の修行になるだろう。
「もちろん、こちらこそお願いするよ!」
「決着はつけるぜ!今度こそその装備貰ってやらぁ!」
意気投合し、ギレネスの森に分け入っていく3人の少年たち。いかに魔性の森とはいえ
決意を持って未来に進む少年たちを止めることなど出来はしない、加えて彼らには
頼りになる
これが遥か後に”大魔王”と呼ばれる魔族と、その両翼を固める側近の最初の出会いであった。
キャラクター紹介
・ヒム(転生後)
オリハルコンの駒の戦士から、天界で契約した呪文
転生し、ジョブチェンジという形でレベル1から再スタートした。記憶や戦闘経験は
転生前のものを引き継いでいるが、オリハルコンの肉体を失ったことで使えない技が多く
格闘能力も相当弱体化している。
だがヒムの望み通りその体は”成長する”類のものであり、鍛えれば鍛えるほど強くなる。
オーガ・ニールでハドラーの魂に合わせて肉体を生成した為、鍛え方次第で魔王ハドラーをも
超える資質を備えている・・・先は長そうだが。
年齢は人間でいえば10歳前後に相当する。ヒムが禁呪法で生み出されてから9年なので
その年頃になった、図らずも同じ年頃のマルタとザンに出会ったことが彼にどういう影響を
与えるのかはこれからの物語。
装備:
・マルタ&ザン
かつてオグマとリヴィアスに一族の危機を救われた少年。その一族を危機に陥れたのが
精霊に取り付かれた自分達であることを深く恥じ、強い男になる事を決意する。
お互い良きケンカ仲間でありライバル。武者修行の名目で共に旅をする、目的地は話に聞いた
オグマの故郷、そこで石にされている彼の仲間たちを見守るのが当面の目的。
マルタは
やや温厚で礼儀正しい、一人称は”僕”。
ザンは魔族らしく呪文の心得があり、また肉体派魔族サタンジェネラルの血を引く為、
見た目に反しての怪力を持ち合わせている。基本悪ガキで一人称は”俺”または”俺様”。
名前の由来は通年彼岸花の咲く島の漫画から。
装備:なし。ザンはヒムの装備を虎視眈々と狙っている。