魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第94話 変わる風向き

 -パプニカ王国-

 

「おーい姫、今日の目安箱じゃぞい!」

 王女レオナの執務室に箱を抱えて現れた筆頭家老のバダックがそう言って、レオナの

前の机にその箱を置く。

「はいはい・・・どーでもいーけど、いつまで”姫”呼ばわりすんのよ・・・」

「だっはっは!婿を貰うまでは所詮姫じゃわい!」

 呆れ声で抗議するレオナをばっさり遮断して笑うバダック。もうダイとの婚儀は目前に

迫っており、彼らも身辺の準備に忙しい毎日を送っているが故の軽口が笑いを誘う。

 

 そんな中、国民の意見を聞くための目安箱の吟味は王族の大事な役目の一つだ。今の

国民が何を思い、何を望んでいるのかを理解することは統治の基本と言える、政治とは

かいつまんで言えば税金や労働力を提供してくれる国民へのご機嫌取りなのだから。

 

「って・・・今日はずいぶん多いわね。」

 連日意見を募っているだけに、最近は日に3~5通程度しか無かったのだが、今日は実に

20通以上の投書があるようだ。

「私たちも手伝いますよ。」

 3賢者のアポロとマリンが机に寄って、それぞれ手紙を一つ手に取る。レオナやバダックも

また眼前の手紙を拾い上げ、広げて目を通す。

 

 その日の全ての手紙の内容が、あまりにも意外な国民の感情を示している事に彼女らが

愕然とするのは、それからわずか数分後の事だった。

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

「おお!お帰りになられましたか。」

「あれ、兵士さんだけ・・・?へろへろさんとまぞっほさんは?」

 破邪の洞窟の入り口、魔界から帰還したきらりんが不思議そうに問う。いつもならここに

まぞっほたちがテントを張って待機しており、きらりんと合流してカール王城に向かい、

次の柱の転送の計画を進めるはずだったのだが・・・今日はなぜか見張りのカールの兵士しか

いない。

 少々お待ちください、と言って兵士は筒のようなものを取り出すと、天に向かってかざす。

ドン!という音と共に赤い煙が尾を引いて撃ち出される・・・これは、信号弾だ。

 状況が呑み込めないきらりんが、えーと、と質問しようとした時、遠方から光が輝き、

それが真っすぐここに向かって来る、ルーラだ!

 

 ドォンッ!

 

「ポップさん!」

「いよっ、きらちゃん。」

 飛んできたのはマトリフの一番弟子、彼女にとっては兄弟子に当たるポップだ。カールで

城勤めをしている彼もまた、今まできらりん達の計画にこっそり手を貸していてくれたんだけど、

何か今回は様子が変だ。

「話は後だ、とりあえず移動するよ。」

 そう言ってきらりんの手を取ると、再びルーラを発動させてきらりん共々飛び立つポップ。

ふえ?という顔をしつつも、手を引かれるままに飛んでいく。そしてすぐにカールの

森の中にある一件屋に到着する2人。

 

「お帰りなさい、お2人とも。」

柔らかな笑顔で出迎えたのはポップの妻メルルだ。遅れて小屋からへろへろとまぞっほも

顔を出す、最後にのっそりと、渋い顔で現れたのは師匠のマトリフだ。

「じゃあ師匠、先生呼んでくるよ!」

「おう、目立つなよ。」

 とんぼ帰りでルーラでかっ飛んでいくポップ。その慌ただしさや今までと違う状況に

何があったんですか?とマトリフに問うきらりん。それに対してマトリフは、神妙な面で

孫弟子にこう返す。

「人間共の悪い癖がまた出やがったのさ・・・。」

 

 夜、ようやく公務を終えたアバンを連れてポップが帰宅し、次の柱を転送するための

会議が始まった。

「と、いうわけで3本目は失敗でした。でもサルトバーンの魔術師さんたちがその呪文を

解析できれば、まだ可能性はあります!」

 精霊”落ちのイタ”の反撃で建てられなかった3本目。だが老魔道鬼ロズテナーの

残した巨大化呪文(メガロ・ゴリア)を習得し、その柱を伸ばせれば成功の可能性はある。

 あの後、3本目の柱をチェックに行った者たちによれば、柱の下のマグマだまりにイタが

水を流し込んだせいでマグマが冷えて固まり、それによって柱もしっかりと固定されて

いるそうだ。あの大地を爆発させるために流した水が今度はこちらの計画にいい方向に

作用するとは、なんとも皮肉な話である。

 

 ちなみにきらりんはメガロ・ゴリアの呪文を担当しない。転送の計画の要である彼女が

別の仕事を抱えてはそれだけ計画が遅れるし、何よりあの”轟のニカ”の標的にされる

可能性もある。加えるならばサルトバーンにはミールの父、領主ケートスをはじめ、

パパオ、ネグネグなど魔道に長けた者は多数いるのだ、彼らにそちらを託して、きらりんは

従来の計画を進める事になっていた。

 

「で、こっちでも何かあったみたいですけど・・・どうしたの?」

 きらりんの質問に全員が目を伏せる。きらりんにしてみれば、今回地上に来てからというもの、

みんなの態度が明らかにおかしい、まぞっほたちが洞窟の入り口に居なかった事、作戦会議が

カール城から、ここポップ宅に変更になっている事、そのせいでフローラ王女が欠席している事、

そして皆が一様に暗い顔、特にマトリフさんが不機嫌の極みを噛み潰したような顔でいる事。

 

 沈黙を破ったのはアバンだった。メガネをくい!と上げ、話を切り出す。

「地上の人間たちに、反魔界の思想を持った者たちが急激に増えています。」

「・・・え!?」

 絶句するきらりん。あのロモス武術会以来自分たちが地上でした事と言えば、あの柱を

3本ほど魔界に転送しただけで、地上の人間い恨みを買うような真似などしていないハズだ。

「2本目の柱を転送した後あたりからかのう・・・最初はぽつぽついる程度だったんじゃが。」

「3本目を送る頃にはもう目に見えて増え始めてたよ・・・どうなってんだい全く!」

 まぞっほに続いてへろへろがヒジをついて鼻から溜め息をつく。彼らが洞窟の出口に

いなかったのも、ここから魔王(きらりん)が出入りしている事を少しでも人々に知られたく

無かったからだ。

 つまり・・・魔界に協力的だったこのカール王国にさえ、反魔界の勢力が台頭してきていると

いう事なのだ。

 

「パプニカとかもう酷ぇぜ、レオナもバダックのじーさんも毎日弁明に必死だよ。」

 ポップが呆れ声でそう語るのに呼応して、マトリフが口を開く。

「ベンガーナも似たようなもんだ・・・あのオグマが名誉会長してた”どたまかなづち愛好会”

解散しちまったよ・・・全く人間って奴はこれだからよ。」

 鼻をほじって、世の人々に対する軽蔑を込めてそう言うマトリフ。彼もかつて一度は

世界のためにと奔走したが、それが終わると途端に世間は手のひらを返してきた。

そんな経験を持つ彼にとって今回の人心の流れは、人間に対する失望を再び呼び起こされる

嫌な物でしか無かった。

 

「そんな・・・あ!ひょっとして、また天界の天啓があったとか・・・」

 かつて彼女らが地上に来た時、天界は天啓を使って地上の人間に、魔界の者に対する警鐘を

鳴らしてきた。今回もそれと同じことが起きてるんだとすれば!

 だが、神妙な顔で首を横に振ったのはアバンだった。

「反魔界に傾倒している人たちの素性を調べてみましたが、その人格に統一性は

ありませんでした。つまり善人も悪人も、腹黒い者もいれば潔癖な者もいるのです。

彼らに問いただしてみましたが、誰も天啓など受けていないと返ってきました。」

 

「・・・うそ、でしょ?」

 愕然とするきらりん。自分たちが地上に来た時ならそれも仕方ないだろう、だけど

あの武術会で皆が悪戦苦闘し、命がけて戦い、演説し、ようやく勝ち取った人間たちへの信頼。

 それがわずか2か月足らずで失われたっていうの?あのミールさんの名演説も、

リヴィアスさんの正々堂々とした戦いも、オグマさんとナタルコンさんの死を覚悟した

勇者(ダイ)との戦いも全部、忘れてしまったっていうの?こんなにも早く・・・。

 

「何かがおかしい、とは私も思います。いくら反魔界の感情が人々に潜在的に

あるとはいえ、これはちょっと極端・・・」

「ありゃしねぇよ!これが人間の本性ってヤツだ!!」

 アバンのフォローをマトリフが一喝して掻き消す!吐き出すように続きを語る大魔導士。

「そりゃ天界は人間を攻撃なんざしやしねぇよ!魔界の者は人間を殺す事だってあるさ、

所詮人間なんて奴らは、自分たちが安全ならそれでいいんだろうが!!」

 それもまた事実ではある。有史以来天界は人間に救いの手を差し伸べ続けて来た。

古来より信仰という形でそれは成され、近年では神の涙(ゴメちゃん)が起こした奇跡がそれである。

 反して魔界はハドラー、バーン、そしてヴェルザーと近年だけでも何度も人類を危機に

陥れて来た、その信頼、というより依存心の差は、あの武術会をもってしても埋め切れる

ものでは無かったのだ。

 

「そんな・・・」

 きらりんは俯いたまま、ぽろぽろと涙をこぼす。そう、かつて自分も魔法の才能が

あるが故に、いじめの対象となった経験がある、その時の胸に渦巻いていた黒い感情が

今また彼女を責め苛んでいた。あの武術会も、勇者ダイと並んで描いてもらった号外(チラシ)

すべてが人間の悪意によって引き裂かれた気がしていた。

 

「さ、もう今日はお休みなさい。」

 メルルがやさしくきらりんの肩を抱いて立たせ、別室に連れて行く。そのドアがバタンと

閉まった一瞬後に、”ソレ”は起こった。

 

 -バッカアァァァ・・・・ン-

 

 マトリフが、アバンが、ポップが、まぞっほが、へろへろが、一斉に机を殴りつけたのだ。

哀れなテーブルは4つに粉砕され、ただの木くずへと変わり果てた。

 

「・・・誰か大人の対応しろよ。」

 マトリフがニヤついた顔で皆に言う、すかさず反論するアバンとポップ。

「最年長者が言わないでくださいよ。」

「俺だって腹立ってますよ、八つ当たりくらいさせて貰わねぇと!」

 かくも憤るのは人の世の理不尽さよ、俺らが怒ってやらねばきらりんちゃんが可哀想だ、

との思いを込めて。

 

「安心して、ここにいるみんなは貴方の味方です。」

 別室、いきなり響いた破壊音にびっくりしたきらりんをメルルがそうなだめる。その言葉に

きらりんは理解した、ああ、みんな私たちのために怒ってくれているんだ、と。

「まぁでも、テーブル壊したみたいですし、あとで叱っておきましょう。」

おやすみなさい、と続けて部屋を出ていくメルル。きらりんはベッドに潜り込みながら

自分たちの味方がいる事に少し嬉しさを覚えていた。

 

 そして彼女は夢を見る、夢の中で思い出す。

 

 かつて自分が世を拗ねて家出し、その先で出会った魔界の仲間達。あまりに重い

物語を背負い、過酷な運命に立ち向かう人々。彼らに比べて自分の悩みがいかに矮小で

あったかを思い知らされ、それでも自分を受け入れてくれた・・・そう、だから。

 

 めげてる場合じゃ、ないよね。

 

 早朝、小鳥のさえずりが響く森の中、きらりんは服を着替えて、おいっちに!と

体をほぐしていた。かつて学校で習った”やる気の出る体操”を元気にこなしていく。

「なんでぇ、もう起きてやがったのか。」

「あ、マトリフおじいいちゃん、おはよう!おじいちゃんこそ早いね。」

 年寄りは朝早いんだよ、と返しながら、その元気な笑顔に感心するマトリフ。

「元気じゃねぇか、夕べ泣きベソかいて寝入ったワリにはなぁ。」

 かっかっか、と笑ってそう言うマトリフに、きらりんはガッツポーズを見せて

力強くこう返した。

「もし邪魔されるなら、ムリヤリにでも柱、貰っていきます。あれは魔界に要りますから!」

 

「よくぞ言った!」

 その声と共に目の前の木々をかき分け、大きなリザードマンが登場した。この人確か・・・

そう、クロコダインさん、肩の上にはピースサインしたチウさんも!

「強いわね、私もとことん協力するわよ!」

 隣に立っているのはミールさんと戦った・・・確かマァムさん!

 

「及ばずながら手を貸そう!」

「先日はすまなかったの、罪滅ぼしと言う訳でもないが、何か手伝わせてくれぬか。」

 テランで相対した魔族(ラーハルト)鬼面導師(ブラス)が後ろから現れ、そう声をかける。

「パプニカには柱が2本あります、なんとしてもお渡ししてみせますよ。」

 賢者エイミがウインクしてそう確約する。隣ではヒュンケルが「任せて貰おう」と自信の笑み。

 

「まぁ、乗り掛かった舟だしな。」

「彼らに習って、覆面でもしますかねぇ。」

 頭を掻いて現れたのは名工ロン・ベルクと弟子のノヴァだ。彼らもまたきらりんに

協力する気満々でやって来たのだ。

 

「ま、こんなモンでしょ。」

 彼らの横で笑顔を見せているのはポップだ。彼は夕べから徹夜できらりんの力に

なってくれそうな人物をかき集めていた。

 だが肝心のきらりんがメゲてちゃどうしようもない、いかに魔王とはいえまだ9歳の

女の子なのだ、そんな不安を胸に、皆で森の影から見守っていたのだが・・・

 

 完全に立ち直った彼女を見て、その心配はあっさり消し飛んだ。

 

「ってなワケだ!ワシらで残り3本、きっちり送るぞい!」

 まぞっほが笑顔で親指を立てる。それに合わせてその場の全員がにかっ!と笑って

やはり親指を力強く立てて見せた!

 

 朝の静謐な森の中、きらりんは夕べとは真逆の熱い涙を、その頬についっ、と

辿らせていた。

 

 泣きながら、それでも笑顔で一言。

 

 -みんな、ありがとう!-

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

「順調なようですね。」

 パプニカ王国の外れ、大魔王の破壊柱(ピラァ・オブ・バーン)を望む丘の上で、精霊”瞬きのサナ”が

隣に座る”満欠のネル”に声をかける。その視線の先には多数の人間がプラカードや

横断幕を持って、柱を取り囲んでいた。

 

”魔界に柱を渡すな!”

”魔物の跋扈を許すな、神の名に誓って!”

 

 彼らは反魔界の文字が書かれた様々な道具を持って柱に陣取っている、魔王とやらにあれを

渡してなるものか、と。

 

「ええ・・・でももう後戻りはできませんよ。」

 ネルがサナに返す。共に精霊”天の8行”の中でも特に幼い見た目を持つ二人。だが彼女たちは

すでに自分たちが神々の意思を超える行動に出た事を認識し、神の制裁を受ける事すら

覚悟していた。

 もう行動に出てしまった、賽は投げられたのだから。

 

 ネルはかつて失った能力”あらそいのたね”をサナの混乱の推進(カオス・リード)によって再生させると、

その力を()()で、()()に使ったのだ。

 それは神々の、そして天界のものにとってタブーとされる行動。人間に手を出すことは

やがて地上の人間たちを天界の敵に回し、地上と魔界が結託して天界に反旗を翻す結果を

招きかねないからだ。

 

 だがそれでも彼女たちは行動に出た、例えそれが過ちであっても自分たちは”魔界を閉じる”

事業の為に生み出された存在なのだから。

 

 ネルの”あらそいのたね”の能力は本来子供にしか憑くことができす、しかも一度は失われた

その能力は、混乱の推進(カオス・リード)でも完全に蘇らせることは出来ていない。

かつて取り憑いて支配したのとは違い、憑いた子供に少々の意識操作が出来る程度のもの

でしかなく、効力もわずかな期間しか続かない。だがそれは、人間たちに気付かれずに反魔界の

感情を植え付けるのにまさに最適だった。

 直接大人に天啓や洗脳をすれば、それを見抜く者は必ず現れるだろう。だがもし子供に

魔界怖しの感情を植え付ければ、幼子はそれを必ず両親に訴える。その無垢な子供の言葉に

大人はきっと方針を変えるだろう、我が子のために魔界勢に反する立場を取るだろう、と。

 

 そう、各所で起きた反魔界の勢力。それは幼い子供や孫を持つ者たちにこそ効果的

だったのだ。ひととなりの善悪にかかわらず一定の人数が魔界に反旗を翻えさせたのは

彼らの子供達だったのだから。

 

 

「私たちに出来るのはここまでです。後は頼みましたよ、シア、シル、クト、イタ、ニカ、

そして・・・レム。」

 

 

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