「ようこそパプニカへ、フローラ王女。」
「レオナ王女、お招きに預かり光栄ですわ。」
パプニカ城の迎賓室にて世界2大王女が挨拶を交わす。今日はカール王国からパプニカへの
表敬訪問の日、間近に控えるレオナ王女の婚礼の儀の会場視察もかねての国賓訪問。
もちろんアバン宰相はじめカールの政治屋達や騎士団長エルキンスの姿もある。
出迎える側も3賢者のアポロとマリン、筆頭家老のバダック、そしてパプニカの4大臣と
国制オールスター勢揃いだ。
が、和やかなはずの国家会談も、どこかピリピリとした空気に包まれていた。原因は
両国民に蔓延する反魔界運動だ、先日のロモス武術会で両国は魔界に対して表面上の
敵対行為を停止する事、
しかしここ最近、その国制に反対する国民が増えてきているのだ。彼らは反対運動を
掲げる団体となってプラカードをかかげ、連日王城の前でシュプレヒコールを叫んでいた。
さすがに日々の善政が功を奏して暴動やテロには発展していないが、彼らの存在は
王族にとって悩みの種である。今日も彼らは城に詰め掛け、またカールから王族に
くっついてきた反魔界連中も合流して、その方針への言及に期待感を募らせていた。
さすがにここまで国民に浸透してしまえば、王族としても無視するわけにはいかない、
懇談の中ついにその話題を切り出すレオナに応えて、フローラがある提案をする。
「それでは、その柱とやらを見に行きましょうか。」
このパプニカ王国には未だ魔界に引き渡していない柱が二本ある、ひとつは遠方の
バルジ島だが、もうひとつは王城からほど近いベルナの森にある。
整備された道を馬車で優雅に向かう両国首脳、それに近衛兵たちが従い、さらに大勢の
国民が追いかけていく。行く先にの柱には既に大勢の反魔界の者たちが陣取り、一部の者は
柱の最上段のスペースに陣取り、そこから垂れ幕まで下げてアピールしている。
「うわ・・・ここまでとは、もうお祭り騒ぎじゃないですか。」
呆れるエルキンスにバダックは頬を掻いて「いやぁお恥ずかしい。」と苦笑い。元々
神への信仰が厚いパプニカにおいて反魔界の運動は拡大が他より早い、かつて魔王
ハドラーがこの国を本拠地にしていたこともあり、魔界への反発も一層強いのだ。
やがて柱の根元まで到着する一行、警備に囲まれた彼女らが馬車から降り、柱を見上げた
その時!
-ズオオオオオォォ・・・-
見上げたその先の空中に突如として黒い渦が巻く。これは魔力によって何者かが異空間から
現れる時の時空のひずみ!?その予想通り中からひとつの影が現れ、空中に浮いたまま
その見姿を大勢の者たちに晒す。
-ズヨョン-
そこにいたのは10歳ほどの少女、そして世界の人々があの武術会で、その号外で配られた
チラシに描かれたイラストで見知っている黒衣の魔王きらりんだ。いつもと違う所と言えば
その目に黒い蝶のアイマスクを付けている事くらいか。
彼女は宙に浮いたまま、眼下の王女たちや大勢の民衆、また柱に登っている面々を
冷めた目で流し見ると、高らかにこう宣言する。
「それでは約定通り、この柱も頂いていくぞ、愚かな人間どもよ。」
騒然とする周囲一帯、衛士たちは万が一があってはならぬと王女たちの周りで剣を抜き、
槍を構える。魔王に対するその敵対行動に周囲の民衆は大いに意気上がり、声を張り上げる。
「魔界だ!やっちまえーーっ!!」
「うらぁ小娘!本性表しやがったなぁ!」
「帰れ帰れ、テメェらにやるモノなんざねぇよ」
怒号はまだいい方で、中には投石を始める者、そしてついには
ものまで出始めた。それらは当然の如くきらりんの周囲に張られた魔力のバリアで
蹴散らされていく。
「ふん、愚かな。その程度の力で何が出来ようか・・・出でよ!」
きらりんが両手を広げたその瞬間、再び周囲に4つほどの渦が現れる、それらも人の形を成し、
ほどなく4人の黒衣の者が現れた。1人は黒いローブで全身を覆い、隣りには妖艶な衣装を纏った
女性が柱の先端のとがった地点に颯爽と着地し、またある者はいかにも魔導士なとんがり帽子を
かぶって虚空に浮き、黒い包帯で全身を巻いたミイラ男がその傍らに控える。
突如現れた怪しさ爆発の魔界勢に対し、人々は身の危険を感じてひぃっ、と引く。
中でも大人たちに交じってきていた少年少女たちは、かつて親から聞かされていた魔物の怖さと
先日に見た恐ろしい夢のせいもあって、震えながら親にしがみついて怖いよう、と涙を見せる。
ましてや両国の王族がいるとなればその騒動が大きくなる可能性が高い、そうなれば
兵士たちが優先して守るのは自分達ではないだろう、これは・・・ヤバいっ!
「ゴミ共を片付けろ。」
きらりんの命令一下、4人の者たちがアクションを起こす。まず柱の上にいたボンテージ姿の
女戦士がすぐ下の待機場所にひらりと身を躍らせると、そこにいた数人の民衆をあっというまに
ねじ伏せて縛り上げる・・・まぁその色っぽいコスチュームに鼻の下を伸ばしていた彼らが
女性に抱き着かれ、太ももに挟まれて引き倒されるのにむしろ喜んで倒されてはいたのだが。
黒ローブの者は柱の根元まで降り、呪文を唱えてその手に特大の
口をにやりと歪ませて言い放つ。
「ほぉらお前ら、柱から離れとけよ、火傷じゃすまねぇぞ!・・・メラっ!」
言葉と同時に放たれたメラは、そのまま柱の根元を一周して周囲にいた人間たちを
蜘蛛の子を散らすように遠ざける。柱を囲ったメラのリングは衰えを知らずにそのまま
ぼうぼうと燃え盛る。
ミイラ男は空中で剣を抜くと、柱に下がっていた垂れ幕を一瞬で叩き切った、風にたなびいて
飛んでいく反魔界の縦断幕。とんがり帽子の魔女は先に女戦士に縛り上げられた
手にした杖で浮き上がらせ、そのまま外に放り出して落下させる。
「「ひぃやゃあぁぁぁぁ・・」」・
コードレスバンジーを経験した彼らは着地直前にふわりと減速し、そのままどさっと
荷物のように落とされる。ぐぇっ、ぎゃふん!と悲鳴を上げるが、ケガの心配はなさそうだ。
「ふん、貴様らの腐った血で柱が穢れては困るからな!」
魔女のその言葉に全員が一歩引く。いかに一般民衆相手とはいえこうも圧倒的な力を
見せつけられては、自分達ではどうしようもない。まして兵士は王族のお守りに手一杯だ!
潮が引くように柱から離れていく民衆たち。
と、その時!
「お待ちなさい、邪悪なる黒き魔王!」
突如、森から一歩進み出て来た少女が高らかに声を上げる。純白のフリフリ付き
レオタードに身を包み、白いブーツと銀のティアラを備えた10歳ほどの女の子!
「正義の白き魔王きらりんの名にかけて!あなたの勝手にはさせませんっ!」
手にした白い杖をびしぃっ!と上空の黒いきらりんに掲げてそう宣言する。上にいる黒い
きらりんとは真逆の澄んだ声で。
「な・・・魔王が、ふたり!?」
そう呟いたのはアバンだ。なぜか必要以上に大きな声で、ややわざとらしい棒読みで。
だがその声に周囲はざわぁっ!と狼狽する。突如現れた悪魔と正義の味方(?)に彼らは皆、
今起こっている状況を掴みかねていた。
「ふん!貴様か、今日こそ消し去ってくれる、殺れ、皆の者!」
「そうはいきません、みんな!出番ですよっ!」
白いきらりんが手をかざしたその瞬間、森から4つの白い影が飛び出し、彗星のように
尾を引いてきらりんの横にダダダダッ!と勢揃いする。白きらりんに突撃しようとしていた
黒衣の4人もその姿にずざっ!と足を止める・・・止めざるを得ない!!
並んでいたのは白きらりんと同じ衣装に身を包んだ4人の・・・4人の・・・
「ぶわはっはっはっはっ!」
「なにアレー、怖い!っていうかキモいっ!」
「ヘンタイだ!ヘンタイがいるぞーっ!」
白い蝶のアイマスク、可憐なドレスブーツ、そしてぴっちぴちのレオタードに身を包んだ
4人の変態男の姿がそこにあった。
「な・・・なに、アレ?」
「さ、さぁ・・・」
柱の近くのやや高い一本杉、その上で事の成り行きを見守っていた精霊”天の8行”の
満欠のネルと瞬きのサナが、頬から特大の呆れ汗を流してそう呟いた。
彼女らは最初に現れた黒きらりんを見て、自分たちの計画が実を結んだことを確信していた、
魔界勢はどうやら力づくで柱を奪っていく、これで地上と魔界の亀裂は決定的なものになると思い
ほくそ笑んだのもつかの間、新たな
◇ ◇ ◇
「うふふ、なんかワクワクしてきました。」
「悪だくみってのは計画してる時が一番楽しいモンさ。」
身を縮めて興奮するきらりんに、マトリフが悪ーい笑顔でそう返した。
きらりんが柱強奪を決意したその日、彼らは駆け付けた協力者たちとあーでもない
こーでもないと相談してその計画を煮詰めていった。
で、吟味の末決定した案が、正面から強奪にかかるのではなく、一芝居打って気を反らし
そのスキに持って行っちゃうという案から、だったら派手にお芝居をして場を盛り上げよう
という明後日の方向に行きついたのだった。
人々が魔界勢を悪と見るなら、いっそ魔界勢同士で善悪の対決を演出して善側に勝たせれば
彼らの魔界憎しの感情を緩和できるのではないだろうかと考えたのだ。民衆の心理誘導には
イベントショーがもってこいなのである、かつての武術会のように。
幸い次の柱の転送予定時間にはまだ余裕がある、そこで少しでも多くの人にソレを
見て貰うために、フローラ王女のパプニカ来訪をアバンにお願いした。公私混同も甚だしい
ですねと笑いながらも快く引き受けるアバン。
黒きらりんを担当するのはブラスだ。
似ており、魔法を得意とする鬼面導師ならばうってつけだろう。
残りのメンバーはくじ引きによって決定された。黒組はマトリフ、マァム、エイミ、そして
ノヴァに決まった。全員が蝶メガネをして変装するとはいえ、さすがにノヴァとエイミの
風体は有名すぎるので、ノヴァは黒ミイラに、エイミはコテコテの悪の魔女スタイルに
身を包んでの出演となった。マァムはまぁ・・・母譲りの
白組は、クロコダインにラーハルトにチウにロン・ベルク・・・どうすんのコレw
精錬潔癖なイメージの白組がこのゴツい風体では説得力皆無である。協議の結果、
彼らにはきらりんと同じ可憐な女の子スタイルで周囲の笑いを取ってもらう事に決定した。
「こういうのはバカバカしい程、効果が出るもんさ。」
全力で嫌がるラーハルト達に、ぎゃっはっはと笑って返すマトリフ。この地上を襲うような
恐ろしい魔界勢が一番やらなさそうな演出をすることで、民の心配事がいかに馬鹿馬鹿しい
事であったかを証明するにはうってつけであろう。
ちなみにポップとヒュンケル、へろへろとまぞっほは少々の変装をして周囲の人間に交じり、
芝居に対する反応の扇動を担当する。白側じゃなくて良かったーと安堵するポップだが、
まぁそのせいで柱の頂上部の野次馬に混じった彼はマァムの本気の
悶絶する羽目になるのであるが・・・
かくして勢揃いした白側クロコダイン、チウ、ラーハルト、そしてロン・ベルクと
きらりん(全員レオタード)vs黒側マァム(あぶない水着)、ノヴァ(黒ミイラ)、
マトリフ(黒フード)、エイミ(怪しい魔女)という世にもカオスな戦いが始まった・・・
レオナは自分の腕に噛みついて、その痛みで懸命に笑いを噛み殺している。フローラは
ロンやラーハルトのフリフリレオタードを眺めて「新しい何かに目覚めそうです」と
頬を赤らめ、それを聞いたアバンがええっ!?という驚き顔をする。
ロンとノヴァがクロスカウンターで相打ちとなり、ラーハルトがエイミの投げつけた
リンゴを丸飲みして眠りこけ、クロコダインがぶん投げたチウがマトリフに直撃KO、
そのチウもマァムのかかと落としを食らい悶絶、エイミは白きらりんの
老婆に変えられて鏡を見せられダウナー落ち、マァムはクロコダインの掘った落とし穴にハマり、
そのクロコダインも黒きらりんが釣り竿で垂らした魚に食い付いて釣り上げられ、巨大な
衣装も衣装なら戦いも戦いだ、と爆笑に包まれるギャラリーたち。なまじ能力が高い
者たちのド派手なお馬鹿バトルに緊張感はどこへやら、すっかりお祭り気分である。
最後は黒きらりんと白きらりんのぽかぽかキャットファイトの末、無数のたんこぶを
頭から生やした(無論これもモシャス)黒きらりんが「覚えてろー!」と捨て台詞を
残して部下たちと去っていく。
「正義は勝つのです!」
皆に向けてピースサインをする白きらりん。答えて周囲から拍手が沸く、もちろん最初に
手を叩いて拍手を焚き付けたのはポップやヒュンケル達、そして作戦を知るアバンだ。
おかげでその場はすっかり和やかな、そしてきらりん達の行動を否定する者の居ない
空気になった。魔界を怖がっていた子供たちもまた、同じ年頃のきらりんの活躍に感化され、
皆、笑顔で拍手を送っていた。
ちなみに拍手の隙を付いてポップが他の白組の皆をルーラで素早く回収し、そのまま
遠方まで運んでおいた、さすがにあの格好であの場に残すのは残酷と言うものだろう。
「それでは、柱を貰っていきますねー。」
「「結局持っていくんかい!」」
結果からの行動は黒きらりんと同じ事に大勢がツッコミを入れる、だがそれは否定の
言動ではなくあくまでお笑い的な響きのみの声だった。
森の中に魔力が満ち、きらりんの
柱に魔法力が行き渡ることにより青白く輝く。そして時間を合わせて最後の呪文を
発動させる!
-
柱が光り輝き、きらりんと共に消失する。その空間ショーに残された一同は、一様に感嘆の
声を漏らし拍手を送っていた。
「な・・・何だったんですか・・・あの三文芝居は。」
精霊サナの呆れ返った声に、ネルがやれやれ、といった表情でこう返す。
「さぁあ?ただ・・・私の”あらそいのたね”で誘導した反魔界の空気、奇麗さっぱり
消えちゃいましたけど。」
「え”?」
目を見開き、鼻水まで垂らして愕然とするサナ。自分たちが神の制裁すら覚悟して
発動した手段が、あんな子供のお芝居で失われるなんて・・・
◇ ◇ ◇
-ビイィィィ・・・ン!-
魔界に転送された4本目の柱が、下に魔界の大地を、上に天の大地をしっかりと受け止める。
やがて振動も収まり、しっかりと荷重の掛かった状態で安定する
「いよっしゃぁ!4本目成功だぁーっ!」
「今回は精霊の襲撃も無しか、良かった。」
オグマ達が作戦の成功に歓喜し、そして安堵する。前回の反省もあり、転送場所の吟味や
精霊の襲撃には万全の対策を練ってきたが、どうやら杞憂ですみそうである。
が、別の所で問題は起こっていた。
「きらちゃん!なんですかその恰好は!」
「ハ・・・ハレンチな!レオタードなんかまだ早いぞっ!」
「あらあら、とてもよくお似合いだと思いますけど。」
愛娘の露出の多すぎる格好にでろりん、ずるぼんが悲鳴を上げ、逆にミールはそれを
気に入ったようで笑顔で愛でる視線を送る。
「なぁ、何があったんだ?地上で。」
「・・・聞かないでください。」
リヴィアスの質問に、きらりんはうつ向いたまま一言返すだけだった・・・。
きらりん「月に代わってお仕置・・・」
サナ「たまにシリアスさん消失しますよね、この物語・・・」
登場人物解説
・精霊、天の8行”
10歳ほどの見た目、青髪だが前髪だけ金髪の2色髪。
満ち欠けの名を持つ彼女らしく、生物の持つ感情の波を感じ取る能力を持つ。
ただ魔界を閉じる事業に際し、子供に取りついて争いを起こさせる”あらそいのたね”に
ほぼ全振りしてしまった為、他の能力はほぼ活躍の場が無い。
生み出されてすぐ作戦に取り掛かり、ほどなくオグマ達によってあらそいのたねが消失
してしまった為、人生?の半分を主神
ある意味不憫な精霊である。