魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第96話 ダイの即位式

「伝承に歌われし(ドラゴン)の騎士ダイ。汝この国の王となり、王国の繁栄にその身を

捧ぐ事を誓うか?」

「はい・・・誓います!」

 テラン王国の城内玉座の間にて。本日数えで21歳になったダイは、公約通りにテランの

王位継承の儀に臨んでいた。

 とはいえ人口わずか50人ほどのテラン王国、国の一大イベントであるその儀式も、小さな

部屋でわずか10数名が見守るささやかなものである。他国の王や来賓を迎える事もなく、

自国民だけで執り行うのがこの国の伝統であったからだ。

 

 ダイは玉座に座るテラン王フォルケンの前に(ひざまず)き、その頭に王冠を授かり頂く。この瞬間

新テラン王ダイが誕生したのだ。あくまでパプニカ王女レオナとの婚儀までの短い間では

あるのだが。

 -パチパチパチ・・・-

 城内の全員が拍手を送る。教育係として今日まで宮仕えして来たブラスとラーハルトもまた

この場での立ち合いを許されて感慨深く手を叩く。

「全く、ダイが王様とは・・・身に過ぎた光栄ですじゃ。」

「ダイ様は世界の救世主なのです、当然でしょう。」

 二人は大人の態度を取りながらも目に熱いものを潤ませる。ブラスはデルムリン島で拾った

あの赤ん坊が今や世界を救った勇者となり、そして一国の王にまで羽ばたいて行ったその姿に

共に過ごした日々を重ねて涙する。

 

 ラーハルトのほうは義理の父、ダイの実父であるバランへの思いが強かった。かつて

アルキードの姫と恋に落ち、王国に招かれて、そして起きた悲劇。そんな父の失敗を今、

息子であるダイが塗り替えようとしている・・・そうだ、自分はそのためにこそ生きて来たのだ。

あの日、バラン様の血で蘇ったあの時から、自分の人生は今日のこの日の為に、そしてレオナ姫と

結ばれる時を見届けるためにこそあったのだから。

 

「なんか実感わかないなぁ・・・ホントにこれだけ?」

 頭の王冠の位置を直しながらそう呟くダイ。このささやかな儀式で自分が王様になったなんて

とても信じられない、なんかこう・・・達成感と言うか、実感と言うか・・・。

「王というのは、民に認められて初めて王となるのじゃよ。」

 先代となったフォルケンがそうたしなめる。王とは王冠を頂く者ではない、民に愛され、

民の為に国を動かす者のことなのだ、と。

 

「民に認められる・・・か。」

 周囲を見渡してダイは少し陰りのある表情を見せる。顔を見知った城内の面々の中に一人だけ

いなくなった者がいるから・・・多分、自分が王になる事に彼だけは納得していなかったので

あろう事を察して。

「フィガロの奴が・・・気になりますか?」

「・・・うん。」

 

 かつて城の兵士として勤務していたフィガロ。目立たないがどこか芯の強さを感じさせた彼は

あの武術会で自分がアルキード王国の生き残りである事を示して衛兵を辞した。

 決して消えることのない父の過ち、それは今だダイの心に棘となって刺さっている。

フィガロはその生き証人でもある、だが彼は長年ダイに接していながらついに一言の恨み言も

言う事は無かった、彼は”いい人”を貫いたままダイの前から姿を消したのだ。

 

「アイツは大丈夫ですよ王様、あれで結構逞しい奴ですから。」

衛士長のカナルがそう言い添える。ただ肝心のダイは「王様」が自分の事だと気付かずに少し

その言葉をスルーしてしまったのだが。

 あ・・・ゴメン、俺に言ったんだね、と苦笑いして頭をかくダイ。

 

「さぁ、表のテラスに出て、皆にお疲労目を。」

 そう勧められてきびすを返すダイ。これも王位継承の儀式の一つ、王冠を得た新国王は

そのまま一人でテラン城の渡り廊下を歩いて行き、その姿を国民の前に晒すのが習わしだ。

 普段は当たり前に使われているその廊下、この時だけは”昇竜の回廊”と呼ばれ、新王の

1人パレードの舞台として使われる。なるほど、普段は無いカーテンやカーペットで装飾され、

窓から陽光を入れて厳かな雰囲気を醸し出している。

 

 扉を閉め、ひとり廊下に佇むダイ。ホントにこれで良かったのかな?という想いが

湧き上がってくる。

 デルムリン島で平和に暮らしていけば良かったんじゃないかな?それとも生きていく力は

あるんだから、気ままに世界を旅してもいいんだし、各地を回って困ってる人を助け続ける

ヒーローにだってなれたんじゃないか?

 

 このまま王様になって、レオナと結婚して、一生お城で暮らして、ホントにいいのかな?

 

 どうしてそう思うのか、それはダイ自身にも分かっている。今日この城に居ない人、

その事実が紡ぎ出す、自分にのしかかる、重い重い十字架。

 

 一国を、無辜の民ごと滅ぼした父。

最後まで自分を守り、自分に命を繋いで逝った父さん。

極悪非道の大罪人を、父として心から尊敬している自分。

 

「ねぇ・・・父さん。俺・・・」

 

 陽だまりの廊下を歩きながら、誰にともなくそう独白するダイ。

 

「お悩みですか?」

「・・・えっ?」

 誰もいないはずのその廊下、ダイの目の前に、一人の女性が立っていた。

長身をふわりと漂わせ、白い髪をまるで雲のようにカールさせた、まるで霞のような

美しい女性が。

「君は、だれ?人間じゃ・・・ない、よね?」

 戸惑いながらもダイはすぐに気づいた。その女性が普通の人間ではなく、特別な力を持った

異界の者である事に・・・まぁ(ドラゴン)の騎士である自分もそうなのだが。

 

「ええ、私は精霊”昇りのクト”と申します、(ドラゴン)の騎士ダイ様。」

「精霊?じゃ、じゃあ・・・魔界を消そうとしているのは・・・」

 警戒心を見せるダイに、クトはふふっ、と微笑んでその言葉を肯定する。

「ええ・・・ですがそれは貴方とは最早無縁の話、あなたはこの地上の住民、それも一国を

納める王なのですから。」

 うっ、と一歩引くダイ。自分が既に即位している事を知られている事に少し不気味さを

覚えて。

 

「貴方が守るべきは魔界ではありません、このテラン王国、そしてやがて結ばれるレオナ王女。

違いますか?」

「だ、だからって・・・!」

「遠くのものに手を伸ばせば、近くの者を取りこぼします。かつての数多くの者も、そして

これからの未来を生きる者も、必ず繰り返す過ち。」

 その言葉にはっとするダイ。そう、もし魔界にまで救いの手を伸ばそうとして、テランや

レオナを失う事になったら、自分はどれだけ後悔する事になるだろう。

 

「・・・何の、用だよ。」

 肝を冷やしつつも、襟を正してクトに正対するダイ。少なくともこの精霊に自分をどうこうする

力は感じられない・・・なら何しに現れたんだ?

「貴方の心の淀みを取り除き、力をあるべき所に返す為、参りました。」

 クトはうやうやしく一礼し、ダイに一歩近づいて手を伸ばす。警戒してぐっ、と腰を落とし

構えを取るダイ。

 

「貴方の父、バランは天界の使徒でありながら、罪を重ねすぎています。その魂が貴方に

宿る限り、あなたは苦しみ続けるでしょう。」

 えっ!!という顔で硬直するダイ。この精霊は・・・一体どこまで?

「ですが、貴方がその罪に縛られることがあってはいけません。バランはバラン、あなたは

あなたなのですから、あなたは正しい道を歩まれるべきなのです・・・だから。」

 

 その時だった、ダイの左手の甲が青く輝き出した!それはかつて父バランから継承された

(ドラゴン)の紋章、父の力が、そして魂が宿る光!

 

 その光の竜の顔が、ふっ、とダイから離れる。

「なっ・・・!」

「この力は元々天界のもの。悪しきことに使われたこの力を、天の使徒として回収に来たのです。」

 竜の顔の光は宙を舞い、クトの掌に収まる。

 

「父さん!」

「父を慕う限り、父の犯した罪に悩まされます、それが今の貴方の背負う業。」

 そのクトの言葉にはっ、と動きを止めるダイ。そう・・・なのかもしれない。少なくとも

あの紋章が自分に宿っている限り、自分は父の”いいところ”しか見えていない。

あの中に宿る魂は、あくまで大きく、優しく、そして温かい父さんなのだ。

 

 父の見たくない、知りたくもない、醜い部分を見せてはくれないのだから。

 

「もう解き放たれるべきです、この魂は天に還る、それが摂理であり、あなた自身の為。」

 ふわっ、と浮き上がり、ダイを見下ろすクト。どうやら理解してくれたようですね、と

柔らかに笑う。

 ダイは己の父を、その魂が宿る紋章をじっと見ていた。ふと、その紋章の中にわずかに

父の顔が浮かんだ気がしていた。

 

 そして、声が聞こえた、気がした。

 

 -さらばだ、ディーノ-

 

 

 はっ!と意識を覚醒させるダイ。そこには精霊の姿も、父の気配もすでに無かった。

 

「父さん・・・ありがとう。母さんとお幸せに。」

 力を失った左手の甲を見た後、ふぅ、と天井を仰いで息をつく。そうだ、俺は今日から

王様なんだし、いつまでも父さんがべったりじゃ女々しいじゃないか、ヒュンケルもマァムも

父親と死に別れているのに、それを思い出にして逞しく生きている。俺だってしっかり

しなくちゃあ、みんなに笑われちゃうよ。

 

 胸を張ってずんずんと回廊を歩いていく。ほどなく突き当たる大きな扉に手をかける。

 -さぁ、俺の新しい一歩の始まりだ、行こう-

 

 扉を開け、テラスに出たダイを出迎えたのは大勢のテラン国民。皆ダイを仰ぎ見て

おおおおっ!と歓喜の声を上げる。

 

「新国王様、ばんさーいっ!」

「ダイ兄ぃ、王様就任おめでとーーっ!!」

「竜の騎士様が我が国にご降臨なされた、今日は記念すべき日だ!」

 

 人口の少なさゆえに日々顔を見知っている国民たちが、思い思いに自分を歓迎してくれている。

そんな皆に手を振り返し、笑顔と大きな声で答えるダイ。

 

「みんな、ありがとうーーつ!」

 

 

 城から少し離れた小高い丘、そこに佇み遠目でダイを見つめる一人の男がいた。

彼は国民に手を振る新国王と、遅れて車椅子でやって来て隣に並ぶ前王の姿にふっ、と笑うと

そのままきびずを返して・・・!

「行くのか?フィガロ。」

 驚く彼の前にいたのはヒュンケルだ、本来今日は他国民が在国するのは認められない

日なのだが、森の外れの長屋に居候している彼は国内待機を認められていた。

「いつから居たんですか・・・全く。」

「国内にとどまるなら俺からも国王に口を利こう、ダイの力になってやってはくれないか。」

 そう勧めるヒュンケルにフィガロは少し笑みを見せ、それでもはっきりと首を振って見せた。

「俺の居場所は、この国じゃあないですから。」

 

「そうか・・・元気でな。」

「ええ、ヒュンケルさんも。」

 別れの言葉を交わし、森の中に消えていくフィガロを見送ってヒュンケルは思う。きっと

あいつはアルキード跡に行くのだろう、今はもう国も人もいない、彼らが作った無数の墓が

あるだけのあの場所に。

 

「故郷、か。」

 ぼそりとこぼすヒュンケル。彼もまた自分の育った場所にもうすぐ帰る予定だ。幼少の頃を

育ての父バルトスと過ごした地底魔城があった国、パプニカ王国。

 ダイとレオナの婚礼の跡、彼はエイミとささやかな挙式を予定している。そしてそこで

彼女と二人で生きて行く事を決意していた、俺もこの国とはお別れだな、と。

 

 

 去っていくフィガロとは反対側の空高く、ひとりの精霊が天界にのぼっていく。その名の通り

まるで沸き立つ雲のように。

 

 その手の中には、青く輝く”(ドラゴン)の紋章が在った。

 

 

 -運命の歯車は、ここからさらに加速する-

 

 

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