「持ってこれないなら作ればいいんだよ、柱を!俺達の手で!!」
「それなら魔王様のアイテム”転移の円”を作った方が早くねぇか?」
「きらりん様の
ちっちゃくして持って来る、ってのはどうだ?」
サルトバーン領主ケートスの館の会議室、大勢の知識人たちが失われた”転移の円”に
代わっていかに残り一本の柱を持ってくるかについて、喧々囂々の会議が行われていた。
会議の最中、案は様々に出るのだが検証してみると、やはりどれも実現は難しそうだ。
柱を新たに作るとなれば資材や職人の確保も問題だが、なにより精霊の襲撃対策が困難だ。
何日もそこでえっちらおっちら柱を建て続けるのを精霊が見逃すとも思えない、思えば
柱をポンと転送してくるというアイデアは、その点こそが優れていたのだ。
”転移の円”は破邪の洞窟で得た物で、その構造は魔界の練達の魔導士であっても
解き明かすことは困難だ、ましてや複製品を手掛かりなしに作るなど困難の極みである、
異界の”縁のある場所”に飛ばす能力など、一体どうやって持たせたのやら・・・
マホリグルで物体を大きくする効果を反転させて、柱をちっちゃくして持って来る案は
ナイスアイデアと思われたのもつかの間、当のきらりんに即却下されてしまった。
「柱を持ってくる間、ず~っとマホリグルをかけ続けなきゃならないんです・・・さすがに
魔法力が持ちません。」
「じゃ、じゃあアレだ、”魔法の筒”!アレを使って柱をイルイルして持ってくれば・・・」
「さすがに破裂するだろ・・・無尽蔵に吸い込めるわけじゃねぇしな、あの筒。」
他の者が出した案はアイテムに詳しいドガさんに却下された。例え前例の魔法で
小さくしてから収納しても、マホリグルが解けた瞬間に筒を突き破るだろう。
「やはり・・・
「でもよぉ、2本目を建てたトコはもう使えないし・・・ドコにあるやら。」
かつて柱を建てた世界樹の跡の上は、地上と魔界の境界、つまり”天の大地”がかなり
薄く、ほんの一部は両世界を封じる結界が剥き出しになっていた程だった。かつて大魔王が
あそこから地上へ進出したというのも信憑性がある。
だが、今現在その場所はおそろしく強固な氷によって、ガチガチに封印が成されていた。
先の5本目に現れた精霊”降りのレム”の仕事に違いないだろう。さすがにあれだけ
広範囲になると、いつかのように
それに、地上と魔界を繋ぐなら、最後の1本の柱に出来るだけ近い方が望ましい。きらりんが
魔力を通せば動かせるとはいえ、さすがにあれだけの質量と体積がある物を遠方まで
運ぶのは無理がある。
ただ幸運もあった。最後の柱があるパプニカ東部と、最後の柱を建てる魔界のポイントは
ほぼぴったり一致していたのだ、つまりそこをぶち抜けば効率よく柱を魔界に持ってこられるのだ。
「ミールさん達の報告待ち、かなぁ。」
最後の柱を転送する予定地、そこにオグマとナタルコン、でろりん、そしてリヴィアスと
ミールが調査に赴いていた。もともとこの地は天の大地の岩盤が厚く、地上への出口を
ぶち抜くのは望み薄とは思っていたが、一縷の望みをかけて調査に当たっていた。
中でも特に真剣度が高いのがでろりんだ。転移の円が壊れたことにより、彼とずるぼんは
地上に帰る術を失ってしまっていた・・・このままでは生涯魔界の住人である。
「・・・・・・」
リヴィアスにおぶさったミールがはるか上空、天の大地に手を当てがい、中の地質や水脈を
感じ取っている。少しでも水分が混じっていれば、そこからサーチすることで土中の様子を
探っていくことが出来る、ミールならではの能力だ。
何か所か調べた後、違和感に気付いた彼女はリヴィアスにある一点に行って欲しいと頼む。
柱予定地から1kmほど離れたその場所で天の大地に触れ、その中の様子を・・・
「・・・どうした?」
リヴィアスが問う。彼女は手をかざしたまま固まっているが、おぶっているリヴィアスには
彼女の心臓の鼓動が早鐘を打っているのが肌で伝わってきていたから。
「ここ・・・とんでもないです!!」
え?と驚くリヴィアスに、ミールはこのポイントをコーンランスでぶち抜いてみて下さいと
指示する。どれ、と少し下に距離を取り、ランスを構えて一点を睨む。
「しっかり捕まってろよ・・・行くぞ!」
ルーラを開放し、天の大地に強烈な突きを食らわすリヴィアス・・・次の瞬間彼らは、
天の大地から大量に噴き出す水に押し返され、そのまま流れ落ちる水柱に絡まれて一気に
地上付近まで落とされる、辛うじて激突前に宙に逃れるふたり。
「ぶぁっ、酷い目に合った・・・」
ぶるぶる頭を振って顔をぬぐうリヴィアス。ミールは水竜のキメラなので大丈夫だろうが
俺はあやうく空中で溺れる所だったぞ、と笑いながら抗議の目を向ける。
天の大地から魔界の大地へ、一直線に流れ落ちる滝、というより水の柱というべきか。
その異様な光景に全員が集まって呆然と眺めていた、これはもう湧き水のレベルではない、
明らかに地上から水が大量に流れ込んでいるとしか思えない。
「多分、ここが精霊の”魔界を閉じる”計画の起点なのでしょう、ここから八方に
大量の水脈が走っているのを感じましたから。」
ミールがそう話す。なるほど、水脈を操って天の大地を沈下させるにも、おおもとの
大量の水をどこかから引っ張ってくる必要がある、それがこの場所か!
『成程な、それをぶち抜いたからこうして大量の水が落下している、ということか。』
「けどヘンだな・・・こんだけの水が失われているなら、それが湖でも川でも、例え海でも
地上の者が気付くと思うんだが。」
ナタルコンに続き、リヴィアスが疑問を述べる。確かにそうだ、これだけ水が流れていれば
その貯水池は大きく水位を下げているはずだ。
「ちょ、ちょいまち!ミール、地上と魔界の地図、貸してくれ!」
でろりんが目を見開いてそう発する。出された地図を半ばふんだくるように手にした彼は
その二枚を重ねて「やっぱりかあぁぁっ!」と絶叫する。
「バルジの大渦!この真上だっ!!」
最後の柱が存在するパプニカ王国のバルジ島。そこと本国を分ける海峡には、名物とも
いえる大渦が巻いていることで有名だ。本来渦とは浅瀬に出来るのが一般的だが、
その渦巻きを魔界に水を引くための隠れ蓑として利用しているとしたら・・・
「と、いうわけです。あのポイントはおそらく地上にまるまる繋がっています。」
サルトバーンの会議室に戻ったミール達がそう報告する。あの地点は地上と魔界を分断する
天の大地にぽっかり穴が開いているはずだ、だからこそ水が流れ込んでいるし、そのせいで
精霊レムも凍らせて封じる事が出来ないでいるのだ。
「じゃ、じゃあさ、バルジの大渦に柱を落っことせば、そのまま魔界まで突き抜けて来るってコト?」
するぼんの質問にこく、とうなずくミール達。
訪れる一息の静寂・・・そして、大歓喜!!
「いやったあぁぁぁぁぁっ!!」
「なんという僥倖!柱のすぐ側に・・・建てる地の間近に・・・道があるか!」
「来たぜ来たぜ、俺達のターンがよぉ!」
沸き立つ会議室。最後の一本を持って来る算段がついに見えたのだから無理もない。
これで魔界を救える、その光明に誰もが興奮を隠せない。
「地上と魔界の境界には、おそらくは神々が作った結界があります。それさえ何とかすれば
あとは泳いで地上と魔界を行き来できるでしょう。」
きらりんが皆に告げる、その結界を壊すのはどうやら上からでないと困難なようだ、なにしろ
絶え間なく水が落ちてくるのだから、その水流に逆らって境界を目指すのは厳しいものがある。
「あとは、柱が通るだけの大きさに広げられるか、だな。」
オグマの言葉に頷くきらりん。今空いている穴がどの程度なのかは分からない、それを調べ、
地面を削って広げ、結界を破壊して柱を落とすのは地上に行けるきらりんの役目だ。
もちろん彼女一人では手に余るだろう、だが、今までの長い物語で得た頼もしい地上の
仲間達の力を借りれば、出来ない事なんて無いはずだ!
翌朝、皆の見送りを受けてきらりんが、紫龍の杖を高々とかざして宣言する。
魔王としての最後の難関を乗り越える、その為の宣言を。
「必ずやってみせます、期間は一か月後、必ず柱を落として見せます!」
-おおおおおおっ!!!-
次回、いよいよ連載100回!