天狗達の幕間
―天狗達の幕間―
ここは幕間。如何なる常識も通じぬ場所。どれだけキャラを崩壊させても、メタを説いても構わぬ場所。すがすがしい青空の下、彼女らはあずまやのベンチに座っている。各々が好きな食事を持ち寄り、とりとめのない話をしている。涼しい風が抜ける。なんとものどかで、平和な空間だ。
「私のキャラは変わり過ぎだと思う」はたては冷静に分析した「お嬢様だったり、立派な戦士だったり――恋する、乙女だったり」「わたくしはあまり変わりませぬな」文は首を振った。「いささか押しに弱い乙女扱いされがちではありますがね。童貞野郎は飯綱丸一人で十分ですよ」
「その言い方はないだろう」飯綱丸が口を挟んだ。「私はまあ、露出が少ないからと言って好き勝手に設定を盛られているな。シリアスなら私だって毅然として――」「私達、全員に押し倒された方の言葉とは思えませんが」椛がちくりと嫌味を――否、これは忌憚のない感想だろう。
「――して、おすすめはどれです? 一人一人、挙げて見なさる」皆は顔を見合わせた。「そうだな――『星の瞳』はどうだ。たまたま知り合った二人が、互いの瞳に星を見ながら、恋の障害を乗り越え、愛を叫ぶ。ロマンチックだぞ」飯綱丸は胸を張った。椛が尻尾をゆっくりと振った。
「あなたそれ、エロ短編の『私が、許そう』で椛に散々ヒイヒイ言わされた奴じゃないですか」飯綱丸は頭を掻いた。「単品で評価してくれ」椛が飯綱丸を見る。「まあ、いいでしょう。はたて、あなたはどうです?」「私は――『携帯を落としただけなのに』かな?」携帯を取り出す。
「携帯を落とした縁で椛と知り合って、色々あって思い切っちゃう話なんだ」「実際、思い切った事をしましたね。あれ、最後に椛の写真を撮ったのはわたくしめなのですよ」「だろうと思ってた」はたてはニコニコしている。「『そこまでは、あなたの背中』も捨てがたいけどね」
「文が大変な事になっちゃうけど、あなたの背中を越えて、私が成長するの」「はて、どちらもわたくし、当て馬にされておりますな」文は肩をすくめた。「……というか、片方は死んでおりますが。まあ、文句はありませぬ」「悲恋率もそうだが、死亡率も高いな」椛がにやついた。
椛の言葉に、文は憮然とした。「たった四回しか死んでおりません」「私が死んだのは、三回だけだ」「十分死んでますよ。第一あなたも、一度は一緒に死んだ仲ではないですか。『無償の愛』。あの時は嬉しくも悲しかったですよ。どうしてあそこで嘘でも好きだと言わないのです」
「私は自分に正直なんだ」「どちらも一回生き返ったしな」「『伝説の道具』『本物の心霊写真』ですか? あなただって一回は死んで生き返ったでしょうに」「『私は再び、成り上がる』? ……まあ、あの時は少しばかりトチったよ。とはいえ、大天狗には返り咲いていただろう」
「……普通、死なないよ?」「あなたも一回死んでいますよ。グロ短編の方で」「そうだっけ?」「『介錯して下さる?』ですよ」「ああ、あれかぁ。……すごく痛かったよ、文」「今思えば、椛はわたくしめをはたてを殺したナイフで刺すべきでしたな。意趣返しにもなったでしょうに」
どちらにしても死に過ぎですね、と文は頭を叩いた。その場の全員が同意した。「しかし、何だかんだ幸せになってるのもあるじゃないか。『乞いの新聞』とか」「終わってから当分、パパラッチを追い払うのが大変でしたよ」文はげんなりした。恐らく、霊夢とは上手くいっただろう。
「そうだな。『烏の華』『白狼の華』はどうだ、文?」「わたくしめに今もって、悲恋の話をなさる?」文がむくれた。「取られてしまったものは仕方がないでしょう。後はそう――静かに見守るしか」「面倒見はいいよね、文」「わたくしめの涙と引き換えですがね」話は、椛に回った。
「私は――そうですね、『戦利品』がいいです。バトル描写もありますしね」「お前が椛にベタ惚れだった奴だな」飯綱丸がニヤリと笑った。「あなたも『互いの枷』ではヘタレ全開だったではないですか」扇で仰ぎ、文は飯綱丸を見た。「あれは最終的に攻守逆転したからいいんだ」
「しかし何ですね、平和なのと言えば『誕生の日』くらいですか。お悩みも実際、可愛いものです」「椛≪ちゃん≫が自分の誕生日を忘れてたから悪いんだよ」「いえ、確かにそれは悪いのですが、ああいう言い方をされると――」「言い訳しない」「……はい」はたてが頬を膨らせた。
「はたてもモノを言うようになったじゃないですか。確実に尻に敷かれますね」「実際敷かれてたよね、飯綱丸様」「……『私は、私』か?」「何回もアプローチかけているのに無視するから、ああなるんだよ」「いや、あんな事をされれば、誰でも――」「言い訳しない」「……はい」
「しかし――『フカ効力』もそうですが、はたてさんは意外と強引ですね」「思い切りがいいの」はたては胸を張った。それに関して、椛は何度も巻き込まれている。「実家云々も振っ切りがちですね」「――そもそも、私の実家がお偉いさんって設定自体が、盛られたものだからね?」
「今更庶民の出と言われても遅いくらいには、当たり前になってしまいましたが」その場の全員が同意した。「私が大天狗同士で物理的に争っているというのもな」飯綱丸が扇を振りぬいて見せた。「あなたが強い、というのもそうではありませんか。位からしてヘボいとは思いませんが」
「お前は『傲慢で結構』『甘い考えは、捨てましょう』で散々戦ってたしな。手加減しすぎてヘマこいていたが」飯綱丸はここぞとばかり、文をつついた。「あれは大人げなかったですね」「手加減なんてされたら怒るに決まってるよ」立ち上がったはたての手に、薙刀が握られている。
「お? やりなさる?」文も何処からか薙刀を取り出し、両者睨み合った。「おう、行ってこい」飯綱丸の号令一下、遂に空中戦が始まった。「姫海棠も、案外血の気が多いのかもな」「喧嘩するほど仲が良いとも言いますが」「ふふん。喧嘩しすぎるとカップルになっちまうかな?」
「カップル――いえ、何でもありません」「どうした? 言いかけてやめるなよ?」「――行きずりの関係、と言うのでしょうか」椛は頭を振った。「『関係的には最悪だ』、か」「本人がいないので言いますが、文はああいう不器用な関係しか築けないのでしょうか」「かもな」
「それを言うなら姫海棠も――どうした?」「『あなたと私の、新たな関係』ですね」飯綱丸は、苦虫を噛み潰したような椛の顔を見た。「姫海棠も――そうだな、アレかもな」「あそこまで恐ろしい一面を見せられるとは思いませんでした」「文に至っては、空を奪われたようなもんだ」
「そういやお前、『素敵な、感触』で結構な事をやってたじゃないか。そういう趣味なのか?」「えっ、……いえ、そういう訳では、たぶん、ないです」「まあ、人には色々な趣味があるもんだ。いいんだぞ、隠さなくても」「はあ」「姫海棠だって、悪い気分じゃなかっただろうさ」
「しかしまあ、色々な一面が見出せるもんだな」飯綱丸はベンチに寝転がった。「迷惑ですね」「ああ、迷惑かもな」玩具にされている気もする、と飯綱丸は呟いた。「だがまあ、こうしてバカをやっていられるのも、筋書きを書いた奴のせいなんだ」寝転がったまま、飯綱丸は続ける。
「筋書きがなくなれば、この場の私達は止まる――いや、完結してしまう。いつかはそうなるだろうが」椛が耳をぴくぴくしている。聞き入っているのだ。「いつでも止められる。それは仕方のない事だ。だが――私達の今までの記録は残る。それを読み返す奴も、たまにはいるはずだ」
楽観すぎるかな、と飯綱丸は笑い、起き上がった。天の二人を見る。三十六本の風の槍と大竜巻がぶつかり合っている。「こうしてこの場にいるのも、数多くの知らない記憶を持っているのも、恐らくは仕組まれた事だろうな」椛も、二人を見守っている。「まあ、それはいいさ」
「どうだ、飛び込んでみるか?」椛は少し考えて、頷いた。剣に文の一部――烈しい風が通う。飯綱丸の両手に竜巻が現れる。「おう! 私達も混ぜてくれよ、お二人さん!」「私が一番弱いんじゃないか――なんて風評、ぶっとばしてやりますよ!」二人は叫び、戦場に飛び込んだ。
俄かに騒々しさを増した大空。のどかな風景。食べかけのサンドイッチ。次の世界はどうなるだろう。次の世界は、優しいだろうか。厳しいだろうか。それとも、驚くような事に巻き込まれるだろうか。……また、死んだりするだろうか。それとも、生き返ったりもするだろうか。
未来は、まだわからない。
◇◆◇◆◇◆
「あのう、飯綱丸様――わたくしは?」
「お前、出番少ないからな」
(2021/9/15 現在)
―R-15―
烏の華
星の瞳
乞いの新聞
誕生の日
携帯を落としただけなのに
戦利品
そこまでは、あなたの背中
無償の愛
白狼の華
私は再び、成り上がる
本物の心霊写真
伝説の道具
傲慢で結構
甘い考えは、捨てましょう
―R-18(裏)―
私が、許そう
私は、私
互いの枷
フカ効力
関係的には最悪だ
あなたと私の、新たな関係
―R-18(闇)―
素敵な、感触
―R-18(血)―
介錯して下さる?