烏の華
―烏の華―
高嶺の花、気高き花をめぐる醜い争いは多くの脱落者を迎え、今や三者のせめぎ合いにあった。博徒共が喚いていたが、それはどうでもいい。上司の上司が強権でもって手を回し、嫌らしいあいつは度々舌を高速回転させていたが、最後に選ばれたのは私だった。私は勝ち取ったのだ!
…だが。しかし。素直に喜べはしなかった。顔も知らぬ上司の事はどうでもいい。だが。しかしだ。私は心が青ざめるのを感じた。はたてを愛していないはずがない。傍にある事を狂おしく思う。しかし、しかし…彼女がほほえみかける度、私の中にあの女の影がちらつくのだ。一体何故だ。自問は私に何の答えももたらさなかった。今この瞬間も、敗北した奴の顔を思い出してしまう。
或いは、私に負い目があるのか? あの女に? そんな馬鹿な話はない。口を開けば世迷言。こちらを舐め腐ったような顔。口調。態度。いつか噛みついて…否、フライドチキンにしてやろうと思っていたくらいだ。…今はどうだ? 今しばらく、奴の顔を見ていないではないか?
「最近見ないね、文」彼女が耳をまさぐる。いつもの癖だ。構いはしない。手を捻じ込まれた時は流石に堪えたが、それはどうでもいい。「一緒に遊びたいのに」彼女は己が如何なる空騒ぎを引き起こしたかを理解していない。無垢で、純真だ。眩しくなるほどに。
そうですね、と返事をする。上の空だな。自分でもわかる。彼女は不満げに尻尾をしごき始めた。この遊びは正直止めてほしい。
…その時だった、視界を何かがかすめたのは。見たくないものこそ"観えて"しまう。千里眼とはそういうものだ。そちらに視線を向ける。視界が無限大に収束する。…心が青ざめるのを感じる。そこにいたのは、あいつだ。
映る翼が、静かに向き直る。視線が合った。確かにこちらを知覚している。お前は何をするものか。私の問いに、あいつは答えを見せた。
――刹那、あいつは彼方へ飛び去った。それ以上追う気にはなれなかった。壊れんばかりに震えていた。心も。肉体さえも。
「好きだったよ」そう呟いた。確かに見た。涙が落ちるのを、見てしまった。
「どうしたの?」どうもこうもない。どうしてそんな事を言うんだ。お前は。お前は。いつもの嘘であってくれ。からかいだと言ってくれ。言え。「…何でもありません」やにわに肩を抱き寄せる。これは最初の嘘だ。最後の嘘であれるだろうか。
頬を赤らめる彼女の顔は、眩しい。咎に立ち、燃え尽きたくなるほどに。