―リア充爆発しろ―
ナズーリンが爆発しました。
私のせいかもしれませんが、どうなんでしょう? 何かを呟いた瞬間、ナズーリンは爆発しました。周りにはお店、通行人、後は仲睦まじいカップルしかいませんでした。私は状況が理解できずにぽかん、としていましたが、とりあえず、どうして爆発してしまったのかを考える事にしました。
ひょっとしてナズーリンは爆弾で、長いしっぽは導火線だったのでしょうか? 火をつけた事はないのでわかりません。それとも、ナズーリンは油でべとべとで発火寸前だったのかもしれません。でも、普通に手を繋いでましたね。それは違う。頭の中に爆弾――は、ないでしょう。
或いは、さっき買い物していた古物の中に可燃物があったのかも。しかしそんなもの、人里のお店で売っているものでしょうか。そもそも、私もただでは済まない気もします。だとすると、ナズーリンは既に爆発していて、その瞬間に消えてしまったのかも。……ううん、わかりませんね。
ナズーリンが爆発した後の手を見ました。何もついていません。何も。どうしたんでしょう。爆発してしまったら私と一緒に遊びに行けませんし、おうちに帰る事もできないじゃないですか。首をかしげます。事態を捉えられていない訳ではありません。しかしどうして、いなくなったのでしょう?
「よー星」「よーゴロにゃん」一輪と布都が来ました。最近お二人は付き合っておられるそうです。「どーしたのさ、とぼけた顔して」「顔にたわけと書いてあるぞ」えっ、書いてあります?「……おぬしの所のニャンチャンは少々ボケがきとるのではないか?」「ははは、否定できない」
「――おっ、珍しい物つけてんじゃん」一輪が私の腕をじろじろと見ました。それは虎と鼠をあしらったミサンガで――あれ?「いかがした?」「鼠の飾りがあったはずなのです。何処かで落としたかもしれません」「ふーん。探すってても、ちょっと難しいかもね」少しがっかりします。
「そうだ、一輪。この辺りでナズーリンを見ませんでしたか?」「見てないけど、一緒にいたんじゃなかったの?」「それが、ナズーリンは爆発してしまして」「――はぁ?」事の経緯を説明しました。「何というか――あんたら、よくわかんないわ」「……一度、医者にかかるべきでは?」
どうやらあまり信用されていないようです。私でもわかります。「どうして爆発したんだと思います?」「どうしてったって……ねぇ?」「否、我にはわかるぞ」布都さんが胸を張りました。「これはいわゆるドッキリじゃ。おぬしが慌てた頃に出てくるであろう」「ドッキリか、あり得る」
「それにしても、お二人は仲が良いのですね」始めは意外な組み合わせだと思いましたが、随分と馴染んでおられます。「マブダチだもんねー」「ねー♪」首と首をかしげて頭を合わせます。息がぴったりですね。私はにこにことそれを見ていました。――まさに、その時でした。
私の目の前で、一輪と布都さんが爆発しました。びっくりして目を見開きます。しかし、それは事実でした。後には何も残っていません。ナズーリンの時と同じです。私は空を掴もうとしました。いません。透明になった訳でもないようです。私のせいでしょうか。よくわかりません。
段々と事態の深刻さを飲み込めてきました。これはいけません。こういう時は聖に相談しましょう。私は駆け足で寺に戻りました。「聖、いらっしゃいますか」最近は、いない事がよくあります。理由はわかりませんが。「星? ごめんなさい、今は――」襖が開いています。覗いてみましょう。
「よいではないか、よいではないか」そこには聖と、聖に組み付いた神子さんがいました。フルコンタクト弾幕ごっこでもやっているのでしょうか。「聖、少し相談したい事がありまして」「あなた、この状況でその反応はないでしょう?」聖の顔は真っ赤です。「いいさ、見せつけてやろう」
聖は神子さんの顔に鉄拳を叩き込むと、私の方を向き直りました。「これはね、違うの」「何が違うんだい?」一瞬で蘇生した神子さんが肩に手を置きました。聖が咄嗟に裏拳を放ちますが、それはかわされます。さほど広くはない部屋の中で戦うのは、大変ではないでしょうか。
聖と神子さんは、同時に剣を抜きました。「あなたって人はッ!」「ほう、君はそれで愛を囁くのかい?」激しく打ち合っています。余波はレーザーとなり、部屋中を穴だらけに――これは、聖に怒られますね。あれ、でも壊しているのも聖なら……あれれ、どうなるんでしょう?
双方の剣が宙を舞いました。それは壁に刺さり――遂に壁が崩壊しました。部屋が広くなって戦うのが楽になったかもしれませんね。「あなたにはデリカシーというものがないのですか!」「そう言いながら、君の欲は正直だね?」拳を尺で受け止めながら、二人は縦横無尽に駆けまわっています。
これでは話を聞いてもらえそうにありません。「聖、終わるまで座っていますね」「あなたはもう少し事態を深刻に受け止めなさい!」「私は二体一でも構わんよ? 悦びも二倍、愉しみも二倍」神子さんの手刀を聖が受け止めました。「破廉恥なッ!」「君の恰好ほどじゃないさ」正論です。
呼ばれれば仕方がありません。私は手元に槍を取り出して――部屋の中では邪魔ですね、これは――槍を投げ捨てて、諸手を構えました。私とて宝塔比で二割のパワーがあるのです。神子さんに抜き手をみまい――ああ、駄目ですねコレ。小指で止められました。「虎をはべらせるのも悪くはない」
いいえ、この二人が強すぎるのです。私が弱い訳ではありません。本当ですよ。腕相撲ならナズにだって勝てます。「星、どいていなさい。邪魔です!」光の槍がいくつも飛びます。マントの中から吹き出した火炎がそれを相殺しました。ああ、そろそろ柱が耐えられないかもしれません。
「はは、君は私を愛していないのかい?」「なっ――そ、それとこれとは話が別です!」聖に一瞬隙ができました。神子さんは聖を蹴り落とすと、その身体に覆いかぶさりました。「久々に刺激的な時間だった」「し、知りませんっ!」神子さんは聖の顔に手を当て、接吻を――あれっ!?
私の目の前で、聖と神子さんは爆発しました。びっくりして目を見開きます。しかし、それは事実でした。後には何も残っていません。一輪と布都さんの時と同じです。私は深呼吸をして、落ち着きました。空気になった訳でもないようです。私のせいでしょうか。よくわかりません。
いけません。これはいけません。聖の力を借りられないとすれば、これは私だけで解決しなければなりません。村紗は――どうやら、血の池地獄から帰ってきていないようです。響子は流石に、私でも頼りません。むしろ守ってあげなければ。私はいそいそと、石畳の続く道を辿りました。
いました。響子です。傍にいるのは――確か、ミスティアさんでしたか。「あっ、寅丸様」響子は何やら後ろに隠しました。「どうしました?」「いえ、その」「ライブ音源です」ミスティアさんがにこり、と笑いました。「怒られるんじゃないかって思ったんでしょう、響子」
響子はこくこくと頷き、私にしーでー?を手渡てきました。「寅丸様も聞いてくれますか?」「ええ、もちろん。聖にも黙っておきますよ」響子は安心した、という顔で息を吐きました。「よかったね、響子」「うん、みすちー」二人は向かい合って笑いました。「でも、さぼってはいけませんよ」
響子はこくこくと頷きましたが、それはともかくミスティアさんと次の歌の話をしているようでした。しばらくは見逃してあげましょう。……その実、私もあまり言えた義理ではありません。でも、いいんです。このくらい緩い方が、里の皆さんも受け入れてくれるでしょうから。
「お二人は本当に仲が良いのですね」「もちろん!」「大好きだもんね!」私の目の前で、二人の音楽家は抱き合ってポーズを取りました。とても愛らしいですね。――あれ。これはいけません、ここに私がいて、人が二人いる。もしやもしや、そういう事が起こり得るのでは……?
私の目の前で、響子とミスティアさんは爆発しました。びっくりして目を見開きます。しかし、それは事実でした。後には何も残っていません。聖と神子さんの時と同じです。私は遠くを見渡しました。すっとんで行った訳ではないようです。私のせいでしょうか。私のせいです。間違いなく。
これは、これはいけません。私が近付くといけないのでしょうか。せめて、原因がわかれば対処のしようもあるのですが。引きこもろうかとも思いましたが、私は寺を出ました。恐らくここではありません。もっとこう――そうです、ナズーリンが爆発した所に戻れば、何かわかるかもしれません。
私は人里を駆けました。しかしどうやら、道行く人達が爆発する事はなさそうでした。ますますわかりません。爆発するのは何か条件があるのでしょうか。そんな事を考えていると――いけません。今すれ違った人は、爆発しませんでしたか? 私は背後を凝視しました。そこには誰もいません。
爆発音は雑踏に紛れ、誰もそれに気付いていない風でした。このままでは誰も彼もを爆発させてしまうかもしれません。私は急ぎました。あの角を曲がった所です。思い切り角から飛び出し――「おう、なんだ。トーストでもお見舞いするか?」そこには魔理沙さんと、それから霊夢さん。
「ご本尊が自ら歩き回ってるなんて珍しいわね」霊夢さんは御幣でぱしぱし、と頭を叩いてきました。少しばかり失礼な気もしますが、今は置いておくとします。この二人は異変解決の専門家です。丁度良いので、事の敬意を説明します。「――爆発するぅ?」「よくわからないわね」
ぼんやりとしていた霊夢さんの顔が険しくなってきました。これは異変解決モードの顔です。「待てよ霊夢。まだ異変と決まった訳じゃないぜ」魔理沙さんが肩を叩きました。霊夢さんは反応しません。「――ったく、これだからな」魔理沙さんが帽子を目深に被りました。「ついてってやるよ」
「勝手にしなさいよ」「魔理沙さんはいつでも自分勝手だぜ」喧嘩腰ながら、二人の息はぴったりです。これが阿吽の――あうんちゃんはちょっと違いますが――呼吸というものですね。――あ。ああ、いけません。ひょっとしなくてもこれは、そうなってしまうのではないですか?
私の目の前で、霊夢さんと魔理沙さんは爆発しました。段々と慣れてきましたが、やはり、それは事実でした。後には何も残っていません。響子とミスティアさんの時と同じです。私は大きな伸びをしました。首をコキコキします。やはり、いません。私のせいでしょうか。私のせいです。完全に。
どうしましょう、専門家も手も足も出ずに爆発してしまいました。ナズが消えた場所にも特に手掛かりはなさそうです。――そうだ。足で駄目なら、知識に当たりましょう。この辺りで本を扱っている所は――鈴奈庵ですね。私は駆け足で目的地に向かいました。たのもう。たのもう。
「――えっ?」店番の子は私の事をじろじろ見ています。顔に何かついているのでしょうか?「これはまた、レアなお客じゃの」奥の方から、いなせな着物の女性が現れて、店番の子の頭に手を置きました。「小鈴や、この機会に媚びを売っておいたらどうじゃ?」「そんな気はありません!」
小鈴と呼ばれた子は私の事を上から下まで見ました。「それで、何の御用ですか?」「爆発するのは何故なのか、って本はありますか」「……ダイナマイトとかですか?」「いえ、そうではなく」「そうではなかろうな」女性がキセルを取り出しました――が、小鈴さんに脛を蹴られました。
「妖怪か、妖具か、その辺り、じゃろうな」片足でぴょんぴょんしながら、女性は言いました。手短に事情を説明します。「ふむ、目の前に二人いると、爆発すると」「――待って、それって私達もそうなるんじゃないですか?」「今の所はなっておらん」女性――マミゾウさんは頭を掻きました。
「同じような現象はあまり聞いた事がない。爆発――爆発か。ちょっとしたまじないじゃが、対象を爆発させる呪いはある」マミゾウさんはキセルに手を伸ばし――小鈴に両方の脛を蹴られました。「リア充 爆発 しろ、と、言ってな」とても痛そうです。「――文字通り、リア充を爆発させる」
「リア充って何なんですか?」「わしも詳しくはないが、人じゃ。パートナーがいる事が最低条件らしい」マミゾウさんは指でハートを作って見せました。「要は、行き遅れの妬み嫉みではなかろうかの」マミゾウさんはガムと取り出し、噛み始めました。小鈴さんが座った目で見ています。
「そういえばあの時、ナズーリンがそんな言葉を呟いていたような……」「ほう」マミゾウさんの眼鏡が光りました。「それは無関係ではないじゃろう。恐らく、近くにアベックがいたのではないか?」「アベ?……カップル?でしたら、ええ。いました」マミゾウさんは口角を上げました。
「アベックだけを爆発させる。お前さん、何か手がかりがあるんじゃないか」「いえ、それが――わかりません。一番初めに爆発したのはナズーリンでしたが」あれ、あれれ。そうだ、それならどうして私は無事だったのでしょう。私とナズで二人なのに、ナズだけが爆発してしまいました。
「おぬしだけは爆発しなかった。思い当たる節は?」「特別な事は、何も。……いえ、これがありました」ナズが買ってくれたミサンガです。「本当は鼠の飾りもついていたのですが」「うーむ、如何にも怪しくはあるが――これだけではわからんのう」私はミサンガを受け取りました。
「まあ、腰を据えてじっくりと考えるべきじゃろう」マミゾウさんはキセルを取り出そうとして――止めました。小鈴さんが本の角をつきつけています。この場には妙な緊張感、そして不思議な縁を感じます。マミゾウさんは小鈴さんの何なのでしょうね。お姉さん? それとも導き手?
「禁煙するって約束したじゃないですか」「おお、これはすまん」息の合った攻防。私、知っています。これは夫婦漫才というものですね。仲睦まじいですね。――あっ。これはいけません。私は慌てて顔を背けて、耳を閉じましたが、この現象にはそんな事は無意味だったようです。
目を閉じた私の傍で、小鈴さんとマミゾウさんは爆発しました。はい。やはりそれは事実です。後には何も残っていません。霊夢さんと魔理沙さんの時と同じです。私は考えました。爆発する人達の共通点は、カップル。リア充を爆発させる呪い。ミサンガ。鼠の欠けたミサンガ――?
ばさり、と音がしました。私が外に出ると、空を天狗が飛んでいます。確か、文さんと椛さん。何やらいがみ合っているようですが――片方が片方に近付くと、顔と顔を重ねました。あれはひょっとして、接吻をしているのでは? ――ああ、これは如何にもまずいのではないですか?
私の遥か上で、文さんと椛さんは爆発しました。これはいけません。ますます被害が拡大してしまう。私は路地を走ります。……あっ、と思った時には遅かった。近くにいた鈴仙さんとてゐさんの傍を通ってしまい――やはり、爆発してしまいました。もはや、動くのは難しいかもしれません。
――その時、私はひらめきました。たまには私だってひらめいたりします。私はミサンガを見ました。鼠の飾りは何処かになくなってしまいました。つまり、つがいが離れて、リア充ではなくなってしまった訳です。あの時ナズは確かに――リア充爆発しろ、と呟きました。そうだとすると――
ミサンガは願いを叶えるもの。もしもこの現象が、ミサンガのせいで起きているなら?
他に原因も思いつきません。私は慌てて、これを購入した露店に戻ると、もう既に撤収してしまっていました。ならば、私にできる事は一つです。鼠の飾りを探します。私は鼻が――あんまり利きませんが、この大路で――下から見るとまさに足の海ですが――今日中に――そろそろ夕方です――
うう、とても探せない気がしてきました。ナズがいればすぐに探し出してくれるのですが――爆発してしまっています。今は私だけやるのです。私は背をかがめながら、道を嗅ぎまわり始めました。人が見ています。そんな事はどうでもよいのです。……何処か、何処かにあるはずなのです!
私が地面を転がっているのを見て、通りがかった檀家さんが一緒に探してくれました。それを見た通行人の皆様が、一緒に探してくれています。露店の人も加わってくれました。門番の人も、警備の人とも、教師さんと子供達も、ぼさぼさ髪のおじさんも、みんなが探してくれたのです。
しかし、鼠は見つかりません。日が暮れてきました。もう駄目なのかもしれません。こんなに探して頂いたのに見つからないのです。ひょっとしたら、誰かが拾って持って行ってしまったのかもしれません。それか、何処かにはまり込んでいるのかも。もう、見つかりそうにありません。
私は挫けてしまいました。頭を抱えて座り込みました。みなさん、ありがとうございます。そして、ごめんなさい。これは私の力不足です。財宝が集まる程度の能力も、今はちっとも役立ちませんでした。あれはきっと、とても大切なものだったのに。私は何もかも諦めて、ミサンガを見ました。
――ミサンガが震えています。私は引っ張られる方向に、手を伸ばしました。側溝。汚れるなんて構いません。私は泥の中に手を突っ込みました。掻き回し、掻き回し、掻き回しました。そうすると、硬いものに手が当たりました。私はそれを引き上げて――手の中には、鼠の飾りがありました。
「見つけた! 見つけました!!」私の声に、皆さんが喝采をあげてくれました。きっとこれは、皆さんが探してくれたから、ミサンガが答えてくれたに違いありません。私は汚れてしまったミサンガを拭うと、虎の隣に鼠の飾りを付けました。そして念じました。強く念じました。
愛する二人よ、いつまでも仲睦まじくあれ!!
「――うわっ!?」私の傍から、ナズーリンが飛び出してきました。「これは一体どういう――私はどうなったんだ、ご主人?」私は微笑みで答えました。「あなたは爆発していたのですよ、ナズーリン」「……はぁ?」ナズーリンは怪訝な顔をしました。夕日を受けてミサンガが輝きました。
「わーっ!?」「――な、何が起こったの!?」通りの向こうに鈴仙さんとてゐさんが現れました。何処かで霊夢さんと魔理沙さんの声もします。きっと、他の人達も戻ってきているはずです。私はナズの頭を撫でました。「なっ――よしてくれご主人、泥がつくだろ」「あっと、失礼しました」
一緒に探してくれた皆さんが、それぞれの仕事に戻ろうとしています。私は祈りました。強く祈りました。どうか優しくも暖かいこの人達に、幸運がありますように。夕闇の中、私はナズーリンの肩を取り、寺の方へと足を向けました。びっくりするような、一日でした。
◇◆◇◆◇◆
「――これはね、違うの!」「何が違うんだい」「何か違うんでしょうか」「三人も悪くない」「あなたは黙ってて!」