―迷探偵清蘭―
鈴瑚が殺された。
私が殺した訳じゃない。仕出しの団子を出して戻ったら、鈴瑚は死んでいた。レイセン警部の見立てによると、死因は団子の食べ過ぎによる窒息死。当局は事件性なしとして処理したけれど、私にはわかる。これは殺兎事件なのだと。わたくし、名探偵清蘭の勘がそう告げている。
今日この家に訪れたのは五人。私、鈴瑚、団子屋巡りのついでについてきた西行寺幽々子とその従者、団子を買い付けに来たミスティア。全員、アリバイはない。共犯とも考えられる。彼らの間でアリバイは成立しない。「ねえ清蘭、盛り上がってる所悪いけど、私死んでないぞ」
私は粉のついた手をはたいた。まずは彼らの状態だ。鈴瑚の衣服はわずかに乱れている。抵抗する間もなく殺されたのかもしれない。亡霊の姫とミスティアの着衣にはかなり乱れた跡がある。従者は特に何も見られず、平然としていた。これは推理の重要なピースだ。私はメモを残した。
次に動機だ。この中の誰にも鈴瑚を殺す動機があるとは思えない。――しかし、私の知らない何処かで恨みを買っている可能性は皆無ではない。鈴瑚の行動を整理しよう。今日は団子が売れに売れ、清蘭屋の隣で店を片していた。私の方は大分残っていたが、亡霊のお姫様が全部さらって食べ尽くした。
それから私共々、家に戻り――団子を買い付けに来たミスティアと、亡霊の姫が(一方的に)イチャイチャする所を見させられて、従者と同じ気分になった所で――どうしたのだったか。そうだ。私は納入用の団子を整理していて、鈴瑚はお金の計算をしていた。推定犯人らの近くで。
そうだ。犯人は、鈴瑚の傍にあった団子の箱を奪い取ろうとしたのではないか。それならあの食いしん坊が喉を詰まらせていた理由も説明がつく。奪われるくらいなら自分が食べる。鈴瑚はそういう奴だ。そして犯人は鈴瑚と揉み合いになり、弾みで鈴瑚を死に至らしめた。そうに違いない。
周囲には足跡があった。板張りの屋内、当然素足。…しかしそれは、調べるだに二人分しかない。一つは鈴瑚だ。もう一つは…ミスティアだろう。彼女は素足だった。亡霊の姫は浮かんでいる。足跡は残らない。妖夢という線もあったが、彼女は靴下を履いていた。除外していいだろう。
問題は何故、ミスティアが団子の箱を奪い取ろうとしたか。或いは奪い取ろうとしたのではなく、自分の店の取り分を受け取ろうとしていたのかもしれない。それを勘違いして、鈴瑚が割って入った。ありそうな話だ。あのデブは食べ物の事になると見境がなくなる。自分のを取られたと思ったのだろう。
「可能性の話をしましょう。…西行寺さん、あなたは団子の取り合いになった弾みで、死を操る程度の能力で鈴瑚を殺してしまった」私はくるりと回転し、ミスティアを指差した。格好いい。「ミスティアさん、あなたは奪い合いになった時、思わず鈴瑚に団子をねじ込んだ。鈴瑚は窒息し、死んだ」
「或いは、従者によって斬り殺されたか。…これは除外していいでしょう。死体に目立った傷はなかった。――そして、亡霊の姫には窒息させる動機がない。あなたは何が何でも口に入れるでしょう」幽々子は扇子で口元を隠した。…まだもぐもぐしていないか?「つまり、犯人は――」
「あなたですね。ミスティア」「えっ」ミスティアは動転していた。「いやいや、何でそんな――いや、多分殺してないよ!?」「状況証拠からして、あなた以外にありえない」私は思い切り格好いいポーズを決めようとして――ア゛アアッ背中吊った吊った!! 痛い痛い痛い!!
…えー、ゴホン。「彼女の無実は私が証明できますけれど」亡霊の姫が眼前で手を払った。「私とミスティアは楽しく遊んでいましたもの。ええ、楽しく」「確かにそうだ。私も見ていた」推定犯人はアリバイを主張している。「しかしあなたがたで、アリバイには…」「私も見てたけどな」
「大体、私達はその間、あなたを見ていませんわ」妖夢とミスティアが頷いた。「アリバイが必要なのは、あなたの方ではなくて?」…むっ。彼らは私自身のアリバイを問うた。いいだろう。私はあの時、…あの時、団子の箱を運んで…あっ。「ふふ、何か引っかかることでもありまして?」
いや、その、私はあの時、つまみ食いしようとした鈴瑚にイラついて――あわわわ、確かにそんな事をしたような…?「思い当たる節がありそうですわね」亡霊の姫はくすくすと笑った。「あの…、確かにあの時、鈴瑚に団子を…その、やっちゃったかも。たぶん」
「…鈴瑚はあれで、ぽっくり死んだって訳?」「だから死んでないって言ってるだろ」私は声の主に振り向いた。「ギャアお化け!?」「お化けならそこにいるだろ、二人も」「1.5人だ」私の目の前でお化けトークが始まっていた。いや、しかし、あの程度で死にかけるなんて間抜けな事が…。
「つまり清蘭は、私がつまみ食いしようとした事に逆上し、私の口にありったけの団子を突っ込んだ訳だ。それで私は死にかけた」鈴瑚は私を冷たい目で見ている。「いや、その――そうだったかも」冷たい視線が私に集まる。「つ、つまみ食いしようとするのが悪い。私は悪くない!」
「犯人の言い訳タイムかい」鈴瑚の手が私の肩を叩いた。「今日はちょっとばかしおいたが過ぎたんじゃないか、清蘭?」凄まじい力だ。きっと団子を飲み下したせいだ。食べれば食べるほど強くなる程度の能力は伊達じゃない。あの時突っ込んだだけ、強くなっているとしたら…。
亡霊の姫の周囲に人魂が舞い、くすくすと笑った。夜雀が怒りの鳴き声を上げ、鋭そうな爪を伸ばした。従者はすらりと抜いた刀を閃かせた。鈴瑚は団子を口に入れ、片足で立った。周囲の空気が変わった。呆れ、或いは怒り。ともすれば殺意がその場を支配していた。
「あ、あの、何をなさるので…?」
今から行なわれる惨劇を、予想できないほど私は愚鈍ではない。後ずさる。壁がそれを阻む。足元にはカラの団子の箱が転がっていた。
「――ウギャーッ!!?」
私は殺された。