東方短編集   作:slnchyt

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伝説の道具

―伝説の道具―

 

椛が死んだ。

 

私達が殺した訳じゃない。いつも買ってた好物のジャーキーとねこいらずを間違えて、それで死んだ。正直、信じられなかったけど、死んでしまったのだから仕方がない。「おーいおいおい…椛ィ、どうして死んでしまったのですかッ…!!」文の嗚咽だ。それはもう、何時間も続いている。

 

――文がめちゃくちゃに泣き叫ぶせいで、私は逆にすごく冷静になっていた。椛のお葬式は姫海棠家で出した。色々な人と親交があったみたいで、人が詰めかけていた。…私の知らない所で、椛はこんなに人とお付き合いしていたのか。私は悲しみもそこそこに、もにょもにょしていた。

 

まあ、顔には出していなかったと思う。文は鼻水を出しながら泣いていた。拭きなさいよ。「椛ィ…お前が死んじまったら、ねぐらが広くなっちまうだろ…」白狼も特別に出入りしていた。たくさん。本当にたくさん。椛はきっと、ものすごく慕われていたんだと思う。…むう。

 

「惜しい人を亡くした」烏も。…烏も? 気が付けば烏の一団が線香を上げていた。いやいや、生きていた頃に椛は何をしてたんだろうか。「彼女も作って順風満帆、これからだってのにな」――だ、大天狗様!?「姫海棠のイイ人だったんだってな。泣いていいんだぞ。泣けばすっきりする」

 

いやいやいや、大天狗様ともお知り合いって――椛は一体何者だったの? 私って椛の事、本当に何も知らなかった? …ウソでしょ?「わ゛だじはぼんどううに、ぼんどううに椛を愛じでおりまじでぇ…」文はなんかもう駄目そうだ。普段あんなに嫌ってたくせに、本当は大好きだったのね。

 

なんだか、馬鹿らしくなっちゃった。椛の事じゃない。私の事。私は椛にとって私は数ある人々の関係の一つに過ぎないんじゃないかって。…好きだって言ってくれたのも、その、恋愛的な意味じゃなく、本当に好意だけだったのかな。今となってはわからずじまいだけど、ね。

 

…うう、なんだか文とは別ベクトルで悲しくなってきちゃったな。場は文が繋いで――繋いで?――くれるだろうから、私は少し下がっていよう。近くの部屋で座って、息を吐いた。そっか、もう椛はいないんだ。実感が湧いてきた。…お手洗いにでも行こう。悲しみも流してしまおう。

 

部屋から出た所に――椛がいた。軽く挨拶をして。…ちょっと待って、椛。椛!?「ど、どうも…」涙が出る以前に、喜びを表現する以前に、私はただただ、びっくりした。「椛――えっと、幽霊じゃないよね…」「は、はあ…」椛は頭を掻きながら、こちらを見た。「生きてます。実際」

 

「…なんで? どうして? どうなってるの!?」私は椛の胸倉を掴んだ。どちらかと言えば抱き着くべきシーンだと思ったけど、今の私には常識なんて通用しない。椛は視線を逸らした。こっちを見ろ。「いえ、そのですね――誤診だったんです。ねぐらの医者の」「…誤診?」

 

「ヤブで有名だったんですが、まさかそこまでいい加減とは思わず…」「つまり、ねこいらずで死んだっていうのは、誤診だったって事?」「ええ。生きてます。生きてますが。…参りましたね」外はまだまだ人の声が増えている。「今更誤診だったなんて、出て行ける状況ではなくて…」

 

そうだ。こういう時の為に、姫海棠家には伝説の道具がしまってあるんだった。宝物庫をお嬢様権限で蹴り開け、あちこちを探す。あった。私はそれを引き抜くと、椛の所へ急いだ。今見つかったら、きっと大変な事になる。「あの、それは一体…?」看板だ。けれど、ただの看板じゃない。

 

看板には『ドッキリ』と書かれている。「椛ちゃん、これ持って出るの。早く」「えっ、あの」私が思い切り蹴り出すと、椛ちゃんは遺影の辺りから飛び出した。――しばらくして、会場は笑いに包まれていた。文の嗚咽も止まった。成功したらしい。私はほっ、と胸をなでおろした。

 

「――はっはっは。椛も冗談というものがわかるようになってきたじゃないですか」顔をぐしゃぐしゃにして言う言葉でもないと思う。「ははは、中々面白い事をするな」大天狗様にそう言われますと恐縮です。「まあ、生きているなら幸いだ」こんな茶番に付き合って頂いて申し訳ない。

 

「このバカ椛! 今からあのヤブ医者、殴りに行こうぜ!」白狼は医者をどうやってやっつけるか議論し始めた。とりあえず会場は丸く収まった感じだった。これで姫海棠家はギャグの家として有名に――あーあ、やんなっちゃうな。でもまあ、本件はこれにて一件落着――

 

「――しかしよぉ、そんならこの中に入ってる奴は誰なんだ?」白狼の一人が気付いた。…そうだ、そういえばおかしい。椛が抜けだしたなら重さでばれるはずだ。皆が静かになった。私もだ。豪気な白狼が数人、棺桶の縁を持ち、それを持ち上げると、そこに眠っていたのは――

 

「うにゅ?」

 

烏だ。地獄烏。目を覚ました地獄烏はとん、と棺桶から現れた。「ふわぁ…」高く上げた両腕から放たれた線香、もとい閃光が天を貫いた。背後に現れた灼熱の玉がどん、どんと膨張していく。――ああ、何となく展開が読めたぞ。私は何もかも諦めて、それを呆然と見ていた。みんなそうだった。

 

「みんな、おはよ―――っ!!」

 

灼熱の玉は一気に会場を飲み込んだ。地獄烏の影だけが映っていた。全身から膨大なエネルギーを放ちながら、地獄烏は手を振った。いや、それどころじゃないでしょ。烏も白狼も大天狗様も、椛も文も、そして私も光に包まれた、行き場を失ったエネルギーはそう、核爆発を――

 

「爆発オチなんてサイテー!!」

 

私の言葉は、光の中に飲み込まれて、消えた。

 

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