東方短編集   作:slnchyt

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ドリーム軽トラ

―ドリーム軽トラ―

 

サグメさんが爆発しましたねぇ。

 

わたくしのせいではありません。ええ。本当ですよ。槐安通路でサグメさんが無理に大量の夢を運搬しようとしまして、それで爆発しました。夢オチも爆破オチもさほど違いはないものですが、無理はするものではありません。うきうきしていたサグメさんはまあ、可愛くはありましたが。

 

『惜しい人を亡くしました』生前のサグメさんは大変純粋なお方で、ええ。手も繋げない有様でありまして。月の重鎮ともあろう者が色恋沙汰に手を染める訳には、とまあ、最初の内は平静を装ってはいましたが、わたくし立ちどころにわかってしまいましたねぇ。恋の始まりというものを。

 

わたくしもまあ、長い所こういう所にいますから、夢の中に知り合いはおります。ええ。しかして恋愛とまでは――まあ、行かない訳ですねぇ。そういうつもりもありませんでした。今になってパートナァーを、と言われても、少々困ってしまう。そう思っていました。ええ。

 

夢で出会った二人の絆。そういう夢魂もたまには見ますけれども、それは大体が記憶違い。けれども本当に成就してしまう事はある訳ですねぇ。私の場合もまあ、そういうパッターンだったやもしれません。それはええ、少しばかり昔の話。槐安通路の一件――

 

―――

 

  ―――

 

『丁重にお断りします。ええ』これ以上面倒事を増やさないでいただきたい。『あなたに拒否権はないのよ、夢の支配者』支配者と呼んでくださるならもう少し敬意をですねぇ、払って頂けると。『ですから、本当に嫌でございましてぇ』『拒否権は、ないの』カチリ、という音。

 

あなたは私に銃を向けましたねぇ。周囲にはビットが大量にばら撒かれている。『夢の中で、私に逆らう気で?』『それも辞さない』やれやれ、強情です。こんなにしつこい人は――そもそも人を見ること自体が稀ではありますが――ええ、久しぶりかもしれませんねぇ。ふふふ。

 

私は夢魂をかき集めました。夢はあればあるほどいい。頭からっぽの方が、とも申します。ええ。『これは夢破壊砲。あなたに勝ち目はない』おや、随分と物騒な――というより、クリテカルものを作りなさる。私は帽子の中からまったく同じものを取り出しました。『現破壊砲です』

 

『――!』そう、夢において私は最強。なんでも――と言えば語弊はありますが、支配者の名は伊達ではありません。ええ。『あなたは夢の世界と共に分解される』『あなたは完全にこちらの住人になってしまう』これは抑止力です。もてあそぶには少々危険すぎるものではありますが。

 

じり、とあなたは後ずさりましたねぇ。それはまあ、当然ではあります。西部劇の決闘、それと同じと思えばよろしい。先に抜いた方が勝つ。負ければすべてを失う。ビットと羊が睨み合いました。わたくしにはまあ、作戦があった訳です。双方が妥協する、そういう作戦が。

 

――サグメさんが先に抜きました! 私も咄嗟に抜きますが、それを撃ちはしません。それが発射される瞬間、わたくしは羊を一か所に集め、夢魂で固めました。これを盾にするのです。敢えて現破壊砲を撃たなかったのは――まあ、夢見が悪いですからね。ギャグではありませんよ。ええ。

 

それは私達の丁度中間辺り、羊の壁の中で破裂し、私達にその余波を届かせました。少々かわいそうですが、致し方ない。羊は跡形もなく消えてしまいましたが、私達は無事なので問題ありません。ええ。私達は、ですが。『何度でもやるわ』『その暇はないと思いますよ』

 

何処からともなく音がしました。ゴゴゴ。ゴゴゴ。徐々に大きくなるそれは、収まる気配はありません。『夢破壊砲、ですか。確かにそれは想像以上の効果があったようですねぇ。ええ』『ッ、これは――?』『あなたが引き起こした事ですよ。月の使者』私は夢魂に身体を預け、微笑みました。

 

「夢が持たなくなっています」地震めいて夢全体が揺らいでいます。軋み、砕けるように。ヒビが入りました。そこから見えるのは、うつつ。夢は終わろうとしていました。ええ。「これはあなたの夢。あなたはそれを壊そうとした。そうなれば、ええ。どうなるかは察しがつくでしょう」

 

『ご安心を、私達は死にません』『死なない?』サグメさんは少しばかり戸惑っておられた。『夢はいつでも見られるものです』ヒビが激しく広がりつつある中で、私はあなたに言葉をかけました。『私は戻ってくる事ができます。あなたもそうでしょう。ええ、夢がある限り』

 

『先程のお願いですが――まあ、いいでしょう。あなたの気概に免じて、お引き受けしましょう。ええ』『――本当に?』『この緊張下で、嘘は申しません』剥がれ落ちてきた夢を羊で防ぎながら、私は微笑みかけました。同族からは評判はよくない顔ですが。まったく失礼な話で。

 

『――いつかまた、今度は大きなお願いをすることになるわ』『お断りいたします――と言いたい所ですが、聞かないでしょうねぇ』夢が砕けました。明るい光で満たされつつあります。それは目覚め。私にとっては久しぶりな事でありましたねぇ。都落ちという奴です。ええ。

 

『ところで、まだお名前を聞いておりませんが』『――稀神サグメ』『ドレミー・スイートと申します。以後お見知りおきを』私はあなたに向けて浮揚して、手を握りました。『次に会う時は、お仕事だとか、そういうもの抜きであって欲しいですねぇ』あなたは大変、戸惑っておられました。

 

夢魂をちぎって、投げ渡しました。その中身は、焦がれ焦がれる恋の夢。どうしてそんな事をしたのか――多分、惚れていたんですねぇ。もう。『お返しに何をくれるのか、楽しみにしておりますよ。ええ』『それはどういう――』私達を、光が包みました。さようなら、サグメさん。

 

―――

 

  ―――

 

『――ミー、レミー―』おや、なんでしょう。『ドレミー!! 聞こえてる!?』聞こえております。聞き流していただけで。『少しくらい心配してくれてもいいじゃない!』『まあ、あなたを信用しておりましたので。ええ』サグメさんは言葉に詰まりました。まあ、適当に言った訳ですが。

 

おやおや、上から下まで丸焦げでらっしゃる。まあ、ここは夢。サグメさんは爆発に巻き込まれた、というイメージでこうなっている訳です。己のイメージ次第でどうとでもなるんですねぇ。その内に元に戻るでしょう。ここは夢。わたくしは想起した。それはリアルな夢ともなりました。

 

『積み過ぎたら爆発するとか、どうして教えてくれなかったのよ、ドレミー!』『わたくし申しましたよ。そんなによくばってはいけませんよ、と』『もうちょっと深刻な引き留め方できない!?』サグメさんはたいそうお怒りですが、まあ、いつもの事であります。根がドジっ子ですからねぇ。

 

運んでいたのは資材です。サグメさんは私との取引で、夢の建材をかき集めていたのです。それを一度に運ぼうとして――ボン! です。ドリーム軽トラ(ペーパーのゴールド普通免許しかお持ちでない?)にそんなに乗せたら危ないとは思いましたが、言っても聞かないでしょう?

 

庭付き大邸宅を立てたいと仰ったのはまあ、サグメさんの方でしたね。ええ。わたくしはもっと慎ましやかなお家でいいですよ、と申したのですが、まあ、良い所を見せたかったんでしょうねぇ。それがこのざま。ふふふ。夢を手荒に扱うものではない。サグメさんも少しは懲りたでしょう。

 

『――ごめんなさいドレミー。家は当分無理みたい』『何も謝る事はありませんよ』浜の真砂は尽きるとも、世に夢魂は尽きまじ。ええ。役目を終えたそれもいずれは十分に集まるでしょう。『今度は無理をしないでくださいね、サグメさん?』――私はあなたの顎を引き、キスをしました。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

――中型免許をお取りになった? それは結構ですが、しかしドリーム2トンにそんなめちゃくちゃに夢積み込んで、ズイズイ走ったら――まあ、こうなる訳です。ええ。今度は丸焦げでは済みませんか。お茶でも用意しておきましょう。ふふふ、それにしてもサグメさんは、ドジですねぇ。

 

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