東方短編集   作:slnchyt

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ドリーム10トントラック

―ドリーム10トントラック―

 

サグメさんが死にましたねぇ。

 

わたくしが殺した訳ではありません。槐安通路でドリームバイクを乗り回していたら、ドリーム10トントラックにはねられて、それで死にました。前を見ていなかったんですかねぇ。夢の世界でも死ぬ時は死ぬのです。当人が死んだ、と思ってしまえばそれでおしまい。ええ。残念ながら。

 

幾多の爆発に耐えたサグメさんの精神も、流石に折れてしまったのでしょう。お葬式はこちらで出しておきます。現実のサグメさんは――まあ、あちらでやってくれるでしょう。私は少々センチメンタルな気分になりました。ええ。悲しくない訳ではないのです。しかしてわたくしは忙しい身。

 

悲しんでばかりはいられないのです。私の後ろには建設途中の豪邸がありました。あまりにも大きな墓標ですが、わたくしが責任を持って建てましょう。ええ。羊達に発破をかけました。彼らもサグメさんの死を悼んで――どうもそんな雰囲気でもないですが、とにかく悲しかったのです。

 

しかして、異変はナーバスなわたくしを待ってはくれませんでした。ええ。夢が、騒がしい。こんな感覚は滅多にあるものではありません。夢魂がたゆたんでいます――が、それも何処か異常な揺らぎを伴っています。身構えている時には死神はこないもの、とは言いますが、警戒して損はない。

 

――何やら空間が歪むような違和感。私は夢魂がら飛び降り、一瞥しました。こんなわたくしとて夢の支配者の名を欲しいがままにしています。ええ。何かが起これば、対処する義務があるのですねぇ。違和感の方向を割り出しました。その時です――私の目に、何かが飛び込んできたのは!

 

『戻ったわ、ドレミー!!』

 

なんと、ドリームバイクに乗ったサグメさんが現れたのです。私は少しだけ動揺しました。少しですよ。『サグメさん、今まで何処に?』私の問いに、サグメさんは待っていましたとばかりに叫びました。『異世界よ、異世界!』はあ、異世界。現世からすればここも十分異世界ですが。

 

『そうじゃないわ。私が転移したのは剣と魔法の――』最近は一般的ヨーロッパ風と言うのではなかったですか。『――それで、私は魔王ヘカティーを倒して世界に平和を――ねえドレミー、聞いてる?』聞いておりますよ。聞き流しているだけで。『過酷な旅。しかし私は諦めなかった』

 

『私が世界を救えたのは、私の新たな能力のおかげよ』存じております。往々にして何か一つ頂けるそうですねぇ。はい。『それは――目で殺す程度の能力!』『――はい?』『目で殺すのよ。これに気付く前は、迂闊に喋れないから苦労したわ』『目で殺す。…邪眼か何かで?』

 

『稀神サグメの名において命じる! …って、そうじゃないわ。怪光線も出さない。文字通りじゃない方の意味』『ひょっとして――そちらで?』『そう、そっち』サグメさんは羊達に声をかけると、片目をピンク色に光らせ、工事現場を一瞥しました。すると――何という事でしょう。

 

工事を頑張っていた羊達がすべてを投げ打って、サグメさんの前に集まったではありませんか。工事止まりましたよサグメさん。『ざっとこんなもんよ』羊たちは目をハートにしています。はしっこい一匹が貢物を持ってきたのを見て、他の羊も続きます。工事完全に止まりましたよサグメさん。

 

『それにしても、おかしいわね…』どうかなさいましたか。『――さっきからあなたを何度も見ているのだけど、効果が全然なくて』『言われてみれば、効きませんねぇ。ええ』私は夢魂に乗って、サグメさんを見ました。いつもの微笑み。『異世界で能力が効かなかった事はありまして?』

 

『結構あったわね。宿屋の娘さんとか、道具屋のおちびさんとか、闘技場のマッチョマンとか――』何やら結構、普段からお使いで。『割引してもらおうと思って』サグメさん、あんたちょっとセコいよ。『仲間達にも効かなかったわね。その方が都合が良いけれど』良いお仲間をお持ちで。

 

『どうやら共通点があるように思いますねぇ』サグメさんは頭を傾けています。翼がばさり、と鳴りました。本当にわからない、といった顔です。ああ、これは大変泣かせてきましたね。『幅広く効かない人がいる。お仲間には効かなかった。そして私にも効かない。それはつまり――』

 

『あなたに恋してしまった人には効かない訳ですねぇ。合点がいきました』私は夢魂に寄り掛かって、サグメさんを再び見ました。そのピンクの瞳は、あなたの罪です。あなたは多くの恋をばら撒き、そして去っていった訳です。如何にも罪深い人ですよ、サグメさんは。

 

『――えっ? …その、なによドレミー』今更その能力を理解したという顔をしましたね。わたくし、思わず微笑んでしまいますとも。『もちろん、わたくしはあなたに恋しておりますよ。ええ』戸惑う顔も可愛いもの。夢魂から飛び降りました。『あなたの一番でありたいものですねぇ』

 

わたくしはあなたにそっと近付き、腰に手を回すと、きっと久しぶりのキスをしました。羊達から落胆とヤジ――そして、祝福の言葉が飛び出しました。良い羊を持ちましたねぇ。羊の一匹が、何処からか空き缶と紐を持ち出しました。これはそう、そう言う事です。少々恥ずかしくもあり。

 

『さあ』私は手を引いて、ドリームバイクに相乗りしました。久しぶり――でもないですが、サグメさんからすればとても、とても久しぶりなのでしょう。私はサグメさんの背を抱きました。おかえりなさい、サグメさん。そう呟いた言葉は――聞こえていたでしょうかねぇ。

 

『槐安通路をバイクで飛ばすのは、なるほど気持ちが良いですねぇ』背中はとても暖かい。『――あのねドレミー、大事な話があるんだけど』サグメさんは振り向き、私に視線を向けました。その瞳は既に光を放ってはいませんでした。『おやサグメさん。前はよろしいので?』『えっ?』

 

 

 

キキィ―――!! ドオオォォッン!!

 

 

 

私達はドリーム10トントラックにはねられて死にました。ええ。

 

――転移するなら一緒ですよ、サグメさん?

 

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