東方短編集   作:slnchyt

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ドリーム筋斗雲

―ドリーム筋斗雲―

 

サグメさん、あなたは喋り過ぎましたねぇ。

 

夢の中ではいつも、念話を使っていたのですが――どうやら、寝ぼけていたのでしょう。サグメさんは現の世界で喋ってしまいました。ええ。ドレミーは何処、と。私に向けた言葉は、しかして私ごときに抵抗する術はありません。夢の世界から、サグメさんはいなくなりました。

 

ドレミーは何処にもいない。すなわち私と、真っ当な手段でまみえる事は、二度とない。能力の反転先がどちらを向いたにせよ、舌禍とは如何ともしがたいものです。ええ。あなたがいなくなった夢の世界は、がらんとしてしまいました。ええ。やがてはこれも、慣れるでしょうか。

 

私は如何にもぼんやりしています。お仕事も手につきません。ええ。私の中で、あなたの占めるスペースとはこんなに大きかったのですねぇ。意外でした。納得してもいました。悲しくない訳ではないのです。何度もこんな事がありました。それでも、何度でも、乗り越えてきたのです。

 

すっぱりと死んでしまったなら、ある意味、諦めもつくでしょう。以前、そんな事もありました。しかし――生きているのに、二度と会えない。引き裂かれた――いえ、住む世界を別たれてしまった。私はどうしても、諦められなかったのですねぇ。何か、何か手段があるのでは、と。

 

サグメさんの夢を探しました。しかして、私にはそれをついぞ見つける事は出来ませんでした。生きているのに、二度と、会えない。私は無力感に囚われてしまいました。ええ。淡々と仕事をこなしました。やけくそで夢魂を食べまくったりもしました。意味もなく、夢の中を漂ったりも。

 

サグメさんがいない。私は――涙を流していたかもしれません。私が泣くなんて事は、精々ドリーム砂埃が舞った時くらいで、滅多にありません。建設途中の豪邸を見に行きました。羊達は我関せず、といった感じで作業を進めています。サグメさんの豪邸は一応、形になってきました。

 

ドリーム10トントラックが、ドリーム建材を搬入していました。ええ。以前にサグメさんが爆発していた事を想い、悲しくなりました。あなたの残滓を見るのが、ただただつらい。あなたが死んだドリームバイクが置いてあります。ドリーム軽トラも。そしてあなたの腕も――んんん?

 

『サグメさん!?』私は慌ててそれに近付きますが――現の側は、何も見えませんでした、まるで二人の再開を拒むかのように。けれど、伸びたそれは――おそらく、サグメさんです。念話は聞こえません。私はなんとなく、理解しました。もしも、互いを互いと認識しなければ――?

 

夢の世界から手を伸ばしました。お互いの顔は見えません。見えてはいけないのです。私達は、手を握り合いました。確かな暖かさを感じました。互いに引き合いたい。顔を見たい。あなたに触れたい。このもどかしさは、きっとサグメさんも感じていたでしょう。ええ。

 

舌禍がもたらす影響は未知数。反転した運命は如何様にも転びえる。己がすら、どのように作用するかはわからない。非常に危険で、恐るべき力です。けれど――私は、あなたの選択を恨んだりはいたしません。私は手を握り込みました。その力を私、そしてあなたの為に使ってください!

 

「ドレミー!――私は、あなたと一生、暮らさない!!」

 

その瞬間。運命の歯車がギギ、と音を立てます。運命は再び逆転しました。まるで背を押されるように、サグメさんは夢の中に飛び込んで来ました。あなたの顔が見えます。『サグメさん』『ドレミー!――本当にドレミーね!?』『ええ』抱き着くサグメさんを、私は優しく撫でました。

 

きっと、最初の運命はあなたの宣言に向けて反転したのでしょう。あなたが、私を取り戻すまでを織り込んで。ええ。世の中はままなりませんが、しかして良く出来てもいます。私は夢魂をちぎり、吹き散らしました。運命とは夢に似ています。起きるまでが、夢。起こるまでが、運命。

 

『あなたの顔が見たかったわ』『いつも見ているではありませんか』『今、見たくなったのよ!』ふふ。可愛らしい。『さあ、お家に帰りましょう。まだ、完成には程遠いですがねぇ』『完成させるわ。あなたとの夢の御殿』サグメさんは毅然と宣言しました。決して頓挫などさせまいと。

 

『さあ、帰りましょう?』サグメさんはその辺に転がっていたドリーム筋斗雲を引きずってくると、私を手で誘いました。私がそれに乗っかると、あなたはその後ろに乗りましたね。『掴まっていてくださいね』『わかっているわ』サグメさんの体温が、背中越しに伝わってきます。

 

――私は今まで、伝えられなかった事を伝えようと思いました。ええ。『サグメさん、これを』小さな箱。私が渡したのは――そう、指輪です。エンゲージリング。『私から渡そうと思ったのに』『早いもの順ですよ』顔を真っ赤にしたサグメさん、可愛いですよ。もっと顔を見せて――

 

『ドレミー!――信号赤、赤ッ!!』――おや?

 

キキィーッ!――ドオォォーン――!!

 

ドリームブルドーザーに激突して、私達は死にました。まあ、確かにこの世で一緒、とは一言も言ってはいませんでしたが。ええ。運命とは無垢で残酷なもの。しかして私達の絆は――きっと、壊されてはいないはずですねぇ。……あの世でも一緒ですよ、サグメさん?

 

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