東方短編集   作:slnchyt

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―140文字小説―
✨東方140文字小説


三脚とは棍棒、これすなわち絶対権力を表している訳だ。私は偉いんだぞ。「しかして三脚の上にはマスメディアが君臨するものでありまして」やかましい。弾圧するぞ。「おお、こわいこわい。こわいついでに神権政治がこわい」「……その心は?」「紙の言葉は絶対でありましょう」

 

「穢れた食べ物なんて食べられない」そんな事言ったって仕方ないだろ。「穢れていない食べ物が欲しいよー」そんなもの何処にあるんだ。諦めなよ清蘭。「穢れ、穢れ……」ぶつぶつ呟くのを尻目に、私は掘った芋を食べようとした。「あったよ、穢れない食べ物」頭を杵が殴り付けた。

 

清蘭がキュリオシティを開けて何やらゴソゴソしている。「これで月に帰れるんだ、これで月に……」清蘭メカいじれたっけ。そもそもそんな機能ないけど。「あった、これをこうして……」浄化の光が、俄かに地上を切り裂いた。「ここを月にすればいい」そういうのやめた方が良いよ。

 

清蘭がカブトムシを捕まえてきた。「みてこれ、変なのー」向こうはお前の事を変だと思ってるよ。「これと戦う遊びが流行ってるんだって。早速行ってくる!」そりゃ結構。虫かごを置いたまま駆け出した清蘭は、しかし妙に早く帰ってきた。「一回戦の相手に負けた……」負けるなよ。

 

鈴瑚屋の団子は確かにおいしい。でも清蘭屋の方だって負けていない。それで何であんなに売上の差がつくのか。じっと観察してやる。「まいどー」客が途切れた。徐に鈴瑚は団子を食べ始める。一本、二本。「美味そうだねー」「美味いよー」ああ、あれはデブしかできない宣伝だわ。

 

鈴瑚がいなくなった。私のせいだ。鈴瑚なんてリンゴになっちゃえなんて言うから。ちゃぶ台にはリンゴが一つといつもの帽子。帽子を被っていない鈴瑚なんて、ただのデブだ。鈴瑚のばーか。すっとこどっこい。へちゃむくれ。「……どうせ帰ってくると思って無茶苦茶言ってない?」

 

鈴瑚はデブだけど、デブは鈴瑚じゃない。つまりデブは鈴瑚の本質ではない。なら、鈴瑚の本質って?「私の本質は私だよ」なら私が私を清蘭と決めればいいの?「そういう事」なら、私は鈴瑚だって言ったら?「私が清蘭になるよ」そっか。……私も清蘭だって言ったらどうなるの?

 

私が掃除している間に鈴瑚が散らかした。何でもそこらへんに置くやめてよ。「これは合理的な配置だよ、清蘭」ゴミに埋もれた鈴瑚が何か言った。それなら私だって考えがある。鈴瑚を掴んで持ち上げて、ゴミ箱の中にに突っ込んだ「なにすんのさ清蘭」これこそ合理的な配置じゃない。

 

私が本を読んでいる間に清蘭が散らかした。合理的な配置は見る影もない。勝手に触らないでって言ってるのに。「あ、輪ゴムがない」ほい。「石鹸も」ほら。「……何でも出てくる」だから合理的だって言ったじゃないか。ポテチを取り出す。粉が散らばった。「……前言撤回」

 

「火力が足りないと思う」清蘭がまたなんか思いついた。団子に大火力なんて必要ないだろ。「そうじゃなくて、呼び込みに熱さが足りないっていうか」今、仕事を放り出している方が良くないと思うけどな。「だからこの松明で熱いダンスを……」決意は固いらしい。今日は焼き団子かな。

 

清蘭が増えた。増えたのだから仕方ない。これがドッペルゲンゲルか。試しにどっちが清蘭か聞いてみたら、二人同時にしょげた。そこは両方が主張する所だろ。しかしこのままでは気味が悪い。片方を選んだら、もう片方はボン、と消滅した。……私が選んだ方は、本物の清蘭なのか?

 

鈴瑚が増えた。増えたのだから仕方ない。これは――なんだっけ。「ドッペルゲンゲルだよ」そうそれ。「しかしなんだ、私が二人いても何も変わらないな」確かに。「じゃあ一緒になるか」そう言うと鈴瑚は、ゲルゲルなんとかと合体してしまった。「何度目かな」何度もやってるの?

 

清蘭が珍しく本を読んでいた。絵本だ。「鈴瑚これ見て、面白いよ」清蘭とは感性が違うからな。「月の使者が迎えに来るんだって。私にも来ないかな」清蘭の心は月にある。地上に生きるのは不本意なのだろう。私は違う。あんな所に帰る気はしない。「帰れるかな」……いつかは、な。

 

死んだ玉兎の魂は月に還る。話半分に聞いていたが、今になって思えば、玉兎は救いが欲しかったのかもしれない。明日をも知れぬその命。せめてあの月に還りたい。戻れずとも、戻らずとも、穢れた身体を捨てて。なあ清蘭。そっちは良い所かな。耳デバイスを掲げ、少しだけ、泣いた。

 

鈴瑚は地上で生きると言った。最初からそのつもりで志願したらしい。此度の任務、兵員は決して回収されない事を知っていた。キュリオシティを巡る小競り合いで使い捨てられるはずだった。……私は生き残った。餅つきで後方にいたから。鈴瑚が憎い。どうして、お前は生きている?

 

団子を食べるほどに強くなる能力。本人の自己申告でしかないが。腹が満たされれば団子でなくてもいいのか。試しにカレーをたらふく食べさせてみたら、追い調味料に団子をかけていた。これでは実験にならない。「美味しかったよ清蘭」食後の団子をつまみながら言うな、このデブ。

 

居眠りしている鈴瑚に、さっと毛布をかけてやった。こうしておけば、安らかに眠れるだろう。私の心遣いに感謝して欲しい。それにしても。良い事をするって気持ちいいな。もっとしてあげよう。もっと。今、私はとても良い事をしているよ。「――暑いんだけど、清蘭」夏だからね。

 

清蘭が絵を描き始めた。さっきから黙々とカンバスを汚している。赤色だらけでめちゃくちゃだが、辛うじて月が描かれているのはわかった。……それで、何なのさ、それ。「ストロベリームーン」汚しながら、続けた。「赤い瞳が狂わすの。何もかもを」答えささやく清蘭の目は、赤い。

 

「もうだめだよー」泣き言の前にもっと食べさせて。もっと、もっと。「無理だよー」清蘭は団子を運ぶのを止めてしまった。こら、止めるな。全然食べ足りないんだ。諦めるな清蘭。フレーフレー清蘭。――駄目だ、もう支えていられない。ドスン。私達は吊り天井に潰されて、死んだ。

 

「鈴瑚と団子の区別がつかなくなってきたの」何を言うかと思えば。「二文字も被ってるし、丸いのは鈴瑚もでしょ?」団子とでも名乗れば気が済むのか。「いけない、今度は団子と鈴瑚の区別がつかないわ」要はその程度の差しかないんだよ。「どっちの団子も食べられるし」悪食め。

 

私が太っているんじゃない。清蘭が痩せすぎているんだ。「最悪の言い訳」汗を拭きながら清蘭は口を尖らせる。「私より何倍も食べるじゃない。そんなんだからデブるのよ。デーブ」憮然とした清蘭はドスンドスンと炊事場に向かう。それを見送る私の身体はと言えば、当然――

 

七夕の空は晴れていた。嬉しそうに笹を持ち出した清蘭は絶対に見ちゃダメ、と言っていたが、どうせ、月に帰りたいって書いてあるんだろ。私はそっと清蘭の短冊を見た。「鈴瑚と一緒に月に帰りたい」これは不発だな。私の短冊には、清蘭とずっと暮らせますように、って書いたんだ。

 

清蘭がスナイパーごっこを始めた。スコープを覗いて、道行く生き物にスポンジを当てては反応を面白がっている。その内痛い目見るよ、と言った傍から、日傘をさした偉いさんの顔にぶつけてら。そっと逃げ出した私の後ろから、清蘭の悲鳴が聞こえる。スポンジだけに向こう水ってか。

 

私達は温泉に来ている。福引で引いたのだ。なお清蘭は六等。不思議な香りだ。今まで嗅いだこともない。湯加減は――ちょっとぬるいかな。全身を浸けると、これはいい。歌でも一つ謳いたくなる気分だ。……ねえ、もうちょっと火加減強くなんない?「はいはい」八等は温泉の素。

 

清蘭が猫を拾ってきた。「見てこの子、可愛いよ。ねー飼おうよ!」「うちにはもう清蘭がいるからなぁ」私の嫌味にまったく気付かず、だだを捏ねる清蘭を何とか窘め、元の場所に戻してくるように言い聞かせる。しばらくすると戻ってきた。猫が。「生存競争に負けちゃったか……」

 

私達は武器の手入れをしていた。まあ、二度と使う事もないだろうと思う。長年染み付いた習慣だ。二人にとってこの時間は、部隊に居た頃の思い出話の場になっている。「それでね、地上人に遭遇した私は世にも華麗な空中戦を――」清蘭のホラ自慢を聞き流しながら、笑みがこぼれた。

 

鈴瑚が寸胴鍋を被ったまま、こっちを向いてくれない。虫の居所が悪かったっぽい。「もうお腹の贅肉分けて、なんて言わないから、機嫌直してよ」「私は別にそんな軽口で怒ってるんじゃないんだよ、清蘭」寸胴鍋は憤慨した。「だけどポークカレー呼ばわりはない。ありえない。最悪」

 

家庭菜園に精を出す清蘭の背中をぼうっと眺めている。考えてみれば奇妙な話だ。私達も兎の身とあらば、むしろ畑を荒らすべきなのかもしれない。暇してた思考回路を総動員して畑荒らしを企てていると、不意に清蘭がこちらを向いて、笑った。無理だな。あの笑顔を壊せる気はしない。

 

「団子搗きは?」「やる気出ない」清蘭が柄にもない事を言い出した。「五月はまだ先だろ」返事はない。本当に具合でも悪いんだろうか――なんて、思うだけ馬鹿だよな。清蘭だし。「鈴瑚がやってよ」「清蘭の仕事だろ」「やーだ。やらない!」「おっ? やる気か?」「やるぞ!」

 

「書類は?」「やる気出ない」鈴瑚がアンニュイな事を言い出した。「五月はまだ先じゃない」返事はない。頭をばりばり掻きながら寝っ転がってる。「ねえ、私がやろうか」「いい」「遠慮しなくていいよ?」「訂正箇所パないからやめて」「でも……」「あーやる気出た! 今出た!」

 

「千里眼ってのは本当にそんなに良く見えるのか」双眼鏡を覗き込んでいた私は、椛に問うた。「例えば、私が山向こうにいても」「見える」当然だ、とばかりに椛は鼻を鳴らした。心の中までは全然見えない癖に。精悍な横顔をちらりと見て、私は目を逸らした。私はここだよ。馬鹿。

 

夜明けの光を背に受けながら、椛は夜の残滓をじっと見つめていた。残り、僅か数時間。歩哨の交代が近付いていた。退屈から解放されて清々する反面、暗闇の世界が終わる事が惜しくもあるのだ。己が闇と一体となり、影という名の巨大な獣と化す。――思えば今宵も、血に飢えていた。

 

何処にそんな大量の道具を持ち歩いてるのかって? は、河童の技術を舐めるなよ。当然、このリュックの中に詰まっているのさ。――おっと、迂闊に触るなよ。こいつは案外危険な代物なんだ。探し物に≪入った≫同僚が一人、まだ戻ってこない。さて、何処で迷っているんだか……?

 

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