はじめのテイオー   作:まるしゃわ

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基本会話がメインのお話ですので、一歩がうまぴょいしたりウマ娘がボクシングする話ではありません。そういうのを期待されていたら申し訳ありません。


※本作は別タイトルで上げていたものを少し加筆、修正して再投稿したものです。


出会い

「にしし…皐月賞見てくれた?圧倒的だったでしょ!」

「フン、たかが一勝しただけだろうが。お調子に乗るのは早いんじゃねぇのか?」

「大丈夫、今のボク絶好調だもん!どんな相手だって負ける気がしないよ」

「…どうだか」

 

東京のとある河川敷…普段は年代問わず様々な人が行き交うこの場所だが、今はまだやっと朝霧の中に陽の光が感じられるような時間帯。人の気配は殆どなく、時折ランニングに勤しむ者が僅かに点在するのみである。

 

「…そういえばキミと初めて会った時もこんな時間だったよね」

「そうだったか?んな事忘れちまったな」

「えー、覚えてないの?ほら確か───

 

 

 

 

 

 

 

今日と同じようにまだ薄明るい中を、一人の少女が息を切らせて駆けてゆく。そのスピードと軽快さは前述のランナーの比ではなく、まるで風が実体を持っているかのようだ。

 

「よーし…あの看板までラストスパートっ!」

 

1キロ程走った所で、彼女は自ら決めた即席のゴールラインを颯爽と駆け抜けた。かなりのスピードだったにも関わらず、その表情には疲労の色は一切見られない。

それも当然、彼女の正体はウマ娘。一見すると耳と尻尾以外は人間と同じだが、その運動能力、とかく走る事に関しては人間が対抗できるレベルをはるかに凌いでいる。

そんな韋駄天の如き彼女を覗き見るようにして、太陽が地平線の向こうから顔を出した。

 

「よーし!会長みたいに無敗で三冠の最強ウマ娘になるぞぉっ!」

 

静寂に包まれた街に、少女の幼い声を阻むものは何も無い。強いて言うならせいぜい小鳥達のさえずりと、川のせせらぎぐらいだろうか。

しかしそんな中───

 

「…んだよ騒々しいな。人が気持ちよく風に当たってる時によ」

 

足元から聞こえてきた彼女を歓迎しない太い声に、思わず喉から変な声が飛び出そうになる。恐る恐る声の方に目をやると、怪訝そうな顔でこちらを見る男の姿があった。

 

「あはは…ごめんなさい、てっきりボク誰も居ないと思って…」

「うむ、まぁ反省してるなら許して───ん、なんだお前、ウマ娘じゃねぇか」

 

”無敗の三冠ウマ娘”という内容を聞いていなかったのか、男は彼女の耳を見るなり意外そうなリアクションを見せた。そもそも人間とウマ娘の人口比率は、言うまでもなく圧倒的にウマ娘が少ない。ましてやこんな時間にトレセン学園から離れたこの場所でお目にかかるなど思っていなかったのだろう。

 

「って事はなんだ、レースに向けて走り込みって訳か」

「そうだよ。ボクは会長みたいな最強のウマ娘を目指すんだ!」

「会長…?一体誰だそりゃ」

「えーっ、会長を知らないの!?トレセン学園の会長のシンボリルドルフだよ!」

「生憎普段レースは見ねぇからな。んでそのションボリなんとかってヤツは強いのか?」

「シ ン ボ リ ル ド ル フ !強いに決まってるじゃん!しかも会長はかっこよくて─────

 

先程とは打って変わって憧れの人の偉業を熱弁する彼女に、男も終始押され気味、結局気が済むまでルドルフ伝説を聞かされる羽目になってしまった。

そんなやり取りをしている内に、いつの間にか二人は土手に座り込み、話も皇帝の武勇伝から雑談に変わった頃には太陽もすっかり大地から離れていた。

 

───にしてもお前みたいなちっこいのが……ふっ、最強の三冠ウマ娘か」

「あっ、今無理だと思ってるでしょ!…フンだ、ボクが有名になってからサインちょうだいって言ってもあげないんだから」

「ダッハッハッ!そう怒るなって。ちょっとからかっただけじゃねぇか」

「…いいよ別に。そういう反応だってもう慣れたし。でも────

 

 

 

 

────ボク、本気だから。

 

 

 

(……!)

 

無邪気に憧れを語る少女の瞳の奥に映る、執念にも似た鋭い輝き。ただ静かに、そして粛々と自らの道を見据えるその姿に、男は″同業者″の面影を見た。そして───

 

 

 

 

『───さん、強いって、どんな気持ちですか…?』

 

 

 

(…そういや、アイツに初めて会ったのもこの辺りだったな)

「…?どうしたの?」

「よし、そこまで言うならやってみろ。この俺様も見といてやるぜ」

「えっ…」

「最強ってのはつまり、そいつには誰も適わねぇって事だ。だったら、ルドルフだろうが誰だろうが全員ねじ伏せてみろ」

 

今度は少女が男の瞳を覗く。てっきりまた無理だと言われるのだと思ったが、男はあれ以上笑い飛ばすことはなかった。もしかしたら無敗で三冠という偉業の難しさを理解していないのか、あるいは適当にあしらわれているだけのかもしれない。

だが、口では上手く言えないが……なんというか、この男の言葉の中に妙な説得力のようなものあるのだ。

言葉巧みに人々を説き伏せるのではなく、本人のオーラや佇まいのみで強引に納得させてしまうような、ある種のカリスマ性とも言えるような雰囲気は、どことなく憧れの人にも似ているような気がした。

そんな姿が気になりつつも、男のわかったような口調に少しだけ腹が立った彼女は、少し口を尖らせつつ、反撃の意味も込めた質問を投げかけてみる。

 

「…そういう君は何を目指してるのさ。見たところ体鍛えてるみたいだけど?」

 

初め暗い色のパーカーで土手に寝転がっていたために気が付かなかったがこの男、日本人としては相当の体格だ。身長は180センチを優に超え、少女とは大きめの定規一本分程度の差がある。しかし、彼を巨体たらしめているのは、服の上からでもはっきりと分かる、筋肉の鎧であった。

 

「フッ…俺様はな、ボクシングで世界チャンピオンになる男だ」

「世界……チャンピオン?」

 

世界チャンピオン…文字通り世界最強を意味するその称号は、アスリートなら誰しも一度は夢見るもの。だが立ちはだかる巨大な壁を前に、殆どの者達はその頂きに手をかける事すらなく、失意の内に戦場を去ってゆくのだ。

だが男の眼差しは力強く、妥協の色は微塵もない。とりあえず目指してみようとか、目標は高い方がいい……彼の口から出た言葉の重みは、そんな風に薄っぺらく語られる夢とはかけ離れていた。

 

「……へぇ〜、世界チャンピオンかぁ」

「…なんだよその顔は。さてはお前、俺様を信用してねぇなぁ!?」

「だって、ボクには偉そうなこと言っといて、自分は不良少年の夢みたいなこと言うんだもん。しかもその変な髪型でさ〜」

「この野郎…さっきから薄々気付いてたが、さてはお前俺様の凄さを知らないんじゃ───

「じゃあ勝負しようよ!」

「し、勝負?なんだそりゃ…」

 

突然突きつけられた挑戦状。しかも相手はボクサーですらない初対面の少女。思わず面食らう男を前にして、彼女は言葉を続けた。

 

「そう、どっちが先に夢を叶えられるか!ボクは無敗で三冠、キミは世界チャンピオンってことでさ」

「フン、くだらんな。俺が世界チャンピオンになるのは夢じゃなくて決定事項なんだよ」

「ふーん…逃げるんだ。それじゃあボクの不戦勝ってことで────

「誰もやらねぇとは言ってねぇ!…仕方ねぇ、付き合ってやろうじゃねぇか」

「へへっ、そう来なくっちゃ!」

 

こんな小学生レベルの挑発に乗るわけがないと誰もが思うかも知れないが、男は思い描いた通りにあっさり了承、少女の方はしてやったりと白い歯を見せた。

 

「あっ、そろそろボク帰らないと、学校遅刻しちゃうよ。……そうだ、お互い名前聞いてなかったよね。ボクはトウカイテイオー、みんなからはテイオーって呼ばれてるんだ。キミは?」

 

一方的に勝負を仕掛けておきながら、もう帰るから名前を教えろなんて、まったく忙しないガキだ。男は内心そう愚痴をこぼしつつも、彼は立ち上がった少女に向けてゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「…鷹村守様だ。ちゃんと覚えとけよ」

 

 

 

 

───

 

 

 

あの後学園に戻り、一連の出来事を友人達に話すと、その内の数人から驚愕の声が上がった。特にボーイッシュなチームメンバーは目を輝かせ、スポーツ観戦好きのお嬢様からは「貴方知らないんですの!?」 と怒号にも似た声が噴射した。

二人に言われるままに検索エンジンを開くと、たか……と入力した時点で、既にサジェストの一番上に彼の名前があった。

 

『鷹村守 日本チャンピオン』

『鷹村守 試合』

『鷹村守 タイトルマッチ』

『鷹村守 ko』

『鷹村守 強すぎる』

『鷹村守 戦績』

 

もうこれだけ見れば調べるまでもない気もするが、さらに深堀すればするほどあの男の強さが明るみになってゆく。

 

「なになに……戦績は9戦9勝、デビュー戦から今まで全ての試合をKOで勝利、先日迎えたジュニアミドル級タイトルマッチではプロ入り初のダウンを奪われるも、それが引き金となり鷹村の豪打が爆発、結果90秒でチャンピオン矢島をマットに沈めた……」

「なっ、カッケーだろ!?俺も父ちゃんも大ファンなんだよ!」

「あまりに圧倒的な試合をするので、チャンピオンになる前から現役最強、国内に敵はいない…なんて声も出ていましたわね」

「へぇ…鷹村ってそんな強い人だったんだ」

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

 

「…そういやそんな事もあったな」

 

鷹村に勝負を挑んだボクは、宣言通りにレースで結果を出した。そしてクラシック三冠の一つ、皐月賞を制したことで、みんなの見る目は変わっていった。

それまで自分の目標を語った時、鼻で笑われたこと、好奇の目で見られたことも少なくなかった。そんな人達にに分からせてやる為────そんな安っぽい理由だけではないけど、嘲りの声は実力で静めて来た自負はある。

でも、鷹村の態度は全然変わらなかった。ちょっとからかわれる事はあっても、無名の頃からボクの夢を無謀だとは言わなかった。その理由を聞いてみたこともあったけど、「才能は案外見かけじゃ分からない」 と言うだけで、それ以上ははぐらかされてしまった。

……今更だけど、それってボクに才能がなさそうだったてことだよね。

失礼しちゃうよ全く。

 

「というかあの時なんで黙ってたの?鷹村が日本チャンピオンだって」

「フン、俺様にとっては日本チャンピオンは通過点なのよ。お前だって今更オープン戦で勝ったって、騒ぎ立てるような真似はしねぇだろ」

「ハハハ…流石だね。でもボクだって───

 

我ながらとんでもない人に勝負を挑んでしまったと思いつつも、かと言って逃げ出すつもりは毛頭ない。別にボクシングで戦う訳じゃない、これはあくまで夢を叶えられるかどうかの勝負なんだから。

 

「期待しててよ、今度の日本ダービーも絶対勝っちゃうからさ。そしたら鷹村に追いつくのも時間の問題だもんね」

「…まぁ俺様に勝つのは不可能だが、それに勝ったら認めてやるよ。鷹村守に少し近づいた…ってな」

「鷹村こそ、防衛戦近いんでしょ?世界の前にこんな所で躓かないでよね」

「当然だ。王者の強さってのを見せてやるぜ」

 

狡猾な笑みを浮かべ、勝利へ思いを馳せる鷹村。かくいうボクも、多分似たような表情をしていたと思う。それはきっと、お互いに勝つ自信があったから。夢に手が届くところまで来ていたから。

日本チャンピオンの隣で、同じ方向を見ている。それが何だか嬉しくて、誇らしかった。

 

───そのはずだったのに。

 

 

 

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