魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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連続投稿第三弾!


第十三話  出張機動六課(終結編) ~ 帰還

 アリサ・バニングスの邸宅の一角。林に囲まれたテラスの周りには幾つものバーベキューコンロが並べられ、煙と共においしそうな匂いが上がっていた。

 

 火と網の上の世話に追われる者、ひたすら食べ物をかきこむ者、それに対抗しようとする者、面白がってよそう者、肉ばかり食べて怒られる者、苦笑いで見つめている者などなど、etc・・・とにかく楽しみ方は人数の分だけ存在する。

 

「はいはい、おかわりはまだあるからがっつかないの」

 

「はぐはぐ……おー、焼肉はやっぱおいしいね~」

 

 小柄なオレンジ髪の少女が、紙皿の上に山と積まれた肉を次から次へとその口へと放り込んでいく。その頭には、人には似つかわしくない犬耳のようなものがピクピクと揺れていた。

 

 彼女の名はアルフ。フェイトの使い魔であり、彼女の家族でもある狼だ。彼女も一昔前まではフェイトとともに戦っていたのだが、フェイトが力をつけてきたため、するべきことを彼女のサポートから彼女の帰る場所を守ることへと変え引退した。

 

 本来は成人した女性体の姿なのだが、現在はフェイトへの負担を考えてエネルギー節約型のロリ体型になっている。

 

 その隣にはアルフが守るべき家族の一人、エイミィ・ハラオウンが高町家から付いてきた美由希と共にいた。彼女もアルフと同じく引退の身であり、現在はクロノ・ハラオウンの妻として二人の子供の育児に追われる身だ。

 

 彼女は親としての自覚ゆえか、それとも元来からの世話焼き気質だからか率先して供給側にまわっている。

 

「はい、飛影君や桑原君たちもどうぞ~」

 

「おお、あんがとなエイミィちゃん」

 

「オレはいら「有難く頂きます。ほら飛影、早くしないと冷めますよ?」チッ……」

 

 桑原は遠慮なくといった感じで、片っ端から肉や野菜をパクついている。飛影は、蔵馬から受け取らされた肉を静かに食べはじめた。蔵馬と彼を見ていたなのは達はそれに苦笑を零す。

 

「まあいいじゃないですか。魔界では戦いと修行、それにパトロールばっかりだったことを思えば、楽しむ時に思い切りよくするのはいい刺激になりますよ」

 

 蔵馬が諭すように言うと、飛影はフンと顔を背ける。それに横にいたアリサ達が反応した。

 

「修行にパトロールって……蔵馬さん達は妖怪の警察みたいなものなんですか?」

 

 少し意外そうな表情でフォークを口から離したすずかが、少し離れた蔵馬に尋ねる。他の面子も興味があるのか聞き耳を立てていた。

 

 ちなみに彼女たちは自己紹介で飛影たちの内情は大体把握しており、彼ら二人が妖怪であることも知っている。アリサは驚きながらも「妖怪のイメージが変わった」と感想を零し、すずかは終始微妙な顔つきをしていた。

 

 すずかの言葉に、蔵馬は「まぁ罰ゲームみたいなものですよ」と無難な答えで返す。全員が首を傾げるが、飛影は今だ剣呑極まりない目つきで睨んでいた。そこへフェイトが苦笑しながらやってくる。

 

「あはは……でも、飛影がそんなことしてたなんて初めて聞いたよ。飛影はあんまり自分のことを喋らないから……たまに聞いても『わざわざ聞かせる義理などない』って言うし」

 

「アタシも言われたけど、相変わらず予想通りすぎる反応ね。というか、コイツに親切心とか気遣いを求めるほうがまず間違ってるのよ」

 

 アリサが紙皿の肉をもしゃもしゃ咀嚼しながら、フェイトの言葉に同意する。見下されたような態度に、飛影は面白くなさそうな表情で鼻を鳴らした。

 

「フン、貴様らに理解してもらうつもりなどないといったはずだ。煮えたぎった残念な頭では、そんなことも記憶しきれなかったのか?」

 

「アンタ喧嘩売ってるのっ!? 売ってるのね!? も、もう堪忍ならないわっ! 勝負よ飛影! 今度こそとっちめてやるから、今すぐ表にでなさあああいっ!」

 

「あ、あの、ここ外ですけど……」

 

 トラのごとく咆哮するアリサに、キャロがおずおずとツッコミを入れた。このままだと、遠からずバトルが始まる。エリオが顔を引きつらせながら、話題転換のために努めて大きな声を出した。

 

「ぼ、僕はお風呂でいろいろ聞きましたよ! 蔵馬さんが会社で結構重役らしいこととか、皆さんのリーダーだった方が今魔界で王様になってることとか、和真さんがもう結婚してて子供もいることとか!」

 

「へぇ~そうなの、楽しそうで羨ましいわ。それにしても驚きね、和真さんに子供がいたなん―――――」

 

 にこやかに返そうとしたシャマルの笑顔がその途中でピキッと固まった。なのは達を始めとして、はやてやヴォルケンリッターの全員、フォワード四人やアリサ達地球陣営も一様にエリオの方を向いて眼をカッ開き、その場が一瞬にして彫刻展と化す。無事なのは、僅かに驚きながらも「あ、私とおんなじだね~」と笑っているエイミィと、「そうなんですかぁ」と目を輝かせているキャロだけであった。

 

 そんな言いようの無い空気と、乙女達から溢れる重圧にエリオは気圧される。そして、とにかく安全を確保しようと一歩下がろうとして、

 

 

「「「「「「どぉぅえええええええええっ!?」」」」」」

 

 

 一歩どころか、十メートルは吹き飛ばされそうな突風がエリオを襲った。物理作用すら感じさせる勢いを全員から受け、エリオはたじたじになりながら後退する。今なら、近くでニトログリセリンを詰めた大樽が爆発したと聞いても、きっと驚かない。

 

 次に渦中の人物である桑原に視線が集中した。そして真偽のほどを問い、それが間違いでないことを知ると、全員がさらに大きな反応と声を上げる。

 

 なのはとフェイトが顔を見合わせた。

 

「お、驚きの事実発覚だね・・・確かにエリオ達の扱いが上手いとは思ってたけど、ホントに子供がいたんだ……」

 

「で、でもエイミィも結婚してるし、別に不思議じゃない、よ……?」

 

「テスタロッサ、そこで疑問系になるのは何故だ?」

 

 シグナムが半眼で彼女に突っ込む。だがそれは言った彼女を含め、一同の総意であるのは確定事項であった。そもそも桑原の性格や容姿を鑑みて一番に来るのが「何故!?」という疑問符以外にありえただろうか。いや、ありえない(反語)。

 

「この男性陣で唯一……意外や、意外すぎる」

 

「ど、どんな人なのかしら……」

 

「コイツと吊り合うようなヤツだからなー。いろいろ落書きが多いデカイバイクとかに乗りながらサラシ巻いてて、特攻服と木刀をいつも持ってる感じじゃねぇか?」

 

「もしくは制服にバッテンマスク、赤毛にそばかすにロングスカートというのもアリです!」

 

「す、すごく想像できるところが恐ろしいですね……」

 

「でもでも! すごい大穴で、アイスっぽいクールビューティーな人だったりして!?」

 

「アイスってクールビューティーなの? エリオくん?」

 

「さ、さあ……?」

 

「でも、ヴィータの言葉ももっともね。想像できる範囲がかなり限定されてきちゃうもの。すずかはどう思う?」

 

「あ、あはは…………ノーコメントで」

 

「あたしも。蔵馬とかなら分かるけどねぇ……」

 

「う、羨ましいッ……」

 

「いいな~……」

 

「でも、意外と可愛い子だったりするかも?」

 

 ひどい言われようだった。普段、彼がどんな目で見られているのかがありありと分かる。

 

 因みに上からはやて、シャマル、ヴィータ、リィン、ティアナ、スバル、キャロ、エリオ、アリサ、すずか、アルフ、シャーリー、美由希、エイミィである。

 

「テメェら、揃いも揃って同じ反応とはどういう事だァ! それとチビッ子ども! 雪菜さんはそんなイカツイなりしてねぇぞ!」

 

「誰がチビッ子だッ/ですかっ!」

 

 桑原が激昂する傍ら、無自覚に喧嘩を売られたヴィータとリィンがヒートアップする。仕舞いには、

 

「雪菜さんは俺の天使だ! バカにするのは許さねぇぞ!」

 

 とまで言い出す始末だ。その脇では飛影が静かに不機嫌になっていた。

 

「て、天使かぁ……き、きっとすごい綺麗な人なんだろうね……あ、会ってみたいなぁ……(やっぱり派手な人かなぁ……)」

 

「そ、そうやな~、興味はあるで……(きっと、たで喰う虫も好き好きってヤツやな)」

 

 なのは達は顔の端を引きつらせながら、必死に笑顔を見せる。その裏ではかなりひどいことを言っているが、実に現実的であった。というか、容姿もなにも分からない相手なのだ、抽象的かつ主観的な言葉で推測できるわけがない。

 

 だが、実際の方向性は異なるが、スバルとエイミィの言ったことが最も近かった。そして、彼の言葉が彼女らの予想を根底からぶち壊すほど正しいものであることを知るのは、もう少し後になる。

 

 そんな感じで夜は更けていく。夕食が終わるころには、大量に用意したはずの肉や野菜は全てからっぽになっていた。

 

 明らかにこの人数にしては多すぎるはずだったが、スバルやエリオ、それに和真など、かなりの食い扶持を持つものがいたので、バランス的にはちょうどよかったのだ。買いすぎたのも幸いと言える。

 

「お~い、機動六課全員集合や~!」 

 

 そこへはやてが皆へと号令をかけた。本日は無礼講とのことだが、仮にも部隊長なので何事かと思いながらぞろぞろとやってくる。そこで彼女は全員の寝床がアリサたちによって用意されたことを説明した。

 

「朝七時半にここに集合、そのあと出立する。帰ったらまた訓練と仕事を再開するから、今日一日はしっかり休んどき。各自あまり羽目を外し過ぎないようにな。じゃ、解散!」

 

 彼女の言葉には~いと遠足ばりの返事が響き、スバル達は方々に散っていく。はやて達はそれを見届けながら苦笑し、テーブルに座りなおす。どうやら明日からの予定やらなんやらを決定するために、簡易的な会議をここでするらしい。

 

「ごめんな~、二人は提供者なのに片付け任せてしもうて……」

 

 はやてやなのはが申し訳なさそうに言ったのに対し、アリサとすずかの二人は気にしないでと笑顔で答える。

 

 すると、片付けを始めるのを見た蔵馬と桑原が手伝いを申し出た。驚くことに飛影も加わってくれるのだという。二人は一度断ったのだが、再三の進言を受けたのと提案自体が有難い限りであったことも手伝い、苦笑しながら受諾した。

 

 別荘の持ち主であるアリサと勝手知ったるなんとやらのすずかは的確に指示をだし、見る見るうちにテーブルが片付けられていった。

 

 そして片付けも佳境に入る。出たゴミをまとめると、アリサはそれを飛影に手渡した。どうやら捨てて来いということらしい。

 

 非常に気に入らないが世話になったのは確かだ。鼻を鳴らした飛影がそれを受け取って歩き出そうとしたとき、すずかが駆けてきた。

 

「あ、私も行きます。飛影さんだけじゃ、場所が分からないと思いますから」

 

「……ああ」

 

 と、意外にも一度で承諾し、ドでかいゴミ袋を肩に担いだ飛影の横にすずかが並んだ。そのまま二人して離れたごみ置き場まで歩いていく。会話はなかったが、すずかは時折飛影のほうへ視線をやりながら気にするような仕草を見せていた。

 

 そしてすずかに案内されるまま、大きめの倉庫のような場所に辿り着く。その中にある金属製の大きな箱に、飛影は自分ほどもあるゴミ袋をぽいとぶん投げた。

 

 ドスンという音と共に、袋が積まれた山の中心に着陸する。すずかは驚きながらも、笑顔を向けた。

 

「わぁ、すごいですね。あの大きさのゴミをあんなに簡単に、それも正確に投げちゃうなんて。ふふ、アリサちゃんが見たら悔しがるかもしれません」

 

「……フン、見え透いた世辞はよせ。あの程度貴様でも軽くできるだろう。錆びついているとはいえ、その『血』の力は完全には消えていないはずだからな」

 

「……え…………!?」

 

 すずかの顔から笑顔が消えた。表情をなくして顔を青くするが、どこかでそれを予想していたようにも見える。それを見て飛影は口の端をニヤリと吊り上げた。

 

「気づかれていないとでも思っていたのか? こちらに気づいておいて、自分はそうでないなどありえん。平和ボケしている高町達ならともかく、オレ達は全員が初見で気がついている。蔵馬は匂い、桑原は持ち前の霊感、オレは僅かにもれる妖気からな。貴様は、いや貴様の血筋には――」

 

「――――はい。貴方達と同じ世界の住人……魔界に住む妖怪がいました。吸血鬼と呼ばれる種族です」

 

 そこで黙っていた彼女が口を開いた。その顔には先ほどまでの親しみは消え、不安と焦燥が取って代わっている。だが、これは飛影達にとっても重要なファクターだ。

 

 つまりはこの世界にかつて妖怪が来たということである。「情報としてはあまり残っていないんですけどね」というすずかに、すぐため息を吐くことになったが。当てが外れたことに、飛影は興味を失ったように肩を竦め、彼女に向けて口を開いた。

 

「その身体に流れる力から見るに、その吸血鬼はB級クラスの妖怪といったところか。だが、血はかなり薄れている。もはや元の妖怪としての強さは発揮できんだろう。もっとも、この世界で強さはそれほど必要なく、貴様は既に折り合いをつけているようだがな。俺には関係のないことだが」

 

 言いたいことはそれで全てだったらしく、飛影はゴミ倉庫に背を向けて歩き出す。もう用はない、とでも言いそうな感じだ。彼の反応にすずかは驚いたような顔をしたあと、たまらなくなって声を上げた。

 

「あ、あの……」

 

「心配せんでも貴様のことは誰にも言わん。それは蔵馬や桑原もそれはわかって「い、いえそうじゃなくて!」む?」

 

 飛影の言葉をより強い口調ですずかが遮る。その目には既に不安はなかったが、強い戸惑いが浮かんでいた。

 

「なんで、秘密にしてくれるんですか?そんなことをしても、貴方にはメリットなんて何もないはずなのに……」

 

 そこまで言って彼女は黙ってしまった。確かにこれはかなり重要な話だ。その扱い方如何では月村家を自由にできるだろうし、その気になれば破滅させることもできる。

 

 妖怪は基本的に無慈悲、そして自分の思うがままに行動するものだと教えられてきたすずかにとって、飛影や蔵馬の反応は予想外だった。しかし、飛影はそんな彼女の心のうちを見抜いたのか、溜息を吐きながら目を向ける。

 

「言ったはずだ、オレはそんなものに興味はない。高々人間の小娘の弱みなど何の得にもならんからな。秘密にしたければそうして、虐げられたいのなら勝手に触れ回れ。どうなろうと、オレは知らん」

 

 冷静かつ冷たい口調で言いたいことを言うと、飛影は今度こそ背を向けた。すずかの秘密など完全に眼中にないのか、その背中は付き合ってられんと語っている。

 

 だが、すずかは言葉の中に確かな優しさを感じていた。

 

(飛影さん……なのはちゃんの言ったとおりの人だったよ)

 

 飛影は嘘を吐いているわけではないのだろう。興味がないというのも真実で、それで彼女がどうなろうが知ったことではないというのも本当だと思う。

 

 しかし興味がなくとも、人の弱みを握ったとき悪意がある者がどんな行動にでるかなど、それこそ子供でもわかる。容赦などない、果てない地獄がぽっかりと口を空けているのに堕ちていくだけだ。

 

 知られたときはもう終わったと思った。この生活もこの平穏も友との関係も。飛影をここへ案内する役を買って出たのも、薄々気づいているだろうと思っていた彼にその確証を取り、可能なら交渉するつもりだったのだ。どれだけ犠牲を払っても、守りたかったから。

 

 しかし、それは思いもよらぬ方向で打ち砕かれることとなった。すずかが知りうる中で最も不可解かつ、最も好ましい終わり方で。そしてそのことは彼女のなかに火を灯させた。

 

 なのはやフェイトなどのことは元より、いつも一緒にいる親友も久々に張り合える相手を見つけたようで、とても活き活きとしていた。本人は気づいているか分からないが、それをふまえてもゆっくりしている暇はないのかもしれない。

 

「ふふ……ごめんね、なのはちゃん、フェイトちゃん。応援はできない……かも」

 

 去っていく飛影の後ろ姿を見ながら、すずかはその隣へと駆け出した。近しい存在というだけでなく、もっと近くなりたいという願いを込めて。

 

 

 

 -Side change Next day-

 

 

 

「よっしゃ、全員忘れ物はないなー?」

 

「「「「はいっ!」」」」 

 

 翌日、よく晴れた朝の七時半。園児の遠足点呼のようなノリにもしっかりと答えるフォワード陣。飛影たちは呆れたように息を吐いていた。すずかやアルフも苦笑気味に眺めている。

 

「さ、帰ったら仕事と訓練が待ってるよ。前より少しハードにするからみんな頑張っていこうね!」

 

「な、なのは……容赦ないね……」

 

「流石、鬼教官って呼ばれてるだけあんな~……あと魔王とか」

 

 美由希と桑原が少し引いている。なのはは笑顔で「……和真くん、後で『お話』しようか」とか言っているが、桑原が青い顔をして首を横に振っていた。まだ出会って一週間程度でも、なのは(ダーク仕様)の怖さは身にしみている和真である。

 

「まあ、しっかりやんなさいよ。でも、仕事が片付いたらちゃんと報告に来なさいよね!」

 

「うん、わかったよアリサ」

 

 フェイトが必ず来る、と深い笑顔を見せる。その表情を見たアリサがうんと頷いた。ヴォルケンリッターの騎士達、はやてやシャーリーもそろそろと近寄ってくる。

 

 それと同時に別荘に続く森の端に魔法陣が現れた。出立のときが来たのだ。

 

 五メートルほどの転送陣に全員が乗る。大きさからすれば人数は少し多かったが、何とかその中に納まった。

 

「ほんじゃ、協力してくれてホンマありがとうな」

 

 はやてが陣のなかから礼を言うと、アリサが「水臭いわね」と恥ずかしそうに言いながらも一番の笑顔を見せた。頼られたことと、また旧来の友に会えたことが嬉しかったのだろう。それを見たとすずかは彼女に微笑ましい笑顔を向けた後、陣の外側に近寄った。

 

「飛影さん、これを」

 

「む?」

 

 訝しげに眉を寄せる飛影の前に白い布が差し出された。それは飛影の首元に巻かれたものと同じような、シルクで出来たスカーフ。それが赤いリボンで纏められている。ただ、そのきめ細かい編目と滑らかな手触りは、それがかなりの高級品であることを強く誇示していた。

 

「何のつもりだ?」

 

 目の前に綺麗に畳まれた布を受け取ることもせず、飛影はすずかに視線をやった。だが、探るような目つきにも彼女は笑顔を途切れさせず、差し出したものも下げない。訝し気に睨む飛影に、すずかは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「ささやかな……相談に乗ってもらった私個人のお礼です。気に入らなければ捨ててもらっても構いません。けれど、今このときだけは受け取ってくれませんか? どうかお願いします」

 

「……チッ」

 

 あの時の会話は相談ということになっているらしい。視線を逸らさず真っ直ぐに見つめてくるすずかに、飛影は舌打ちしつつも差し出されたスカーフを乱暴に受け取る。横にいたアリサが呆れたように息を吐いた。

 

「もう少し嬉しそうにしなさいよ、まったく…………それと意外だけど、私も結構楽しかったからお礼言っとくわ。また私に会いに来たくなったら、特別に来させてあげてもいいわよ」

 

「安心しろ。天地が引っくり返っても絶対にありえん」

 

「ア、アンタはまたぁああああ!」

 

 冷めたように半眼になる飛影に、アリサが顔をさらに真っ赤にして吠え掛かる。事実、この二日間での言い争いの回数は軽く二桁に届くので、はやてや蔵馬は微笑ましい表情で二人を見つめていた。

 

 なのはやフェイト達は二人の行動を彼女たちの優しさと気遣いととるべきか、それとも別の要因ととるべきか考え、微妙な表情をしていた。

 

「ともかく終わったようやな、ほないくで!」

 

 魔法陣が起動し、青と緑の中間のような光を放ち始める。しばらくは彼女たちともお別れだ。なのは達は親友との別れを、フォワード四人は、優しくしてくれた地球の人たちともっと親しくなりたかったな、と残念そうな色を見せている。

 

「「「「お世話になりました!」」」」

 

 光が満ちていく。魔法の発動はもうすぐだ。始まれば一瞬で彼女らを魔法世界の住人へと戻すだろう。

 

 だが、陣の光が極大に差しかかろうとしたとき、その傍へと走りこんだ人影があった。紫がかった美しい長髪を棚引かせ、普段からは考えもつかない勢いで近寄ったのは、

 

「「「すずか(ちゃん)?」」」

 

 先ほどのプレゼント発起人であった。誰もがお淑やかな彼女からは想像だにしなかった行動に目を剥いて驚く。そして周囲を置き去りにしながら、彼女は輝く陣の光に照らされた飛影に腰を屈めて近寄り、

 

 

 

 

 

「一つ……忘れていました……ん……っ……」

 

 

 

 

 

 彼の額に唇をそっと触れさせた。

 

「っ…………!?」

 

『な…………ななな、なあ――――――――――っ!?』

 

 一瞬のことに飛影は目を見開いて言葉を失い、機動六課のほぼ全員が悲鳴を上げる。ただし各々でその性質は違うようだったが。すずかは整った顔を真っ赤に染めながら、飛影に向かって少しばかり悪戯っぽい笑顔で微笑んだ。

 

「秘密のお礼、です……」

 

 言葉とともに彼女は離れていく。そして同時に魔法陣が完全発動した。一瞬にして全員の姿が消え、別荘の庭に静寂が戻る。

 

 光がいまだ残滓の糸を紡ぐ中、すずかは空を見上げた。今までの自分から考えれば、今の行動は恥ずかしいなんてものではなかったが、後悔の念は湧いてこない。

 

(当分は会えないんだし……い、いいよね?)

 

 自分にしてはやりすぎたかなと少し思いながら、いまだ赤い顔ですずかはくすっと笑った。

 

 もしこのまま別れてしまえば、自分は取るに足らない他人としてでしか彼の中には残らないだろう。だからこそ、忘れられない印象を付けようと思っていたのだが、やりすぎだったかもしれない。

 

 本当を言うと最後のは予定にはなかった。何故か消えていく彼を見たら、胸が切なく高鳴って、気が付いたら駆け寄ってキスしていたのだ。

 

「また……会えますよね」

 

 鳥が高く飛ぶ空から名残惜しげに視線を水平に戻す。

 

 さて、やることは一つだ。まずは、傍で固まっている親友を解凍することから始めなくては。

 

 

 

 

 風を切る音を放ちながら、空気が脈動する。そして一瞬強い光を放ったかと思うと転送ポートが設置された空間が揺らぎ、次の瞬間には機動六課の面々が連なっていた。転送空間の外側に待機していたヴァイスがようやくの帰還に待合ベンチから腰を上げる。

 

「隊長達、それに姐さんらもお疲れ様だ! つっても俺達と同じでそっちも休暇っぽくなってたみたいですけど、手配されてた仕事はちゃんと仕上げておきましたぜ。それにしてもいいなあ、俺も地球で観光とかをのんびりまったりと楽しみたかっ……って、どうしたんスか、ぼうっとして?」

 

 いつもより反応の薄いことにヴァイスは「むぅ?」と首を傾げる。その中でいち早く反応したのは苦笑した蔵馬だった。

 

「ちょっとしたサプライズがあったんだよ。驚きすぎて皆状況が整理し切れていないみたいだけど、しばらくすれば元に戻ると思うから安心していい。かくいう俺もかなり驚いたけどね」

 

「ふーん? まあ、蔵馬さんがそう言うなら……」

 

 それだけ言うと蔵馬は仕事がありますので、とその場を後にする。余人には分からないが、アレは彼の十八番だ。完全なる緊急回避である。

 

 その数分後、予想通りなのは達が覚醒して鬼の形相で飛影を問い詰めた。その得体の知れない気迫に、何故か気圧された飛影はそこから機動六課宿舎へと逃げ出し、宿舎につくまで転移や攻撃魔法まで使った追いかけっこが行われたのは完全な蛇足であろう。

 

 

 

 

 




これでひとまず打ち止めです。

ありがとうございました!

評価等、よろしくお願いいたします。

誤字脱字等ありましたら報告してくださるとありがたいです。

それでは再見(ツァイツェン)!!
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