魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師 作:コエンマ
今回は、二ヶ月ぶりにこちらの方を更新してみました。いくらエンディングに悩んでるからってあまり放置もいただけませんし。
というわけで、既出のもので悪いですが、どうぞー!
「ガジェット反応です!機影特定、陸戦Ⅰ型三十五、空戦Ⅱ型六十七、陸戦三型四機を確認しました!皆さん、お気をつけて!」
任務開始から二時間弱。ロングアーチから、シャーリーの声が全員に通達された。ついに敵が出現したのだ。
しかし想定外のこともあった。ガジェットが襲ってくることは作戦のうちだったが、存外に数が多いのだ。しかも陸戦ではなく空戦型、これは少しよろしくない。
「うっひゃー、空に浮いてんの全部ガジェットかよ。堅気もいるってのに、テメェには全く関係ないってか?」
クラールヴィントのセンサーより早く敵を感知していた桑原が唸る。横にいるシャマルは、空から迫り来る数多の黒点が序序に大きさを増すことに歯噛みしながら、桑原に答えた。
「考えたくはないですけど、おそらくそういうことでしょうね。こんなものを次から次へと投入してくるような相手ですから」
「やりたい放題ってわけかよ。気に喰わねぇな……」
桑原が怒気を滲ませた顔で空を睨む。彼の中の霊気は今にも外に流れ出そうなほどの高まりを見せていた。流石に飛影ほどの威圧感は感じないものの、曲がりなりにもはやての守護騎士であるシャマルを一歩下がらせ、身を強張らせるほどのものだ。その力を向けられていないのにも関わらずである。
(これが霊気……人の持つ新しい可能性……)
シャマルは自分達のもつ魔力とは違う力の放出に、不思議な感覚を覚えた。飛影や蔵馬の妖気もさることながら、彼の霊気も魔力と比べるとかなり異質なことが分かる。
確か霊剣と言っていただろうか。ガジェットを一撃の下に切り伏せた、フェイトのザンバーと似た色を放つ光の剣。AMF効果領域でも全く問題なく使えることから、魔力と霊気はエネルギーとして根本的な違いがあるのだろう。気を刃状にしただけだと聞いたが、その威力は試してみずとも明らかだ。
彼ら曰く、霊気とは人間の肉体に宿る精神エネルギーが、オーラと呼ばれる形を伴い力となって現れたものらしい。もしかすると、この世界にも霊気を扱える人間がいる可能性がある。魔法が浸透し切っているからなんとも言えないが。
「シャマルちゃん、聞いてっか?」
「え、あ。な、なんですか?」
いきなり声をかけられたことに少々慌てるが、それを押し隠して尋ね返す。ちゃんづけという『少女』扱いに密かな喜びを覚えたのは乙女の秘密だ。「あの人も呼んでくれないかしら」、という妄想は戦闘中ゆえ即座に打ち消す。いつの間にか近くに寄っていた桑原は、首をかしげながらも空に指をさした。
「? ま、いいや。それよか頼みがあんだけどよ、ちょっくら掃除すっから、シグナムちゃんとヴィータちゃんを下がらせてくれねぇか。ちっと邪魔だし、スバル達の応援にゃ丁度いいだろ」
「掃除?それに下がらせろって……シグナム達を下げたら、空の防衛線に穴が空いてしまいますよ。何をするつもりなんですか、和真さんのスタイルは近接戦闘なんじゃ……?」
怪訝な表情をするシャマルに桑原は「いいから任せとけ」と少し強めに言う。意図は掴めなかったが、何かしら考えがあるのだろう。シャマルは空で縦横無尽に戦う二人に念話を飛ばした。
最初は何を考えているつもりだと返答が来たが、和真に何か考えがあることを伝えると、渋々ガジェットから離れた。ヴィータは尚も何か言い足らなそうだったが、シグナムに引かれ地上へと降りてくる。ガジェットがその後ろについてくるのを見て桑原は構えを取った。
「味方は引いたな。数は、ひい、ふう、みい……ヴィータちゃん達が減らしたからあと四十機ってとこか。っしゃ、久しぶりに試してみるぜぇ―――――おうりゃああああッ!」
桑原が右手に力を込めると、光り輝く黄金色の剣が現れる。だが、いつもと違うのはその剣が出現したと同時に巨大化を始めたことだ。
膨大な霊気をその身に宿し、どんどんとその大きさを増していく。まるで大木の成長を早回ししたかのような光景にシャマルは目を見開いた。
「うし、こんなもんか」
桑原の軽い口調が響く。数秒後、剣はゆうに百メートルはあろうかという大きさにまでなっていた。
ここまでくると剣というよりもはや聳え立つ壁だ。そして桑原がその剣を持ち上げる。霊気で作ったからか重さはさほどでもないらしい。
剣の所々からバチバチッと青白い火花が迸る。そこで漸くガジェットの射程距離に入ったのか、空から一斉に光が降り注いできた。
「極大霊光剣――――……」
レーザーが対象を焼き切らんと迫ってくる。桑原はそれを睨み据えると、両手で垂直に伸びた剣をバッターの要領で構え、
「一気、倒千―――ッ!」
力任せに振り抜いた。空に光が一筋走り、数多のレーザー光ごとガジェットを飲み込んでいく。次の瞬間、まるで花火が打ちあがったかのような火線が空を煌き、辺りは爆音で包まれた。そして光が収まった後にガジェットⅡ型は影も形もない。文字通り桑原の『一薙ぎ』により一掃されたのである。
彼は霊気を曲げたり結んだりくっつけたり、はたまた飛ばしたりと、その扱いがいちいち非常識だ。本当のことを言えば伸縮などのほうが得意だが、今の彼の霊力は人間界で最強であるからして、この程度の霊力行使では息切れ一つ起こさない。
霊気の密度が霊剣より数段低いとはいえ、これほどの力技を可能とした理由はそこにあった。
「又の名をミスターフルスイング剣だ。フッ、どうでい」
呆気にとられるヴィータやシグナム、そして硬直したシャマルを尻目に、桑原は胸を張ってピースサインを決めていた。
-Side Hotel-
オークション会場の中で、なのは達は戦闘状況下にある外の様子をトレースしていた。彼女らの前に展開された空間スクリーンには、得意げにピースサインを見せる桑原が映っている。その後ろでは、引きつった笑みを見せたシャマルが遠慮がちに彼と同じポーズを決めていた。
なのは達と同じ画面を見ていた飛影が溜息を吐く。呆れた、とでも言いたげな表情だった。
「相変わらず非常識なヤツめ。竹を割ったような力技に何を偉そうにしているんだ」
「しかし、あの数相手なら霊気の消費効率から言ってもメリットの方が大きい。それに以前霊気の密度次第で威力を抑えることもできると言っていたし、一対一を主とする彼にとっては貴重かもしれないな。使い勝手もさほど悪くないですよ。本当、桑原くんらしい技だ」
蔵馬は苦笑いを零しつつも、冷静に技についての考察を述べた。だが、その後ろにいるなのは達は完全に固まっていた。二人の会話に口を挟む余裕などなかったのだ。
それはあまりにも圧倒的な光景だった。あれだけのガジェットをたった一撃で、それも無造作に倒してしまったのだ。
呆気にとられたどころの話ではない。魔法を以ってしてもアレだけの威力のものは数えるほどしかないし、普通の魔導師が魔力であの『剣』を作ろうとすれば、数十分の一に達せずして気をやってしまうだろう。Sランクオーバーの魔導師ですら、十分の一を作れるか怪しいものだ。
(フェ、フェイトちゃん……)
(う、うん。飛影がすごいのは知ってたけど、和真もこんなに強かったなんて……蔵馬も同じなのかな?)
(し、信じられへん……霊気とか妖気はまだよく知らんけど、あんだけの力放出して全く堪えてないなんて、底が見えないどこの話やないやないか……和真くんは人間っていうけど、飛影くん達と同じで、私らの常識を軽く超えていきよるな……)
彼らの規格外さを三人は改めて認識する。そして彼らが敵でなかったことに心から安堵した。どれほどの力を秘めているかは分からないが、敵対するのは死んでも御免だ。
「……やれやれ」
すると、飛影が突然椅子から立ち上がり、扉のほうへ向かった。
「飛影、どちらへ?」
「屋上だ。そこから先は勝手にさせてもらうがな。こんな茶番に付き合ってられるか」
「え!? ちょ、飛影く――」
はやての言葉を聞き終わる前に、飛影は自動ドアを潜ってその向こうへと姿を消した。浮き上がりかけた腰を落とし、空中に彷徨ったままの手を膝の上へ落とす。そして同時に深い溜息を吐いた。
「ホンマに勝手されちゃ、たまらんのやけどなぁ……」
「は、はやて、ファイト!」
「そ、そうだよ。それに飛影くんだって、何か思うところがあったのかもしれないし!?」
無責任な励ましとポジティブシンキングを放ってくる親友二人。はやての目が半眼になってジトッとした色を帯びた。
「思うところぉ?二人とも勝手なこといいよってからに、ホンマにそう思ってるんか? あの捻くれもんが? 責任とってもらうで」
「「そ、そんなぁ!?」」
涙目で悲鳴を上げる二人。言葉はともかくとして、始末書を書くのが嫌なのは誰でも同じである。蔵馬は飛影が去っていった扉のほうを見つめた。
(なのはちゃんの考えは当たっているかもしれないな。彼が何の意味もなく出て行くとは考えづらい。何かが『視えた』のか?)
邪眼の力なのか、力の乱れを感じたのかは分からないが、飛影の後ろ姿を見ながら蔵馬は一人思う。しかしその予想そのものは的を射ていていたが、後に起こる新人と教導官の諍いの原因にまでなってしまうことまでは、聡明な彼とて全く予想できはしなかった。
-Side change-
風を棚引かせ、飛影は森の中を駆ける。服装はいつものコート姿に戻っていた。
常人には目で追うことすら出来ないほどのスピードで彼は森のある地点を目指す。そしてその表情は先ほどより少し険が入っていた。原因はそこら中に現れている目障りな銀色の虫である。
「邪魔だ」
観察するように周りを飛び回っているのに舌打ちし、機械じみた甲殻を残らず切って捨てていく。刃の軌跡すら残さない洗練された太刀筋は、数十の虫を一瞬にしてバラバラに切り裂いた。
その残骸には目も留めず、飛影はひた走る。森の木々や茂みが覆い重なった奥底、通常では形すら捉えられない『少女』を飛影は捉えていたのだ。
ホテルに飛んでいった黒い影も把握しているが、大したことではないと無視した。リストに興味の引くものはなかったため、何を盗まれようが自分の知ったことではない。
見えたのは淡い紫の髪と額にある特徴的な紋様を持った、キャロと同じぐらいの少女。虫を召喚するのも邪眼で確認している。ほぼ術者であることに相違なかった。
敵を潰すには頭、非常に単純だが的確な行動である。しかし、飛影が行こうとしたその先で新人FW四人が防衛線を維持していた。全員が迫り来るガジェットに対して迎撃をかけている。別に大した興味も抱かずそのまま通り過ぎようとしたとき、不意に見上げた空に飛影は僅かに目を見開いた。
「チッ!」
舌打ちと同時に地を蹴って飛びながら剣を構え、飛んでいく光の弾に追いつくと、正面からそれに向けて振りぬいた。光弾は飛影の身体に当たる寸前で四つに弾け、後方へと乱れ飛ぶ。それらは流れた先にいた四機のガジェットを貫き、轟音と共に爆発した。
飛影は身体を捻りながら、展開されていたウイングロードに着地する。そして、剣を二、三度ほど振って鞘に納めると、背後に向かって一瞥した。
そこにいたのは、目を見開いて硬直するスバルだ。だが、今見るべきは彼女ではない。飛影は苛立ちと呆れを滲ませた声色を隠そうともせず、そのまま眼下を見下ろした。
「何を遊んでいる? 確実に仕留められんのなら出しゃばって余計なことをするな、ティアナ・ランスター」
-Side Teana Runstar-
「何を遊んでいる? 確実に仕留められんのなら出しゃばって余計なことをするな、ティアナ・ランスター」
飛影さんの言葉で私は我に帰った。表情は蔑むような色が込められている。そして、その後ろには呆然とした顔の相棒の姿も見えた。戸惑いと不安が入り混じったその表情を見て私の胸は締め付けられるように痛む。
それを見たのは初めてではない。そんな顔をしたアイツを私は何度も叱ってきた。
下らないことでいちいちメソメソするんじゃないわよ。
落ち込むぐらいならしっかり鍛錬に励みなさい。
アンタのお守りは御免だけど置いていくのも気分が悪いわ。
幾度となく私が放ったセリフ、そして愚痴っていても怒鳴っていても、いつもアイツはそれに微笑むのだ。
えへへ―――ありがとう、ティア。
だが、今回は違っていた。その表情を向けられているのは私という点だけが。
「貴様らは下がれ。これ以上やっても時間の無駄だ」
吐き捨てるように彼が言う。表情には何も浮かんではいない。ただ淡々とした口調で彼に戦力外通告を下されても、私は何も言い返せなかった。私を見たスバルが、慌てて飛影に詰め寄っていく。
「あ、あの飛影さん、今のもコンビネーションの一つで……それにティアも頑張ったし、ミスは誰にでも……」
「愚にも付かんフォローはやめろ。貴様は既に今日二度死んでいる。万が一今のを避けれたとしても、横のガジェットにその身を撃ち抜かれていた。奴の誤射がそれほどに致命的だったのは、貴様が一番よく分かっているはずだ。それとも、貴様は後ろから撃たれても平気で笑っていられるような死にたがりか?」
うっ、とスバルが声を飲み込む。言葉は乱暴だが事実その通りだった。直撃したら怪我ではすまなかったことは明白、そしてかわしたあとの無防備な身体をガジェットが見逃してくれるとも思えない。
「偉そうな台詞は一度死に際に至るまで修行して、自分の力量を自覚してからにするんだな。覚悟もなく、力もなく、ただ勝手な理屈で動いたせいで起き得た可能性を棚上げした挙句、頑張っただと?自分の後始末もできんようなガキの戯言は他所でやれ」
それだけ言って飛影さんは踵を返した。もはや私たちのことなど眼中にないのか、その足取りには何の未練もない。
だが、それに対して怒りが湧き上がる。
確かに無視できないミスだったけれど、私だって好きで誤射したわけじゃない。私なりに考え、チームの為を思っての行動だった。慰めて欲しかったなんてことはない。スバルを助けてもらったことには感謝しているし、あの場面でスバルを救うことなど彼になら造作もなかったのは確かだ。
だが、だからこそ悔しかった。力がなければ何もできない、それはわかっている。だから努力してきたのだ。人の何倍も、できなければかなりの無茶までして。しかし届かなかった、私はまだ届いてなどいなかったのだ。
「くっ……」
胸の奥から嫌な感じが湧き出てくる。黒く淀んだ、私がもっとも嫌うもの。
それは痛みだった。自分の存在を、いや自分そのものを否定されたみたいで、大声で喚き散らしたくなる。この痛みは、六課にいる誰よりもよくわかっているつもりだ。力があれば、少なくとも大切なものが潰されることはない。
だって力があれば、『お兄ちゃん』は……、
「……かる、も…ですか……」
「ティア?」
スバルが心配そうに近寄る。だがそれに気を払うこともできず私は拳を血が滲みそうなほど握り締めた。知らずに口を突くのは怨嗟の言葉。みすぼらしい、情けないと思っても、一度あふれ出した言葉は留まらず、涙と共に流れていく。
唇を噛み締めてなんとか抑えようとする。だが、一度堰をきった流れは止めることなどできなかった。それがこれ以上ないほど醜い、ただの八つ当たりだと分かっていても。
「あ、貴方に……力がある貴方になんかわかるもんですか……ただの凡人で無力ばかり感じさせられる私の……たったひとつの守りたいものすら守れなかった、私の気持ち、なんて……っ……」
「ティア……」
スバルが顔を俯かせて私から離れていった。私は木に頭を押し付けるようにして慟哭を零す。頬を伝った涙は少し苦味を帯びていた。
-Side out-
第十五話でした。
現在こちらの炎殺の邪眼師は更新というか執筆停止中でありますが、ストックが残っておりましたので投稿と相成りました。
エンディングが悩むんですよ……基本的に続く!って感じのまとめ方は得意なんですが、終わらせるとなるとそれなりにかっこよくなきゃならないので……二ヶ月経っても絶賛悩み中です。
現在は筆休め作品であります『真剣で私に恋しなさいZ』の方を書いております。現在第6話を書いておりますがこれが結構難産でして、現時点での完成率は約四割といったところです。お暇でしたらこちらもぜひ。
それではまた次回にて!