魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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第十九話  激突 ~ 進む心と臆する心

 

 

 

「ティ、ティアナの奴、一体何しやがったんだ……!?」

 

 ヴィータが目を大きく開きながら声を震わせた。キャロやエリオ、そして後ろに控えていたフェイトすら声も出せずになのは達を見つめている。スバルも親友を呆然と眺めていた。

 

 スバルとティアナの無茶な戦闘行動、そしてそれに対して怒ったなのは。二人とはいえまだ未熟であるスバル達にどうにかされるはずもなく、この戦いはなのはの魔力弾で決着がつくはずだった。

 

 だが、ティアナが予期せぬ力を見せたのだ。彼女が指を向けて構えをとった瞬間、見たこともない光がその指先より撃ち出され、訓練用とはいえ、なのはの魔力弾を真正面から撃ち抜いたのである。

 

 だが、混乱を導く一番の要因はそれではない。

 

「ま、魔法じゃ、ない……?」

 

 エリオが食い入るように目を凝らした。視線の先には肩で息をするティアナの姿がある。

 

 彼女の足元には、煤汚れたクロスミラージュがいまだ転がっていた。そのことがヴィータ達をさらに混乱させる。

 

 魔法とは科学と理論に基づくものだ。いくら根幹は術者本人のものとはいえ、半分はデバイスが支えている。確かになのはやフェイトのような卓越した魔導師であれば、デバイスが手元になかったり、リリース状態であっても中程度までの魔法なら使うことができよう。

 

 だが、ティアナはまだ駆け出しのBランク魔導師。しかも魔導師の命ともいえるデバイスから身を離していたとあっては、大方をデバイスに頼っている彼女では弾丸系の魔法の使用はおろか、発動すら満足にできないはずだ。ベルカ式、ミッド式問わず出現するはずの魔法陣が現れなかったこともそれを裏付けている。

 

 そして、驚愕は別陣営の人間にも飛び火していた。彼女たちが受けた衝撃とは全く違った形で。

 

「あ、ありゃ浦飯の霊丸じゃねぇか! 何で、ティアナちゃんがあの技を使えんだよ!?」

 

「フ……面白いことになってきたな。まさかランスターのやつがアレを撃つとは。だが、霊気を知らないはずの奴が霊丸を撃てるわけがない。となれば、可能性は一つだけだ。幽助め……奴にしては随分と大人しいと思っていたが、既にこっちに入り込んでいたか」

 

 桑原がティアナの放った光を見て驚きの声を上げた。それは蔵馬も同じようで遠くに立つ彼女をじっと見つめている。飛影が意外だというふうに肩を竦め、その瞳に高揚を宿らせていた。

 

「「「れいがん?」」」

 

「それに幽助って、一体誰なの?」

 

 飛影の呟きに反応したキャロ達二人とヴィータが尋ね返す。フェイトも、いつか聞いたような名前を飛影に問いかけていた。

 

 尋ねられた飛影はいかにも愉快だといったように笑いを堪えるような表情をする。そして僅かに口元を動かすと、ティアナ目掛けて跳んでいった。蔵馬と桑原もそれに続く。

 

 ティアナの正面を塞ぐようにウイングロードに着地した彼らを、二人が呆然として見つめた。予期せぬ割り込みに動揺しているようだ。そしてフェイト達は、飛影の口から虚空へと投げ出された、先の言葉を反芻していた。

 

 その横顔が嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。なにせ彼の声は、

 

 

 

『世界一の単細胞(バカ)、そして宇宙一の戦闘狂(バトルマニア)だ』

 

 

 

 それだけの強い感情を内包したものだったのだから。

 

 

 

  -Side change-

 

 

 

 人が着地したにしては軽すぎる音と共に、ティアナの目の前に黒いコートがはためいた。コート裏の深紅が外の黒とコントラストを描き、霞みそうだった視界を塞ぐ。

 

「下がれ、ランスター」  

 

「飛影、さん……?」

 

 目の前に現れた黒い背中に、ティアナは呆然とその名を呼んだ。硬い表情のなのはと彼女の間を遮り、強い闘争心がいまだ疼く訓練場に飛影が音もなく降り立つ。

 

 だが、今回はそれだけでは終わらなかった。

 

「和真くん……それに蔵馬さんも……」

 

 なのはが見咎めるように声を零す。飛影より一歩下がり、ティアナの脇を固めるようにして桑原と蔵馬が佇んでいた。その顔色にいつものようなおちゃらけた雰囲気はなく、真剣そのものといった出で立ちだ。

 

 その筆頭に立っていた飛影が、流れるような動作で振り向く。相変わらずの鋭い視線、しかしその目には抜き身の刀のごとく、背筋が凍るようなモノが見え隠れしていた。

 

 彼はそのまま、なのはとティアナを交互に見る。そしてフンと鼻を鳴らしてティアナを見下ろすと、一つ溜息を吐いてから口を開いた。

 

「貴様にはすぐにでも聞きたいことが山ほどある。だが、のんびり聞いてなどはいられんようだ。なによりこの戦いはあまりにも見るに耐えん。貸しを一つやる、代わりにこの場はオレが引き継いでやろう。こんな見え透いた茶番は、さっさと終わせるに限るからな」

 

「で、でも……っ……!」

 

 思わず反論しようとしたティアナは、喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。飛影の目が一段と鋭利な光を帯びたからである。

 

「足腰も立たんようなザマで強がるのは止めろ。土壇場でアレを発動できたのは大したものだが、今の貴様にはもう霊丸を撃つだけの気力は残っていまい。仮にそうでなかったとしても、その霊気も体に完全には馴染んでいないようだからな。そのまま無理を通せば、腕が使い物にならなくなるぞ」

 

「っ……わかり、ました……」

 

 そこで初めて、ティアナは自分がへたり込んでいたことに気づいた。また、自分の中にある力に身体追いついていないことも薄々分かっていたため、彼女は無言で引いた。

 

 やるせない感情を一瞬だけ表に出すが、彼女は何かを決意したような表情をしたあと、いつものクール然とした顔立ちの中に感情を鎮める。そして、「掴まれ」と手を出してきた桑原に肩を借り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「蔵馬、桑原。ついでにスバルも運んでおけ」

 

「ああ……飛影、君は?」

 

「フン、わかりきったことを聞くな。頭でっかちな木偶の坊に、少々灸を据えてやるだけだ」

 

 飛影が視線を流す。その先にはいつもの温和さからは想像も出来ないほど、相手を底から凍えさせるような目をしたなのはの姿があった。蔵馬たちが下がるのを感じ取ると、飛影は見下ろす位置にいる彼女へ目を向ける。

 

 瞳から溢れるものは暗く重く、そして鋭い光。なのはの表情には、いまだかつてないほどの強い怒りが浮かんでいた。

 

「何で邪魔するの、飛影くん……?」

 

「愚問だな、単に貴様のやっていることが気に食わんだけだ。貴様は奴と本当の意味で分かり合うつもりなどないのだろう?奴のためを思っての行動などと言いながら、踏み入られたくないがために自分の保身に走っている。そのまま奴が腐っていく可能性を捨て置いてな……フン、貴様も力だけを求める者だったか……」

 

 飛影の目が細くなる。そこには、珍しく純粋な怒りが浮かんでいた。力を売って歩けるほど持っている彼が、まるでそれを否定しているようで、なのははわずかに気圧される。

 

「……これは私の教導だよ……私の役目なの……飛影くんは手を出さないでくれるかな?」

 

「教導……こんなものが修練だと? 聞いて呆れるな。ただ相手を倒すだけなど、どんな下等な生き物にでもできる。それともお前は、こいつらを突撃するだけの捨て石にするつもりか?」

 

 飛影がFW陣一人一人に目をやりながら、なのはの疑問を切って捨てた。彼女の雰囲気がより剣呑さを増す。それは既に威圧感を超え、敵意にすら変わりつつあった。

 

「分からない奴には腕づくで分からせる力の論理、大いに結構だ。だが、貴様は分かって欲しいなどとほざいておきながら、奴の言葉を聞こうとしなかった。言葉を求めた奴の土俵を無視して、自分の意思とプライドを優先した。他人が傷つくのは嫌う反面、自分に背く者は言葉すら交えずに淘汰するか。どこまで身勝手なんだ貴様は。教えられた通りに動く『駒』が欲しいなら、それだけ教えればいいだろう。ただ相手に向かっていくことだけをな」

 

「違うっ!皆は駒なんかじゃ……!」

 

 『駒』という単語に反応したのか、なのはは声を荒げる。離れたところで二人を見守っていたフェイトがビクッと肩を震わせ、その瞳が悲しみと動揺で揺れ動いた。

 

「何も違わない。今の貴様の行動は、うまくいかないからと喚き散らす、癇癪持ちなガキの八つ当たりだ。傍から見ていても、見苦しいことこの上ない。ストレス発散なら他所でやれ。当たられた方はたまったものではないからな」

 

 視線を流す。その先にいたティアナが微かに震えた。

 

「確かにランスターはとんだ間抜けだろう。そもそも戦いを甘く見すぎている。そのことに関してはオレも同様の認識だ。だが、バカさ加減では貴様も同じこと、いや自覚しているものから目を逸らしている時点で、奴よりも性質が悪いな。師弟がそろって道化とは、ある意味貴様ららしいが」

 

 飛影は続ける。その声色には、どうしようもない呆れと落胆が入り混じりはじめていた。

 

「はっきり言ってやろうか。貴様はただ押し付けているだけだ。他人の心情を無視して貴様が信じる正しさ、貴様に都合がいい仲間、貴様が思う理想をな。勝手に干渉してくるだけでは飽き足らず、自らの方針を言うだけ言って、善人面で仲間気取り。そのくせ自分のことは棚に上げて、他人には上から目線でスカした態度ばかり見せやがる。いい加減反吐が出るぜ」

 

「っ……飛影くんに、何が分かるの?」

 

「フン、その頭の中のほうがよっぽど不可解だが。貴様のことだ、自分で気づかねば意味がないとでも思っているんだろうが、オレにはランスターから逃げているようにしか見えんぞ。信じるなどと聞こえのいいことばかり抜かして丸投げするのは勝手だが、誰しもが『貴様のように』悪運が強いとは限らん。奴が理解するまで、状況が待つ保証などどこにもない」

 

「――――ッ!!!」

 

 なのはを取り巻く空気が変わった。自分の深くに切り込まれたように胸を押さえ、睨み据えるその瞳に危険な光が宿る。飛影はそれを見て取ると、彼女に向けて挑発するような笑みを浮かべた。

 

「どんな言葉で飾ろうが戦場にあるのは命のやり取りだ。『知らない』ということは、それだけで死に繋がる可能性を持っている。そして、死に逝くものに『次』は無い。気づいたときには既に手遅れ、などということになっていなければ良いがな」

 

「……って……」

 

 低く、それでいて重い声が響いた。その声は届かなかったはずだが、キャロが自らの肩を抱くようにして知らないうちに後ずさる。フリードも変化した空気を敏感に感じ取ったのか、エリオの肩に乗ったまま低い唸り声を上げていた。

 

「……そら、図星を突かれて本音が出てきたな。フン、そういえばこれは挑発に当たるのか? よかったな、これで思う存分オレを叩きのめす口実が出来たようだ」

 

「黙ってッ!……飛影くんにも、ちょっと頭冷やしてもらう!」

 

 叫びと共に彼女の手が光り輝いた。レイジングハートが再セットアップされ、凄まじい魔力の風が辺りに吹き付ける。

 

「やれやれ……」

 

 飛影はあからさまに肩を竦め、呆れたように目を閉じる。そしてもう一度開かれたとき、その目からは肉食獣を思わせる鋭い光が放たれていた。

 

「湯が沸いたような脳みそで何を言うかと思えば……笑わせてくれる。だが、最近の貴様は目に余るものがあった。完膚なきまでに叩き潰すには絶好の機会だ」

 

 飛影が溜めをつくるように腰を落とし、右手を剣の柄に添える。同じく、なのは手に強く握られた杖が天に掲げられた。

 

「―――レイジングハート、アクセルシューター……」

 

『All Right―――Accel shooter』

 

 構えを取った飛影を迎え撃つように、俯いたなのはの足元に魔法陣が展開された。レイジングハートが主の言葉を受け取り、周囲に桃色の光が出現した。

 

 浮遊するその光は徐徐に数を増し、彼女の周りを守護するようにして取り囲む。そしてその数が十の二倍ほどに達したとき、なのはは杖を振り下ろした。

 

「―――シュート」

 

 彼女の声で、数多の光のうちの一つが意志を持ったかのように飛影に飛来する。それを跳んで避けた飛影だが、光は柔軟に軌道を変え、さらになのはの周りに浮遊していた魔力弾までが一斉に踊りかかってきた。

 

 宙に身体を躍らせたまま、軸を捻った飛影の横を光が通り過ぎた。空中を蹴り、反動を利用し、身を翻しながら次々と迫り来る弾丸をかわしていく。なのはの魔力弾は紙一重というところで飛影を捉えられず、すべてが建物や大地にぶつかった。

 

 そして最後の一発がかわした軌道上にあったビルに衝突し、破砕音とともに消える。それを確認した飛影はビルの上に着地し、なのはを真正面から見据えた。

 

 顔には相変わらず自信に満ちた笑みが浮かんでいる。彼女との戦いを楽しんでいるようだった。

 

「なるほどな……駆け出しと比較するのは間違いか。あれだけの数と威力の弾を同時に軌道制御するなど、並の人間では早々には出来まい。流石は魔法の戦技教導官……と、言いたいところだが」

 

 賞賛の言葉を切り、飛影がニヤリと笑みを浮かべる。そして重心をずらし、真横に身体を流した。

 

「不意打ちとは……随分と必死だな?」

 

 刹那、彼が四半秒前までいた場所の足元から、桃色の弾丸が飛び出した。それに続くようにして出てきた光に、彼はビルの屋上から床を蹴って離脱する。

 

 一瞬前まで彼がいた場所が崩壊し、光がいくつもその姿を現した。建物にぶつけて破壊したと見せかけ、そのうちのいくつかを滞空させたまま密かに忍ばせていたのである。

 

「アクセルシューター……シュート!」

 

 なのはが再び同呪文を詠唱する。その周囲に先ほどより多い魔力弾が浮かび上がり、その掛け声に従った凄まじい速度で飛影に迫ってきた。後ろからも、先ほど残っていた弾が逃げ道を塞ぐように追いすがってくる。

 

「チッ」

 

 空中に躍り出た飛影を囲むように、光はすべて彼を目標にして一直線に迫り来る。物理的に回避不可能なことを悟った飛影が腰元の刀に手をかけた時、集束していった魔力弾が一点に集まり大爆発を起こした。

 

 ビルの鉄柵が衝撃で吹き飛ばされる。衝撃波はそのまま周囲に伝わり、爆炎を伴った土煙を上げた。それを確認したなのはは、カートリッジを二発ロードする。

 

 濛々と立ち上る煙を見下ろし、眼下の様子を探る。しかし、上空から覗き込もうとした身体を寸前で引き、レイジングハートを正面に構えた。

 

 次の瞬間、そのまま体ごと持っていかれそうな強い衝撃が彼女を襲う。腕が電撃を受けたように痺れた。

 

「フッ……」

 

 至近から視線が邂逅する。爆炎を隠れ蓑にした飛影が真正面から斬り込んで来たのだ。あまりの速度と突撃の衝撃に踏ん張りが利かず、なのはは後方に吹き飛ばされる。

 

 しかし、彼女を引き離すように飛影が剣を振りぬいた瞬間、その周囲から光の筋が迸った。鎖のような強靭さを持つ何かが、身体中に巻きつく感触が走る。

 

「ッ!? これは……!」

 

「フープバインド。高い拘束力と隠密姓を持つバインド系魔法だよ」

 

 抑揚を感じさせない声で告げ、なのははレイジングハートの先を飛影に向ける。表情は変わらないが、雰囲気には愉悦が満ちていた。

 

 飛影は短い息を吐く。彼女は今までの経験と観察から行動を推測し、飛影が隙に乗じて攻撃してくるであろうことを読んでいたのだ。手加減しているとはいえ、戦いというものを知っている彼がこの程度で終わるべくもなく、煙を囮にしつつ接近戦を仕掛けてくることまで計算して。

 

 だからこそ、彼女は得意とするフィールド魔法の一つも張らず、カートリッジまで使用してこの魔法に全力を費やしていた。

 

 硬直時を完全に取られた上、ブーストされた魔力によって強化された、破格の拘束力と力の放出を阻害するバインドの十以上の重ねがけ。流石の飛影といえど、妖力を抑えている身では簡単には破れなかった。

 

 抑えを解くか今の全力で力任せに破れば、彼なら容易に脱出できるだろう。だが、これだけの拘束を上回る力を出せば、外れた瞬間に噴出する妖気まで完全に制御するのは不可能だ。下手をすれば地形が変わるどころか、ここら一帯が吹き飛んでしまう。

 

 飛影は眉間に皴を寄せ、唇を噛んだ。

 

「油断したね飛影くん。それはカートリッジで魔力を限界までつぎ込んだから、そう簡単には外れない。これで終わりだよ」

 

 マガジンから装填された三つの薬莢を吐き出すと、変形機構が作動してその形が変わった。

 

『Load Cartridge―――Divine Buster』

 

 レイジングハートが自動詠唱を起動し、魔力充填を開始する。なのはが最も力を発揮する、敵を寄せ付けないアウトレンジからの攻撃手段。魔力の風が彼女を中心にして渦巻き、エネルギーの高まりを辺りに顕示した。

 

「ディバイン―――……」

 

 魔法陣から溢れる光が輝きを増し、杖の先に魔力が集まっていく。光は周りから音を奪い、一点に向けて収束する。その先には幾重にも連なったバインドにより、四肢の動きを完全に封じられたままの飛影がいた。

 

「チィッ……こんなも―――」

 

 拳に妖気を滾らせ、炎を出そうと彼が呻いた瞬間、

 

「―――――――バスター」

 

 感情の宿らない声を引き鉄にして、神の名を持つ破壊光が放出され、その炎ごと無防備な飛影を飲み込んだ。直撃した魔法は爆発へと変わり、辺りへと散乱する。

 

「「「「うわああっ!?」」」」

 

 先ほどとは比べ物にならないほどの魔力行使に、爆風が熱を以って辺りを吹き荒れた。エリオたちがいる所にまでそれは届き、突風が砂埃を巻き上げる。

 

 そして風が収まり、フェイト達が顔を上げたとき、煙と若干の赤を纏った飛影が空中に存在していた。魔力砲撃をもろに受けた飛影は、いまだ煙に包まれたままゆっくりと下降し、そのままビルの屋上へと打ち付けられる。そして、燻った煙が立ち上る中に消えた。

 

「嘘……」

 

「お兄ちゃんが……負けた……?」

 

「そんな……」

 

 フェイトとキャロ、それにエリオは目の前のことが信じられないかのように、彼が消えた方向を見つめた。ヴィータも、なのはと上がった煙を交互に見比べている。その横にいるスバル、ティアナも同様に目を見開いていた。

 

 なのはは後ろのビルを一瞥すると、背を向ける。

 

「少しキツイかもだけど、非殺傷だから大丈夫だよ。そこで反省しててね、飛影くん」

 

 なのはが飛影に一言残し、その視線がすっと先へ移る。その目は膝をつくスバルとティアナを寸分違わずに射抜いていた。その横にいる蔵馬たちにも目をやるが、飛影がやられたというのに表情一つ変えない。彼らから視線を戻し、再び二人を捉えた。

 

 そして、なのはは固まったままのスバル達へと一歩を踏み出そうとして―――、

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――いい腕だ……

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 反響するような低く通った声に、心臓を鷲摑みされたように動きを止められた。悲壮感すら漂わせていたエリオ達も、突如響いた声に息を呑んでいる。硬直した彼女の背後、煙で満ちていたビルの屋上から巨大な火柱が上がった。

 

 

 

 ―――――潰すには惜しいぐらいだ……

 

 

 

 火炎の中から影が浮かび上がってくる。それは炎のような髪を揺らめかせ、口元を愉悦に吊り上げた、

 

「飛影っ!」

 

 フェイトが安堵と不安とを複合させたような、どうしていいかわからない表情をしながら声を上げる。その先にいたのは、炎に包まれながらもいまだ健在の飛影だった。

 

 スカーフは既になく、彼のトレードマークとも言える黒いコートも大部分が炎の苗床となっており、その原型を留めてはいない。

 

 だが、遠巻きに見ていたヴィータ達はその表情を驚愕に染め、視線を動かすことができずにいた。スバルが呆然と言葉を零す。

 

「む、無傷……!?」

 

「う、嘘だろ……なのはのマジ砲撃を、フィールドもバリアジャケットもない生身で……それもまともに喰らったんだぞ!?」

 

 震えるヴィータの声が、目の前に映る全てを意味していた。あれほどの威力を持った魔力砲撃を、しかもまったく防御が取れないまま直撃させられたのにも関わらず、彼の身体には掠り傷一つ付いていなかったのである。

 

 なのはがゆっくりと振り向き、その顔を強張らせた。

 

「あれに耐えたっていうの……飛影くん……!」

 

「ああ。だが正直驚いたぜ。まさかオレが攻撃してくるタイミングを読み、罠を張っていたとはな。どうやらオレも、お前への認識を改めなければならんらしい。先ほどのは全力の五分といったところだろう。威力から換算して、本気で攻撃すればB級クラスに達するかもしれん。今のですら、下級の妖怪なら一撃で終わっていた。だが……」 

 

 

 

 ――――――オレを相手にしたのが運の尽きだったな

 

 

 

 言葉が波となり、なのはの冷静さを攫った。恐怖が理性を侵食し、嫌な汗を噴出させる。それに同調するようにして、彼の額を覆っていた布が炎の中へと消えていく。

 

 

 

 様々な想いが交錯する中、真なる意味での戦いが今、はじまろうとしていた。

 

 

 

 

 




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