魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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第三話、投下であります。


魔法世界邂逅編
第三話  早すぎる再会 ~ 待ちわびた存在


 

「……やはり仕置きが必要だな」

 

 強い風を頬に受けながら、飛影は呟いた。

 

 眼前に見える空は快晴。気温もおそらく穏やかなものであろう。それだけみれば穏やかな日々の一片でしかないのであろうが、それなのに何故こんなにも暗鬱でイラついた心持ちになるのか。

 

 その原因は凄まじい速度で『上』へと流れていく景色にあった。変わりにものすごい速度で眼下に迫ってくるのは深緑の大地。遥か下にいた鳥がやっと大きくなってきた。

 

 回りくどい説明で大変恐縮であるが、要するに、飛影はただいま絶賛大落下中なのであった。それも先ほどよりも数段回バージョンアップし、雲が余裕で隣にあるような凄まじい高度、という尋常ならざる状態からである。人間ならば人生を十回ぐらい振り返ることになるのではなかろうか。

 

「何度も何度も、ふざけた真似をしやがって……」

 

 飛影のこめかみに青筋が浮き上がった。その怒りの矛先には間抜けな面をしたガキの姿ある。帰った際の彼の末路は推して知るべしだろう。

 

 だがのんびり悪態をついてもいられないのも事実だ。大地がもう目前にまで迫ってきている。到達までもう何秒もないのは明白だった。このままではそう遠からずにしてクシャッと逝ってしまうだろう。

 

「ふん……だが、流石にこのままではまずいか。ハアッ!」

 

 とりあえず煮えたぎる感情には蓋をして飛影は目を閉じた。体の内でかなりの妖気を練り上げ、体に纏ってその密度を高めていく。そうして体と大地が激突する瞬間に一気に開放した。

 

 

 

[ドオオオオオオオン―――――ッ!!!!!]

 

 

 

 まるで流星が落下したかのような凄まじい衝撃に音速が壁を越えて爆発を起こした。その爆風は周りの木々をマッチ棒を折るがごとく容易くなぎ倒していく。そして風が収まった後には大地が割れ、大きさにして半径二十メートルほどの穴がぽっかりと空いていた。

 

 木々のほうはもっと酷く、その倍以上が薙ぎ払われている。その中心、岩がまだ散乱する中からのっそりと飛影が起き上がった。通常ならば即死どころか確実に五体満足でいられないほどの衝撃だったにも関わらず、彼の体には傷どころか煤汚れのひとつさえ見受けられない。

 

「チッ。妖気は抑えたが、限界があったか……」

 

 不機嫌そうに辺りを見渡すと、そこに映ったのはまるで爆撃を受けたようになっている森の姿であった。大地は粉砕し、軽く火の手が上がっている場所もある。

 

 普通ならここまでの被害はないのだろうが、おそらく鎧として纏った妖気で衝突時の衝撃を相殺させたせいだろう。妖気を放出すれば空を飛べないということはなかっただろうが、最初の高度が高すぎたことと、落下スピードを殺すほうが骨が折れたため、やむなく此方の方法をとったのだ。

 

 が、ここまでの被害が出るとは思わなかったので、飛影がほんの少しばかり悔やんだのは蛇足だ。

 

 そして、飛影はもう一つ大切なことについて再認識していた。悪いことはどうやら続いて起こるものらしい。

 

「やれやれ、落ちたとたんにまたこれか……」

 

 周りの違和感を的確に感じ取った飛影は溜息を吐いた。妖気は感じないが、穏やかな雰囲気は霧散し、周りを囲まれていることを理解する。

 

見えはしないがその数はかなりのものだ。三十はゆうに超えているだろう。

 

 ただ、その雰囲気は異質そのものだった。そこには人間や妖怪など、有機物特有の生の鼓動が感じ取れなかったのだ。ほとんど全てが等しく単調で、そこからは無機質な気配しか伝わってこない。そしてその姿を捉えたとき、飛影は前に跳んだ。

 

 刹那、先ほどまでいた場所に光が走り岩を貫通しているのが見えた。同時にその姿が太陽光に照らされ、全容が浮かび上がる。

 

 そこには人間の上半身ほどの大きさの延べ棒が宙に浮いていた。その中央部分にはレンズが搭載されており、無骨な作りをした奇怪さが寸分の違いなく飛影を捉えている。どうやらあそこから先ほどのレーザーを放ったようだ。

 

 そしてそれを筆頭にしていたのか、ぞろぞろと暗闇から姿を現してきた。四方を囲んだ機械のレンズが陽気にそぐわぬ不気味な光を宿している。

 

「数ばかりわらわらと……鬱陶しい限りだな」

 

 推測を少し誤ったようだ。その数はざっと見ただけで五十以上ある。隠れているのも加えれば、その数はさらに増すだろう。飛影はやれやれと息を吐きながら、腰の刀に手を掛けて引き抜き、口元にサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「まあいい。少々気が立っていたのでな、憂さ晴らしを兼ねて軽く運動させてもらうぞ」

 

 

 

   -Side Nanoha Takamachi-

 

 

 

「郊外で中規模の次元震を観測!第六課局員は直ちに現場へと向かってください」

 

 シャーリーの緊急連絡を告げる声を聞きながら、私はヘリの中で休憩時間の撤回に嘆くスバルやそれを叱りつけるティアナを見て笑みを零していた。次元震が起こったのは機動六課本局の北東、市街から十キロの位置にある森だ。

 

「でも、次元震なんて珍しいですよね。見る限りでは何もないところだと思うんですけど……」

 

 赤髪の少年、エリオがデバイスを握りながら呟いた。その視線は送られてきた地形図に注がれている。そこには山々が延々と連なるばかりで、研究所や建物といったものは見受けられなかったからだ。

 

「そうだね、何があったんだろう……?」

 

 彼の隣に座る十歳の少女、キャロが少し不安そうに呟いた。次元震といえばかなりの大事なので、そのことが気にかかっているのだろう。

 

「安心して。今捜査官を先行させてるし、もし戦闘になっても今回は私と現場に向かってるフェイト隊長が出るから。みんなはヘリの中で待機だよ」

 

 そう言うと、キャロはほっと安堵の息を吐いた。それに私は苦笑を零す。ずっとそれじゃ困るけど、心構えの時間くらい欲しいのは事実だからね。

 

 と、そこにフェイトちゃんから通信が入った。

 

『なのは、こっちも現場に向かってる。あと十分くらいで着けそうだけど、状況はどう?』

 

 その問いに私は今ある情報を告げた。私の言葉にそう、と短く返し、必要な情報のやり取りをする。だが、分かっていることはほどんど同じような有様であった。原因は分からないが、何かが起こっていることは間違いない。

 

 そんな感じで二人で唸っていると、操縦席にいるヴァイスくんが声を掛けてきた。表情には僅かな焦りが混じっている。

 

「なのはさん!先行してたヤツから今通信が入ったんですが、ちょいとヤバイことになってるようですぜ。結構な数のガジェットが集まってるらしいって話だ」

 

 その言葉にフォワード陣の顔が一斉に強張った。気持ちを切り替えてモニターを見やると、フェイトちゃんにも通信が入ったのか顔つきが仕事というか戦闘モードに切り替わっている。

 

 と、そこでまたしてもヴァイスくんが、今度は先ほどより声を大きく荒げた。マイクに向かって、確かなのかと何度も確認している。

 

「どうしたの、ヴァイスくん」

 

「あ、えっと、先行してた局員の到着報告と現場情報の追加でさ。拙いことに、民間人がガジェットと交戦中だそうですぜ。それも五十を超える数に対してたった一人ってことらしい」

 

「「「「!?」」」」

 

 ティアナたちの顔がさらに強張り、エリオとキャロの顔が目に見えて青くなった。その反応も当然だといえる。ガジェットはまだ駆け出しとはいえ魔導師である自分達四人がかり、それも訓練で手こずった相手だ。それを五十という大群相手にたった一人など、生身の人間がどうこう以前の問題である。

 

 この報告に私は少し焦りを抱いたが、それを表情には出さず努めて冷静を装いながら問いかけた。

 

「それでその人は? 無事なの?」

 

「いや、それなんですが……なんと言いましょうか……」

 

 いつもざっくばらんな彼が珍しく言いよどんだ。最悪の事態が一瞬頭をよぎったが、彼の反応はそれを否定している。なんだか現実を認めたくない子供のようだ。

 

『ヴァイス?』

 

 いつもと違う彼の様子に通信を繋げてきたフェイトも首を傾げている。が、観念したように息を吐くと、車をはじめて見た御者のような顔をして口を開き、

 

「それが……その民間人、ガジェットを次々に落としてるって報告が来てるんでさ……もう残りが半分にまで減ってるって……」

 

「「「「え…………えええええっっ!?」」」」

 

 今度こそフォワード陣が驚愕の叫びを上げた。私も一瞬その報告に危うくフリーズしかける。フェイトちゃんも同じく、画面の向こうで固まっていた。というか、さっきの報告からまだ三分も経ってないのに半分って……軽く副隊長クラスだ。

 

「す、すごい人がいるんですね……」

 

「規格外ってこと考慮すりゃ同意見だなぁ。なにせ聞いた限りじゃすげぇ素早い上に、刀一本でガジェットを圧倒してるらしいぜ。磁場が安定してなくて映像が見れないのが悔やまれるってもんだ」 

 

「ど、どんな人間よ、それ……」

 

 スバルの賞賛に同意したヴァイス君の言葉にティアナが口元を引きつらせながら言った。他の二人もそれに抱く感情は違えど、みな同じ感想のようである。

 

 だが私は違った。その得物と戦闘状況を聞いて、心に仕舞っていたあの時の記憶が蘇り、体を衝撃が駆け抜ける。そして、気づけばヴァイス君に詰め寄っていた。

 

「そ、それってどんな人!? 背格好とか、性別とか……!!」

 

「うおっ!? お、落ち着いて下さいなのはさん、それも今言いますから…………えっと、性別はおそらく男性。背丈は低めで、着てるのは黒いコートに首元の白いスカーフ。髪は黒の立ち気味、額には白い巻布をつけていて――――って、なのはさん?」

 

 いきなり呆けた私をヴァイス君が心配そうに見つめて声を掛けてくるが、私には届いていなかった。そしてモニターごしのフェイトちゃんも、今のヴァイス君の話を聞いて呆然としている。いつかの思い出の断片が蘇り、ヴァイス君の言葉がそれを確信に変えていく。

 

 私は怪訝な顔をするヴァイス君から離れると、レイジングハートを起動させてバリアジャケットを纏い、ヘリの扉を開けた。気が久々に高揚している。心は既に抑えきれていない。

 

「―――ヴァイス君、ごめんね。私、先行して現場に急行するからみんなをお願い。進行ルートとヘリの安全は確保しておくから心配しないでね」

 

「え!? ちょ、なのはさ―――」

 

 言い終わらない内に私は空に向かって身を躍らせる。彼とフォワードのみんなの戸惑いが感じられどよめきが聞こえたが、一度火がついた気持ちはもう止まらなかった。飛行魔法を使用するために魔力を体に注ぎ込み、加速する。加減が上手く利いていないのか、体に付与された魔力量はいつもより多かった。

 

『どうしたのですかマスター。今の行動は貴女らしくありませんが』

 

「あ、あはは、ごめんねレイジングハート。けど心配しないで。ちょっと気が逸っちゃっただけだから。でも、やっと会えるかもしれないの。私が小さい頃から探してて、ずっとずっと会いたかった……大切な人に……」

 

 言葉が時を刻んで零れ落ちる砂のようにすとん心へと落ちてくる。レイジングハートは賢い子だ。その言葉だけで、私の行動を理解したようであった。言葉が途切れて少しの後、返答がくる。

 

『――――なるほど、先ほどの話に出ていた彼はマスターの想い人なのですか。納得しました、それでは仕方ありませんね』

 

「え……えええっ!?な、なに言っているのレイジングハート! ひ、飛影くんはそんなんじゃ・・・それにいくら似てるって言っても、本当に本人かどうかは分からないし……って、いけない、急がなくちゃ!」

 

 長い付き合いである相棒の言葉に動揺しながらも、なのはは現場に向けて急いぐためにさらに加速した。レイジングハートに口があったのならさぞ盛大な溜息を吐いていただろう。

 

(その反応で丸分かりですよ、マスター。はあ、ユーノはどうやら振られてしまったようですね……)

 

 その横顔は共に長く時を過ごした彼女(?)すら見たことにないほどの嬉しさで滲んでいる。久しく感情を強く出す主を眺めながら、レイジングハートは一人思うのだった。

 

 

 

    -Side out-

 

 

 

「ハッ!」

 

 目の前にいた機械、ガジェットを飛影は一刀の元に切り伏せた。切り裂いた断面がバチバチという音を立ててショートし、次の瞬間には火を噴いて吹き飛ぶ。僚機がやられたことによる閃光から一瞬遅れて他のガジェットが止まった飛影をロックする。だが、レーザーが照射されたときには飛影は既にそこから消えており、代わりに二体のガジェットが爆散していた。

 

「遅い」

 

 すれ違い様の一閃は的確に、またしてもガジェットを一撃で葬り去る。彼の動きに対して思い出したようにカメラアイが此方を向くが、レーザーの行く先に既に標的はない。見当違いの方向に撃たれたレーザーは他の機体にぶち当たり同士討ちが発生していた。それを横目で捉えながら軽く無視して飛影は地を駆け、空を踊り、また数体の敵機を両断して鉄屑へと変えていく。

 

 ガジェットに搭載されているAMFは魔法を打ち消す効果がある。魔導師には厄介すぎる相手であるし、ガジェット自体の強度もかなりあるため、一般人などの手に負える代物ではない。

 

 だがデバイスすら用いず、彼が振るうのはただの鉄剣だというのに、数で勝っているガジェットは造作もなく撃破されていく。

 

 斬撃を生み出すのは何の変哲もない鉄の刃。しかしその様子は竜巻に巻き込まれた蟻の大群だ。それほどまでに圧倒的な光景、いやそんな言葉すら陳腐に思えるほどの力の差が両者にはあった。

 

 上からの五射を掻い潜り一閃。返す刀で真横の二体を叩き斬り、前後の両面から照射されたレーザーを避けるとお互いの装甲を打ち抜いて残りの二体が爆散した。その隙を見逃さんばかりにまた数機が追いすがってくるが、所詮はプログラムされた反応だ、そんなものなど敵ですらない。刀を振って二体を斬り捨て、遅すぎるその動きに舌打ちした時にはもう二体が四片へと姿を変えていた。

 

「下らん……」

 

 そして最後の一体を真一文字に切り裂いて沈黙させると、ようやく森に静寂と平穏が戻ってくる。飛影は刀を振ると、腰の鞘に収めた。

 

 接敵してから即戦闘。そして50を超えるガジェット相手にたった一人で立ち回り、完全殲滅完了までその間わずか五分足らず。管理局上位クラスの実力者でも至難の業だ。しかも特別な技も何も使わないただの剣技で、それも手を抜きに抜きまくってこれなのだから、常識外れもいいところである。

 

 というか、魔導師が泣く。

 

「(オレの相手とするには力不足も甚だしいが、気は紛れた。さて、これからどうす・・・)ぬ、今度は何だ……」

 

 ガジェットの残骸の山に立っていた飛影は、新たな気配に眉を顰める。まあ幸いなのは先ほどの鉄塊とは明らかに違う、人間の気配だということだった。これ以上あんな物の相手をしていても仕方がないと思っていた飛影は、まっすぐ此方に飛んでくる二つの気配の方を向いた。

 

 差異はあるが、さほど変わらない方角から来たその影は瞬く間に大きくなり、轟音を響かせながら飛来してきた。それは突風も引き連れて、飛影の正面にほぼ同時に足を着ける。

 

 やはり今度はちゃんとした人間であった。一人は茶色、もう一人は金色の、どちらも長髪を髪留めでツインテールに結んだ女性だ。手には各々の杖のような物を持っており、その体からは魔力をまだほとんど知らない飛影も感じ取れるほどの力が溢れている。だが、この状況下で飛影は違和感を覚えていた。

 

(この感じ、どこかで……)

 

 そして違和感の元凶たる二人が一歩を踏み出す。その表情が何かを堪えるようなものであることが、飛影の中の揺らぎをいっそう濃くし、漣(さざなみ)のように掻き立てた。

 

「飛影、くん……」

 

「嘘……じゃないよね? ホントに、飛影だよね……?」

 

 二人が口々に自分の名を呼んだ。その事に僅かばかり動揺した飛影だったが、いつものポーカーフェイスで表情を覆い、二人を睨みつける。

 

「む――――貴様ら、何故オレの名を知っている? 一体どこで……いや待て……この気配、それにその髪の色は、まさか……」

 

 飛影の瞳が驚きを表すように徐々に見開かれていく。目の前にいる二人が一度目の扉を潜ったとき会った少女達と瓜二つ、いや間違いなく本人だと悟ったからであった。

 

 普段の鋭い彼ならばこんな失態はおかさない。だが、飛影にとってみればつい先ほど別れたばかりの少女と目の前の二人が重ならず、認識に齟齬が生じたのである。コエンマが言ったことを忘れていたわけではなかったが、時を超えることでもたらされる差異をこんな形で体験するとは思わなかった。

 

 ともあれ、意識を切り替えた飛影は、先ほどの少女らの姿を新たに上書きした。そして現在の二人に目をやるとフッと口の端を吊り上げる。ついでに口をついたのは半分呆れを交えた声色だった。

 

「やれやれ。抜けた先で最初に会ったのがまた貴様らだったとは分からんものだ。ここまで来るともはや呪いの域だが、まあ覚えていたことは褒めておいてやる。それにしても、しぶとく生き残っていたようだな。高町、それにテスタロッサ」

 

 飛影が皮肉たっぷりに言うと、二人の顔がぱあっと色づく。そしてそのまま飛影に向かって走り、

 

「っ……飛影くん―――っ!!!」

 

「飛影―――っ!!!」

 

 両側から思い切り飛びつかれ、抱きしめられていた。遠慮のない、真っ直ぐな感情表現だ。柔らかい感触が両二の腕、そして首元にまとわりつき、動きが封じられる。

 

「なっ!? 高町、貴様何を抱きついている!さっさと離れ……おい、テスタロッサ、貴様まで何をしているんだ! 腕を掴むな、服に顔を押し付けるな! ええい、二人そろってわけのわからんことを……いい加減にしろ貴様らぁ!」

 

 突然の抱擁に、珍しく動揺した飛影が怒りの声を上げる。しかし、どんなに怒鳴りつけても二人は石になったようにがっしりと服を掴み、一向に離れようとしない。飛影のこめかみに青筋が走った。

 

「ぐ、このっ……」

 

 業を煮やした飛影が無理にでもと力を込めようとする。だが、そのとき彼は服に顔を押し付けた二人の肩が小刻みに震えていることに気づいた。

 

 表情を見せぬまま、彼女たちは飛影に縋り付いている。それはまるで小さな子供が親から離れまいとするような、しかしそれとは全く違うが近いものを感じさせた。

 

(……チッ、やりにくいったらないぜ……)

 

 一人心の中で悪態をつく。相変わらず顔を上げない二人だが、その震えは徐徐に治まっていくような気がした。

 

 穏やかな風が頬を撫ぜていく。飛影は少しの後呆れたように息を吐いて、行き場を失った両手をポケットに突っ込むと仏頂面のまま空を見上げた。

 

 

 

 出会いは突然、再会は片や一瞬、片や八年という別れの時間を経てここに実を結んだ。

 

 

 

 だがどちらにも言えるのは、それが途方もなく壮大な、そして小さな救いであったこと。

 

 

 

 

 それは運命の歯車が噛み合うその瞬間に起こった、この物語を始まりを告げる最初の奇跡だった。

 

 

 

 

 




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