魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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遅くなって申し訳ありません。

ヴォルケンリッターVS飛影です。




第五話  模擬戦 ~ 剣と炎と呪われし眼

 飛影と別れて十数分後の演習場。シグナム達四人の騎士は、街中に設定されたシミュレーターが投影するビル群の一角、崩れそうな廃ビルの上で作戦を練っていた。

 

「くっ、ぁああああっ! あんのヤロー、あたし達をとことんバカにしやがって! 絶対ぶちのめして、気が済むまで謝らせてやる!」

 

 槌型のデバイスを高らかに掲げながら、ゴスロリ服のヴィータが吼えた。喧嘩っ早く血の気が多い彼女だが、今日ははいつにない気の高ぶりようだ。年齢不相応な威圧感がにじみ出ている。

 

 どうやら先ほど紹介された六課の新しい民間協力者、飛影にコケにされたことが相当頭に来ているらしい。先ほどから大声で怒鳴ってばかりだ。だが、声を上げこそしないものの、それはシグナムやザフィーラも同様だった。

 

「少し落ち着け、と言いたい所だが気持ちは私も同じだ。非殺傷設定ではあるが、今回は全力でいく。二人もいいな?」

 

「もちろんだ。主はやての守護騎士と守護獣の力、とくと見せてくれよう」

 

 シグナムの言葉に深く頷きながら、闘気を漲らせたザフィーラは鋭く低いうなり声を上げた。シグナムも自身のアームドデバイス、レヴァンティンを一振りし、気持ちを切り替えているようだ。だがそんななか、シャマルだけが一言も発さず黙り込んでいた。

 

「? どうしたシャマル、どこか悪いのか?」

 

「……えっ? あ、ううん。なんでもないわ」

 

「なんでもないということはないだろう。先ほどからずっとその調子だぞ。これから戦闘に入るにあたって、何か思うところがあるのか?」

 

 シグナムとザフィーラがいつもと違うシャマルの様子に眉を寄せた。なんだか自分でもよくわかっていないことを話すような煮え切らない態度の仲間に、シグナムたちは怪訝な表情になる。シャマルは首を振って「私は大丈夫だけど」と前置きをしたあとに、少し真剣な顔になりながら口を開いた。

 

「あのね、これからの模擬戦についてなんだけど、十分に気をつけてほしいの。飛影さんがどんな力を持ってるかまだわからないし、本格的に仕掛けるのはそれを見極めてからでも遅くないわ」

 

「確かにそうだけど……どうしたんだよ? やけに弱気じゃんか。そりゃあ、ただの魔導師って感じじゃないし自信はあるみたいだけど、一人じゃフォーメーションも組めないぜ? それにアイツには魔力がないんだろ? シグナムが言ったこともそうだし、あたし達のことを見抜いた辺り、相当場慣れしてる感はあるけどさ」

 

 シャマルに対してヴィータが声を上げる。試合前のスキャンで分かったことだが、それは彼女たちの想定を超えていた。なんと、飛影は魔法を扱う為には絶対に必要となるリンカーコアを持っておらず、デバイスすら所持していなかったのだ。

 

 ミッドチルダの常識からいえば、今の彼の立場は魔法を扱えない一般人、つまりは魔導師ランクすらつけようがないということになる。

 

 これには、流石のシグナムやヴィータも呆れてしまった。あれだけの自信だ、それがハッタリでないかどうか一応警戒し、どれほどのものかと調査してみればこの有様。拍子抜けもいいところである。

 

 確かにスピードと剣技では優れており、それが複数のガジェットを倒すほどのものという報告は受けている。だが、高々そんなものでは魔法を扱う自分たちには何の脅威にもなりえない、というのがヴィータ達の見解だった。魔力に関しては新人四人にも遥かに劣るどころか、魔法では戦いようがないのだから。

 

 だが、結界や魔力察知などの補助魔法に長けているシャマルは、飛影から何かを感じていたのだ。それが何なのかは分からないが、漠然とした不安だけが強く掻き立てられるような、そんな得体の知れないものが彼から溢れている気がする。

 

 だが、それに他の三人は気付かなかったようだ。ザフィーラは首をかしげているし、ヴィータも「考えすぎじゃねーの?」というふうな表情をしている。

 

 心配性な自分の単なる気のせいである可能性も十分にありうる。悪い予感を振り払うように、シャマルは努めて笑顔を見せた。

 

「私は何も感じなかったが……だが、シャマルが言うなら気に留めておこう。それに元より油断などしないさ。そして必ず勝って見せる。ベルカの騎士、烈火の将シグナムの名にかけてな」

 

 シグナムが不敵にそう言った時、ブザーが鳴り響いた。同時に向かいのビルにスタッという音を立てて飛影が姿を現す。黒いコートに手を突っ込んだまま悠然と此方を見下ろし、その口元には笑みさえ浮かんでいた。そこで空中に大きなスクリーンに映ったはやてが登場し、確認するように言う。

 

『じゃあ始めるで。試合は守護騎士の四人対飛影くん一人。勝敗は相手が気絶あるいは降参したら負け、それ以外にも戦闘続行不可能と判定次第、試合終了とする。武器は非殺傷に限るなら制限なしや。それでは――――はじめっ!』

 

 はやての号令が訓練場に響き渡る。先に動いたのは守護騎士達だった。シグナムが一度目配せをした後、仲間達に念話を飛ばす。

 

(前衛は私とヴィータ、後衛にシャマル、アシストと遊撃はザフィーラに任せる。それでは行くぞ!)

 

(おうっ!)

 

(承知した!)

 

(皆、気をつけてね)

 

 一瞬の念話を打ち切り、全員が役割を全うするために動き出す。最初に飛影に飛び掛っていったのはやはりヴィータだった。

 

「おらあああっ!」

 

「フ、遊んでやるとするか」

 

 真正面から迫るヴィータのハンマーを飛影は後ろに跳んでかわした。同時にその間を縫うようにして、シグナムの剣が斬り込んでくる。

 

「ハッ!」

 

 すれ違うようにシグナムが接近してくる。至近から繰り出された横の一閃を飛んで避けると、その先にはヴィータが槌を振りかぶっていた。

 

「おりゃあっ!」

 

 捻った体の真横を、轟音を立ててハンマーが通り過ぎる。次いで追いすがるようにしてシグナムの剣が斜め上から迫るが、反動の勢いを足を蹴り上げることで加速させ、紙一重で避けた。

 

「今のを避けるか、なかなかやる!」

 

「くそ、ちょこちょこ逃げんな!」

 

 だが暴風と疾風が途切れることはない。嵐のような連続攻撃が飛影を捕らえんと襲い掛かる。それらは飛影に届くまであと少しといったところで空を切っていたが、飛影が避けた先には建物から突き出た壁が存在していた。どうやら最初からここに追い込むつもりだったらしい。

 

「はああっ!」

 

 シグナムとヴィータが違う角度から得物を振り上げて迫った。飛影の背後は壁だ。つまり逃げ場がない。前はヴィータとシグナムが固め、背後の壁が動きを制限している今、どちらの攻撃を先に避けようと防ごうともう片方が飛影の体を貫くだろう。

 

「もらったあ!」

 

 ヴィータが必殺の間合いに勝利を宣言する。だが、飛影の体まであと少しというところで彼の口元がニヤリと吊り上がり、

 

「なあっ!?」

 

「何っ!?」

 

 その姿が一瞬にして掻き消えていた。二人の得物は虚しく空を切る。勢いを殺しきれず、ヴィータの槌は床を打ち砕き、シグナムの剣は壁を切り裂いていた。

 

 そして二人の目標たる飛影の姿は、

 

「残像だ」

 

「なっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 彼女達二人の真後ろで、ポケットに手を突っ込んだまま立っていた。二人はおろか、遠くで隙を窺っていたザフィーラや状況を分析していたシャマルも目を見開く。ありえないものを見たかのようにその表情は強張っていた。

 

 片方を避ければ片方に貫かれる。その状況下で飛影が取った行動、それは二つの攻撃を同時に避けるというものだった。その尋常ならざるスピードを以て。

 

 言うだけなら簡単だが、普通の神経ならまず実行には移さない。それは失敗したときのリスクが大きすぎるからだ。体はどちらに対しても防御がとれず、取り得る間は極小、そしてタイミングはコンマ数秒などという生易しいものではない。最悪、両方の攻撃が直撃する恐れもある。

 

 だが、そんな神業じみた動きを飛影は躊躇すらせずに行い、そして造作もなく成功させたのだ。それは途方もない時を戦い続けてきた、歴戦の戦士である彼女らを上回るほどの修羅場を飛影が掻い潜ってきたこと、そしてリミッターを施しているとはいえ、ヴォルケンリッターのほぼ全力で振りぬかれた一撃を彼が完全に見切っていたことを意味する。

 

 しかし、飛影にとってはこの程度息をするほどに容易い。相手の驚き様に溜息を吐くと、背中側の腰元に右手をやり、一振りの剣を鞘から引き抜いた。

 

 それはデバイスでもなんでもない、何の装飾も機能も施されていない片刃の鉄剣。無骨な刃が陽光を受けて、その刀身に凄惨な煌めきを宿す。そして剣をシグナム達に向けると、飛影は皮肉げな笑みを見せ、真正面から突っ込んでいった。

 

 

 

 -Side Nanoha Takamachi-

 

 

 

「うっわあ……めっちゃ速いなぁ、飛影くん……」

 

 はやてちゃんが画面に釘付けになりながら言った。新人のスバル達も、呆気に取られたように模擬戦の様子を見ている。私はその様子に少しだけ優越感を抱いた。そして同じことを考えていただろうフェイトちゃんと目が合って、ふふっと笑う。

 

 飛影くんは確かにすごかった。飛影くんの戦いを見たのは一度だけだったけど、あの時より動きにさらに鋭さが増している。剣筋のキレもシグナムさんを上回っているみたいだ。それでも本気の彼には程遠いであろうことは私たちだけが知っている。

 

「す、すごいです! シグナムとヴィータちゃんを相手に魔法なしでここまでやるなんて、こんなすごい人と二人はお知り合いだったのですね!」

 

「ったく、単純な動きでカメラが捉えきれんってどういう速度や……フェイトちゃんともいい勝負できるんやあらへん?」

 

「あはは……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私じゃ飛影には勝てないよ。たぶん私となのはの二人でも、ね」

 

 興奮したリィンと若干呆れの混ざったはやてちゃんの言葉に苦笑しながら、フェイトちゃんが言葉を返す。その台詞に二人はさらに驚き、後ろで見ていたFW陣の四人が身を乗り出した。

 

「ええっ!? フェイトさんとなのはさんが二人がかりでも勝てないって……じょ、冗談、ですよね……?」

 

 スバルが信じられないといったふうに恐る恐るたずねてくる。だが、私達の表情からそれが冗談でもなんでもないことと理解したスバルとフォワード陣は、驚きのあまり硬直してしまったようだ。それを少し可笑しく思い、私はもう一度スクリーンに視線を移した。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

「今度はこっちから行ってやる。相当に加減はするが、本気で受けんとすぐに終わってしまうぞ?」

 

 言うが早いか、飛影の姿が再び消えた。それに対して背筋に冷たいものが走ったシグナムは、ヴィータを突き飛ばして剣を正面に掲げる。瞬間、金属がかちあう鈍い音が響いた。

 

「ぐぅっ!?」

 

「ほう、今のを受けるとはな」

 

 至近から目を合わせているのは、言わずもがなの飛影である。シグナムを襲った剣撃は正面からのただの袈裟がけの切り下ろしだったが、速さが尋常ではない。そして、続くように剣が踊りかかってきた。

 

「ぬ、ぅうっ!?」

 

 ほとんど本能的にレヴァンティンを動かして、刹那の連撃を防ぐシグナム。強くしなやか、そして的確に、刃が死角から繰り出される。彼が振るう剣はヴォルケンリッター中最強、烈火の将と呼ばれる彼女ですら、なんとか線が見える程度という凄まじい速度の剣筋だった。

 

 後退と防戦を余儀なくされる。直撃だけはもらわないように捌こうとするが、弾かれたその剣先さえ彼女には揺らいで見えた。そして速いだけでなく、一撃一撃が想像以上に重く、それでいて鋭い。

 

 それに対して長く持つはずもなく、強い一撃にシグナムは体ごと吹き飛ばされた。

 

「くぁっ!?」

 

「シグナム! くそ、速ぇっ!」

 

 ヴィーダが止まった飛影に打ちかかるが、目標が一定していなかったため簡単に受けきられてしまう。そして打ちかかられた剣との鍔迫り合いを押し切ってヴィータが距離を空けると、対する飛影はニヤリと笑った。

 

「どうした、もう終わりか」

 

「ハッ、冗談言うんじゃねぇ! アイゼン、カートリッジロード!」

 

『Explosion-Schwalbe fliegen!』

 

 ヴィータが叫ぶと、グラーフアイゼンがそれに答えて連動し、排出機構から薬莢が飛び出した。同時に三角形のオレンジ色をした魔法陣が出現する。

 

(力が上昇した……? 成る程、外部から力を取り込んで瞬間強化(ブースト)をかけているわけか) 

 

 興味深そうに目を開いた飛影にヴィータは鉄の弾を四つ構え、力任せにそれを撃ちだした。赤く発光した四つの弾が変則的な動きで迫るのを、飛影は横のビルに飛び移ってかわす。だが、鉄球はそのまま向きを変え、再び接近してきた。どうやら追跡能力もあるようだ。

 

 それを四片に切り捨て爆炎に変える。だが爆発から身を引いた所で、飛影に影が迫った。

 

「気を取られているところ悪いが、私の存在も忘れるな!」

 

「同じくな!」

 

「……チィッ!」

 

 上から振り下ろされた剣と横合いからの牙を、後ろに飛んで避けきる。ザフィーラのほうはそのままこちらに攻撃を仕掛け、シグナムは空中で剣を掲げた。

 

「レヴァンティン、カートリッジロード」

 

『Explosion!』

 

 ヴィータのときと同様に峰の機構が薬莢を吐き出すと、シグナムの剣が炎に包まれた。魔力が充填され、その刀身から熱風が迸る。

 

(ッ、アレも同型か!)

 

「はあああああっ!」

 

 ザフィーラと入れ替わるようにシグナムが間合いに斬り込む。飛影はシグナムのレヴァンティンを衝撃を殺しながら捌くが、存外に斬撃が重く圧し掛かってきた。

 

 アームドデバイスであるシグナムの剣は、魔法技術を結集させたものである。それ故、飛影のものとは比較にならないほどの性能と強度を持ち、彼女のアシストも担っている。魔法を扱う目的として彼女専用にカスタマイズされたものだ。

 

 

 そして彼女自身の剣士としての強さも手伝ってか、その威力はまさに一撃必殺。こんな鉄剣でそんなものをまともに受け続ければ、いくら妖気で強化しているとはいえ、遠からず木っ端微塵にされるであろうことは目に見えていた。

 

 不利を悟り、飛影は一旦後ろへと大きく跳ぶ。だが、着地した瞬間足元から妙な力が放出された。間一髪で直撃は避けるが、両足が鎖のようなもので絡め取られてしまう。

 

「戒めの鎖です。かなりの魔力と時間をかけて練り上げましたから、ちょっとやそっとじゃ外れませんよ。完全に不意を突いたのに、下半身しか掛けれなかったのはちょっと悔しいですけど」

 

「くっ……」

 

 横のビルの陰から、シャマルが厳かに姿を現した。シャマルは飛影の素早さを脅威に思い、足を止めるために気配を極力隠しながらずっと魔力を練っていたのだ。おかげで支援は最低限しか出来なかったが、動きを止めたことによる影響は大きい。

 

「ほんじゃ、止めだ!アイゼン!」

 

『Explosion-RaketenForm!』

 

 ヴィータが叫ぶと、ハンマーの形状に変化が生じた。片側に岩盤を打ち抜くときに使うような杭が現れ、もう片方にはロケットブースターのような突起が装着される。そしてブースターから凄まじい力が吹き出してそれを推力としたヴィータが飛影に回転を繰り返し、速度を上げながら肉薄してきた。

 

 飛影は足を捕らえられたままそれを見上げた。そして、近づくヴィータに向けたその目が、『初めて』攻撃的な光を帯びながら細まる。握った刀の柄がミシ、と音を立てた。

 

 

 

「オレを――――……」

 

 

 

 ヴィータは手加減していない。非殺傷の設定が組まれているからといっても、アレをまともに受ければ無事ではすまないだろう。

 

 

 だがそんなことはどうでもいい。少しは報いた奴らに、見せてやる。

 

 

 自分の持つ、力の一端を。

 

 

「いっけええぇ!」

 

 

 

「―――――舐めるなぁああああああッ!!」

 

 

 

 飛影の怒声と同時に、額を覆っていた巻き布が焼き切れ、紙屑のように吹き飛んだ。瞬間、凄まじい力の波動が暴風となって周囲に迸る。

 

 そして、額にある彼本来の力が眼を覚ました。それは腰だめに構えた飛影の左拳に集まっていき、一瞬で黒と赤を交えた獄炎と化す。熱が空気を侵食し、空間を陽炎のように揺らめかせた。

 

 第三の眼が迫りくるヴィータを捉える。刹那、威圧感と力を伴い、強烈な光が噴出した。

 

「邪王炎殺――――――……」 

 

「なっ!?」

 

「額に、目だと……!?」

 

「っ! ヴィータちゃん、離れて!」

 

 シグナム達が飛影の額に驚き、そこからあふれ出す力の大きさに気づいたシャマルが、ヴィータに向かって叫んだ。だが、最高速まで高まっていた速度を殺すのは不可能と考えたヴィータは、ありったけの魔力をデバイスに注ぎ込んで特攻する。

 

「くっ、ぶちぬけぇええええッ!」

 

「―――――――煉獄焦ッ!!」

 

 炎を纏った飛影の拳とヴィータ会心の一撃が真っ向からぶつかる。目もくらむような光が二人を中心にして走った。力のぶつかり合いで接触点からは稲妻が迸り、屋上のフェンスがなぎ払われる。だが、まともに拮抗していたのは数秒足らずだった。

 

『……Sorry,Master……』

 

 謝罪の言葉がグラーフアイゼンから紡がれ、

 

 

 

 ――――――バキン。

 

 

 

「な――――」

 

 ヴィータ自慢の相棒は、持ち手の中間から先が飛ばされていた。衝撃に耐え切れず、柄の部分が粉砕してしまったのだ。飛んでいったグラーフアイゼンは隣にあったビルに激突して消える。

 

「うわああああっ!?」

 

 そしてヴィータもまた、勢いをそのままに向かいのビルに突っ込んだ。どちらも心配はないだろうが、この一撃によって状況は変わった。飛影は、いまだ炎が灯る手を伸ばして無言で足に伸びる鎖を掴むと、それをなんの造作もなく引きちぎってしまった。

 

「そんな!?」

 

 シャマルが叫ぶと同時、飛影は彼女の背後に移動していた。そして手刀を模した形でシャマルの首元を一閃し、その意識を刈り取る。飛影は崩れ落ちた彼女を受け止め、屋上に横たえた。

 

「シャマル! 貴っ様ぁ!」

 

 ザフィーラが飛影に接近し、怒りにまかせた一撃を叩きつけた。だが飛影の姿は再び掻き消え、彼の牙と拘束魔法は屋上の床を粉砕したのみで飛影を掠りもしない。ザフィーラの上方から失望したような声が響いた。

 

「ただ突っ込んでくるだけとは……無策にもほどがある」

 

「何ッ……がっ、ああああっ!?」

 

 ザフィーラが声に気づいたとき、飛影は彼の真上にいた。その僅かな硬直の隙にアイゼンを砕いた一撃が落とされ、体が一瞬にして流れて消える。そして気付いた時には、屋上から床をぶち抜いて一階まで叩きつけられていた。

 

「あ、ぐ…………」

 

 ザフィーラは、そこではじめて自分が殴られていたことを悟った。体を起こそうとするも、打ちつけられた身は言うことを聞かない。まるで心と分離してしまったかのようだ。そして彼の意識は瞬く間に遠くなり、そのまま闇に沈んでいった。

 

「ザフィーラ! このっ……アイゼン、リカバリー! カートリッジロード、ギガントフォーム!」

 

『Explosion-GigantForm!』

 

 リカバリーによって修復されたアイゼンが新たな薬莢を二つ吐き出した。すると、またその形状が変化し、今度は巨大なハンマーの形を取る。

 

『Explosion-Komet fliegen!』

 

 さらに薬莢が三つ排出され、ヴィータの手元に彼女の体躯と同じ、いやそれよりも巨大な鉄の弾が現れた。

 

 古代ベルカ式中距離射撃魔法、コメットフリーゲン。シュワルベフリーゲンの発展強化型で、ヴィータの持つ攻撃魔法のなかでも指折りの破壊力を誇った魔法だ。本来なら巨大といえど規格はもう少し小さい玉なのだが、ヴィータはほぼ全力でそれに魔力を注ぎ込んだため、規模が増していた。

 

 ヴィータは飛影をその目で見据える。そして、宙に浮いた鉄塊を巨大化したアイゼンで力任せに叩きつけた。

 

「ぶっと……べぇッ!」

 

 ヴィータが弾を打ち据えると、赤く発光した鉄塊が飛影に向かって飛来していく。それに込められたパワーはかなりのものだ。それこそ、ビル一個など吹き飛ばして余りある威力を持っているだろう。加えて、それを避けたとしても迎撃したとしても、爆風と鉄片までは防げまい。

 

(当たれば瞬殺、避ければ上空で待機してるシグナムが一撃入れて仕舞いだ!)

 

 必殺の一撃に勝機を見出し、力づくヴィータ。だが、飛影は迫り来る鉄球を一瞥すると、避けようともせずに左手を掲げ、

 

「フン……」

 

 受け止めたと同時に一瞬で消し飛ばしてしまった。ヴィータが渾身の力を込めて放った鉄弾は赤い光となって放射状に飛び散り、空のなかに消えていく。

 

 残ったのは熱の残滓で焼け爛れた空気だけだった。

 

「なっ……!?」

 

「舐められたものだな。碌な力も通っていない鉄屑が、このオレに通用するとでも思っていたのか?」

 

 切り札として放った鉄球があっけなく消されてしまったことに、ヴィータは茫然自失してしまう。だが、それは大きすぎるどころではない隙だった。

 

「打ち止めか? なら終わるまでそこで寝ていろ」

 

「あ……」

 

 悲鳴を上げる暇もなく、その小さな体が風を切った。衝撃をまともに受けた体は慣性に従ってあっけなく吹き飛ばされ、ヴィータは瞬く間に意識を手放す。飛影はその姿が先ほど突っ込んだビルの中へ消えていくのを見届けると、空中で構えをとったまま固まっているシグナムを見やった。

 

 

 

 -Side Fate Testarossa Harlaown-

 

 

 

「すごい……」

 

 飛影がヴィータの大鉄球を消したのを見て、私は感嘆の声を上げた。飛影の力は知っていたけど、シグナムたち四人をたった一人で圧倒するなんて私やなのは、さらには主であるSSランクのはやてでも厳しい状況だろう。

 

 そしてそこまでのことをしている彼は決して本気ではない。本当、格が違うとは彼のためにあるような言葉だ。わかっていたつもりだったけど、その差のあまりの大きさに少し落ち込んだ。

 

「し、信じられません……」

 

 そこでデータを取っていたシャーリーが呆然とした様子でキーボードから手を離すのが見えた。表情は理解することを拒んでいるかのように歪んでいる。

 

「なんや? 今のどうやったかわかったんか?」

 

「ええ……今の場面での飛影さんの周囲に発生した推定熱量を割り出してみたんですが……」

 

 シャーリーはデータを読み込んで画面に表示させる。そこに記載されていた数値を見て、はやてと私は目を剥いた。スバルはそれを見ても首を傾げているが、遅れて覗き込んだティアナからは血の気が引いていく。

 

「推定瞬間出力、温度換算……約1万2000度……!?」

 

「は!?」

 

「ええっと……ティア、それってどれぐらい?」

 

「このバカスバルっ、少しは自分で考えなさいよ! いい!? ヴィータ副隊長の鉄球は熱で……」

 

「ええ……おそらく熱で蒸発させられたんです……」

 

「「「ええええええっ!?」」」

 

 ライトニング隊の二人とスバルが目を見開いて驚いた。それはそうだろうと思う。いくらなんでも、アレだけの質量の魔導鉄球を溶解という工程をすっ飛ばして一瞬で蒸発させるなんて反則すぎだ。もはや強いとかそういう次元を軽く超えている。

 

「あ、あの大っきい鉄球を、もんじゃ焼きみたいに溶かしちゃうなんて……」

 

「ス、スバル、その例えはどうかと思うけど(ちょっと際どいし、というかなんでもんじゃ焼き知ってるの……?)……でも、その意見には概ね同意かな……」

 

 飛影の力を良く知るなのはも口元が引きつっていた。なのはや四人に苦笑しながら、私は視線をモニターに返す。

 

(……まだ、追いつけてないんだね……)

 

 飛影がヴィータを吹き飛ばしたのを見ながら、あの時見た彼の背中がまだ遠いことに僅かな寂寥を感じる。憧れであっても、目標であっても、私の何もかもから遠すぎる存在である彼を、そもそも追いつけるかも分からない彼を追い続けるのは少し辛い。

 

 だが八年経った今でも変わらないことがあった。それは私が彼を信じ続けているということ。ヴィータを相手にした飛影が取った行動を見て、私は自分が間違っていなかったことを改めて感じ、胸元に今も光る氷泪石をそっと握った。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

「残るは貴様だけだ。どうする? 降参するか?」

 

 燃え盛る炎を左手に纏い、飛影は挑発するように誘った。額の邪眼が鈍い光を放ちながら、真っ直ぐにシグナムを捉える。シグナムは一度目を閉じ、剣を正眼に構えて笑みを零した。

 

「……愚問だな。一度勝負を挑まれた以上、そしてそれを一度受けた以上、ベルカの騎士が引くことはありえん! 例え―――」

 

 横に薙いだ剣からまた薬莢が飛び出した。落ちていった薬莢が飛影がいるビルの屋上に落ち、甲高い音を立てる。同時にその刀身から今までで最大級の炎が燃え上がった。

 

「―――例え、最後の一人となろうともな!」

 

「フン、いい心がけだ。ひとつ教えてやろう。オレは確かに殺しなら山ほどしたことがあるが、人間をこの手にかけたことはない」

 

 飛影は淡々として言う。もっとも霊界から指名手配を受けていた時には悪事も働いたし、魔界の穴での戦いの際は一人切り捨てたのもいたが、急所は外していたから死んではいないだろう。かなりいい加減だが飛影は自分の中でそう結論づけた。

 

 シグナムは飛影の言葉に一瞬呆気に取られた。が、剣の柄を握りなおして彼を正面で見据える。

 

「そう、か……私も非礼をわびよう。自分のことを棚上げするとは騎士失格だな……」

 

 数メートルの距離を空けたまま二人は剣を手に対峙する。だがお互いにわだかまりがなくなったせいか、その表情は晴れやかだった。左手の炎を掻き消した飛影は、刀を腰溜めに構えながらシグナムを誘う。対するシグナムは顔から険を取り除き、剣を両手で構えて目を閉じた。

 

 緊迫した空気があたりに満ちる。風が流れ、雲が揺らめき、海から来る匂いが二人を包み込んだ。

 

 そして、決着の時がくる。

 

「ヴォルケンリッターが一の騎士。烈火の将シグナム、参る……はあああああっ!!」

 

 凄まじい速度でシグナムは間を詰めた。体の魔力は一点のみに注がれ、刀身の炎は猛りを上げて刃を巻き込む。

 

 きっとそれは彼女にとって、今までで最高の一撃だった。それを迎え撃つ飛影はその姿に笑みを深くする。シグナムもその一瞬だけは心から笑っていたのかもしれない。

 

 

 

「「紫電――― / 妖剣―――」」

 

 

 

 心が肉薄する。極限にまで高められ、圧縮された剣気が爆発した。

 

 

 

「「一閃ッ!! / 十六夜!!」」

 

 

 

 鋼が打ち合う音のあと、訓練場に静寂が落ちる。二人は低く姿勢を取り、振り抜いた得物を携えて止まっていた。と、数秒の時を置いて飛影がすっと立ち上がり、剣の露を払うように真横に振る。すると、それに重なるようにして飛影の背後で鉄音が響きわたった。

 

 コートを撫でつけるように、海風が薙いでいく。飛影が剣を収めて振り返ると、剣を握ったまま気を失って倒れているシグナムの姿があった。

 

『そ、そこまでや! 勝者、飛影くん!』

 

 慌てた声色で終了が宣言される。号令と同時に飛んでくるなのは達を横目で捉えながら、飛影はいつもの自信に満ちた笑みを浮かべ、空を見上げた。 

 

 

 

 

 




ちょくちょく修正してますが、誤字脱字等があれば遠慮なく報告してください。

それではまた次回!
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